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40 潜入! 悪の島 その1

「今日集まってもらったのはほかでもない。人身売買マフィアの拠点が判明したので、その調査を依頼したいのだ」

 いつも通り、モニター越しに喋る暗黒司令。

 膝の上の白っぽい猫がごろごろ喉を鳴らしている。

 その日の防衛会議ビルには数人のヒーローと警察関係者が集められていた。

「格闘家集団関係者の自白により、その中でも特に彼らが厳重に守りを固めている施設が判明した」

「しかし、もうそんな情報は古くて、敵は撤退してるんじゃないのか」

 ジャック棒波津ぼうはつが指摘する。

「そうでもない。海上保安庁と自衛隊特殊部隊の監視の元、未だに、その基地が稼働していることを突き止めている」

「海上保安庁……そこは海岸とか、離れ小島ってことかしら」

 ゾーヤが聞く。いつもながら、美しい横顔。

「そうだ、彼らは兼ねてから噂のある『グレイ団』と結託しており、何らかの特殊妨害装置で我々の探知を潜り抜けていたのだ」

「ここからは私が説明しよう。私は、滝田たきた少佐、公安特殊部隊だ」

 大柄な軍人風の男である。

 短く刈った髪、ベレー帽、軍制服。節くれだった木の根っこのようなごつい手をしている。

 滝田はいくつかの写真を画面に映し出す。

「某諸島、親島。ジャングルの無人島だ。以前は人が住んでいたが、記録上、今は無人となっている。しかし、これを見たまえ」

「人影があるクマ!」

 治癒クマーこと翔一しょういちが声を上げる。

「銃を持ってる人が二人」

 ゾーヤもうなずく。

「これは、単身潜入を行った私の部下が撮影したのだ。通常の既知の方法は全て無効だが、至近撮影は何とか可能だった」

「銃所持が厳しい日本で、銃を持った警備兵となると、かなり物騒な話だな。確かに、基地が稼働している可能性がある。しかし、なぜ、奴らは撤退しないのだ?」

 棒波津の疑問。

「何らかの理由があるのだろう。それは残念ながらわからない。しかし、今複数の部隊で急襲し、一気に制圧すれば、それを突き止めるチャンスになる」

 滝田の案。

「だが、大兵力で包囲すれば、敵は証拠を破壊、自爆するかもしれない。人質も当然殺される。『グレイ団』は高度に洗脳された連中だ。やはり、少数精鋭による突入確保が望ましい。場合によっては占拠も必要かもしれないが、潜入で人質を確保してからだろう」

 暗黒司令は滝田と少し考えが違うようだ。

「しかし、司令。それはかなり危険な任務になります」

「敵の裏をかくには、その危険を冒さざるを得ない時もあるのだ。幸い、このミッションには風間かざま君も参加してくれる」

「え、風間さんが!」

 この場にいる女性たちが目を輝かせる。

 尚、警察関係の女性隊員が数人。

「風間が来るというだけで興奮し過ぎですよお嬢さん方……」

 棒波津が苦言。

「病院から向かうので、彼には情報だけ目を通してもらうつもりだ。ミッション直前に合流する」

「えー、すぐに会えないの?」

 女性隊員たちの不満声。

「見苦しい真似はやめたまえ。国家のためのミッションだぞ!」

 滝田は怒るが、女性たちは心が騒ぐようだった。

「風間……ストロングホーンが参加するなら、戦力に問題はないだろう。しかし、いきなり発見され、大暴れして証拠を破棄されるという事態は避けないといけない。ヒーロー諸君には潜入ミッションの基本を伝授するがよろしいかな」

 滝田の提案。

「俺には必要ない。俺にとって潜入ミッションなんて児戯に等しい」 

 ジャック棒波津は興味もないという態度。

「私も既に訓練済みよ。実戦経験も多数。ファイル見たでしょ」

 ゾーヤも同じだった。

「面白そうクマー、訓練お願いしますクマ」

 翔一は頭を下げた。

「……どうも一番適任じゃないものがやる気があるというのも……」

 滝田はため息をついたが、それでも一応、潜入ミッション訓練は行われる。


「いいか、まず潜入の基本は立たない、音を立てない、敵の位置を知るだ」

 滝田がミッション参加隊員たちに説明している。

 ここは大きな体育館のような部屋。

 これは仮想現実訓練施設だった。

 フォログラムや簡単な壁が地中からせり出す。

 訓練が必要ないと言っていた者たちも、結局、参加しているようである。

 尚、建物の配置などは写真から解析した物を不確実ながら再現しているのだ。

「では訓練を始めよう」

「このような設備があるなら突入任務も非常に楽だな」

 偉そうぶっていた棒波津も素直に認める。

 滝田の先導で、棒波津、翔一、ゾーヤ、自衛隊男女二人づつがついていく。

「よし、ついて来い」

 敵の存在を確認しつつ、移動する滝田。

「クマクマ」

 隠密は得意なので、素早く追従する翔一。

「クマクマいわないの!」

 滝田に怒られる。

「ぷぷ!」 

 女性たちが笑いをこらえている。

「次はCQCだ。敵が背中を見せて立っている。幸い、他に敵は見当たらない。監視装置も死角になっている。もちろん、ハッカーの支援で装置は解除されているだろうが、必要がある場合は躊躇してはいけない」

 滝田はホログラフの敵兵を背後からとらえると、地面にたたきつける。

 ノックアウト判定で消えるホログラフ。

「さすが少佐ね。手際がいいわ」

 ゾーヤがうなずく。

「では、誰かやってみたまえ」

「わかったクマ」

「いや、君以外で」

「差別はやめるクマ」

「まあ、いい、じゃあ試しで……」

 翔一はガシっと敵兵の足を掴むと、投げつけようとする。

 しかし、何となく足を持ち上げられてすり抜けられる。

「いや、それでは倒せないだろう……」

 気のせいかホログラム兵士も呆れ顔である。

「背が届かないクマー!」

 後ろで見ていた仲間が笑いをこらえている。

「もういい、君はCQCやらなくていいから!」


 さらに、潜入する。

「ここは敵兵が複数人で固めている場所だ。残念ながら銃撃による強行突破が必要になる。各人はSMGを腰だめに構えて反応射撃を行う」

「僕は持ってないクマー」

「あなた四級でしょ。許可が出ないわ。大人しくしなさい」

 ゾーヤが治癒クマーを諫める。

「クマー」

「では、閃光弾を撃ったら突撃だ。各自閃光防御!」

 ポンっと抜けた音の後、凄まじい光が辺りを包む。そして、一斉に突撃を開始した。

 隊員たちは手際よく、うろたえる敵を銃撃で倒す。

 しかし、高い場所から一人の敵が現れた。味方は気が付いていない。

「そこ、前に来るからクマァ!」

 翔一はどこかから大型のマグナムを抜くと、

 ドゴォ 

 一撃でホログラムを仕留める。

「フ、見事眉間をぶち抜いたクマ」

「うわ! く、クマ君。その銃は?」

 大きな音に驚く滝田。

「スーパーマグナム五十口径。五十メートル以内ならライフルより威力あるクマ」

「そういう問題じゃなくて、どこで手に入れたんだ」

「訓練場に行く途中、装備部のおじさんに貰ったクマ。自慢の一品とかいってたクマだよ」

「駄目! 四級がこんな強力な武器を持っていては駄目! 没収する。というか天井に大穴開いただろうが。私が文句をいわれるんだぞ」

 そういうと、滝田は翔一から銃を取り上げた。

「クマー」

「いいじゃない、この子いい腕してるわ」

 ゾーヤが翔一の背中を撫でる。

「そうよねぇ」「意外とやるじゃない」「少佐ってケツの穴小さい」

 仲間が小声でつぶやく。

「駄目なものは駄目! 君は治癒専門!」

 問題はあったが、成功裏に潜入訓練は終わる。



 

 沈む太陽。

 黒く浮かび上がる島。

「あれが悪の島か……不気味だ」

 腕を組んで、ジャック棒波津がつぶやく。

 海上自衛隊の船に潜入部隊が乗り込んでいた。

 滝田少佐、ゾーヤ、ジャック棒波津、自衛隊小野少尉、大山軍曹。そして、治癒クマー。

 小野少尉は女性だ。大山はがっしりした大男。

「前回訓練に参加した残りの自衛隊員二人は予備隊員として船で待機してもらう。二人はもう顔見知りだな」

「よろしくクマー」

 待機組二人も翔一に手を振る。

「全員装備確認はいいな」

「はい、ところで風間さんはどうしたのよ。何でいないの」

 ゾーヤが若干怒っている。

「もういると思うクマ」

「え?」

「遅くなって済まない」

 見上げると、風間が高い場所にいる。

「風間君。よく来てくれた。アクアラングは使えるかね」

「ええ、得意です」

 風間は体重がないような身軽さで降りてくる。

「治癒クマー君」

「こんばんわクマです」

 風間は船に降り立つと、翔一と握手する。とても爽やかな笑顔だ。

「クマちゃん、風間さんと知り合いなの」

 小野少尉が聞く。

 女性陣は興味津々の模様。

「ええ、色々とクマです」

「彼は僕の命の恩人ですよ」

「うぉっほん。雑談は任務が終わってからだ」

 滝田に注意されると皆無言になって、準備を開始する。

 翔一以外はアクアラングをつけた。

「クマ君、途中から泳ぎだけど大丈夫?」

 小野少尉が心配そうに聞く。

「僕は水中も得意クマ」

「暗黒司令の話では治癒クマー君は不思議な力があるという。しかし、問題があるときは大柄な大山軍曹につかまって行きなさい」

「ありがとう、でもご心配不要クマです」

 翔一の自信満々の態度に少佐はこれ以上は突っ込まなかった。

「各自、ゴムボートで想定の地点まで潜入し、そこから泳いで海底を進む。灯りの無い状況での潜水になる。くれぐれも油断しないように」

 隊員たちはうなずくと、ボートに乗り込む。


 ボートは手漕ぎで進む。

 音を立てるわけにはいかない。

 ローテクな潜入なら成功するという保証もなかったが、無駄なリスクを冒すこともできなかったのだ。

 滝田のハンドサインで全員静かに海に潜る。

 翔一はウォーターエレメンタルを出して、すいすい泳ぐ。大山軍曹が驚いた眼をしていた。

 他の仲間たちも翔一が問題ないことを知って、まっすぐ岸を目指して泳ぎ始める。

「機械精霊を警戒網として張るぜ」

 ダーク翔一の声。

 仮に何かの警戒装置があったとしても、全て一時的に機能停止する。

 仲間たちはそのことには気が付かない。

 翔一は小さなボンベを背負い、酸素を補充しながら移動する。

 滝田以下、普通の人間たちは、非常に高い能力を持った人たちだったので、暗い水中でも問題なく滝田についていく。

 やがて、岩だらけの海岸についた。

「敵はいない、警戒装置の類もないようだ」

 軍用の電子双眼鏡で細かくチェックする滝田。

 合図をして、全員上陸する。

 アクアラングを脱ぎ、岩陰に隠した。

「地形はわかっているな、この海岸から森を抜け、廃集落に向かう。そこに敵の基地があるのだ」

 一行は銃を構え静かに向かった。

 風間も銃を持っている。

 翔一がうらやましそうに見ると、

「俺もたまには使ってみたいから」

 ニヤッと笑顔。

 

 当該の施設が見える位置まで来た。

 想像以上に大きな基地だった。廃集落全域を基地化しているのだ。

 フェンスも見張り塔もある。塔には重機関銃や携帯ミサイルが設置され、正面決戦を挑むと大きな被害が出ただろう。

「あの基地、上空からでは見えない。宇宙人の技術だろう」

 滝田のつぶやき。

 翔一の耳と鼻は、異変を感じていた。

「誰か来ると思うクマ。たぶん二人」

「パトロールの兵士ね。どうする少佐」

 ゾーヤが問う。

「どうしてわかったんだ」

 棒波津が聞く。

「音と匂いクマ」

「なるほど、動物のそれは便利だな」

 隊員たちは目配せして、闇に潜む。

 油断した感じの兵士二人が森の手前をパトロールしていた。

 英語で何か喋っている。

「私がやろう」

 滝田はそういうと、彼らの背後に回る。

 そして、一人の後頭部を一撃し、更に、もう一人が反応する間もなく首筋に手刀を決めた。

 音もなく崩れ落ちる兵士。

「フ、きまったな」

「すごいクマー!」

「やるわね、少佐」

 ゾーヤがうなずく。

「お、俺にもこれぐらいできるんだからね」

 なぜか動揺するジャック棒波津。

「死んではいない、少し尋問しよう」

 彼らを草叢に引き込む。

 見事に気絶しているようだが、霊視すると、一人はオーラがおかしかった。

「あれ、こちらの方、おかしいクマ……」

 翔一が何かいう前に、兵士の一人がいきなりかッと目を開く。

 バリっと顔面が割れた。

「こいつ! 人間じゃないぞ!」

 大山が思わず大声を出した。

 ふらっと立ち上がった男。既に男ではなく、怪物だった。

 昆虫人間だ。

 小野がサイレンサー付きのSMGを撃つが、効いていない。

「駄目、小口径すぎるわ!」

 一応、昆虫人間や半魚人対策に大口径の拳銃を持っているが、これにはサイレンサーが付いていない。一瞬迷う小野。

 昆虫が鉤爪を小野に叩きつけようとした、そのとき、

「電回転」 

 重々しく、そして、電光石火のかかとを昆虫の頭に叩き込む風間。

 グシャ!

 変身すらしない蹴りだが、昆虫人はそれで頭部がなくなり、動かなくなった。

「ふう、敵には気が付かれていない。しかし、敵が探しに来たらばれるだろう。急ぐ必要がある」

 滝田の言葉に、皆うなずいた。




2021/4/1 2025/2/13 微修正

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