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第6話 ついに始まり

 仮婚約が決定したその年の8月のこと―。




王立アカデミーの合格発表が張り出された掲示板の前に私は両親と立っていた。


私とアルフォンソ王太子は同じ名門学園王立アカデミー『フローレンス』の入学試験を受け…当然の如く合格を果たしたのだ。


「いや~…やはり、アリーナは本当に頭が良いのだな」


「ええ、本当に。一体誰に似たのかしら?」


父と母が感心した様子で掲示板を見上げている。


「…」


一方の私は合格発表などには全く興味は無かった。どうせ合格するのはもう分かりきっていたから、わざわざ見に来る必要など本当は無かったのだ。


ただ一つ気になることがあった。

それは自分がどのくらいの点を取れて、何位で入学を果たせるのか?と言うことだった。


しかし、心配するには全く及ばなかった。

合格者200名の中で、私が勿論主席で合格したのは言うまでも無かった。

そして意外なことに次席で合格したのはアルフォンソ王子だったのだ。


…なんだ。

そんなに彼は馬鹿では無かったのか。


「帰りましょう、お父様。お母様。もう合格は確認したし、入学式まではこの学園に用はありませんから」


私は学園に背中を向けると2人に声を掛けた。


「用は無いって…」

「来月から通う学校なのよ?」


父と母が声を掛けてきた。


「ここは騒がしいです…。騒がしいのは嫌いです」


「「…」」


父と母は一瞬、困った顔で顔を見合わせ…笑みを浮かべた。


「うん、そうだな。帰ろう帰ろう」

「帰って合格祝いをしましょう」


私が名門アカデミーに入学したことが余程両親は嬉しかったのだろう。妙に私の顔色を伺っている気がする。

と言うか、両親は知っているのだ。

私がこの学園に入学したくないのに、国王の命令でこれから16年間も通わなくてはならないということを。



『アリーナとアルフォンソが同じ学園に通わなければどちらが成績優秀か比べられないだろう?』


それが理由だった。


つまり、私はこの先ずっと関わりたくもない王子と16年間も同じ学園に通わなければならないのだ。


…はっきり言って地獄だ。


本当はこんな学園には通いたくは無かった。

普通の庶民でも入学できる学校に私は通いたかったのだ。

何しろ未だにこの綺羅びやかな生活に違和感しか感じないのに、子息令嬢しか通えない名門校なんて、私に取っては場違いでしか無い。


…恐らく、きっと私はこの学園で友達をつくることは出来ないだろう…。


憂鬱な気持ちを抱えながら両親と一緒に帰りかけていると、突然背後から大きな声で呼び止められた。


「待てっ!アリーナ・バローッ!」


その声はまさか…。


聞き覚えのある声に両親と一緒に振り向いた。

するとそこには栗毛色の髪を振り乱し、怒りの形相でこちらをみるアルフォンソの姿があった。


「あっ!アルフォンソ王子様っ!」

「王子様もいらしていたのですね?」


父と母が慌てたように頭を下げた。


「ふん!当たり前だ!今日は合格発表の日なのだから。ところでアリーナッ!」


王子が私を指さしてきた。


「何でしょうか?」


一番会いたくない人物に会ってしまった…。


「お、お前…今僕に会いたくないとって思っただろう」


どうやら露骨に表情が顔に出ていたようだ。


「いえ、そんな事はありませんけど…」


「嘘を付くな!顔に書いてあるぞっ!とにかく…今回の試験では僕が負けたけど…次こそ絶対に負けないからなっ!」


これは私に対する宣戦布告とみなした。


「ええ、いいですよ。負けませんから。必ず卒業までトップの座を譲りませんから」


何しろ、一度でも負ければ私は目の前の王太子と婚約しなくてはならないのだから。


「よし!その言葉…忘れるなよっ!必ずお前にいつか勝ってやるからなっ!」


まるで捨て台詞のような言葉を残し、アルフォンソ王子は走り去って行った。




「アリーナよ、王太子に向ってそんな事を言うなんて…」


「あまり失礼なことを申し上げては駄目よ?」



一度も口を挟めなかった両親が今頃になって何だかんだと言い始めた。


「いいのですよ、所詮子供同士の些細な言い争いに過ぎないのですから。それよりも、早く行きましょう?」



「あ、ああ。そうだな」

「ええ、帰りましょう」


私達親子3人は、今度こそ学園を後にした。



そして…ここから本格的に私とアルフォンソ王太子との10余年に渡る長い戦い?が始まった―。



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