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59 激闘、吸血鬼軍団対正義連合軍! その4

 銃を構え駐車場に進入する。

 暗いが、赤い非常灯が点灯しているので状況は見えていた。

 天井も高く、かなり大きな駐車場だったが、雑然と廃棄する家具や放置された車などが置かれている。

 充満する血の匂い。

 そこにはおぞましい者共が集結していた。

 滝田はハンドサインで指示を出す。

 壊れた車やごみ箱などの物陰にさっと散る突入部隊。

 駐車場には天井から幾つもの死体袋がぶら下がり、たらたらと血液が流れている。

 そして、それを舐める浅ましい怪物集団。口を血まみれにした老若男女。一様に目が赤い。

 傲然と、真っ白な顔をした男がそれを見ていた。

 翔一の耳に犠牲者たちのうめきが聞こえる。生かさず殺さずで生き血を絞っているのだ。

「ち、数が多いな」

 天城が舌打ち。

 吸血鬼が二十人はいる。

「お待ちしてましたよ、皆さん。人間ごときがどうあがこうとも我らにかなうことがないということをお教えしたかったんです」

 真っ白な顔の男は三十代位の怜悧な顔の白人。

 流ちょうな日本語を話す。

 このような状況でなければ、出張に来たビジネスマンのようだが、恐ろしい目がそうではないと物語っている。白いコートを纏い、スーツの胸を張る。

 ふっと宙に浮いた。

 そして、血に群がっていた者たちは、無言で立ち上がった。

 外で見た三体より強力な存在ばかりだった。

 武器を持っている者、赤く目を光らせる者。腕が多い者……。

「貴様たちの目的はなんだ」

 少佐が問う。

「この地に独立国を建てます。吸血王国とでも致しましょうか。私はアルフォンス。三十年前に日本に流れてきました。こっそりと仲間を増やし続け、日本全国に私の部下はいます。この一帯、山間部と、ふもとの街、三崎山でしたか、そこを私のものとします。政府に連絡してください」

「認められるわけがないだろう」

「そうですかね。私と戦わず、私に一定の血液の供給をしてくれたらいいのです。街の人間も定期的に多少減るだけですよ。大昔の人身御供と同じ関係です。税金で外国人の奴隷を買ってもいい。そういうビジネスは昔からある」

 嗤う男。

「戯言を」

「素直にした方がいい。私の方が有利だ。私の部下をどうやって十人以上も倒したのか。それは不明ですが。死んだのは最近部下にした雑魚ばかりということでしょうか。今ここにいるのは手練ればかりですよ」

 にんまり笑うアルフォンス。

 おぞましい牙が覗く。

「確かに、これは形勢不利か……」

 少佐がつぶやく。

 撤退のハンドサインを出した。

「おや、もうお帰りかな。血の袋の中には生きている人間もいますが。しかし、このまま返すのも面白くない。帰れるのは一人だけとしましょう。メッセンジャーは一個の口があれば十分ですからね」

「引くぞ、これは命令だ」

 天城は躊躇していたが、少佐の声に反応する。

 さっと扉に入ると、堕天使が守るように追随した。

 風月斎と翔一は一瞬目を合わせてうなずく。

「ち、扉が閉じませんね」

 アルフォンスが目を光らせていた。人が一人出た時点で部屋を封印しようとしたのだろう。しかし、翔一は扉に対消滅精霊を張りつかせて撤退の邪魔をさせない。

 少佐も扉に入り、振り向くと風月斎と治癒クマーを促す。

 二匹の子熊は少佐を見るが動かない。

「何をしている! 撤退だ」

 扉を抑えて声を上げる少佐。

 突如、少佐は見えない何らかの力で駐車場から押し出される。

「うわ!」

 とっさに体を躱すが、扉は誰かが力いっぱい閉めたようにバタンと閉じる。


「何があったんだ。二人は取り残されたぞ」

 扉が開かない。

「んーんー……」

 堕天使が謎の歌を歌いながら剣を抜く。

 少佐と天城の脱出路を塞ぐように三体の吸血鬼が待っていたのだ。

 吸血三人は、一見、見た目に異常はない。ぶかぶかのジャージを着たチンピラのような奴だった。

 しかし、一度吸血鬼を認識した本能が知らせるのか、少佐と天城は彼らを吸血鬼だと認識した。

 二人はいきなり銃撃を放つ。

 同時に四十五口径の大型拳銃を抜いていた。 

 見事、腹を打ちぬく。

 だが、吸血鬼どもは薄ら笑いを浮かべるだけだった。

 普通の人間なら即死のダメージだが、効いていない。

 男が二名、女が一名。三人とも少し前の不良のような奴らだ。人種は外国人であるようにも感じる。

「外国人が多いな」

「日本人は身元がはっきりしてますから、やりにくいんですよたぶん」

 さらに銃を乱射するが、微動だにしない。

 にやにや笑い、完全に舐め切っている顔だった。

「人間なんざ俺たちの食糧でしかないぜ。おとなしくしやがれ」

 口を開いた男はポケットに手を突っ込んでずいずい迫ってくる。ジャージは血で汚れているが、すぐに傷は塞がったのだろう、血が落ちてこない。

 銃を捨てる二人。

 少佐は迫ってくる奴らに、とっさに体当たり、天城は剣の柄でぶん殴る。

 少しひるんで、空間が開いたので二人は反対側に転がる。

「ぬん!」

 ボト、

 一人の男の腕が転がる。

 瞬息の居合抜きで、少佐が男の腕を斬りおとしたのだ。

 見事な剣術だった。

 腕を落とされた男は、苦痛と電撃のショックでうずくまる。恐ろしい程血液が流れる。

 どうやら、聖性精霊のために治らないのだ。

 天城が黄金の剣を抜く。

 黄金の気配が廊下に満ちる。

「なんだ、その武器は。でも、この狭い廊下では不利だな」

 先ほど、口を開いた男。

 さすがにポケットからは手を出したようだ。

 黄金の剣『草薙剣』は、確かにこの場では狭いので取り回しが悪い。

(突きを多用するしかないな)

 天城は切っ先を敵に向ける。

 敵はわき腹からにゅっと引っ張り出して何かを取り出す。どうやら武器を体内に隠していたようだった。

 男は板前が使うような包丁二本。女は金槌。

 吸血鬼の腕力と速度で二人はビュンビュン振り回す。

 背後では腕の取れた男に堕天使が掴みかかっていた。

 聖なる力で焼かれ、悲鳴を上げる男。

 その男も小さなナイフを体から出して、堕天使に突き立てる。

 少佐と天城は凶暴な日常道具を武器の間合いを使って牽制する。

 天城はぎこちないが、少佐は堂に入った刀の扱いだった。

「少佐、なかなかの腕前ですね!」

 大剣の扱いに困りながら、天城が声を出す。

「昔、やってたんだ。古武道を」

 連続で突きを出して、女の片腕を裂いた。走る電撃で動きが落ちる。

 しかし、怒り狂ってどんどん迫ってくる。

「このままでは不利ですよ!」

 狭い廊下で短い武器を振り回す吸血鬼に追い込まれる。彼らはなかなかの手練れだった。天城は必死に繰り出す剣を器用にいなされてしまう。

 堕天使も吸血鬼に噛まれて身動きが取れない。吸血鬼は体を焼かれ続けて煙を上げている。

「キューキュー! クマクマ」

 天井付近に小さな茶色の影。

 ポム、ポムっと、白い光の弾が発射されると、堕天使を噛んでいた吸血鬼を貫いた。

「ガハ!」

 のけぞる吸血鬼。

 隙を見せた瞬間、堕天使の逆刃刀が吸血鬼の首を落とす。 

 床に転がる首。

 そして、次の瞬間には堕天使は異常な速度で飛ぶと、二人の吸血鬼に襲い掛かっていた。

 背後から男の胸を剣で貫き、女の首に鋭い爪を刺す。

 動きが止まったところを、刀と黄金の剣が首を落とした。

 吸血鬼はそろって塵になる。


「ハァハァ。けがはないか、天城曹長」

 少佐は手を揉む。

 何度も怪力の攻撃をいなして、手が痺れていたのだ。

「大丈夫です。……扉を開けないと、治癒クマー君と球磨川くまがわさんが」

「待て、通信する。治癒クマー、応答しろ!」

 少佐が無線に話しかけても、返事はなかった。

「ち、通信が効かない。小野少尉状況を教えてくれ」

「少佐が突入してから、各所から吸血鬼の手下と思しき奴らが建物内に出現しています。何度か狙撃はしましたが、外には積極的に出てこないようです」

「わかった、可能な限り援護してくれ。敵の首魁は駐車場にいる。しかし、一部隊員が取り残された。俺は彼らの救出を試みる。ミサイルは駐車場を狙え、状況が分かり次第連絡する」

「了解」

「少佐、駐車場の入り口はもう一つありますが、状況は同じようです」

 堕天使を残して、天城が見てきたのだろう、数十メートル先に似たような扉があったが、そこも開かない。

「フム、排気ダクトなどで入るしかないか。仲間を見捨てるわけにいかない」

「ここから行けるかもしれません」

 すぐに目ざとく天井付近に四角いダクトを発見する天城。

「では、天城君ついて来てくれ。堕天使は入り口を守ってくれ」

「少佐は指揮官。私が先に行きます」

 天城がそういうと、渋々うなずく少佐。

 堕天使はうなずいて入り口を守る体制を取る。

 天城と少佐はダクトに入って行った。


「逃げ遅れたのかな。人間ではないようだが。自衛隊は動物も使うようになったのか?」

 自信満々の美青年に見える怪物アルフォンスが薄笑いを浮かべながら声を出す。

 子熊二人は微動だにせず、立っていた。

「拙者たちは逃げ遅れたのではない。この先、国を背負って立つ人に何かあっては困る。退避してもらったまで」

「お前のような奴に、誰も支配する権利はない!」

 風月斎と翔一は敢然といい放つ。

「なんだ、熊が喋るのか。フフフ。ひ弱な人間は我らが支配した方がいい。お前たちも人間ではないのだろう」

「極悪は倒すクマ」

「倒せるのか、そんなチビ助のくせに。しかも、たった二匹で」

 アルフォンスは笑う。

 他の部下たちも笑った。

「ご覚悟召され」

 風月斎は『ソルヴァル』を抜く。

 あたりに満ちる。白き光。

 笑顔が消え、無言になる吸血達。

 吸血鬼たちは武器を構える。ナイフ、斧、チェーンソー、拳銃……。腕が多い者はよく見ると誰かの腕を体に縫い付けている。

 翔一は多少大型化すると、練習用の木刀を抜いた。

 今の手持ちで強力な武器は『水竜剣』しかないが、扱うにはどうも狭いようだ。放置された物が多すぎる。

「フフフ。その、光る剣はわかるが、お前のは木刀ではないか、どこに持っていた?」

 それでもアルフォンスは余裕の笑い。

「俺も同じ意見だぜ。これ使えよ」

 ダーク翔一が精霊界からモフ腕を出して剣を差し出す。

 翔一はため息をついて、木刀を捨て、その剣を受け取った。

「これは……」

 大振りの長剣。中国の剣に近い。

「あの榊原が使ってた剣だ、名前は『魔送喪魂剣まそうそうこんけん』だったか」

「あれ拾ってたの?!」

「誰も触らなかったから貰っておこうかなと。警察も困るだろ、あんなの」

 持つだけで、恐ろしい呪詛が伝わってくる。

 確かに、常人には使えない。危険な混沌呪力の塊。

「翔一殿、油断召されるな!」

 風月斎の怒声に慌てて身構える。考えている暇はない。

 敵が一斉に襲い掛かってきたのだ。

 翔一は突進する敵に、逆に突進した。 

 風月斎も同じ動き。子弟で逆突撃する。

 吸血鬼たちは段違いの動きのよさだったが、子弟は歴戦の勇者だった。

 吸血鬼はまさか自分達より動きの速い敵がいるとは考えなかったのだ。

「白虎三段、雲燿剣!」

「白虎一段!」

 風月斎は光を走らせて敵を一刀のもとに斬り伏せる、しかも、三体同時だった。

 翔一も負けてはいなかったが、出遅れたので、一体を斬るのがやっとである。

 飛び散る手足、散乱する敵の武器。

 床一面に吸血鬼の異常な量の血液がまき散らされる

 風月斎の『ソルヴァル』に斬られた敵は聖なる力を体内に受けて、耐えきれず塵と化す。

 翔一の剣『魔送喪魂剣』は敵を呪詛でがんじがらめにして、存在そのもの破壊していく。この剣に斬られたものは呪詛の力で絶対死ぬのだ。「斬られたら死ぬ」という因果に存在を嵌め込んでしまう力だった。

 やはり、この剣で斬られた吸血鬼も塵に還る。

「その剣は榊原の剣ではないか。奴を倒した者がいるとは聞いたが……まさかな」

 アルフォンスは驚愕している。

「俺も、やるぜ、チビクマ結界!」

 ダーク翔一が精霊界で叫ぶ。

 十匹ぐらいのチビクマが一斉に現実界に飛び出してきた。

「クマクマ」「クマクマ」「クマクマ」

 チビクマたちは三匹が風月斎に張り付いて結界をつくる。残りは翔一を守る。

 そして、ポムポムと光の弾を発射し始めた。

「げえ!」「ぐわ!」

 弾が当たれば、その部位は浄化されて消滅する。

 しかも、聖なる力なのか治らない。

 拳銃を撃つ者もいたが、一発ぐらいなら『禍』に変換して飲み込んでしまうチビクマたち。

 そして、翔一と風月斎の猛然とした斬りこみ。

 吸血鬼たちにパニックが起きる。

 今まで、一度もここまでの強敵と戦ったことがないのだ。

 しかも、敵は二人なのに、近寄れば最後である。取り囲もうとしても、背後に回れば光の弾を浴びた。

「ご主人様! こいつら強すぎます!」

 部下の一人が泣き声でアルフォンスに縋る。

 そうしている間にも、一人の吸血鬼がチェーンソーごと真っ二つにされた。『ソルヴァル』には傷一つ付かない。

 アルフォンスは部下を殴り飛ばすと、

「銃だ、銃を撃て」

 数人の部下が、マシンピストルを構える。

 そして、守りを固めた部下ごと本当に雨のように、弾丸を乱射した。

 爆音と煙。

 金属を叩く音。

 翔一と風月斎は弾丸を浴びすぎてふらふらの吸血鬼の影で見えない。

 光が一閃する。

 ボロボロで穴だらけの吸血鬼が崩れる。

 翔一と風月斎の前には迷彩柄の大きな金属板があった。

 銃弾は全てそれにはじき返されたのだ。

 板には傷一つついていない。

 マシンピストルは連射が凄まじいが一発ごとの威力は低かった。

「なん、だと」

 誰かがつぶやく。

 慌てて、マガジンを取り換えようとする吸血鬼たち。

「フライングシールド!」

 巨大な鉄板が、吸血鬼たちにぶつけられる。

 二体がもろに喰らって動けなくなったところを、翔一の瘴気の剣が首を刎ねてしまった。

 もう一人も風月斎が稲妻のように仕留める。

「何とも、機械カラクリの鉄砲でござるか。仲間ごと撃つとは卑怯の極み」

 そういいながら、風月斎はバスバス斬り倒していく。 

 翔一も手加減なく倒し続けた。

「バカな、私の部下がこんな簡単に……」

 アルフォンスはじりじりと後退する。


「もう、お手前一人でござる。見苦しく斬られるより腹を召されてはいかがかな」

 風月斎は油断なく身構えながらそう告げる。

「諦めるクマ」

「くそ!」

 赤い邪眼が光る。

 翔一と目が合うが、熊の目は白く光って邪眼を通さない。

(勝てない! この俺が!)

 アルフォンスは長いナイフを持っていたが、通用しないと感じたのだろう、死体袋に入っている犠牲者に突き付ける。

「さがれ! こいつはまだ生きている。如何にお前たちが早くとも、こいつを刺す方が早いぞ」

 ナイフをかざしながら、中の犠牲者を引きずり出す。

 全裸の男だった。

 肌の色から彼も外国人だろう。

 スイッチが押され、駐車場のシャッターが重い音を立てて開く。

 曇り空の薄い光が差し込むが、アルフォンスには効かないようだ。

 犠牲者を抱きながら、ゆっくり後退する。

 駐車場を完全に出た時、

「小野少尉」

 通信機から声が聞こえる。

 ドン!

 アルフォンスの長ナイフが腕ごと落ちる。

 対物ライフルの狙撃だった。

「ち!」

 人質を諦めて、森に向かって走るアルフォンス。

 しかし、それが命取りだったのだ。

 ミサイルが発射された。

 ドオオオオェン

 と爆発が起きる。

 駐車場で見ていた二人は、坂を転がって来るアルフォンスの頭を見た。

 まだ、死んだと気が付いていないので霧になっていない。

 瞬きをする生首。

「お命頂戴、つかまつる」

 そういいながら、風月斎が頭を真っ二つにした。

「ギャアアアアアアアアアアア!」

 黒いオーラが爆発的に散る。

 そして、頭部がゆっくり塵に還っていった。

「勝ったクマ」

「油断召さるな」

「勝って兜の緒を締め直すクマだよ」

「さすが翔一殿」


 通風孔に潜り込んだ二人は、結局、何もできなかったのだ。

 最初に入った天城は柵をこじ開けようとしたが、異常に頑丈な作りでびくともしない。

 少佐はすぐに突破できないことを知ると、いったんダクトから抜け出る。

「どうなっているんだ。ねじも硬すぎる」

 実際は、魔力の結界で空間が封じられたので、壊せないだけだったのだが。

 そして、天城は戦いの状況を一人目撃してしまっていた。

(球磨川風月斎と、あれは大クマーか? 噂よりは小さいようだが。しかし、あの二人の強さは異常なほどだ。あれほど手強かった吸血鬼たちが、なすすべもなく倒されている)

「球磨川さんと大クマーが吸血鬼たちを駆逐しています」

「そうか、来てくれたのだな。最初の遭遇もそうかもしれない。ところで、治癒クマーは大丈夫なのか」

「姿が見えません。死角が多いので隠れているのでしょう」

(大クマーは治癒クマーの兜を被っている?)

「ふむ」

「球磨川さんはあの光る剣、大クマーは不気味な剣で戦っています。あ、敵がマシンピストルを」

 バババ! という轟音が響く。

「どうなった!」

 少佐の声が緊張する。

「彼らはどこかから装甲版を出して、困難をしのぎました。すごい。吸血鬼どもはもう終わりです」

 吸血鬼の脆さは想像を超えていた。

 天城が何かをしようと焦っている間に戦いは終わった。

「乱戦は終わったのだな。結果はどうなった」

「球磨川先生と大クマーは健在です。そして、吸血鬼は一人になっています」

「あの数を二人で倒してしまうとは……」

 少佐は唖然としたが、現実に対処する義務がある。

「最後の一人の動きを教えてくれ」」

「敵の首魁と思しき人物です。彼は人質を取ってシャッターを開けています。ナイフで人質を刺すと脅しているのでしょう。二人は動けないようです」

「それはまずいな、小野少尉、シャッターから吸血鬼が出てくる。人質を抱えているそうだ」

「はい、確認しました」

「武器だけ撃てるか」

「はい」

 少し間をおいて銃撃音。

「テロリストは諦めて一人で逃げます」

「ミサイルで止めを」

「はい、大山軍曹!」

 そして、爆音。

 天城は通風孔から出た。

 駐車場の扉に戻ると、普通に開くようだった。

 小さな治癒クマーと球磨川風月斎が振り返る。

「治癒クマー君。大クマー氏は?」

「ええっと、恥ずかしがり屋なので精霊界に帰りましたクマです」

 慌てて答える翔一。

「お二方もご無事で何より」

 風月斎はボロボロになっていて、体のあちこちから綿がはみ出ていた。




 上昇する輸送ヘリ。

 森の中の廃病院が、足下で小さくなっていく。

「体に補修が必要でござるな」

「もっとカッコいい体にしてはどうですクマ?」

 風月斎はヘリに乗りたかったらしく、興味津々でヘリと地上を交互に見ている。

「確かに乱闘時に於いてこの体がもつかどうか心配でござった。気持ちだけではどうしようもない時もある。しかし、この体になれているのも事実。鎧をお願いしたいが」

「わかりました、申請してみますクマ」

 防具研究部に掛け合えば作ってくれるだろう。

 そう思って、その話をしようかと少佐を見たが、疲れ切った顔をしていた。

 兵士たちも無言。

「クマちゃん先生と大クマーさん二人で吸血鬼をほとんどやっつけたって本当なの」

 緋月が興味津々という顔をで聞いて来る。

 尚、駐車場の外、建物内にいた吸血鬼たちは首魁の死を知って、暗い森に消えたという。

「そうですクマ。でも、緋月さんの堕天使さんも凄く強かったクマ」

「まあ、あれに勝てるのは少ないから」

 褒められて、やや自慢げな緋月。

「聖さんの魔術もなかったら、皆さんに犠牲が出ていたクマだと思います」

「ありがとう、褒めてくれて」

 聖美沙は何か思うことでもあるのか、言葉少なかった。

「吸血鬼対策を早急に考えないとダメだ。特殊能力を持ったヒーロー頼みでは数に対抗できない。今回は助かったが、敵の話では日本全国にいるという」

 少佐のつぶやき。

「ええ、そのためにも白魔術師協会と連携を密にした方がいいと思います」

 聖美沙が少佐を見る。

「御父上に話してもらえませんか。聖さん」

「はい。そうします。……協会は少し内向きですから」

 外を見ると、はるか遠くに大量のヘリが集結している。

 重武装の兵士で廃病院の掃討と調査が行われるのだ。

 アルフォンスとその仲間が残したものは押収されて、科学調査に回される。

 これで少しでも、魔物テロに国家が対応できるようになるだろうか。

 翔一は疑問にも感じたが、真面目な兵士たちを見ると、そう暗い未来でもないと思った。




2021/5/17 微修正

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