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502.偽教師を捕まえろ

2026/01/07 修正しました。

502.偽教師を捕まえろ





「――よし、行くか」


 調査二日目。

 偽教師狩りを始めた、翌日である。


 朝早くベイルと合流して。

 今日も教師探しである。


「やり方、考えました?」


「ああ」


 昨日、食堂で方針を決めてから。


 更に八人の教師と接触。

 その内、三人が偽教師だった。


 これで十四人中六人が偽教師、ということになった。


 そして。


「今日は完封狙うぞ」


 一人だけ、捕まえることに成功した。


 やると決めたはいいが。

 肝心のやり方が定まらなかった。


 逃げる偽教師を捕まえる。

 そんなの、クノンもベイルも、これまでやったことがなかったから。


 そもそも偽教師の存在を知らなかったから。


 その結果。

 二人、逃がしてしまった。


 しかし、最後に訪ねた一人は、見事捕獲に成功した。


 二人逃がした。

 逃がすたびに相談し、魔術の連携を考え。


 それでようやく、クノンらでできそうな捕獲方法を編み出したのだ。


 まだまだ模索している最中だが。

 続けていけば、洗練されていくことだろう。


「そうですね。頑張りましょう」


 目指すは完封。

 今日こそ、一人も逃がさない。





 偽教師は思いのほか多い。


 半分とは言わないが。

 案外、三割くらいは偽教師かもしれない。


 多すぎるだろう、とは思うが……。


 今は偽者の方と遭遇した方が嬉しいかもしれない。


 そして、いろんな場所にいる。


 研究室を構えていたり。

 図書館や、特定の特殊教室にいたり。

 向かいの施設を歩いていたり。


 特級生の拠点近くにはいないが。

 それ以外の場所には、教師は結構いる。


 ――で、だ。


「っ……な、何かしら」


 とある校舎の研究室を訪ねた。


 三十半ばほどの女性が出てきて。

 クノンたちを見て。

 表情を強張らせた。


 まるで、そう。


 クノンたちが何の目的でやってきたのか。

 知っているかのようだ。


「サナン・ツィーガー先生ですね? 風属性の」


「ええ……」


 クノンらは知らない教師である。


 魅力的な女性だ、とクノンは思った。


 それと、非常に偽者っぽい、とも。


「俺は特級クラスのベイルです。

 教師たちの調査を依頼されて、先生たちを訪ねています。


 サナン先生、確認のため身分証の提示をお願いします」


「え、ええ……はい」


 一度研究室の中に戻り、カードを持って戻ってきた。


「ありがとうございます。

 それと記録をしますので、そちらに立ってもらっていいすか」


 ベイルはカードを受け取り、言う。


 研究室から出てこい、と。


「え? 記録、って……?」


「――何かあって研究室がめちゃくちゃになると困るでしょう?」


「何か、って……」


 怪しい。

 実に怪しい。


 終始落ち着かない様子も怪しいし。

 歯切れの悪い反応も怪しい。


 クノンの勘も、怪しいと言っている。


 レディを疑うのは主義に反する。

 だが、疑わざるを得ないくらい、彼女は怪しい。


 クノンは紳士である。

 紳士として、これ以上罪を重ねさせるわけにはいかない。


「さあレディ、こちらへ立ってください。

 なんの問題もなければすぐに終わりますから」


 戸惑うばかりの教師サナンを、クノンが促す。


「それと、逃げても研究室には踏み込みませんから」


「え」


「遠慮なく、安心して逃げていいですからね。

 僕らはそれを阻止しますけど」


 ――やる前に宣言しておこう。


 ベイルと相談して決めたことだ。


 もし、とっさの魔術で殺し合いになったら。

 取り返しがつかないからだ。


 だから最初から選択肢を提示し、逃げ道を用意しよう、と。


 そう決めた。


 これはあくまでも調査が目的である。

 害意をぶつけ合うつもりはない。


 逃げられるなら逃げられるでいいのだ。


 それこそ、お互い怪我をするような魔術戦を行ったら。

 偽教師への迫害が始まりそうだ。


 彼らはあくまでも、教師を装っているだけ。

 害はないのだ。


 ……いや、ないこともないか。さすがに。


「……」


 サナンは研究室の入り口から移動し、廊下に立った。


 クノンたちと同じ場所に。


 脱出ルートは窓か。

 それとも、長く続く廊下を行くか。


「サナン先生――」


 身分証を眺めていたベイルが、言った。


「――これ、偽造ですね」


 そう言った瞬間。


 サナンは風をまとった。

 そして、窓へ向かって「飛行」する。


 バリン!


 頭から突っ込んでガラスが割れた、が――


「え……っ!?」


 ガラスは割れた。


 だが、割れない透明な膜がぐにょーんと伸びた。


 クノンの「超軟体水球」だ。

 逃走ルートを先読みして、ガラスの内側に張っておいた。


 あれは非常に伸びる。

 力技ではなかなか破れるものではない。


 伸びに伸びて。

 サナンの脱出を阻止した。


 弾力のある膜が、彼女を押し戻す。


 廊下に転げるようにして戻ってきて――


「はい確保」


 ベイルの「土拘束(ト・ジェク)」が、彼女を拘束した。


 土でできたベルトが十数本。

 一瞬で巻かれ、サナンの全身を拘束した。


「風じゃ切れないっすよ。

 そのまま大人しくしててくださいね」


 ベイルは流れるように「景色を記録する魔道具」を構え。


 廊下に拘束されて転がるサナンを、記録した。


 なんとも屈辱的な姿の記録である。


「ご協力どーも」


 これで彼女の調査は終わりである。





「……」


 拘束を解かれたサナンは、難しい顔をしている。


「……終わり?」


「ええ。俺らはあくまでも調査が目的なんで。

 これ以上は何もないっす。


 でも調査結果は提出します。

 だから、近い内に出頭してください。


 出頭しないと大事になるかもしれません。

 今後も魔術学校と関わりたいなら、必ず自分から行った方がいいっすよ」


 今、この教師サナンは、偽教師の烙印を押された。


 不法侵入の上に研究室まで持っている偽教師。

 そんな状態である。


 ただ、そんな彼女を。

 偽教師たちをどうするか。


 それは学校側が決めることである。


 クノンたちは、そこまでは立ち入らないことにしたのだ。


 偽教師側にも事情があるのだろう。


 聞かないが。

 気にはなるが。


 だが、一人一人聞いていたら、恐ろしく時間が掛かるだろうから。


「にしても、偽教師たちって繋がりがありますよね?」


「……何が?」


「偽造身分証。

 かなり精巧っすね。同じのを何枚か見てます」


 さすがに詳細は言わないが。


 ベイルは土属性だ。

 だからこそ、身分証の偽造がわかる。


 素材が違うのだそうだ。

 見た目も印字も完璧に真似されていて、一見するだけではまるでわからないが。


 だが、肝心の素材が違う。

 身分証のカードは、それなりに特殊な造りになっているらしい。


 ベイルは、触ればわかるそうだ。

 微妙な違いがあるのだとか。


 クノンはまったくわからないが。


 さすがは「実力の派閥」代表である。


「私が口を割ると思う?」


「いや、聞く気もないっすよ。


 ただ、もう少しポーカーフェイスはうまくやってほしいっすね。


 俺らを見た瞬間、要件までわかった、って顔に出てましたから」


 出てた。

 見えないクノンでさえ見分けがついた。


 見えないが。


「……やっぱり特級クラスは厄介ね。教師顔負けじゃない」


 苦笑するサナンを置いて、次へ向かうことにした。





「偽教師同士は繋がってるみたいだな」


 ベイルは、同じ偽造身分証が出回っていることを確信したらしい。


「繋がりですか……偽教師の互助会みたいなのがある、と?」


 特級生には馴染み深い三派閥。

 言わばこれも互助会。


 そんな組織があるのだろうか。

 偽教師界隈にも。


「どうだろうな。

 ただ、助け合っている偽教師は多いと思う。


 あの偽造身分証も、出所は一つ、つーか一人だろうな。

 売ってるのか配ってるのかはわからないけど、誰かがばら撒いてるのは間違いない」


 製造者が一人。

 その人が精巧な偽造品を造っている、と。


「それに、知ってただろ。

 俺たちが偽教師を捕まえてること。


 昨日の今日だぜ?

 横の繋がりが浅い教師たちが、進んで情報を回してるとも思えねぇな」


 だから、偽教師たちで情報を共有しているのではないか、と。

 支えあっているのではないか、と。


 自分たちを守るために。


 まさに互助という感じである。


「俺たちが捕まえる方法なんかも、明日になれば共有されてるかもな」。


「じゃあ明日の方が楽しいですね」


「そうだな。偽教師の実力をちゃんと感じたいしな」


 ぜひとも逃げてほしい。

 クノンたちを出し抜いて。


「で? 次は?」


「キーブン先生の研究室が近いですね。行きましょう」





「教師リストの調査? ああ、あの件か」


 教師キーブン・ブリッド。


 クノンの同期である聖女がお世話になっている、土属性の教師である。


「身分証の提示をお願いします」


「ああ、いいよ」


 要件を話すと、彼は快く頷いた。


 ポケットから身分証を出して、ベイルに差し出す。


「先生、偽教師って知ってます?」


 と、クノンが話題を振ってみる。


 キーブンは大丈夫だろう。

 教師として、ほかの教師と一緒に行動することもあったから。


「光る花」を探しに。

「合理」のダンジョンに潜ったこともある。


 教師サーフに、教師クラヴィス。


 あの二人に混じったのだ。

 さすがに偽者ってことはないだろう。


「偽教師?

 ……ああ、なんか聞いたことあるな。


 この学校、いるらしいな。資格のない教師」


 知っているらしい。

 あまり興味はなさそうだが。


「それで、なんか偽造された身分証が出回ってるみたいで」


「偽造までしてるのか?

 学校に入るなら必要だが、ほかにメリットはないと思うぞ。


 偽造するくらいなら、自由に出入りできる資格でも取って、堂々と過ごした方がいいんじゃないか?」


 クノンもそう思う。


 何かしらあると思うのだ。

 それこそ準教師の資格でも、問題なさそうな気もするのだが。


「……ああ、先生。これ有効期限が切れてますね」


「「え!?」」


 キーブンも驚いたが、クノンも驚いた。


 まさか。

 まさかキーブンが、このパターンなのか。


 クノンはキーブンを知っている。

 真面目そうな先生だと思っていただけに、余計驚いた。


「今の身分証、微妙にデザインが違うんすよ。新しいの貰ってないっすか?」


「ちょ、ちょっと待っててくれ」


 キーブンは慌てて研究室に引き返し。

 机の引き出しを丸ごと持ってきた。


 中には、たくさんの書類と封筒が重なり、ちょっとした山となっていた。


「大事な書類は全部ここだ。……開けてない封筒もあるな……」


 どうやら。


「学校からの手紙、無視してきたんすね……」


 ということらしい。


 身分証は、学校関係者全員が持っている。

 生徒であるクノンらも、携帯必須ということで配られている。


 身分証は、その名の通りのもの。

 これがないと、少なくとも、学校では身分の証明ができない。


 つまり偽教師と同じ立場となる。


 だって教師の証がないから。

 キーブンの場合は、現役教師の証がないから。


「……誰も何も言わんから、すっかり忘れていた。

 あとで開けようと思ってここに入れて、そのままだった。ずっと」


 ある!

 もはや魔術学校では「ありがち」の事象である。


 クノンもよく同じことをしているので、キーブンの気持ちがよくわかる。


「……何年前から開けてないんだ? 記憶にないぞ……」


 そんなに前から放置しているのか。


 気持ちはわかる。

 わかる、が。


「キーブン先生、偽教師だったんですね……」


「や、やめてくれ……そんなつもりはなかったんだ……」


 知らぬ間に偽教師のパターン。

 これも割とよくあるのだ。


 まあ、これはさすがに偽教師にはカウントしていないが。


 有効期限の切れた古い身分証。

 いつの間にか失効になっていた教師の資格。


 この二つは、多かった。


「――早めに出頭してください」


 このケースなら、身分証の再発行は早いと思う。

 だから、そう言うだけに留めている。





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― 新着の感想 ―
3派閥に属してない自由の派閥の人達なんじゃないかな。生徒でも教師でもないグレイの弟子もこの枠ぽいし。飲酒年齢制限の件で消された幻の回wに登場してた、生徒なのに司書兼業してた人達もいずれは資格無し教師扱…
長生きだと気も長くなっちゃうんだろうな、興味ないこともどんどん後回しにして忘れるんだろう
実力本位な学校だし、結果リストを提出してもグレイ婆さんが大笑いして終わるだけかもね。 しかし水と土って容疑者拘束するのに向いているんですね。火と風じゃ難しそう。
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