487.リスクマネジメントを考えつつ相談する
ひとまず、だ。
「とりあえず誰か呼びません?」
エリアへの誕生日プレゼント。
この問題からは逃げられないようなので。
ならば、せめて、人を増やしたい。
「え? なんで? あんまり関係者を増やしたくないんだが」
ベイルは気が進まないようだが。
リスクマネジメントのために――とは、さすがに言えないが。
でも、そういうことだ。
まさかの何かがあった時の責任の分散を、したい。するべきだ。
それくらいデリケートな問題だと、クノンは思う。
加えて。
単純に知識も欲しい。
一人増えるだけで、かなり違うだろう。
「貴族社会って、独特の文化があるんですよね。
しかも暗黙のルールみたいになってて。
国ごとに結構違うんです。
本当に多種多様です。
そして僕は、貴族社会のことは最低限しか学んでいません」
魔術ばかりやっていたから。
普通の侯爵家次男なら。
上級貴族学校へ行って、より深く貴族のことを勉強したことだろう。
でも、クノンは今、魔術学校にいるわけだ。
非常に浅いわけだ。
知識が。
「たとえば、花とか。
花を贈るにしても、色々あるんですよ」
「花にか?」
「ええ。
まず、花を贈れば、花言葉が重要視されたりしますが。
もっと深い意味があったりする場合もあります。
たとえば、贈った花が、たまたま相手の家紋に使われている領花だったりしたら。
それはプロポーズになります」
「マ、マジかよ……嘘だろそんなもん!」
「いえ本当です」
そう。
本当なのだ。
貴族の世界では「知らなかった」では済まないことが多い。
だから学校へ行ってまで学ぶのだ。
貴族社会のことを。
「俺、あいつに花やったことあるんだけど……」
やっていた。
ベイルはすでにやっていた。
やらかしていた。
「詳しく言わないでいいです! 僕それ知りたくないので!」
「そ、そんな反応やめろよ! 怖くなってくるだろ!」
まさか、過去。
ベイルがエリアにプロポーズしていた可能性が出てきた。
――ないない、なんて、クノンは言えない。
貴族界隈の暗黙のルールは、あるから。
本当に。
「……過去のことは変えられねぇから、今は話を進めようぜ」
もう遅いから。
今頃になって気にしても、手遅れだから
今は、そうじゃなかったことを、願うしかない。
「あとは、身近なものとか……ある国ではハンカチなんかもまずいんですよね」
「え?」
「自分のイニシャル入りのシルクのハンカチを上げたら、プロポーズになります」
「それなら大丈夫か」
ベイルはふーと息を吐いた。
「俺あいつにハンカチやったことあるけど、無地だった」
「あ、無地もまずい――」
「やめろ聞きたくねぇ!
面倒臭ぇルールで庶民を困らせて楽しいかよ!? 泣くぞ!?」
そう言われても。
クノンが決めたことじゃないのだが。
……ハンカチあげたことあるのか。
この話も、クノンは聞きたくなくなった。
「じゃあこの辺でやめときますが、こういうルールが結構あります。
で、僕は詳しくないわけですよ。
代表的なものしか知らないし、他国のこととなると更にわかりません。
ちゃんと貴族教育を受けた人に相談した方が無難だと思います」
だから、この問題に関わる人を増やしたいわけだ。
万が一にも。
贈り物でプロポーズないしお付き合いの意思を、表明しないように。
あとリスク管理だ。
一歩間違えば、ベイルとエリアの人生を大きく左右しかねない。
それくらい厄介な問題だと思う。
クノンだけが背負うには重すぎる。
リスクを分散したいのだ。
責任の所在を分け合いたいのだ。
「……わかった。明日ジュネーブを呼ぶから、今日のところはこのまま話そうぜ」
「ジュネーブ先輩? ああ……」
あの人も貴族か。
いや、あの人なら納得できる気がする。
笑い癖こそアレだが、あの人はそこはかとなく気品があるから。
「あんまり関係者は増やしたくないんだがな……」
まあ、そうだろう。
ベイルの個人的な事情と。
エリアの個人的な事情。
この二つを知らないと、話ができない。
そしてベイルとしては。
まだ、話しづらいところがあるわけだ。
それからしばし、ベイルと話をした。
あれはダメ。
これはあやしい。
この線はかなりまずい、
宝石は論外。
これを渡したら最悪一族総出の決闘になる。
俺今年度で卒業するけど、魔帯箱どうする?
アイデアだけは溜めてますから、ぜひまた一緒に……等々。
結論の出ない煮え切らない話は、遅くまで続いた。
「――あっははぁ、おはようクノン君! 今日も眼帯が、フフッ、黒光りしてるねぇ!」
「――煽ってません?」
翌日合流したジュネーブィズも交えて。
三人は、エリアへの贈り物について相談するのだった。
いくつか候補は絞られてきたところで、解散となった。
今は昼くらいだ。
昨日の昼過ぎから。
今日の昼まで。
ほぼ一日、ベイルの相談事に付き合ってきた。
「……ふう」
「実力」の拠点である古城を出てきたクノンは、息を吐いた。
本当に貴族社会のルールはややこしい。
なんか、何あげても何かしらの意味があるんじゃないか。
そんな気さえしてきた。
クノンなんかは、プレゼントなんてベーコンを貰えれば嬉しいのだが。
さすがに女性にベーコンを贈るのは、ないだろう。
色気がなさすぎる。
貴族的な意味でも、怒られそうだ。
「……」
立ち止まって、悩む。
ずっと思っていた。
たぶんベイルとジュネーブィズも、頭の片隅にはあったと思う。
――エリアからの話も聞いてみたい、と。
ベイルのことをどう思っていて。
どうしたいのか。
彼女が貴族の娘なら、当然。
最低限の貴族教育を受けているはずだ。
そんな彼女が、ベイルに言い寄る理由はなんだろう。
片思いしたのは仕方ない。
人の気持ちは儘ならないから。
にしても、だ。
それが成就するかどうかは、考えればわかりそうなものなのに。
……あるんだろうか。
これまでにベイルが贈ったプレゼントが。
エリアにとってはプロポーズ、もしくは恋愛的な好意を伝える類のものだった。
そんな可能性が。
「……行ってみようかな」
参加している三人の中。
一番エリアと浅い関係のクノン。
もし彼女に直接聞くならば。
自分が動くのがもっとも波風が立たないだろう。
……いや、というか、だ。
当事者であるベイルは、当然聞けない。
ジュネーブィズは、人と話すこと自体にちょっと問題が……。
となると、クノンしかいないではないか。
今動ける者は。
「――よし」
クノンは踵を返し、再び古城に踏み込んだ。
エリアを探そう。





