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56 激闘、吸血鬼軍団対正義連合軍! その1

「今日集まった諸君は日本の危機に対して中核をなす対処部隊である。自衛隊特殊部隊、警察特殊部隊、そして、ヒーロー諸君。まさに、日本国の正義連合といっていいだろう」

 ここはとある自衛隊駐屯地の広場。

 公安の滝田少佐が台の上で訓示している。

 彼の前には、自衛隊の特殊部隊と警察の特殊部隊。そして、雑多なヒーローたちが集められている。

 自衛隊は緑基調の迷彩服。警察は濃いグレーの戦闘服。ヒーローたちは派手な衣装だ。しかし、概ね公認ボディスーツを着用している。

「今日集まったのは、全員でサバイバル訓練を行い、各々のチームワークを強化し、組織を越えた連携を達成する目的がある。では、詳細は小野少尉から」

「では、全体の目的のレクチャーから……」

 小野少尉は精鋭の女兵士である。

 可愛い顔に似合わない鋭い視線が特徴的だ。

「今日は同時多発テロを想定して、各班が得意地点を目指してもらいます。自衛隊は山中の廃墟をテロリストが占拠したと想定し、攻撃制圧」

 大きなパネルが用意されて、地図を指し示す小野。

「警察隊は郊外の廃墟ビルに人質を取ったテロリストがいると想定して攻撃を加えます。ヒーローは各自の利点を考慮して自衛隊警察どちらかの支援をするために同行してください。今回の作戦の難点は、自衛隊は攻撃時間までに山中を走破。警察は敵に見つからずに情報収集、市民避難等です。警察は大目的の施設襲撃までに、小施設を幾つか落とす必要があります。二日後の正午に大目的施設に同時突入という条件を両者クリアしてください。尚、選抜二名づつ、自衛隊員が警察部隊に、警察隊員が自衛小隊に加わり連携訓練とします」

 都市戦の警察部隊は移動がない分、複雑な任務のようだ。

「ヒーロー諸君は補助的な任務になりますが、国民のため尽力お願いしたい」

 少佐がフォローする。

 ヒーロー側が、若干、士気が低い雰囲気なのだ。

「俺は泥臭い山はパス」

 烈銀河れつ ぎんがのたるんだ声。

(またこいつクマ……人材不足じゃなかったら引導渡したいクマ。今度はパンツなしで欄干から吊り下げるとか、そんな感じで)

 治癒クマー翔一はむかむかする。

「フム、俺は都市戦の方が得意だから、今回は警察の手伝いをしよう」

 風間裕次かざま ゆうじがいる。

 彼は変身ヒーロー。今は軍服のような服装だった。

(ぐ、野暮ったい軍服でも風間さんが着こなすとスーツよりかっこいいクマ)

「あの、私、風間さんと一緒に戦いたいわ」

「私も」

 頬を赤らめる、赤嶺明日香あかみね あすかとごついアマゾン玉川。

 他の面々も山を嫌がる。

 ヒーローは都市在住が多いのだ。

「ヒーロー諸君に山岳参加はいないのかね」

 滝田が残念そうな声を出す。

「僕は山岳は大丈夫クマだよ」

 治癒クマー翔一はモフ胸を張る。

「また君か……」

 何となく首を振る滝田。

「あの……私、登山経験ありますから」

「私もあるわ」

 聖美沙ひじり みさ緋月零ひづき れいの二人が申し出る

 二人は登山スタイルで参加していた。

(お二人は私服姿も可愛らしいクマクマ)

 緋月は催眠術者騒ぎの後、何故かヒーロー登録を行ったのだ。

 実績はないが魔力を認められて三級上位である。

 美少女二人が参加すると聞いて、気のせいか自衛隊員たちがうなずいている。

「生きててよかった」「本物のJKだぜ」「サイン貰ってもいいよね」「アマゾンさんが向こうに行ってくれてほっとしたぜ」

 つぶやきが聞こえる翔一。

「山岳組も都市組も妨害工作を行ってくる仮敵がいるから油断しないように」

 滝田が警告する。


 都市組が車両に乗って駐屯地を出ると、山岳組は装備の確認になる。

「各自荷物はしっかり点検すること。武器の確認は上官も行って二重チェック実施」

「了解」

 隊員たちは、黙々と入念に装備する。

 警察から来た隊員も基本は軍事組織なので、指示にスムーズに従っている。

「私たちの装備はこれでいいのでしょうか」

 少女二人もサバイバル装備を渡されている。

 どうやら、私服では目立つので迷彩ジャケットを着るように指示されたようだ。

「聖さんの装備は私が確認しますわ。一緒に練習しましょう」

 笑顔の男子隊員が口を開く前に、小野少尉が割り込んで制してしまう。

「小野少尉……」

「あなたたちは自分の仕事しなさい」

 小野は男子隊員に冷たいようだ。

「少佐。僕の銃は無いクマですか? M60とか乱射したいクマ」

 翔一はかっこいい銃が使いたい。

「君は衛生兵扱いだから、スタン銃とナイフだけ」

「何か弱っちいクマ」

「ダメなものはダメ!」

「四級は文句いわないのよ」

 緋月が微笑む。

「私たちは武器は無いのかしら。私たち四級じゃないわ」

 聖が問う。

「うーん、君たちは未成年……ヒーローだから微妙ではあるが……今回は索敵や補助的な任務をやってくれたまえ。成人してから銃器の訓練は行おう。その時は私がレクチャーするよ」

 これに関しては少佐も歯切れが悪い。


 結局、翔一は子供用のナップザックを渡されて、食料と水、その他サバイバル装備を背負う。

「この茶色の毛皮なら目立たないから、迷彩服はいらないわよね」

 小野が翔一の毛皮を撫でる。

 尚、聖と緋月の装備も似たようなものだった。

 少佐と隊員、三人の可愛いヒーローたちは駐屯地から山岳を目指す。

 山までは、車両で向かう。


 山に入ると一行は重装備を背負い、徒歩で進む。

 意外と少女二人は頑健で、山中になっても脱落する様子はない。

「私、毎日ランニングしてるから」

「私も」

 聖と緋月は黒髪の美少女魔法使いで、よく見ると似た雰囲気である。姉妹といっても通用するだろう。

 二人はライバル的な意識があるのか、あまり協力し合うこともないが、競っている気配がある。

 特殊部隊の素早い登攀に彼女たちは遅れずついていく。

 しかし、やはり、まだ少女なので昼前にはかなり息が上がっているようだった。

「クマクマ、ちょっと疲れたクマだよ」

 少女二人の甘い香りに汗の匂いが混じっている。

 翔一はほぼ疲労はなかったが、少女たちを休ませたいと思って疲れたということにしたのだ。

「ふむ、未成年にこれ以上の強行軍はさせるべきではないか。十分休憩、この先に小さな池がある。そこで昼食を取る。しかし、そこは敵が待ち構えている可能性が高い。各自警戒を怠るな」

 滝田少佐は午前のきつい行軍で一切変化がない。

 恐ろしいほどの頑健さだった。

「クマクマ」

「ふむ。君は……」

「せっかくだから、皆さんに術をかけますわ。疲労回復します」

 そういうと聖美沙は小さなワンドを出して、魔術を行う。

 隊員たちは戸惑っているようだったが、彼女の光が彼らに触れると、すっと体の痛みや疲労物質が減少した。

「おお、凄い、魔術って実際に効果あるんだ」「ああ、噂では聞いていたがな」

 隊員たちはおおむね好評だった。

 しかし、やはり、昔の常識にとらわれているものもいるのか、我関せずという態度のものもいた。

「じゃあ、僕もかけるクマ。そうだ、この豊穣の精霊を大山軍曹の後頭部に……」

「え、もしかして毛が生えるの?」

 部隊には、以前一緒に戦った大山軍曹もいた。

 ヘルメットを脱いだ彼の後頭部は毛根が残念な感じになっている。

 ペタッとハゲ部分に精霊を纏わせた。

 しかし、精霊はすぐに生命力が消失する。

「あ?」

「どう、クマ君、僕の髪の毛生えた?」

「これは……精霊がすぐに枯渇するクマ。多分無理。ハゲはとても根深いクマ」

「……期待だけさせといて、酷くない?」

「もう、それは宿命クマだよ。ハゲでも前向きに生きるしかないクマ」

「そ、そんな……」

 がっくり膝をつく大山。

「よし、休憩はこれでいいだろう」

 荷物を背負い、行軍が再開される。


 森の中を進む。

 思ったよりは鬱蒼とはしていない。視界はかなり広い方だ。

 そこかしこに鹿の痕跡があった。

「地球温暖化の影響で鹿が冬に死なず、越冬しすぎるのだ。だから頭より低い位置の草木は食い荒らされている。身を隠す場所が多いと思わない方がいい」

 滝田の解説。

 部隊は広がって、ゆっくり進む。

 一度の射撃で全滅するようなことがないように散開する。

「もうじき池だ」

「人間の匂いがするクマだよ」

「ほう、どちらの方角だ」

「向かっている方向やや左よりクマ」

 滝田は全員にハンドサインを送ると、警戒態勢に入る。

 小隊は全員で六人。それに加えて三人のヒーローである。

 滝田と小野が正面から、二人づつ二組が両サイドから敵が潜む場所を側面から補足する。ヒーローは待機。

「確かに、黒覆面の奴らがいるわ」

 緋月が小さな水晶を取り出して何かを見ている。

「それは、妨害任務部隊だ。彼らとはゴム弾で撃ち合う。撃たれたら自己申告で三十分待機だ。衛生兵の元に駆け付けたら、十五分に短縮される」

 尚、部隊には翔一以外に普通の衛生兵もいる。

「あ、始まったクマ」

 微かな射撃音がある。翔一の耳だから拾っただけで人間ではわからない。

 小野は狙撃手として大型のライフルを構えて敵を見る。

 何発か撃つ。セミオートのライフルだ。

「やったか」

「ええ、一人仕留めました」

 しばらくすると連絡が入った。

「こちらウルフ部隊。全滅しました。合流します」

 やがて、黒覆面の兵士が五人ほどやってきた。仲間も引き返してくる。

「少佐、さすがですね。私たちの隠密を見破るとは」

 彼らは仲間たちに冷やかされながら、山を下りていく。

「お兄さんたち、お仲間はあとどれだけいるクマ?」

「お、喋る熊だ。ハハハ、それはいえないよ。もしかして、君が僕たちを発見したのか?」

「そういうことだ、少尉」

 少尉と呼ばれた男は会釈すると手を振って行ってしまう。


 夕方になる。

 そのあとは特に問題も起きず、ひたすら行軍だった。

 聖と緋月は荷物を背負った行軍に、さすがに疲れ切っている様子だった。

「よし、野営準備だ。少し早いが、この調子なら明日の昼には目的地に着く。敵の排除が非常にスムーズだったのが功を奏したな」

「クマちゃんは平気なのね」

 聖が疲れた顔で聞く。

「僕はクマだから」

「それ答えになってるの?」

 緋月のつっこみ。

「魔法は使わないクマ?」

「魔力に頼っていたら鍛錬にはならないわ。今日は体も鍛えに来たのでしょう?」

「そういうことよ、クマちゃん」

 緋月がウィンクする。

 翔一は野営準備の手伝いをしようとしたが、手を出す余地もなくキャンプは設営されてしまう。

 兵士たちはびっくりするぐらいビシッとテントを立てていた。

「すごい、綺麗に立っているクマー」

 荷物を運びながら、翔一は唖然とする。

「こういった、さりげないことが完璧にこなせる兵士は強いのよ」

 小野が自慢げに胸を張る。

「歩哨は交替で行うが、ヒーロー少女二人は今日はしっかり休みなさい。クマ君は元気なのかね」

「少佐、僕は大丈夫クマです。徹夜でも行けるクマ」

「そこまでする必要はないが、君の聴覚嗅覚は優秀だ、多少睡眠時間は削ってもらう」

 翔一は知覚力を買われて、深夜の歩哨に立つことになった。

 一人の隊員と組んで見張る。

「俺は天城曹長。君は知覚が凄いんだな。じゃあ、風上を見張ってくれ。俺は風下を見張る」

「ラジャー、クマ」

 天城は隊の中でもずば抜けた腕前だった。先ほどの模擬戦でも一人で三人も倒したのだ。

 風のように走り、至近で敵を仕留める。

 度胸も相当なものだった。


 警戒任務は忍耐が試される。

 じっと、闇を見つめ、少し昔を思い出した。

(そういえば、昔、暗い森の中を一人で必死に駆け抜けたクマ……)

 攫われた少女を取り戻すために必死に闇の森を探したことを思い出す。あの時は心の中で爆発しそうなほどの怒りがあった。

 今は仲間と共にいる。

(あの時から思うと、自分がここにいるなんて想像もできないクマ)

 ふと、二人の少女を見る。

 穏やかな寝息が聞こえてきた。

「ああ、寝顔も超かわいい」

 軽薄そうな隊員がにやにやしながら見つめている。

 翔一は視線を防ぐように荷物を置いた。

「クマ君。何をする」

「しっかり眠るクマ。少佐にいいつけるクマだよ」

 隊員はぶつぶついいながら横を向いて寝てしまった。


 午前二時頃、翔一はふと異常な匂いを嗅いだ。

(血の匂い! 動物が殺されたのかな……熊とかに)

 しかし、同時に複数の人間の匂いもした。

(間違いなく、人間の血!)

 翔一は天城に話しかける。

「天城さん、人間の血の匂いがするクマ」

「人間の血? 風上か?」

「ええ、僕は見てきます」

「待て、少佐の指示を仰ごう」

「はい」

 少佐はすぐに目を覚ますと、話を聞く。

「その匂いに間違いはないのだな」

「ええ、人間の血の匂いがします。僕が知らない人の体臭もです」

「もし、遭難者なら任務を中止して助ける必要がある。仮に犯罪絡みなら、武装した敵がいるかもしれない。匂いは一人なのか?」

「数はわからないけど複数クマ」

「やはり、油断はできない。全員を起こし、実弾を装填するのだ」

 天城はうなずくと、全員を密かに起こす。

「小野少尉、実包はどれだけある」

「各自、ワンマガジンだけです」

 実戦は想定していない。

 このご時世なので念のために持ってきていただけだったのだ。

「無理はできない。治癒クマー君と天城曹長、二人で状況を確認してくれ。我々はこの付近で待機する。状況次第で次の行動を決めよう。くれぐれも単独で交戦はしないように」

 うなずく天城。

「こんな山中で犯罪なんて……オカルト絡みかもしれませんわ。皆さんに聖霊の加護を」

 急いで聖が魔術を行う。

「待って、幻影で光をごまかさないと」

 緋月も魔術。

 隊員たちは無言で受け入れるようだった。白い魔力が全員を包む。

 白い光はすぐに消えるが、緋月の魔術で闇の幕が隊を包んで、魔術の発光を遠目から隠した。

「よし、では行ってくれ」

「こっちクマだよ」

 天城は翔一の後に続く。

 翔一は隠密精霊、消臭精霊を張って進む。

 天城は気を抜くと翔一を見失いかねないことに気が付いた。

「クマクマ」

 翔一は時折つぶやくので、天城は何とか追従する。


 そこは山中の平たんな場所だった。

 落ち葉とシダ植物。

 そして、大木。

 大木の枝にはまるで果実のように大きな袋がぶら下がっていた。

 それはざっと見て十個はある。

「死体袋……」

 天城がかすかに息をのんだのが聞こえる。

 一つの袋にナイフが突立てられ、血がこぼれている。

 あたりに気配はない。

「僕は銃が無いから、天城さんが警戒して僕が確認するクマ。中に人がいるならすぐに助けないと」

「わかった、頼む」

 天城はうなずき銃を構える。

 すでに実包が装填されているようだ。

 翔一はそろそろと、近寄る。 

(血がぽとぽと落ちてくる。かすかに呼吸音がするクマ! 早く助けないと)

 地面に杭を打って紐を括りつけ、枝に掛けてある。

 紐を切ってゆっくり降ろした。

 ドサ。

 翔一は急いで死体袋を開ける。

 中には見覚えのある装備。腹にナイフが刺さっている。

 確かにまだ息があるようだ。

「ウルフ部隊の人ですクマ」

「ち、まさか、全員やられたのか? 精鋭だぜ」

「これで精鋭ですか。フフフ」

 どこかで聞いていたのだろうか、真っ黒な木々の中から声がする。

 低い男の声。

「そこか!」

 天城はローライトビジョンをつけると、枝に座る人影に銃口を向ける。

 さっと消える。

 バス!

 一発撃つが、枝に穴があいただけだった。

 サイレンサーが装着されているので音はほとんどしない。

「科学装備ですか、しかし、同じ物をこの連中もつけてましたね」

 天城は何度か人影を見つけて撃つが、いずれもすぐに逃げられてしまう。

「ち、当たったぞ、今の。なんて奴だ」

「たぶん、吸血鬼クマだよ。銃で撃ってもほぼ死なないクマ」

 かすかな死臭がする。

 どうやっても消せない吸血鬼特有の匂いだった。

 翔一はナイフを抜き、傷口を急いでホッチキスで縫い付ける。そして、治癒精霊を押し込んだ。

 容態が安定したところで、彼を草叢に隠す。

「少佐! 推定、吸血鬼と遭遇。ウルフ部隊の第二隊がやられたようだ」

 警戒しながら天城が無線している。

「敵の数は?」

「今のところ一体だ」

「違いますね、上をしっかり見てください」 

 声がして思わず上空を見る。

 隠れもせずに十体以上の不気味な怪物が巨木の枝の上に立っていた。

 音も気配もなく現れたのだ。

 年齢も姿もまちまちな男女。

 一様に満面の笑み、そして、長い牙が見えている。

「十体だ、十体はいる」

「曹長、無理はするな撤退するぞ!」

「しかし」

 天城は死体袋を見た。ウルフ隊は待ち伏せを側を志願した仲間なのだ。

 その躊躇が危機を招く。

 吸血鬼のうち三体が爪を伸ばして天城に襲い掛かった。

 天城は必死にライフルで爪を受ける。

 ガリ! バリ!

 強化樹脂の銃床が砕け、使い物にならなくなる。

 咄嗟にナイフを抜いて爪を受けるが、簡単に折れ飛んだ。

 わき腹と肩を裂かれる。

 必死に後ろに跳ねて致命傷は逃れた。

「フム、毒は効かないのか」

 爪に付いた血を舐める男。先ほどから喋っている奴のようだ。

「ならばこれはどうかな」

 ローライトビジョンは今の攻撃ではじけ飛んでしまった。天城は肉眼で男の赤い目を見てしまう。

 一瞬、薄い白光が邪視を阻害したが、それは、一時しのぎだった。

「あ、あああ」

 動けなくなる天城。

「ホホホ、この男私の奴隷にしますわ。動きもいいしカッコいいわ」

 襲い掛かった吸血鬼の一人は女だった。

「しかし、喋るクマがさっきまでいた様だがどこに行った」

 もう一人がつぶやく、キョロキョロする吸血鬼たち。

 しかし、かれらは天城に集中しすぎて消えた彼を忘れていた。

「龍昇天剣!」

 木の上に鈴なりになっている連中の、さらに上から声がする。

 はっとして見上げると、巨大な毛皮の塊と白い光が降りてきた。

 光は太刀だった。

 吸血鬼にも追えない速度で剣は一閃し、鈴なりになった奴らが三人程真っ二つになり、そして、地上にいた三人の内一人が唐竹割になった。

 高い場所から降り立ったのに、大熊は音もたてず着地している。

「ギャー!」

 吸血鬼たちは塵になった。

 霧にもならない。

 つまり消滅したのだ。

 男の前には大きな熊が立っていた。手には白く輝く剣。

「聞いたことがあるぞ、ヒーロー側の大熊野郎だ」

 誰かが叫ぶ。

「討ち取れ! 我らアルフォンス一族の名を上げるときだ」

 樹上から吸血鬼が一斉にとびかかってくる。

 大熊こと翔一はひょいっと後ろに飛んで、彼らの攻撃を空振りにした。

 地上に降りてきた吸血鬼たちは牙や爪を伸ばしている。

(あの混沌吸血鬼たちよりは普通っぽいけど、怪物は怪物クマ)

 ちらっと見ると、天城を一人の吸血鬼女が捕まえていた。

 それを笑いながら見つめる吸血鬼の男。

 ゆっくりと首を噛もうというのだろう、伸びる牙。

「『草薙剣くさなぎのつるぎ』!」

 黄金の剣が現れ、翔一は渾身の力で投げつける。

 バシュ!

 大勢の仲間がいることに油断していたのだろう。飛ぶ剣は吸血女を根元まで串刺しにした。

 黄金の光が怪物の体を駆け巡る。

「ガフ! そ、そんな。私が、消滅……」

 女は黄金の光に浄化されて、塵になって消えていく。

「!」

 同時に、聖なる黄金の光が魂を洗い、天城の金縛りが解けた。

 そして、それは同時に起きた。

「白虎三段、雲耀剣!」

 巨大な影が吸血鬼たちを掠め過ぎ、白い閃光が彼らを薙ぐ。

「ギャー!」「グワ!」

 天城は塵の中で落下しそうな黄金剣を空中で咄嗟に掴み、無我夢中で目の前の吸血鬼を袈裟懸けに斬ったのだ。

 黄金の剣は防御にかざした爪を簡単に叩き割って、バターのように吸血鬼を真っ二つにする。

 再生も霧化もさせない。 

「まさ、か、俺たちがこんなに簡単に……しかし、我らの主が、お前たち……を……」

 天城をにらみながら、吸血鬼は塵になっていく。

 思わず、膝をつく天城。

 混濁する意識の中で、白い光が飛び交っていた。




2021/5/8 微修正

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