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501.またとない機会





「――なんでこんなにいるんだよ……」


 ベイルは微妙な顔をしている。


 呆れているような。

 若干の侮蔑を含んでいるような。


 そんな複雑な感じだ。


 現在。

 調査自体は進んでいる。


 順調に、とも言えるだろう。


 ただ、結果がアレだが。


 六名、教師を訪ねて。

 三人ほど偽教師だった。


 五割が偽者である。

 なんという偽教師率の高さだろう。


「先輩、一旦休憩しましょうか」


 クノンはそうでもないが、ベイルがつらそうだ。


 想定外の結果に。

 想定外の心労が掛かっているのだろう。


 だって、考えてみてほしい。


 昨日まで真っ当な教師だと。

 すばらしい魔術師だと。


 そう思っていたのだ。


 なのに。

 その教師は、まさかの無職だった。


 信じていた人が無職で。

 かつ、不法侵入して我が物顔で学校にいた。


 そんな不良魔術師だった。


 突きつけられた残酷な現実に。

 何も思わないでいられるわけがない。


 クノンだって、何も感じないわけではない。


「そうだな……ちょっと疲れたな」


 たまたま近くにいたので、二人は食堂へ行くことにした。





 飲み物を持ってテーブルに着く。


 この時間、利用者はまったくいない。


 昼や夕方なら、二級三級の生徒が多い。

 特級生もたまに来るが、かなり不規則だ。


 クノンはここで、狂炎王子の護衛に見つかり。

 そして彼らとの付き合いが始まった。


 偶然の出会いだったはずだ。

 しかし今では、必然の出会いだったのではないか思う。


 そう思わせるくらい。

 ジオエリオンとの関係は深い。


 今も続いているし。

 きっと今後も続くだろう。


 ……だが、卒業してからは、どうなるのだろう。


 縁は切れるだろうか。


 目の前に、今年度で卒業する先輩がいる。

 だからちょっと気になってしまった。


 ――まあ、今は気にしても仕方ない。


「いやあ、なんつーか、なんだな。


 偽教師多すぎだろ」


 ベイルは苦笑している。


「そうですね。僕も少数派だと思ってましたけど、結構いますね」


「今のところ半分だからな」


 そう、半分なのだ。


 六人声をかけて、三人が偽者だったのだ。


「たまたま偏った、ということでしょうか?」


「そうじゃないと困るだろ」


 確かに困る。


 困る、が。


「でも実力があればいいんでしょう? 僕も異を唱える気はないですよ」


 教師とか、偽教師とか。

 大事なのは肩書じゃない。


 実力はあるのか。


 気になるのはそこだけだ。


「……そう思ってたけど、実際見つけちまうとなぁ」


 ベイルは思うことがあったらしい。


「教師ってのは、実力があることの裏付けっつーかさ。

 実力があることの証拠であり、証明なんだと思う。


 でも偽教師となると、その前提が揺らいじまうだろ。


 要は、偽者から教えられることを信じていいのか、って話だ。


 嘘吹き込まれて、信じて、時間を無駄にして。

 そんなの最悪だろ」


 それは最悪だと思うが。


「でも、結構わかるじゃないですか。嘘みたいな話をされたら嘘だなーって」


「それが、これまで触れてこなかった専門分野だったら?


 嘘を嘘と見抜けない類の話だったら?」


 ――それはよくわかる。


「確かに困りますね」


 クノンにも心当たりがある。


 そう、造魔学だ。


 これまで触れたことのない。

 新しい学問だった。


 予備知識もない状態から学んだのである。


 見抜けないだろう。

 そこに嘘があったら。


 ただでさえ見えないのに。


「しかも逃げ足の速いこと。

 追いかけようと思った時には逃げられてるんだぜ。


 あれもちょっと腹が立つ。


 逃げるってことは、悪いことしてるって自覚があるってことだからな」


 ベイルはそう思ったらしい。


 クノンとしては、鮮やかな逃げっぷりに感心しきりなのだが。


 逃げるために魔術を使う。

 逃亡のための魔術。


 よくよく考えると。

 この手の使い方を、クノンは知らない。


 あれもなかなか興味深い。


「――あ、そうだ」


 閃いた。


 これは、もしかしたら。

 とてつもなく楽しい調査になるかもしれない。


 クノン一人では難しいと思うが。

 二人掛かりなら、できるんじゃなかろうか。


 あとは、ベイルが頷くかどうかだが……。


「なんだ? なんか楽しいこと思いついたか?」


「思いついたかもしれませんけど、揉め事になるかも」


「揉め事?」


「先輩は、このまま粛々と調査をしたい、とか……思いませんか?」


 いや、と首を振る。


「ねぇな。

 このまま調査を続けるのは、気が進まねぇ。


 どうせまた偽教師に遭遇するだろ?

 魔術学校の闇を暴いているみたいで、あんまり気分がよくねぇんだ」


 そういうものか。


「俺はきっと、教師たちを尊敬しているんだ。

 自分で思う以上にな。


 だから、尊敬している教師の面汚しみたいな偽教師は、なんだか気に入らねぇんだ。たぶんな」


 ならば、いいかもしれない。


「じゃあ捕まえましょうか」


 さっき思いついたのは、これだ。


「あ? 偽教師をか?」


「偽教師は、仮にも教師を騙っているわけです。


 ならば相応の実力はあるはず。

 正規採用された教師に劣るとも勝らないほどに。


 僕らが捕獲できるか。

 それとも逃げられるか。


 そのどちらかで、僕らなりに判断しませんか?」


「……逃げられたら?」


「僕らより実力があると見なす。

 ならば実質教師でいいじゃないですか」


 いいのか、と呟きつつベイルは腕を組む。


「……じゃあ、もし捕まえたら?」


「学校側に突き出せばいいです。

 調査の結果、正規採用されていない教師がいた、ってことで。


 ここで魔術師がひどい扱いを受けることは、ないと思うし」


 たとえ偽教師でも。

 不法侵入者でも。


 学びたいという意欲があるなら。

 さほど問題にはならないと思うのだ。


 きっと情状酌量というか。

 何かしらの救済措置が取られると思う。


 魔術師は貴重だから。


「この際、本音を言いますけど」


「本音?」


「形こそ違うけど、教師と戦う理由になるのでは?」


 ベイルの顔付きが変わった。


「おまえすげぇこと考えるな」


「だって戦いたくないですか? 

 偽者かもしれないけど、それでも教師です。きっと実力はありますよ」


 教師と戦う。

 魔術で対抗する。


 そんなの滅多にないことである。


「――そう言われたら、やらない理由がねぇな」


 だが、その滅多にない機会が。

 今ここにあるのだ。


「ふうん……いいじゃねぇか。やる気が湧いてきたぜ」


 ――ベイルは今年度で卒業する。


 ならば。

 やり残したこと、やりたかったことを、やりたい。


 悔いが残らないように。


 その中に、ある。


 教師との力比べ。

 実力勝負。


 ただの戦いとは違う形だが。

 むしろ、違うからこそ、いいのかもしれない。


 単純な力比べじゃないからこそ。


「行くか」


「はい」


 飲み物一杯分の打ち合わせをして。


 二人はテーブルを立った。


 ――来た時に抱えていた、小さな不満や悩みは、すっかり消えていた。





 この日、偽教師界隈がざわついた。


 ある者は、遭遇しないことを祈り。

 ある者は、来るなら来いと覚悟を決めたり。


 ある者は、捕まり。

 ある者は、知らない間に偽教師になっていたことを知り。

 ある者は、きっちり逃げ切ったり。


 それなりの余波を広げつつ。


 こうして、偽教師狩りが始まったのだった。





※話数がだぶっている箇所があるようです。

追って修正しますので。


情報提供ありがとうございました。


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― 新着の感想 ―
>偽教師狩り ク「真(まっこつ)の教師ならチェストしても死ぬはずなか」 ベ「おんし天才にごわすか!」 ク「チェストん時、名を訊くのは女々か?」 ベ「名案にごつ」
相変わらず偽教師率高そうやなw
今まで色々な学園ものを読んできたけど偽教師界隈とかいう言葉は初めて見たw グレイはともかく理事長はこんな界隈が学園に蔓延ってるって調査結果知ってどう思うんだろw
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