491.彼女へのプレゼントは、
「……先輩、どうします?」
ひとまず、エリアの実験室を出てきた。
話すべきことは話した。
必要な話も聞いた。
その上でどうするか。
ちょっと考えてみる。
エリアにはそう伝えて、二人して出てきたところだ。
考えるしかない。
……とは思うが。
まるで解決案が思いつかないクノンは、ジュネーブィズに問う。
どうするか、と。
辺境伯三男に妙案あり。
それを期待して。
「参ったねぇ。はは。これどうにかなるかな。……ふはは」
妙案なしのようだ。
色々と問題は多いが。
何より、当人たちだけの問題ではない、という点。
これが厄介だ。
――いや。
厄介と言えば、ベイルの気持ちも、だろうか。
想像以上の脈なしである。
エリアのことは妹としか見れない、らしいから。
せめて両想いなら……。
「クノン君、この際君の気持ちも聞きたいな」
「はい? 僕の?」
「私は代表の味方をする。ふふ。
双方が納得できる解決を、望むけどね。
でもそれが不可能なら。
はははは、私は、ベイル・カークントンの味方をするよ」
……そうか。
そうなるか。
根底の思想が違う。
ならば当然、目指す結果も違うわけだ。
「僕はエリア先輩の味方ですね。
紳士として、女性の応援をしたいです」
たぶん、理屈や道理で言えば。
ベイルの方が通っているのだろう。
そして、エリアの方が間違っているのだろう。
でも、それでも。
クノンはエリアの味方をしたい。
紳士であるから。
この世の女性は全員幸せになってほしい。
たとえそれが不可能でも。
せめて姿勢だけは、そうでありたい。
「でもジュネーブ先輩、限界ギリギリまでは味方ですからね」
「え?」
「できるだけ双方納得できる方向に行きたい。
あなたがエリア先輩に言った言葉です。
そう言って、彼女の個人的な事情を聞き出したんだから」
責任がある。
辺境伯三男としてではなく。
エリアの先輩であり、仲間として。
「……そうだね。ギリギリまでは、私もそれを、目指そうか」
よし。
これでしばらくは、彼は味方だ。
「でもなぁ。どうにか、はは、ふふ、……どうにかなる問題かなぁ」
そこなのだ。
クノンもまったくいい案が思い浮かばない。
「ご実家の力でなんとかなりません?」
「帝国内での話なら、なんとかなったかもね。
国境を超えると難しいねぇ」
やはりそうか。
……まあ、とりあえずだ。
「このまま街まで行きます?」
「え? 何しに?」
「誕生日プレゼントを探しに」
「……あ、そうか。元の問題に戻ってきたんだね」
ジュネーブィズは忘れていたらしい。
気持ちはわかるが。
しかし、そう。
この問題の大元は、エリアへの誕生日プレゼントである。
「こうなったら、解決できそうな問題から片付けていきましょうよ」
「それがいいかもね。……ん?」
「ん?」
「え、どうしよ、私友達と買い物とか、ははは、は、はじめてかも」
ふへへへへへ、と。
これまでに聞いたことがない声で笑うジュネーブィズ。
まあ、なんだ。
先輩後輩関係ではあるが。
まあ、友人とも言えるかもしれない。
何せ半年ほど一緒に開発実験をした仲だ。
親しくない。
さすがにそう言うには、無理があるだろう。
「ベイル先輩とは? 一緒に出掛けたことはないんですか?」
「ないんだよねぇ。
『実力』は、横の繋がりが希薄だからね。……ヒャハッ!
仲間と買い出しくらいはあるけど、それくらいだねぇ……」
だそうだ。
「ど、ど、どうする? 帰りにケーキとか、行っちゃうんでしょ? 友達って」
……この手の反応をする人は、クノンには初めてかもしれない。
「時間があるなら行きましょうよ。
細かいことは現地で決めればいいですし」
どうしたらいいのか。
この時クノンも、少し戸惑っていた。
「――という感じで、昨日色々見てきました」
ベイルとエリアの事情を聞いて。
誕生日プレゼントを物色しに行って。
その翌日。
クノンとジュネーブィズは、再びベイルの実験室にやってきた。
「あれから二人で行ったのか」
ちなみに、エリアから事情を聞いたことは伝えない。
本当に個人的な話だったから。
内容的に、言えない。
「なんだ、俺も誘ってくれればよかった」
言われて気付いた。
そうだ、ベイルも誘えばよかった。
いや。
男三人でお出掛けなんて、クノンはあまりしたくない。
……。
ディラシックなら関係ないか。
誰と一緒だろうが、どうせ本や魔的素材を見て喜ぶだけだから。
昨日そうだったし。
「ふふ。代表。うふふ」
「お、なんだジュネーブ。機嫌よさそうだな」
「昨日クノン君と、ケーキ食べてきたよ。うふ」
「へえ、よかったな」
ジュネーブィズの自慢をさらりとかわし、
「それで、プレゼントは決まったか? 俺はエリアに何をやればいい?」
ベイルは本題に入った。
「ええ、思いつきました。
――『景色を記録する魔道具』です」
昨日。
無駄に男二人で彷徨い。
本や魔的素材にはしゃいで。
ケーキを食べに行ったわけではない。
必要なことはちゃんと話していた。
夕方まで、みっちりと。
その末に出た結論だ。
上手くいけば。
これで問題の一つが片付く、……といいな、と。
そんな感じである。





