508.クノンの悩み
「まだ時間もあるし、ついでに行くか」
「いいんじゃないですか? まだ時間あるし」
学校内の調査が終わった。
教師リストの作成。
並びに、偽教師探し。
生徒、教師問わず。
教師たちの情報を集めつつ、地道に探してみた。
抜けは、あるかもしれない。
というかたぶんある。
偽教師だけでもバラエティに富んでいると思うのだが……。
なんでも。
更に特殊なケースの教師もいるらしい。
「何年も帰ってきてない」と。
どこかへ出かけたまま行方不明のケースとか。
「そういえばあの人どうなったんだろう」と。
普通に行方不明のケースとか。
「生きてはいるみたいだけど……」と。
実験室にこもったまま、何年も出てきていないケースの行方不明とか。
なお、クノンらも生きている確認は取れた。
ドアは開かず本人とは会えなかったが、声だけ確認できた。
謎の多い魔術学校である。
本当に。
で、だ。
「――ども。これから学校の外に住んでる教師たちを探してきます」
と、受付嬢に挨拶して校外へ出る。
夕方までまだ時間がある。
門限厳守のクノンも、もう少し活動できる。
幸いなことに。
聞き込みした結果、校外に住んでいる教師は少ないようだ。
たぶん今日中に全部回れる。
それに、偽教師らしき情報はなかったので、その点も大丈夫だろう。
あっても資格が失効されているパターンのはず。
「――これで終わりだな」
首尾よく校外の調査も完了。
夕方から夜になろうという時刻。
なんとか、校外の教師と接触することができた。
いや、正確には教師の家人と会えた、か。
こちらも数名、「出かけている」だの「今は会えない」だのと言われたから。同居人に。
だが、実在することの確認と。
身分証は見せてもらった。
ベイル曰く「本物の身分証」とのこと。
なので問題なしと判断した。
報告は明日ということで、ディラシックの街で解散した。
ちなみにベイルも、街に家を借りているらしい。
まあ、半分以上は「実力」の拠点に泊まっているそうだが。
翌日。
「お疲れ様」
昼頃。
クノンはベイルと合流し、調査が完了したことを受付嬢に告げた。
朝はつらい。
仕事だから頑張ったけど、急ぎの用事じゃないから勘弁してくれ、と。
そんなベイルからの要望を聞き。
今日は昼からの活動である。
「一応、これ報告書っす」
ベイルは教師リストを差し出す。
「景色を記録したガラス」は、正式な報告で渡す予定だ。
「拝見します。
えー……教師総員百五十一名、その内の四十九人が偽者……えぇ……」
軽く目を通した受付嬢が、露骨に眉を寄せた。
「偽者、そんなにいた?
というか記録上の教師の数って百十名くらいのはずなんだけど……」
なんという記録のずれ。
そんなにも偽教師は蔓延っているのか。
「身分証をなくしたとか、資格が失効されてるとか、そういうのも数えてますんで」
あくまでも、正規の身分証がない教師。
それを数えた結果である。
だから、土魔術師ウィーカーも一応偽教師側に数えている。
「白金の魔術師」という、とんでもない称号を持っているのに。
「それで、理事長とは連絡取れました? 今日の夜会うってことでいいすか?」
「あ、それがね。理事長、もしかしたら無理かもって。
スケジュールを空けられるかどうかわからない、とのことなのよ」
と、受付嬢は報告書を置く。
「だから、理事長か代行の人と会うことになるわ」
「そうすか。
じゃあ学校側の人と会うってのは確定でいいんすね?」
「ええ。
教師リストの提出と報告、それは話を通してあるから。
魔術学校運営本部ってわかる?」
運営本部。
クノンは初めて聞く言葉だ。
そうか。
学校の管理・運営をしている組織があるのか。
まあ、考えてみればあたりまえか。
「学校の中にはないんすよね。
確か、商業ギルドの近くでしたっけ?」
ベイルはなんとなく知っていたようだ。
さすがである。
「そうそう、商業ギルドの斜向かいの路地を一つ入ったところ。
その辺の人に聞けばすぐわかるから。
夜、これを持って行ってみて」
「わかりました」
受付嬢の印が押されたカードを受け取り、クノンたちは受付から離れた。
「さて、これからどうする?」
今夜の報告が済むまで。
それまでは仕事の範疇だ、油断はできない。
調査結果に難があるかもしれない。
追加の仕事が入るかもしれない。
報告だけで済めば。
というのが、クノンの正直な気持ちだが……。
調査は楽しかった。
だが、今は考えるべきことがある。
「一旦別行動ですね。夕方合流しましょう。
ほら、運ぶでしょ? 『記録したガラス』。手伝いますよ」
約百五十枚。
一枚一枚は薄いガラスだが、それだけ枚数があれば重いしかさばるだろう。
「ありがとな。でもあれくらいなら一人で大丈夫だ。
夕方頃、商業ギルド付近で会おうぜ」
「わかりました。では後ほど」
こうして、偽教師の調査は一旦終了した。
――ようやく身体が空いた。
クノンは気になっていたことがある。
昨日からずっとだ。
さっきまでは仕事を優先していたが。
そうじゃなければ。
たとえば、自分の研究や実験だったら。
何もかもを放り出して動いていただろう。
ベイルと別れ、クノンは歩き出す。
学校へ。
あの場所へ。
ラサミン・アウリッツの研究室へ。
――あの人とは、早めに会わなければならない。
水魔術師として興味がある。
それは間違いないが。
だが、それ以上に、気にしなければならないことがある。
彼女は、クノンの超拡散型「砲魚」を真似して見せた。
それが問題だ。
元から似たようなものを使えた。
それなら問題ない。
だが。
もし、見た瞬間に真似して見せたなら。
その場合はまずい。
――クノンは「鏡眼」を使ってしまった。
ラサミンの前で。
瞬時に魔術を再現することができる、凄腕の水魔術師の前で。
恐らくバレた。
看破された。
されない方がおかしい。
そして、彼女なら再現できるのではないか。
一回見ただけで構造まで理解してしまうのではないか。
確認しなければならない。
「鏡眼」が使えるようになったかどうかを。





