498.二年前の依頼書
「――ああ、教師リストの話ね!」
教師リーグからの推薦状を手に。
ベイルとクノンは、校門近くにやってきた。
正確には、受付である。
リーグ曰く「理事長の居場所は受付嬢が知っている」とのことで、ここへ来た。
受付嬢ルーベラに事情を話すと、すぐに察してくれた。
「そうそう、確かにそういう話が回ってきたことがあるわ!
正式な依頼書がどこかにあったはずだけど――」
と、何かの書類をめくり始めた。
そして。
探し物のついでのように、事情を教えてくれた。
なんでも。
現在所属している教師は何人いるのか。
そこからして、もう怪しいらしい。
「それって大丈夫なんですか?」
一応、貴族教育を受けているクノンである。
そんなずさんな管理体制でいいのか。
そう思わずにはいられない。
学校側からすれば、教師は雇用している人員だ。
何人雇っているかわからない。
そんなのありえるのか。
どんな雇用形態だ。
「大丈夫じゃないからこういう話があるのよ」
まあ、今から調べようという流れではあるが。
この状態はまずいから解決したい。
そういう意思はあるわけだ。
何かしらの書類もあるらしいし。
「でもねぇ。誰も請け負ってくれないのよ」
誰かに調査を頼みたい。
でも誰も請け負ってくれない。
そんなこんなで。
話が上がってから、すでに二年以上が経っているとか。
二年も。
そりゃどこに書類をしまったかわからなくもなりそうだ。
クノンのメモなら、数日前でもあやしいが。
すぐどこかへやってしまうから。
「気が長すぎじゃないすかね」
ベイルも呆れている。
「案外不都合がないのよ、実際」
と、ルーベラは違う書類の束を持ち出す。
「正式な教師には給料が出ているわ。
でも正式じゃない教師には、給料が出てないの。
だから、いわゆるもぐりの教師がいたって、運営側は困らないの。
給料出さないでいいから、出費がないの」
「いや待ってくださいよ。なんすかもぐりって」
もぐりの教師。
なんだかとんでもない人物もいそうである。
「いるらしいわよ。
教師の資格を持ってないのに教師ヅラしてる偽教師」
偽教師。
謎の多い魔術学校ではあるが。
まさか偽物の教師までいるのか。
「ベイル先輩、偽教師がいるらしいですよ」
なんだろう。
胡散臭いことこの上ない。
なのに、なんだか妙にわくわくする。
偽教師とは何者だ。
「うーん……なんかよくわかんねぇけど、わかる気がしないでもない……」
なんだか歯切れが悪いが。
ベイル的には、なんとなく、わからくもない、らしい。
「魔術師って実力主義が多いからよ。
腕さえよければ教師陣に紛れ込めるんじゃねぇかな。たとえ資格なしでも」
そういうもの……か?
「だっていちいち資格の有無とか確認しないだろ。
それこそ魔術の腕が資格代わりになるしよ。
そもそも、俺より劣る教師なんて、俺はたぶん拘わらない。
逆に、俺より魔術が上手けりゃ、偽者でも構わねぇし」
……確かに、そうかもしれない。
言われてみれば、クノンも。
教師だから尊敬するわけではない。
魔術師として優れているから。
学ぶことがあるから。
だから尊敬するのだ。
肩書なんてどうでもいい。
偽者でもいいだろう。
自分が知らないことを、魔術を、教えてくれるのであれば。
「そうそう、そんな感じでリスト漏れしてるのよ。
本物も、偽者もね。
そもそも偽者もアレなのよね。
自分の実験や研究をやってたら、資格試験を受け損なった。
そもそもいつやるかさえ知らない。
第一に、教師が何をするかさえ知らない。
そんなのばっかりみたい。
季節だの時期だの気にしないで動いてる魔術師、すごく多いから」
そして。
学校側は、その辺をちゃんと確かめたい。
そう思っているが。
でも誰も調べてくれない。
だから、今回クノンらに回ってこようとしている、と。
待つことしばし。
「――あった! これよ、これ!」
書類が見つかったようだ。
「教師向けの依頼書なんだけど、もうこの際君たちでもいいと思う」
いいんだろうか。
疑問はあるが、ベイルが受け取った書類をクノンものぞき込む。
これが、二年以上前に預かった書類か。
「あー……聞いてた以上の情報はないっすね」
新しい情報はない、と。
強いて言えば、現在……いや。
この書類が作成された当時。
その時は、五十八名の教職員が確認されている、そうだ。
五十八名。
数字だけ見ると多いだろうか。
だが、年間一、二名の教師が増えていると仮定すれば。
この人数は少ない気もする。
この魔術学校は歴史が長いから。
「これ、俺たちがやっても大丈夫ですか?
リーグ先生に書いてもらった理事長への推薦状があるんすけど」
ベイルとしては、理事長と話をしてから、と思っているのだろう。
クノンも同意見だ。
受付嬢の独断でやってはいけないと思うのだが。
「理事長は今、とても多忙でね。
アポがないと絶対に会えないわ。
でも、それまで何もしないまま待つって、君たちの時間がもったいないでしょ?
こうして依頼書がある以上、やるなとは言わないと思うの。
仮に言われても、依頼書を撤回してない学校側の落ち度でしかないし」
わかる気はする。
調査依頼は撤回されていない。
だから、この書類がまだあるのだ。
たとえ理事長が忘れていても。
正式な書類が効力を失うわけでもない。
「どうする? やってくれるなら助かるんだけど」
ベイルはクノンを見た。
意見を求めているのだろう。
「僕はいいと思いますけど」
どんな教師がいるかも興味があるし。
偽教師にも興味があるし。
「ルーベラさんも困ってるみたいだし。
僕は紳士ですからね。
困っているレディを見て放ってはおけません。見えないけど」
「困ってるっていうか、忘れられてる案件っていうか。
……いえ、まあ、そうね。
どっちかと言えば困ってる方寄りではあるから、やってくれると助かるわね」
「……わかりました。問題ないなら俺たちでやります」
一応は、学校側からの正式な仕事……ということでいいのだろうか。
仕事じゃなくても面白そうだが。
「でも、報告は理事長に直接したいので、会う約束を取り付けてもらえないっすか?」
と、ベイルは面会の申請を申し出る。
「景色を記録する魔道具」が拘わるからだろう。
要するに。
記録したガラスが調査書代わりとなるわけだ。
「わかった。えーと……四日後の夜なら会えると思うわ。
この時間でいい?」
四日後。
まあ、それくらいが丁度いいかもしれない。
「わかりました。じゃあ四日後を目途に調査しますんで」
理事長に会うのは四日後だが。
教師の調査は、こうしてスタートした。
※2025年最後の更新となります。
一年間、ありがとうございました。
来年1月4日にはアニメが始まりますので、よろしくお願いします。





