496.確かめる
「――よし、完成っと」
ジュネーブィズが華麗に試作品を持ち去った後。
再び、同じものを造った。
「景色を記録する魔道具」は、まだ試作品。
どんどん試して。
修正点を割り出す必要がある。
「お見事です」
手のひらサイズの小さなものだ。
石の枠組み。
強化ガラス。
鏡。
全部土属性で対応できる素材だけに。
ベイルはすぐに、試作品二号を作り上げた。
「やっぱり何度か使えるようにしてぇな」
原理としては。
鏡に写った景色を、ガラスに閉じ込めるのだ。
一度閉じ込めた景色は、もう消えない。
「そうですね。
使ったガラスを未使用のものに交換できるようにする、とか?」
「それいいな」
と、細々話してはみたが。
クノンとしては、やはり気になる。
いや。
クノンじゃなくても気になるだろう。
「先輩、ジュネーブ先輩のことはいいんですか?」
追いかけるどころか、触れもしない。
あの蛮行に対して。
ベイルはどう思っているのか。
「あいつ? 構わねぇよ。
数日経ったら返してくれるだろ。本人そう言ってたし」
まあ、確かに言っていたが。
「おまえらがエリアの誕生日にこれを選んだ。
これ選んだ理由があるんだろ?」
鋭い。
さすがは派閥代表だ。
「あいつともそれなりに長い付き合いだし、それなりに信用はしてる」
ベイルは笑った。
「ついでに言うと、おまえも知ってるんだろ?」
やはり、鋭い。
「そのうちわかるだろうから、今は聞かねぇよ」
見抜かれている。
そこまで言われれば、もういいだろう。
「すみません、先輩」
「いいよ。
だが、代わりにジュネーブが帰ってくるまでは試作に付き合えよ」
「はい」
――この「景色を記録する魔道具」。
クノンにとっては「新しい鏡眼」の参考になる点が非常に多い。
学ばねば。
この魔道具と同じように。
「新しい鏡眼」にも、改善の余地があるはずだから。
◆
「――エリアちゃん!」
「景色を記録する魔道具」を持ち出したジュネーブィズは。
食堂で仲間たちと話をしている彼女を見つけた。
エリアも。
周囲にいる人も、驚いた。
ジュネーブィズが息を切って、大声を出した。
いつも、いるのかいないのか。
それくらい影が薄く。
一人でぐふぐふ笑っているイメージしかないのだが。
「は、はい? どうしました?」
「来て!」
エリアの腕を取り、強引にその場を少し離れた。
そして――
「行こう。代表の故郷に」
こそっと耳打ちする。
「え? え……? な、何を急に……」
「細かい理由は、ふふふ、道中話すよ」
「いや、あの、そんな急には……」
確かに急だ。
だが、今しかないと思う。
だってベイルは、今年度で卒業してしまうから。
時間的な余裕はないと思った方がいい。
「私が、無意味に、こんなこと言うと、思う?」
こみ上げる笑いを、必死で堪え。
ジュネーブィズは絞り出すように言う。
「フハハハッ! ……失礼」
ちょっと漏れたが。
「……わかりました。先輩を信じます」
エリアは頷いた。
――ふざけているようには見えない。
彼の必死さが伝わってくる。
この話、きっと相応の理由があるのだろう。
準備をするため一度別れ。
すぐに拠点前で合流した。
これでエリアも特級生。
「実力の派閥」の一員である。
人一人連れての「飛行」だってお手の物だ。
「それじゃ行きましょうか」
「うん」
こうして、ジュネーブィズとエリアは、ディラシックを旅立った。
確かめるのだ。
本当に、ベイルの妹とエリアが、似ているのか。
実際、どの程度似ているのか。
実家のような安心感を覚えるほどなのか。
それとも、雰囲気が似ているのか。
声か、顔立ちか。
人間、視覚の錯覚とはよくするものだ。
鏡で見ている自分と、他人が見ている自分。
それが一致しないことなんて儘ある。
ジュネーブィズも幼少の頃。
似顔絵を描いてもらった時に、思ったものだ。
自分はこんな顔をしているのか、と。
鏡で見る自分とは少し違うな、と。
きっとベイルも、そんな勘違いをしている……気がする。
というか、していてもらわないと。
エリアの恋は終わりである。
まずは、似ているか否か。
そこをはっきりさせないと、ベイルの気持ちは動かないだろう。
だが。
もし似ていたらどうしよう。
瓜二つってレベルで似ていたら。
その時は……まあ、仕方ない。
エリアには諦めるように言うしかない。





