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教室内は一時騒然となった。
先生を呼んで来よう、少年を保健室に運ぼう、どうやって少年を運ぶか、ざわざわと意見が飛び交い……そうこうしている間に少年の意識は戻り、ぱちり、目を開けた。
「木村くん! 大丈夫? 保健室に行こう? 歩ける?」
少年は無言だった。
自分に呼び掛けてくる彼女の声を脳内にこだまさせ、ゆっくり味わい咀嚼し、細かく散らばっていく音の欠片に集中し、その全てを吸収した。
「木村くん、聞こえてる?」
さらりぱらり、彼女の短い髪が揺れる。もう彼女の髪は縦ロールではなくなってしまった。彼女の髪を指に巻き付けることも、全身を彼女に巻かれることも出来なくなった。それでも。
ぱらぱらと揺れる髪。太陽から伸びる光の筋のように眩くて、素麺のように繊細な髪。平行する無数の線の中に指を差し入れ、真っ直ぐな線に、髪に、自分の指を這わせたい。きっと引っ掛かったりせず、差し込んだ指は髪の根本から毛先までを流れるようにするりと通り抜けるだろう。
教室の固い板張りの床を背中に感じる。
さらりぱらり、彼女の髪が揺れる。
心配げな彼女の目を見ると、自然と言葉がこぼれた。
「好きです、藤さん」
彼女の大きな目が一層大きく開かれて、ぱちぱち瞬きすると、見上げる頬っぺたが少し色付いた。
「おま……藤……さんの縦ロールの髪が好きで、ずっと触ってみたかったから。だから、髪型が変わって凄くショックで、でも、やっぱり今の藤さんも可愛くて、髪に、藤さんに、触りたい」
寝そべったまま、それでも彼女の髪に触れたくて、手を伸ばす。
教室内は二時騒然となった。