493.景色を記録する魔道具開発、開始
「じゃあ、『景色を記録する魔道具』の開発を始めようか」
一通りの相談を終えて。
ベイルの開始の合図の元、クノンらは動き出した。
エリアの誕生日プレゼントは決定した。
ちなみに彼女の誕生日は、来月頭。
三週間くらい余裕がある。
一応、製作期限は二週間くらいと想定した。
試作品ができて、一週間くらいテストをする予定だ。
……まあ、あれだ。
もし完成しなければ、別案を考えることになるが。
大体の方向性は決まった。
あとは可能性を試していくだけだ。
「よし、まずは材料の調達だな」
「それと人員を増やさないといけませんね」
「はは。代表は実験の準備をしておいて。
私とクノン君で、一通りの素材を買ってくるよ」
「ああ、任せた。金は後で払うからよ」
「それと人を増やした方がいいですよね。これは増やすべきですよ」
「クノン君、行こうか。ふふふ」
「……女性がいないチームなんてやる気が出ませんよ……」
クノンは嘆いた。
たった一人。
たった一人でいいのだ。
女性がいれば、クノンは頑張れるのに。
それだけでどこまでも頑張れるのに。
「大丈夫だよ。おまえは女なしでもやれるよ」
ベイルの心無い発言が痛い。
「そうだよ。は、ははっ、『水分を奪う箱』と『完全密閉する箱』を作ったメンバーじゃないか」
ジュネーブィズからは心無い事実を突きつけられた。
そうだった。
前例があった。すでに。
これでは「女性がいなくて力が出ないよぉ」と泣いても。
まるで信憑性がない。
本当なのに。
まぎれもなく本当なのに。
――なんて言っている場合ではないか。
製作期間は二週間。
すぐにできそうだとは思うが、長引く可能性もある。
それに、作ってからのこともある。
時間を無駄にできない。
「行きましょうか」
と、クノンは立ち上がった。
こうして、『景色を記録する魔道具』製作が始まった。
ダイスカメレオンは、擬態能力を持った魔物だ。
常に周囲の色と同化していて、まず発見することが難しい。
死ぬと元の色に戻る。
半透明の白い皮を持ち、血管や筋肉、臓器に至るまで透けて見える。
そのダイスカメレオンの瞼。
もっとも皮が薄い部位で、伸縮性と柔軟性を持っている。
特殊な加工を施すことで、純度の高いガラスのように透き通る。
魔的素材として非常に優秀で。
加工もしやすい。
「結構小さいんだな」
その現物を見て。
ベイルはぐにぐにした皮を揉んだり伸ばしたりしている。
そう。
欠点は大きさだろうか。
――手早く買い物を済ませて、クノンらはすぐに戻ってきた。
ベイルも準備を急いだらしく。
すでに機材等が揃っていた。
さっきまでテーブルと椅子、資料しかなかった空き部屋なのに。
きっとベイルも完成を急ぎたいのだろう。
まだ今年度が始まってすぐだ。
やりたいこともたくさんあるに違いない。
何より、今年度で卒業する。
心残りがないよう過ごしたいはずだ。
「最初はこんなものでいいと思いますけど」
ダイスカメレオン自体があまり大きくない。
その瞼の部位ともなれば。
まあ、手のひらサイズである。
「まあ、そうだな。成功したら大きい何かで作り直してもいいしな」
そうだ。
まず必要なのは成功例。ひな形だ。
完成した後、細々した調整をすればいい。
大きくするのもその段でいいだろう。
それこそ強化ガラスや水晶などを使ってもいいだろう。
「――よし、何から試す?」
◆
そんなこんなで、四日が過ぎた。
「……ふうん」
難しいな、と。
クノンは資料を見返しつつ思った。
本日四日目。朝。
クノンは毎日通っている。
そして、順調に散らかっていく空き部屋。
……まあ、それはいいとして。
最初から振り返って。
なんというか。
進展が、あまりない。
クノンはともかく。
優秀なベイル、ジュネーブィズがいて、この進展具合は……。
ちょっとまずい気がする。
「結構難しいな」
クノンが言わなかったことを、ベイルが言った。
「そうだねぇ。楽にできるかなぁって、うふふっ、思ってたんだけどねぇ」
考えることは同じらしい。
この四日間。
いや、昨日までの三日間、か。
考えつく限りの方法を試してみた。
一定の成果は……。
あるような、ないような。
ダイスカメレオンの瞼に、ぼんやりと色が刻まれた……くらいのものだが。
これを成果と言っていいのかどうか。
「火で焼きつける、熱風で焼きつける。
……この辺の方法からして、すでに違う気がする」
ベイルが思い悩んでいる。
そう。
最初はクノンも、それで行けると思ったのだ。
なんなら三人の共通認識でさえあった。
しかし。
何度やってもうまくいかない。
「そうですね。そろそろ別方向から考えた方がいいかも」
熱転写紙の原理がそうだから。
クノンもその方向で考えていた。
だが、ここまで進展がないなら。
きっとやり方が違うのだろう。
そもそも不可能?
いや、それはない。
クノンの信じる魔術の可能性は、このくらいでは揺らがない。
……とはいえ、どうしたものか。
「結局、何かを焼き付けるには、近くないといけないんだろうな」
熱転写紙は、紙の上に重ねて写し取る。
その際、熱が作用する。
つまり密着させる必要があるわけだ。
写す物に。
しかし、景色はそうはいかない。
遠くに見えるものを写し取るのだ。
当然、近くにあるものを焼き付ける、というわけにはいかない。
密着させるなんてできないし。
一瞬、「景色を記憶する」と発想し。
あの禁忌の造魔学のことを思い出すが。
今回は使えない。
ベイルとジュネーブィズには、造魔学のことを話せないから。
「遠くにあるものが、近くにあればいいんだけど、ねぇ。……イヒヒッ」
遠くのものが。
近くに。
そんな方法があるだろうか――ああ、あった。
「鏡とか?」
鏡に写った景色なら。
近く、かつ平面にある景色になる。
「――それだ!」
「――鏡の中の景色を焼きつけるんだね。ふふはははっ、さすがクノン君だ! そんな発想誰も思いつかないよアハハーハハァ!!」
「今のは煽ってたでしょ?」
そんなこんなで、研究は進み――
「できねぇな……」
「そうだねぇ……」
「そうですねぇ……」
若干の成果はある。
しかし、目指した成功とは程遠い。
――そんなこんなで、一週間が過ぎたのだった。





