36 決戦、ヒーロー対極悪格闘家集団 その2
資料室に入り、闇の精霊を張って、監視カメラの効果を無くす。
(僕の能力をあまり人に知られたくない……)
「ご先祖様、熊のぬいぐるみに受祚しますクマだよ」
「ああ、遠慮はいらん」
翔一は土壁源庵と同じ要領で彼をぬいぐるみに封じ込める。
「おお、久しぶりでござるな、実体のある感覚」
ムクっと、動き出す熊のぬいぐるみ。
土壁源庵よりはるかに鋭い眼光。
(オーラもすごいクマ、源庵先生と互角かな)
「そういえば、ご先祖様はお名前何と申されますクマ」
「……今更、生前の名を名乗るのもおこがましい。球磨川風月斎とでも名乗っておこう」
「武器は必要ありますクマ?」
「刀があれば申し分ない」
「じゃあ、『白銀剣』渡しますクマ」
「それは拙者の手に負えぬ。水竜の剣も然り」
「暗黒司令さんに頼めば、刀一本ぐらいどうにかなるかなぁ」
翔一は眼光鋭い熊のぬいぐるみと会議室に入る。
「あら、何かかわいい友達きたわね」
赤嶺明日香がにっこり。
二匹の子熊がやってきたのだ。
「球磨川風月斎先生です。剣の達人で、子供を攫う悪漢をやっつけたいと仰せですクマ」
「なんだそれ、ぬいぐるみのロボットか何かか」
烈銀河のバカにした声。
「この人、すごい迫力だわ」
ゾーヤが唖然としている。
「先生は急いで駆けつけたので、刀を持ってないクマ。暗黒さん、刀を支給してほしいクマ」
「疑うわけではないが、子供たちの命がかかっている。行く前に一度実力を拝見したい」
暗黒司令の言葉。
「わかり申した」
「では、トレーニングルームへ」
人々は興味津々でトレーニングルームに向かう。
烈銀河とエリックはこない。エリックは誰かに呼ばれたようだ。
風月斎は泰然とした態度でゆっくりと歩いた。
「現代の建物は変わっておるなぁ。驚くほどの堅牢さだが、温かみがないともいえる」
「年齢の分かる発言はできれば……」
「うむ」
ルームに入ると、数人のトレーナーが待っており、刀がある。
風月斎は刀を受け取ると、慣れた手つきでスッと抜いた。
「なるほど、これは悪くない刀だ」
「これは現代の著名な刀工が作られたものです」
「キエエエエエエエエエ!」
稲妻のような一閃をする。
「うむ、少し動きが緩慢なようだ」
「それでも相当早かったクマですよ」
他の人たちは唖然としていた。可愛い熊が凄まじい斬撃を繰り出したのだ。
「では、早速参りますぞ」
暗黒司令の声。どこかから見ているのだろう。
床から、巻き藁がせりあがってくる。
かなり太い。人間の胴体ぐらいはある。
「おいおい、これ、普通斬れないだろ」
明日香が驚いている。
しかし、
「ムン!」
風月斎は簡単な作業のように巻き藁を真っ二つにした。
「すごい!」
明日香が目を見開く。
次は正面と左右に細めの巻き藁が立つ。
「矢車無想剣!」
片手で横回転の斬撃。
竜巻のように刃が煌めく。
巻き藁は見事一撃で三つが床に落ちた。
拍手が起きる。
「見事だ。これなら全く心配無用ですな。風月斎先生。他に必要なものがあれが仰ってください」
暗黒司令の声。
「編み笠を所望したい」
「編み笠ですか……すぐにご用意いたしましょう」
「精神だけの精霊と防御、迅速、強甲の各精霊を加えますクマ」
お披露目が済んだ後、出発の準備が整うまでに急いで受祚を増やす。
作業は先ほどの資料室で行う。
「精神だけというのはどのような意味があるのだ」
「形代と先生の精神力があまりにかけ離れてるから、形代に力を与えるクマ」
「なるほど、形代自身にも存在があれば、力が増すようだ。意思がなくても膂力があればどうにかなるのと同じだ」
ダーク翔一がいないので、思った以上に時間がかかる。
「クマちゃん、時間だぜ」
廊下から明日香の声。
「あと五分待ってほしいクマ」
「早くしろよ」
手早く作業を終えて、急いで車に乗る。
「これが自動の篭なのか、凄いものだ……」
つぶやく風月斎。
興味津々で夜の街の様子を眺める。
日本に『浸食』という危機が起きても、夜の街は一向に衰える雰囲気はなかった。
繁華街を抜けると、やがて、街は住宅街、そして、それを抜けると、人口が減少した地域になる。
古びた家屋、店が入らない雑居ビル、シャッターの降りた商店街。地域の中心である大型のショッピングモールも閉店しているありさまだった。
「栄えているようだが、かなり無人の地域がある」
「人が増えないクマ」
「栄え過ぎると、そのようなことが起きるのだな」
風月斎は理解が早い。
「先生の先ほどの剣術、初めて見ましたけど……」
「ああ、あれか、あれは、昔、師匠に教わったものだ。とっさに出たな。師は京都の僧侶で……」
「そろそろ、つくよ」
助手席の明日香が声をかけてくる。
翔一たちの前には、巨大な建物と広い駐車場があった。
闇に浮かぶ黒い廃墟。混沌の異様な気配がヒーローたちに迫っていた。
銀河はもう一台の車。
エリックは遅れてくるという。
とある、大きな廃ビルの前にくる。
夜の闇に浮かぶ巨大なスポーツセンター。人口が減る前はかなりの活況だった場所だ。
銀河が、体の大きな十文字を引っ張り出す。
彼は後ろ手に手錠をされていた。
「ここか」
「よくきた、ヒーロー諸君。大クマーはおらぬようだな。かわりに小さな熊が二匹か」
入り口付近に設置されたスピーカーがあり、そこから声が聞こえるようだ。
いきなりライトが付く。
ガラス越しにスポーツセンターの中が見え、器具が散乱した広いスペースが試合会場ということらしい。
大勢の人間が待っている。
「十文字は連れてきたようだな」
「まずは子供との交換だ。約束を守れ」
明日香が声を上げる。
すぐに数人の人間が現れる。子供を連れた黒覆面黒服が二人。
子供たちは動かないが、麻酔されているだけのようだ。
後進国で攫われた子供たちだった。
「命に別状はないクマだよ」
治癒クマーは霊視する。魂にゆがみはない。
「なんて奴ら、子供なんて攫って恥ずかしくないの」
無表情の黒服たちを明日香は睨みつける。
急いで車に乗せると、烈銀河はそれに乗った。
「おい、あんたどこに行くんだよ」
明日香が慌てて聞くが、
「わりぃな。ちょっと急用だ」
「おい!」
しかし、彼は子供たちと一緒に車に乗ると、運転手をせかして闇に消えた。
「三人じゃどうしようもないぜ」
「私も戦うわ。ここは妨害が酷くて本部とも連絡が取れないから」
ゾーヤは秘書っぽい服装だったが、諦めて戦ってくれるようだ。
「ゾーヤさんは格闘できるクマ?」
「CQCの達人よ」
ニヤッとほほ笑む美しい顔。
「フム、確かに、腕は確かなようだ」
風月斎が編傘の下からゾーヤを見る。
ヒーロー一行は会場に案内された。
「一人足りないようですが、大丈夫なのですか」
いつぞやの老人が司会している。
彼の背後には不気味な格闘家と思しき連中と、美しい顔をした男が座っていた。その男だけは覆面もアイマスクもしていない。
翔一はすぐに気が付く。
誰よりも美しい男だったが、誰よりもおぞましい匂いだったのだ。
(生きているのに、腐臭……こいつは吸血鬼?)
翔一は風月斎を見る。
「わかっている。あの者は魔物」
「心配ご無用、遅れてきて済まない」
エリックが広い会場の天井付近の梁の上に立っていた。
「では問題ないようですな。格闘家集団X対ヒーロー軍団。賭けるのはいたいけな子供二人。ヒーローが負ければ子供たちは好事家に売られてしまいます。何とも酷い話だ」
欠片もそんなことを思っていない邪悪な老人が、泣くふりをする。
「貴様らの悪事もいずれ終わりがくる。無様な敗北を繰り返し、正義の前に敗れる姿を世界にさらすがいい」
エリックが高らかに悪党どもを挑発する。
「さすが、エリックさんクマー。あの烈銀河とは比べ物にならないくらいカッコいいクマ」
「では、前回とルールはほぼ同じです。まず五戦、そして、再び対戦相手を変えて五戦。最初の戦いで負傷しすぎて戦えないなどということになれば不戦敗になります。最初に五勝、あるいは、最後までやって勝ちの多い側が勝利となります。ただし、勝ち数が引き分けの場合、我らの勝利とさせていただく」
「不公平じゃないか」
エリックが文句をいう。
「その代わり、対戦相手はそちらがお決めください」
黒服がリストを持ってくる。
「大将、『死骨仙』榊原宋一郎
副将、『混沌の腕』コブラヘッド
中堅、大藪強 ボクシング
次鋒、泊征四郎 玉真空手
先鋒、只野平八 柔道」
「前と同じ奴もいるけど、大将と副将が違うね。明らかに怪物くさい」
明日香が険しい顔。
「只野はアホだけど、泊征四郎は卑怯技でも何でも使ってくるクマ」
「大将は僕が倒そう」
エリックが全く迷いなく名乗り出る。
「コブラヘッドは拙者にお任せあれ」
コブラヘッドは異常に横幅の広いプロレスラーのような巨漢。
「あいつ、人獣クマ」
「うむ」
「ボクシングは私がやるわ」
ゾーヤがいう。
「なら、空手は私が倒すわ」
明日香は自信満々だった。
「じゃあ僕は……」
「不戦敗でいいのよ」
「たとえ負けても、僕は頑張るクマだよ。柔道のおっさんをやっつけるクマ」
「よくいった熊君。しかし、無理は禁物だ。危ないと思ったらすぐに場外に出るんだよ」
自信満々で人によっては嫌われることも多いエリックだが、思った以上に優しい男だった。
笑顔も爽やか。
「うん、ありがとうエリックさん、そうするクマ」
「おっさん、決まったぜ」
明日香が老人に対戦メモを見せる。
「対戦組み合わせが決まりました」
ヒーロー側は、以下の通りになる。
「大将、『白銀疾風』エリック・フリュクベリ、飛翔格闘術
副将、球磨川風月斎、剣術
中堅、ゾーヤ、CQC
次鋒、赤嶺明日香 プロレスリング
先鋒、治癒クマー」
老人が読み上げると、選手たちがずらっと並ぶ。
「たぶん、榊原は吸血鬼クマ。コブラヘッドは混沌同盟の人狼。人狼だから、僕たちが小声で話すのも聞こえているクマ」
「わかった、気を付けるわ」
明日香がうなずく。
彼女は人狼の血が薄いので、満月の時以外は人間と大差がないのだ。
「双方よろしいですな。では一回戦。格闘家集団X、只野平八柔道。ヒーロー軍、治癒クマー。始め!」
榊原の目が光る。
彼には魔力が見えているのだ。
(前回の戦いに、魔法があったと考えたんだな。こいつらもさすがにバカじゃないクマ)
モフっと子熊は進み出る。
只野はつまらなそうな顔。
「なんだ、小さな熊? あの巨大な熊ならやりがいがあるけど、こんなのじゃな。それに、明日香ちゃーん、次の戦い僕待ってるから」
明日香に投げキッスを送る只野。
凄く怖い顔で睨みつける明日香。
「僕は武器を使うクマだよ。おじさんも使ったらいいと思うクマ」
翔一は木刀を持っている。
「おまえごときに武器を使ったら、恥さらしもいいところだ。素手の柔術の強さを思い知らせてやる」
ごわごわの体毛が汚く生えた手を伸ばしてくる。
「あわわ」
翔一は木刀を捨てて、四足歩行で逃げ回る。
二足歩行よりはるかに速いのだ。
「ち、ちょこまかと!」
前の体育館と違い、今回は古いジム器具が散乱している。戦闘エリアもかなり広くとってあった。
翔一はベンチプレスの陰に隠れる。
「逃がすかよ!」
只野は怪力で台を破壊した。
「うわ!」
翔一は間一髪逃げる。
すかさず、台を持ち上げて叩きつける只野。
大きな音と、飛び散る部品。
「あのチビ助も終わりか」
敵の側の誰かの声が聞こえる。
翔一は倒れ伏して、ピクリとも動かなかった。
「てこずらせやがって」
只野はのっしのっしと近ずく。鉄パイプなどが転がり、只野は無神経に踏んだ。
その時、カチっとスイッチの入る音。
「ブベ、ブベベベベベ!」
只野は突然痙攣すると、どうと倒れて動かなくなる。
彼が踏んだ残骸の中に、一本の棒。
それは日本防衛会議が翔一に支給した四級用のスタンスティックだった。
最弱の武器ではあったが、魔物や怪物対策の品なので非常に強力な放電がある。遠隔操作もできる優れものだったのだ。
人間の身でそれを受けてしまった只野は一撃で気絶してしまう。
翔一は立つ。
「フ、勝ったクマ」
思わず、ニヒルな気配を飛ばす治癒クマー翔一だった。
「それまで! 治癒クマー勝利!」
起きる拍手。
「やったじゃん、熊ちゃん! すごい、かっこよかったよ」
明日香が褒めちぎる。
「治癒クマー君、思った以上に戦いの勘がいいぞ。よくやった」
エリックが背中を軽くたたいた。
「ぐ、偶然だと思うクマ」
「えらいえらい」
明日香がすりすりしてくる。
「二戦目、泊征四郎、玉真空手、対、赤嶺明日香、プロレスリング」
老人が名を挙げるともう戦いが始まる。
「のろまなプロレスラーが俺の剛拳を止められるのか?」
にやにやする泊。
「気を付けて、そいつ、どんな卑怯なことでもするクマ」
「貴様にいわれたくないぜ、熊公」
「心配するな、プロレスの強さを教えてやるぜ」
明日香はそういうと、タックルをする。
泊は予想していたのか、膝を合わせようとする。
しかし、明日香は両腕で顔を守り、そのまま泊の股間に突っ込んだ。
泊は慌てて、回転して逃げる。
それからは、やや泥臭い戦いが始まった。
逃げる泊、肉薄する明日香。
泊は蹴りを多用して、遠距離戦を行う。明日香が喰らい始めた。
しかし、明日香には人狼の回復力がある。
蹴りでは勝負がつかない。
十分も走り回った二人は、息が上がって動きが緩慢になっている。
「そこまで、勝負つかず、引き分けとする」
老人はそういってため息をつく。
あらい息を吐いて二人は下がった。
「泊、次も逃げ回るような試合をするなら追放するからな」
老人が泊を叱責する。
「鼓童様、相性が悪すぎたんです、次は必ず勝ちます」
(鼓童……変わった名前クマ)
「三戦目、大藪強、ボクシング、対、ゾーヤ、CQC」
すぐににらみ合いが始まる。
大藪はボクシングだが、グローブは嵌めていない。ナックルのようなものをつけている。
ゾーヤは繰り出される鋭いジャブを、軽くいなし続ける。
彼女はヒーロースーツを着ているので、拳を流し続けても、痛みはないようだった。
予備のスーツを明日香から借りたのだ。
「あんた、なかなかいい女だな。俺の女になれよ」
大藪は下品なことをいいながらゾーヤを追い詰める。
彼女は大藪の隙を伺って逆転するつもりだが、大藪が早すぎてついていくのがやっとだった。
(CQCは合気道柔術的な動きクマ、大藪はパンチが速すぎて捕捉難しい。思ったより相性が悪い……)
大振りのフック。
さっとしゃがむと、ゾーヤは蹴りで大藪の足を刈りに行く。
しかし、ゾーヤは足の甲に激痛が走った。
大藪はロングブーツの中に鉄の棒を仕込んでいたのだ。
「足を狙われるからな。当然の防御だよ」
「チ!」
ゾーヤは焦っていた。
本来なら、大藪の心を読んで敵の攻撃をかわして楽に倒せるはずなのだ。
しかし、心は読めない。
もっと落ち着いた状況ならできたかもしれないが、ゾーヤは心が読めなかった。
(何らかのマインドシールドが……)
全力で心を読もうとするが、力は何かにはじかれた。
視界の端に、榊原のにやにや顔が見える。
ボコ、ボコ。
一瞬の隙を付き、ワンツーが腹に炸裂する。
「う!」
膝をついたゾーヤ、もう立てなかった。
大藪は鋼鉄の棒を入れた足で蹴りを入れて、ゾーヤを倒す。
ゾーヤの負けは明らか。
だが、さらに踏みつぶそうというのだろう。大藪は脚を上げた。
しかし、踏み抜くことはできなかった。
ポム!
足は何かに弾かれる。
見ると、毛皮がゾーヤに覆いかぶさっていた。
「彼女は負けたクマ! 追撃はお断りクマだよ!」
大藪はもっと攻撃したかったが、翔一の気迫に少し勢いがそがれた。
「……そこまで、大藪の勝利!」
「チ!」
大藪はつばを床に吐くと、下がる。
「クマクマ」
ひょいと持ち上げると、ゾーヤに治癒精霊を当てつつ、急いで隅に置く。
「う……ん」
彼女は息を吹き返したようだ。
安心する翔一。
「あばら骨まで行ってるかもな、次戦は無理だぞ」
ゾーヤを診た明日香のつぶやき。
「ここまでヒーロー側一勝一敗、引き分け一。副将戦は、『混沌瘴気』コブラヘッド、対、球磨川風月斎!」
二匹の異形が立つ。
コブラヘッドはマスクをかなぐり捨てメキメキと変容する。
男は二メートルはあろうかという直立人狼と化した。
漆黒の毛皮、鋭い白い爪、赤い邪悪な瞳。
刺すような混沌のオーラ。
「混沌人狼!」
明日香が息をのむ声。
巨大な人狼の前に立つのは、編み笠を被って刀を腰に差した小さな熊のぬいぐるみ、球磨川風月斎。
「はじ…」
老人が「め」をいう前にいきなり風月斎は跳んだ。人では不可能な跳躍距離である。
一瞬の閃光。
コブラヘッドが爪を伸ばす暇すらなかった。
膝の下がボロッと崩れる。
吹きあがる血。
「白虎一剣、迅雷」
重々しくつぶやく風月斎。
(今のは居合クマ! すごい!)
師が初めて見せる技に驚きを隠せない翔一。
「あががが! よくも俺の左足を!」
叫びながら転がるコブラヘッド。
人狼は、憎悪に目をたぎらせ、苦痛にもだえ、逃げるように転がる。
風月斎は刀を収めると、左足を人狼に投げ渡した。
怪物は場外に出ると、慌てて足を引っ付ける。
それだけでみるみる治ってしまうのだ。
「球磨川風月斎、勝利!」
起きる拍手。
「今の剣みえたか?」「気が付いた次の瞬間にはコブラヘッドの奴、やられてたぞ」「あの刀の子熊とんでもない奴だ」
人々がうわさする。
「へ、情けねぇな。犬っころ」
大藪が馬鹿にしきった声で罵った。
ぬっと巨大な手が伸びる。
ガシッとその手が大藪をつかむと、
ガリ! バリ!
巨大な顎が大藪の頭を齧った。
「う、うわー!」
びくびく痙攣し、大藪は大量の血を流して死んだ。
人々は恐怖のあまり静まり返る。
大藪を喰らったのは、即座に足が治ったコブラヘッドだった。
「腹が減ったからちょうどよかったぜ。生意気な口は永遠に閉じた」
大藪の胴体をゴミのように投げ捨てる黒い人狼。
「コブラヘッド殿、仲間には手を出さない約束ですぞ」
老人が声を上げる。
「賠償はする」
「……いいでしょう、次はない」
老人は全く動じない。このような化け物相手でもである。
このやり取りを榊原はにやにやしながら見ていた。
2021/3/21~2024/10/12 微修正




