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61 過去の因縁、異世界から来るもの その2

「あ、誰か来ているぞ。客か」

 ダーク翔一と大絹姫が入ってくる。その後ろには風月斎もいた。

「こちらはケルブレルさんと、娘さんのダナちゃんクマです」

 慌てて、仲間たちに紹介する翔一。

わらわ大絹姫おおぎぬひめじゃ」

 ふわふわと浮く、可愛らしい人形。

「フム。人形……」

 怪訝な顔のケルブレル。

「あ、ダナじゃないか。俺はダーク翔一。宿精だ」

(そういえばダーク君とダナちゃんって会話したこともないクマだね)

 翔一から見て、いつも一緒にいた存在だけに、不思議な気持ちがわいた。

 縫いぐるみと可愛いお人形さんに挨拶されて目を丸くするダナ。

 しかし、好奇心満々でもあった。

「きゃー、何なのこの子たち。後ろの剣士さんは?」

 ダナはすぐに小さく可愛い彼らを気に入ったようだ。 

 ニコニコと笑顔。

「拙者は球磨川風月斎くまがわ ふうげつさいと申す」

 尋常ならざる気配と眼光。

 ケルブレルは緩んだ顔が、一瞬で戦士のそれになる。

 彼も尋常ではない男だった。

「あーすっきりした。やっぱり、某パナ社の洗濯機は最高だな。……お、お客人ではないか」

 タオルを肩にかけて、土器の面をかぶりながら縫いぐるみの子熊がやってくる。

「こちらは土壁源庵つちかべ げんあん先生です。大昔の祖霊さんですクマ」

「ほう、祖霊とな。じゃあ、人形やら縫いぐるみに宿っているのは」

 顎に手を当てるケルブレル。

「そうです、祖霊の皆さんですクマ」

「ここまで祖霊たちの支持を集めている精霊術師は初めて見たぞ。我が妻でも主に助けてくれる祖霊は一人だけだ」

「へー、他の人のことはあまり知らないクマなんです、オークのお婆さん……」

 オークの大祈祷師に言及しかけて口ごもる。

(オークのお婆さんはケルブレルさんには何百年も未来の人の話だからいうべきではないクマだよね。時制がややこしいクマ)

「……さすが勇者殿だ。桁が違う」

 感心しきりのケルブレルだった。

 

 やがて、夕陽も沈みつつある。

 大勢で何となく楽しく過ごしていたが、

「そろそろ、日も暮れるか。ダナ。もう帰る時間だよ」

 ケルブレルが立つ。

「父様はどうするの」

「俺はしばらくこの世界に居る」

「ヘルメール女王様が心配しないクマ?」

「妻とは十年ぐらい会わないこともある。お互い、運命の要求がある時だけ巡り合う感じだ」

「そんなんで大丈夫なんだな。浮気とか心配ないのか」

 ダーク翔一の指摘。

「お、そ、それは心配するな。俺は一切やってない」

 何故か冷や汗を流すケルブレル。

「父様。次、浮気したら里を追い出される。私、もう擁護してあげないから」

 ダナの無慈悲な言葉。

「心配するな。俺の意思は鋼より硬い。『鋼の心』ケルブレルとは俺のことだ」

 その時、一人の人物が自転車を押してやってくる。

「翔ちゃん、晩御飯どうするの」

 姉のそのだった。

 学校の帰りだろうか、ミニスカートの制服を着ていた。

 大勢が集まっているのを見てぎょっとする。

「お姉ちゃん。僕はおうちで食べるクマ」

「な、なんという」

 すっと、ケルブレルが園に接近する。

「私はケルブレル。放浪の旅人。お嬢さん、お名前は?」

「え、あ、あの、私……園です」

 いきなり背の高いかっこいい男に接近されて、ドギマギする園。

「父様!」

 ダナが赤い顔をして怒る。

「こいつはかなりダメな奴だ、多分……」 

 ダーク翔一の声。

「父様。帰るわよ」

 ダナがケルブレルの服を引っ張る。

「ま、待て。まだ俺はこの世界が……」

「どういう人なの、彼は。それにこのかわいい女の子は?」

 園が混乱している。

「ヒーロー関連の知り合いクマだよ」

「そ、そうなの、機密に関わるのよね。私、すぐに帰るわ」

「美しいお嬢さん。またお会いしましょう」

 かなりの美男子に微笑まれて、真っ赤になりながら園は自転車に乗って行ってしまう。

 笑顔のケルブレルの後ろには冷たい目のダナがいた。


 父と娘は夕陽の中に出る。

 翔一と仲間たちも見送ろうと中庭に出た。

「どうしたの」

 ダナが不思議な顔。

 ぴたっと、全員が動きを止めたのだ。

「し、誰か来たクマ」

「ああ、嫌な雰囲気だ」

 ケルブレルはいつの間にか弓を手にしていた。

「ダナちゃんはどこかに隠れるクマ」

 ダナは驚きもせずうなずく。

 小声で隠密系の魔術を唱えると、少し離れた草陰に隠れる。

 小さなダナは年齢に似合わず場数を踏んでいるのだ。ケルブレルは落ち着き払った自分の娘の態度に少しびっくりしたようだった。

 翔一の仲間たちも目配せするとさっと散り、隠れる。


 男たちの声が近づいてくる。

 荒っぽくて、同時に幼稚な声だった。何か下卑た冗談をいって笑い合う。

 やがて、森の中から姿を現す。

「おい、本当に金目のものがあるんだろうな」

「勘弁してくださいよ、ばれたら俺、バイト首ですよ」

 声に聞き覚えがあった。

 昼間に来た宅配の男の声。

 彼の後ろには何人もの男たちがいる。

 宅配の男も含めると合計十人ほどだ。

 だぶだぶのジャージを着こみ、鎖のアクセサリー、手には拳銃やナイフ、バット。

「こんだけ武器があれば大丈夫だ、何かあってもな。ここにはたんまり金目のものがあるんだろ? そして、人もほとんどいない」

「いつも、貧弱そうなガキが一人いるだけですよ。……先輩がそういってました」

 ジャージの一人に聞かれて宅配の男が答える。

「ここで儲かったら、てめーの借金チャラにしてやる。しかし、なんだ、ここは? 保管所って何を保管している」

「わからないといったでしょう」

 どうやら、宅配の男は彼らに脅迫されている。

 彼らは、一見、誰もいない館の前に立った。

「とりあえず、人気はねーな」

「ちゃっちゃと、調べようぜ」

 散らばろうとする男たち。

 しかし、テラスのガラス戸が開いて、翔一が人間形態で出てきた。

「あのー、ここは政府管轄の土地で、許可のない人は入ってはいけないんですよ」

「……ち」

 男たちは目配せする。

「顔を見られた、仕方がないぜ」

 拳銃を持った男が構える。

 翔一は手を上げた。

「うわ。と、とにかく、帰って下さい。ここは何もいい物なんてありません」

「それは俺たちが決める。てめーはおとなしくしてろ」

 翔一は怯えた顔。

「こいつやっちまうか」

「まだだ、金庫があったら開けさせた方が早い。そのあとは森の中に捨てて……」

 リーダー格の男たちが小声で話し合う。

「見たかよ、今のこのガキの顔」

 大笑いする男が数名。

 脅えた翔一の物まねをする奴もいる。


 一人の男がナイフをかざして翔一を抑え、他の奴らは館に入ろうとした。

 宅配の男は翔一の横に立って、何もしないらしい。

「ごめんな。こいつら怖い奴らなんだ」

 金髪ピアスの宅配男は翔一に謝っているが、そもそも、こんな奴らを連れてきたのは彼だった。

 翔一は冷たい目で見返す。

「あれ? 開かないぞ。今、ガキがここから出てきたよな」

 一人の男がガラス戸を開けようとしたが、びくともしない。

「割っちまえ」

 バットの男がそういいながら、ガラス窓を叩くが、不気味な弾力と硬度があり全く割れる気配がない。

 ガラス越しに、梱包された荷物が見える。

「おかしいぜ。このガラス」

 手がしびれたのか、バットの男は手を揉む。

「特殊素材か何かか。他の入り口探せよ」

 拳銃の男が怖い顔で指示をする。

「ここが開くぜ!」

 誰かが、玄関が開くのを確認したようだ。

 玄関はテラスから見て、右側にある。

 男たちはぞろぞろと向かう

「ここは一体、何の施設なんだ」

「政府の保管庫らしいっすよ」

 男たちがつぶやく。

「運び込まれる荷物は政府の機密保持がかかって、中身のレントゲンチェックがされない。だから、金目のものだろうって。そうだよな、山口」

 一人の男が建物を調べながら宅配の男に声をかける。彼は山口というらしい。

 しかし、返事がなかった。

「おい。返事ぐらいしろよ」

 イライラして振り返る男。

 しかし、ガラス戸の前には誰もいない。

「へ? あ、兄貴! あいつらが……」

 突然消えた三人。

 当惑して、キョロキョロする闖入者たち。


「おい、ガキと山口がいないぞ!」

「田沢もだ」

 田沢は翔一を抑えたナイフの男のようだ。

「お前ら三人で探せ。逃げられたら厄介だ。武器を使っても構わん」

 拳銃の男がリーダー格であり、命令する

 彼らの内、三人がうなずいて中庭に出た。

 中庭は灌木や草が生え、隠れるところは多い。

 そして、中庭の横にある階段を降りたらそのまま旧集落に繋がっている。探索範囲は広い。

 それを見届け、残りの男たちは玄関から入った。


 全員が入ると、玄関がバタンと閉まる。

「え、おい、なんだ自動ドアじゃねーわな」

「開かないぞ、どうなってる」

 すぐに異変に気が付いた男が、玄関を開けようとするがびくともしない。

 バットやナイフで叩いても、傷一つつかなかった。

「お前ら二人で扉を開けろ、俺たち三人で中を調べる。他の扉も当たれ」

 うなずく二人。

 リーダー格は拳銃を構え、残り二人を従えて、屋敷の中に足を踏み入れた。

大城おおぎさん、ここやべーんじゃないですか」

 拳銃のリーダー格は大城おおぎというらしい。警棒を持った男がびくびくしながらついていく。

「こっちはもう一丁拳銃があるんだ。心配するなよ」

 三人目の男が拳銃を抜く。リーダーの大城は四十五口径、この男は古びたリボルバー拳銃だった。

 強盗たちは武器を握りしめ、新しくも不気味なこの館の床を踏みしめる。

 男たちの額には焦りの脂汗が垂れていた。

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