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68 クマクマ占いと宿命の刻 その2

 学校には滑り込みギリギリで間に合った。


 授業中、ふと窓の外を見る。

 学校の植木の影に何かがいた。一瞬見えただけだが、すぐに消える。

(?)

「……ここが重要ポイントになります。テストにも出る可能性があります」

 みんなが一斉にノートを取り始めたので、翔一もメモをした。

 休み中、京市と話をする。

 今日は女装ではない。彼曰く、あまりやると特別な感覚がなくなって面白くないらしい。

「そういえば、今朝から凄い噂になってることがあるよ」

 ネットに治癒クマーの占いとその結果が当たったことに大きな反響があるという。

 動画の有名投稿者が解説などを行っていた。

「僕たちの街のヒーローがこんなふうに話題になるなんてすごいよね。関東の片隅にある東宮市なんて、位置も存在も全国的には誰も知らないレベルだから」

 確かに、この街は全く取柄がない。首都の近郊という以外魅力がないといってしまえばそのままである。

「治癒クマー君だよね」

 一応、他人のふり。

「彼、可愛いし、僕はファンだよ。女の子たちにもかなり人気なんだ。地道なファンサイトなんかもあるから」

 早速、見る。確かにそういうものがあった。

 気になったので個人情報などがないか調べたが、ネットにそのような軽率な行為をする人間はいなかった。仮にあったとしてもすぐに削除されるのだろう。

聖美沙ひじり みささんなんてすごい人気だろ」

「あの偉大なお方はこの街のヒーローというより、関東の美少女戦士という感じかな。誰もこの街のことなんて知らないよ。人気は全国区だから」

 ヒーローのうわさを語り合う掲示板などを見ると、治癒クマーの占いの話題がそれなりに上っている。

 しかし、ヒーローが凄いのはある意味当たり前なので、それほど大きく盛り上がっているというほどでもなかった。

(まあ、こんなものだよね。その内鎮静化するだろう。所詮、僕は四級)

 人々の関心が強いのは当然のように上位ヒーローたちであり、風間は下手な男性アイドルより人気だった。

 次の授業が始まり、それが終わると昼休み。

 母のお弁当を出して、おにぎりを食べる。

「はあ。おいしい。一生食べたいよ」

「いいよな、翔ちゃんのお弁当」

 京市が欲しそうにするので、おにぎりを一個渡す。

 今日は源菜奈みなもと ななもいたので、彼女にも渡した。

 彼女はアイドルもやっており、活動が忙しくてあまり学校には顔を出さない。

「ねえ、翔ちゃん。お願いがあるの」

「できることならいいけど」

「翔一君、僕は先生と話があるから」

 京市は担任の中岡に話しかけに行ったので、翔一は菜奈と二人で人気のない教室に入る。


「お願いというのはね、占ってほしいの」

「あ、テレビ見たんだ」

 翔一は占い袋を出す。

(女の子だから、恋愛運だよね、多分)

「あのね、菜奈のお姉ちゃんの居場所を占ってほしいの」

 いつもとは違う真剣な表情。

「……」

「私、お姉ちゃんがいたの。源雪みなもと ゆきって名前。ちょうど私と同じ年齢の時に行方不明になったのよ……」

 彼女の話を聞くと、どうやら、一年半前ぐらいに行方不明になり、大々的な捜査が行われたが、消えたという。

 不思議なことに、彼女の失踪を家族が気が付いたのはしばらく経ってからだというのだ。

(僕と同じだ!)

「わかった、やってみるよ。どんな結果でも、占いだからね。外れもあるし、よくわからない時もある。参考程度にしてほしいんだ」

「うん」

 翔一は彼女のプロフィールと写真を見てから、強く念じて袋をぶちまける。

「占いは彼女主体。現状どうなのかという問い……彼女は今、遠い世界にいる」

(たぶん、僕が召喚された異世界だよね、これ)

「遠い世界、死んじゃったの?」

「それは大丈夫、生きているよ」

「よかった、ありがとう翔ちゃん」

 パッと顔が明るくなる。

「でも、あまりよい状態じゃない」

 いってから後悔した。菜奈の顔が曇ったのだ。

「よい状態じゃないってどういうこと」

「トラブルに巻き込まれているという感じかなぁ」

 彼女を励ませることはないか、目を皿のようにしてみる。

 黒い珠は天空中央にないので、最悪ではない。

「囚われのお姫様みたいだ。誰かが助けに行かないと」

「じゃあ、どうしたらいいの!」

(僕を攫った邪悪の半神たちは死んだか追放されている。しかし、まだ被害者は取り残されたままなんだ)

 翔一と一緒に召喚された者たちはほぼ全員が死亡している。

 その中に彼女はいなかったが、

(僕が覚えている範疇ではいないけど……異世界にどのぐらいの規模で召喚されたのか、誰がどれだけどこにいるのか全く分からない。記録も統計も奴らは残していないだろうし……)

「これ以上は占いでは……精霊たちに聞いてみるよ。彼女の服とか、お気に入りの人形とかあったら貸してほしい。髪の毛とかでもいいよ。因果をたどれないと、赤の他人の僕では限界がある」

「わかったわ、一度関西に帰って、必ず持ってくるから」

 源菜奈の決然とした顔。いつもの可愛い小さな女の子とは雰囲気が違った。

 彼女の実家は関西にある。

 東京にはアイドル活動のために来ているのだ。




 帰宅時間になった。

(今日は色々なことがあった。わざわいを避けるために帰宅の道を占ってみよう)

 人が居ない部屋で、こっそり、占いをする。

わざわいはやはりある。しかも避けられない……京市君や菜奈ちゃんとは帰らない方がいいね)

 翔一はそう思って、別の方向に行くことを告げ二人とは帰らない。

 人通りの少ない場所をかなり遠回りする。


 狭い道に入ったところで、腕を組んだ女が立っていた。

「あ、二宮にみやさん」

 朝に出会った住良木の部下。

「御剣山翔一、お前に話がある」

「……」

 戸惑う翔一。

「こっちだ」

 二宮の視線の先には洒落た喫茶店があった。

 ただならぬ雰囲気に、断り切れず、喫茶店に入る。

「ところでお話とは?」

 コーヒーをすする。

「その、なんだ。占いをだな」

「……占いをやってほしいのですね」

 普段とは違う、もじもじした感じの二宮。

(こんな顔もするんだ……)

「いいですよ。住良木さんと敵対したいわけでもないですから。お困りのことならお手伝いします。それで何を占うのですか」

 早く帰宅したかったので、さっさと袋と皮を出す。

 なぜか、顔を赤らめる二宮。

「それは、その……」

 なんとなく、ピンとくる翔一。

「好きな人がいて、その人とのことですか」

「……そうよ」

 しぶしぶ認める、二宮。

「名前をいっていただけると精度が増しますが」

「無理よ、いえないわ。だからあなたに頼むのよ」

「……二宮玲子にみや れいこと思い人の宿命」

 それ以上は問わず、ざらざらっと宝石を撒く。

「……」

「で、どうなのよ」

「あなたの思い人は心ここにあらずという感じです。あなたのことは家族のように感じていますが、恋人ではないですね」

「……」

 うつむく、二宮。

 彼女の反応を見てちょっとかわいそうにも感じたが、嘘はつけない。

「その人のことも占ってみます」

 ざらざらともう一度。

「うーん、すごい人だ。権力者っぽい。誰もが一目置く人です。しかし、魔がすごく近い。かなり危ないことをやっている人です。恋人としてはどうかと思います」

「そんなことはわかっているわ、何かアドバイスはないの?」

「その人の心は魔に向かっています。振り向かせるにはあなたがもっとすごい存在になる以外道はありませんね。彼が一目置くぐらい。その時彼はあなたを心の中に入れるでしょう」

「呪力を……求めろと」

「お勧めしませんよ。普通の人と普通に生きる人生の方がよっぽどいいですよ」

 ふと、この世界の『普通』とはかけ離れた残酷な異世界の記憶がよみがえる。死屍累々、闊歩する魔物。

 そんな恐怖のない人生がいかに素晴らしいか。

 しかし、二宮は思索にふけり始めた。

(余計なことをいってしまったかな……)

 占いの怖さを感じる翔一。

 聞きたいことを聞いた二宮の心には、翔一の善意の言葉は届かないだろう。

「僕はこれで」

「ああ、ありがとう、御剣山。あなたのアドレスが知りたいわ」

 嫌な予感はしたが、スマホで情報を交換する。

 喫茶店を後にした。


「もうこんな時間か」

 道はすでに薄暗い。

 視界の端に、何かが、微かに蠢いていた。

 人のいない場所で立ち止まる。

「何か御用ですか、先ほどからついて来ている人」

 そう声を出す。

 しばらくして、一人の者が真後ろからゆっくりと近づいてきた。

(この匂い……)

 白いお面を被った男だった。年齢不詳。ゆったりとしたポンチョのようなものを着て、体型も何もかもわからない。

「フフ、勘のいいやつだ」

 男の声は掠れている。

 微かに、死臭がしていた。

「あなた、吸血鬼ですね。友愛協会でもない」

 男は苦笑して、

「あんな腑抜け連中とは違う。しかし、吸血鬼であることをあっさり見抜くとは。やはり、動物だからか」

「友愛協会に未所属なら、邪悪な吸血鬼。成敗しますがよろしいか」

 翔一はあまり気は進まなかったが、『魔送喪魂剣』を精霊ポケットから出す。

 同時に大熊になった。

 剣から禍々しい気配が立ち込める。

「何とも。それは榊原の剣ではないか。倒されたと聞いたが、お前がやったのか」

「お答えする義務はないクマだよ」

「いいだろう、しかし、お前は赤い珠を持っているな」

「さあ、何のことだか」

「大和田に渡したものだ。あいつはどうした。赤い珠はどこにやった!」

「……」

 翔一は周囲に人がいないことを知覚する。

「なぜ、大和田さんにあの珠を渡したのですか」

「自分は答えず、人には問う。卑怯な奴だ」

「まともな人間なら、素直に事実をいいますが、あなたは悪人」

「フフ。まあ、いいだろう。大和田はかなりうまくやっていたがいなくなった。勇者、お前が奴をどこかに消したのだ。あれほど上手に不幸をまき散らした奴は少ないから、惜しい男をなくした。言霊使いは失敗作だ、学校だけにこだわる愚か者だったな。吸血鬼どもも下手ばかり打っている。人狼に至ってはもっと間抜けだ。邪悪な偽ヒーローどもに期待するしかないな」

「どういうことです、あなたは何者なのです」

「世の中を面白くする男だ」

「『賢者の石』を人々に与えて災禍をまき散らしているんですね」

「そうだ、悪用するやつを選んでな。知ったからといってどうしようもないだろうが」

「そうでもありませんよ、今、あなたを止めます!」

「面白い、たまには勝負してやるか」

 男はそういいながらポンチョを跳ね上げ、ホルスターに入れた拳銃を見せる。

 古いリボルバーだ。口径も小さい。

(普通の銃じゃない。たぶん)

 翔一はいきなり跳んだ。

 男は目にもとまらぬ早業で抜くと翔一の眉間を撃ちぬく。

 カンッ!

 しかし、それは突然現れた金属板で弾かれたのだ。

「ち!」

 横なぎに斬る。金属板は視線の上にふわっと浮いて男を見せてくれる。

 走るやいば。 

 避けようとする男。だが、剣の速度から逃れられない。

 首を一閃する。

 ボスッ。

 しかし、手ごたえがおかしい。

 まるで布と棒きれを斬ったような感触だった。

 斬った後、更に跳ねて様子をうかがう。

 男の体はボロ布のように地に倒れ伏し、仮面をつけた首が空中に浮いていた。

 体は塵と化していくが、頭部は健在だった。

「何という剣だ。私を斬るとは。怪物のくせに剣を使い、しかも、それは極上の剣筋。そして、魔術も使い、魔獣の体力もある。お前の敵になった奴は、全員死ぬしかないな」

「……」

(倒したのに、倒せていない? 剣の呪詛が効いていないのだろうか)

「御剣山翔一、私はお前に強い興味を持った。私は加藤。暫く、その赤い珠は預けておこう」

 そういうと、仮面の生首はふっと消えたのだった。

 ボロ布の体も消えて、遺留品は残らなかった。

 翔一もすぐに去ろうと考えたが、道の端に落ちる、黒い小さな物体に気が付く。

(これは、弾いた銃弾……)

 見た感じ、翔一が庭で拾った黒い珠に似ている。

 はるかに小さいが、金属に半分練り込まれている。

 銃弾の威力自体は普通だったのだろう。防弾板に傷一つついてはいない。しかし、これが当たれば、ただでは済まない。そんな呪詛が満ちていた。

(とりあえず、拾っておこう。放置して誰かが被害に遭う可能性がある)

 翔一は、精霊ポケットに放り込むと、急いで、その場を後にした。




二宮の名前を変更しました。

2021/6/16 微修正

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