表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
521/521

520.幕間 クロディウスとアイオン





「――これで確保は済んだな」


「――ああ」


 ホテルから出ると、すっかり陽は暮れていた。


 数日掛かりとなったが。

 クロディウスとデルタの仕事は、これで完了である。


 特級生の作ったリストに従い、偽教師ほぼ全員とコンタクトが取れた。


 まあ、取れたというか。

 取りに行ったというか。


 足を使った、実に地道な仕事をしたものである。


 ひとまず、出頭に応じなかった偽教師たちを確保。

 ホテルに監禁した。


 これで、偽教師界隈への対応は一旦終了だ。


 あとは面接の上で、彼らの処遇が決まる。

 そして、そちらはクロディウスたちの仕事ではない。


 然るべき誰かがやる予定だ。


 デルタは魔術師のことはわからないし。

 クロディウスに任せたら、全員追放なんてことにもなりかねないし。


 つまり、向いていないわけだ。


「じゃあ私は帰るから」


「ああ」


「愛する旦那が飯作って待ってるんだ」


「いちいち言わなくていい。早く行け」


「おまえもたまには人付き合いしろよ、クロ」


「何の話だ」


 デルタは顎をしゃくって見せた後、行ってしまった。


「…?」


 振り向けば、背の高い女が立っていた。


 クロディウスと同じく。

 目深にフードをかぶった、やたら怪しい奴だ。


 この魔力は知っている。


「……アイオンか」


 彼女はクロディウスの視線に気づくと、近くにやってきた。


 災約の呪詛師アイオン。

 今一番若い、グレイ・ルーヴァの直弟子である。


「――クロディウス先輩」


 小声で呼ばれて、「呼び捨てでいい」と返した。


 グレイ・ルーヴァの直弟子同士に、上下関係はない。


 師が上にいる。

 それだけだ。


 そして師も、あまり師匠だの先生だの呼ばれるのが好きじゃないらしい。


 だから、弟子たちは「グレイ」と呼び捨てにする。


 まあ明確な決まり事でもないのだが。


「まだ慣れないもので……」


 印象通り、変わりはない。

 相変わらず気が弱そうな女である。


「おまえが面接を行うのか?」


「え? 何の話ですか……?」


「違うならいい」


 どうやらアイオンは、偽教師界隈の話は知らないらしい。


「クロディウス先輩、相談があって探していました……」


「相談? 俺にか?」


「はい。最近、頻繁にこちらに出入りしていると聞いて、待っていました」


 クロディウスは闇属性。

 アイオンは魔属性。


 属性が違う以上、魔術の相談相手には向かないはずだが。


「聞いていただけますか……?」


「……いいだろう」


 あまり気は進まない。

 個人的にアイオンと話したことも、ほぼない。


 が、同じ直弟子に相談事を持ちかけられたのだ。


 聞くだけは聞いてやってもいいだろう。





 というわけで、クロディウスはアイオンを連れて、ホテルに戻ってきた。


 バーの隅のテーブルを借りる。


 薄暗いバーで。

 見るからに怪しい魔術師が二人。


 これほど悪事の密談をしていそうな雰囲気もないだろう。


 まあ、構うまい。


 ――さて。


「話とは?」


 簡単な食事と酒を頼み、クロディウスは問う。


 この新入りの弟子はどんな話を持ってきたのか。


「先輩」


 フードの奥に覗くアイオンの片目には、紋章が浮かび上がっている。


 呪詛師の証だ。

 固有魔術は「呪術」。


 属性違いだ。

 詳しいことは、クロディウスにはよくわからない。


「――とある教師が、通信機の魔道具を造っています」


 通信機。


「どういう通信機だ?」


「離れた人と話ができる、という類のものです。現段階では」


 現段階では。

 つまり、その先の発展もあるかもしれない、と。


「――お待たせしました」


 食事が運ばれてきた。


 オムレツとハム、サラダ。

 あまり手の込んでいない食事である。


 目的は食事ではなく話なので、これでいい。

 これで充分、いつもの食事よりちゃんとしている。


「色々と試してみたそうですが、どうにもうまくいかないそうです。


 近距離ならなんとか、みたいな。

 そんなところでずっと足踏みしているとか……」


「一定の成果は出ているのか?」


「いえ、……個人的な感想を言うなら、まだ成果は出ていないと思います。


 近距離での通信は可能ですけど。

 でも近距離でいいなら、ほかに代用できるものがたくさんありますので……。


 私たちなら『影渡』という移動技術もあります。

 近くならそれでいいでしょう。


 近くでしか使えない通信機は、まだ需要があるとは言いづらいと思います」


「――その通信機に、闇を試したいのか?」


 ここまでくれば、話が見えてくる。


「影渡」も、元は闇魔術の技術の応用だと言われている。


 闇と闇は繋がっている。

 闇は空間を超える。


 その通信機に、距離を超えて声を届ける闇の力を付加したい。

 そういう話だろう。


「いかがでしょう先輩?

 というか、私は腕のいい闇魔術師自体をあまり知らないので、相談相手が限られるっていうか……」


 まあ、人が少ないというのは希少属性の悩みだ。


「……見ての通りだ」


「は、はい?」


 クロディウスは自分の顔を指す。


 自分の顔。

 闇が浸食している顔を。


「俺は見ての通り、目立つ。

 奇異の目で見られるからあまり人前に出たくないし、『朽黒の魔術師』として噂だけは広まっているから萎縮されることも多い。


 ついでに言うと忙しいが……まあこれはいい。


 で? その開発者はどんな奴だ?

 教師と言っていたが、俺と会って大丈夫そうか?」


「あ、その点は問題ないかと。

 造魔学を専攻している先生なので。度胸はありますよ」


 造魔学の教師といえば。


「ロジー・ロクソンか?」


「お知り合いですか?」


「さほど接点はないが、俺もあいつも長く生きているからな。

 たまにすれ違うくらいの縁はあった」


 ならば大丈夫か。


「わかった。近い内に会いに行ってみる」


「よろしくお願いします」


 ロジーとアイオン。

 二人がどう関わっているかは知らないが。


 まあ、相談に乗るくらいはできるだろう。


 役に立てるかどうかまでは、保証しないが。





「あ、そうそう。それでですね――」


 コトン


 アイオンがテーブルに乗せたそれ(・・)を見て。


「うぉっ……!?」


 クロディウスは思わず声を上げてしまった。


 驚いた。

 ここ数年なかった、ただ本当にびっくりしただけの声が出た。


 出したそれが何なのか。

 ちゃんと確認しようと観察したせいで、余計に驚いた。


 ――生首じゃないか。


 サイズこそ小さいが。

 間違いなく人の首じゃないか。


「これが通信機なんですが……どうかしました?」


「おまえがどうした」


 なんてものを出すんだ、この女。

 大胆な。


 ……。


「なぜ生首型の通信機なんだ。どういうセンスだ」


 クロディウスには理解できない。


 ありえない形だと思うのだが。

 持ち運ぶデザインとして。


「そこは私にはわかりかねますが……しっくり来たんでしょう、これが」


 ロジー・ロクソンは、これがしっくり来るのか。

 これが。


 ……。


 ロジーが萎縮する云々より。

 むしろクロディウスの方が、覚悟して会いに行く必要がありそうだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版『魔術師クノンは見えている』好評発売中!
『魔術師クノンは見えている』1巻書影
詳しくは 【こちら!!】
― 新着の感想 ―
落ち武者のザンバラ髪生首とかは勘弁願いたいけど、ミリカ王女(羽根ペン付き)とかなら、まぁ通話出来るかなぁw 個人的には、エルヴァ嬢のが欲しい♪(通常サイズで欲しいと書くと変態度が爆上がりします)
ロジー先生、やっぱ通信機が生首なのおかしいって……………
「なぜ生首なのか?」 「えっ?だって話すのに首から上は必要でしょ?」 「……そうか」 「???」(何故そんな当たり前の事を訊くんだろうという顔)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ