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26 恐怖、邪悪格闘家集団の挑戦クマ! その2

「三戦目はブレードローズ、対、田中たなか雄一ゆういちフェンシング! 始め!」

 ケンジはひとまず落ち着いたので観戦する。

 ローズと田中は非常に似たスタイルの剣士だった。

 二人は睨み合いから、探るように少しづつ剣を交え始める。

 田中は薄い防刃防具をつけている。ローズもヒーロー装備なので防御は硬い。

 しかし、田中は余裕の表情だった。彼は頭部には防具をつけていない。素性隠しのアイマスクだけである。

 ローズの剣は普通の金属とは違い、かなりの強度。しかし、田中の剣は安っぽい細剣だった。

 腕前は大きな差がない。

 普通に考えて、ローズの方が有利だった。

 だが、田中は自信満々でニヤニヤしている。 

 翔一は不思議に思って霊視した。

(死霊?)

 田中は黒い不気味な影と一緒に剣をふるっている。剣は漆黒のオーラに包まれ、異様な力を発していた。

 激しく攻防を繰り返す二人。

 火花が飛び散る。

 しかし、

(死霊が田中をアシストして、剣術が徐々にうまくなっていくクマ……)

 ローズはじわじわと田中に圧され始めていた。

 田中はローズの剣術をすぐに理解すると、完璧に防ぐ。

 形勢は一気に崩壊する。

 ローズは隅に追い込まれた。これ以上下がると負けが確定する。しかし、下がらなければ……。

 いやらしい笑い顔が田中の顔にへばりつく。

 田中はローズを嬲り始めた。

 小さなけがを負わせて、楽しみ始めたのだ。

 ザシュ!

「う、く」

 ローズの服の装甲が薄いところから出血し始める。

「いいのか、さっさと場外に出ないと。死ぬかもしれないぞ」

 ことごとくローズは剣技を封じられ、小さな切り傷を作られる。

 舞う刃。飛び散る血。

 既に、一方的な展開だった。しかし、

「私はヒーロー! 人質を見捨てたりはしない!」

「口先だけはいっちょ前だな」

 ローズは気力を燃え立たせて構えを変える。彼女の気迫に警戒し、一歩下がる田中。

「必殺、ローズフラッシュ!」

 起死回生の剣技だった。

 身を捨てて相手を倒す大技。

 しかし、田中には手に取るように動きが見えている。おびえ顔がすぐにニヤツキ顔に替わった。

(ローズさん、よくいったクマ、あなたを見捨てない!)

 翔一は精霊は間に合わないと思い、『エルベスの瞳』を握り締める。

 神から下賜された圧倒的な光が一瞬だけ会場に満ち、悪霊を撃つ。

 田中に憑依していた悪霊は光から逃亡した。

 それは必死のローズフラッシュとタイミングをいつにしていた。

 パキン!

 田中の剣が折れる。

 そして、ざっくり胸の防具が割れた。

「俺の、俺の剣が!」

 田中は驚愕の顔。ショックの余り、しりもちをつく。

 ローズは荒い息を吐きながら、剣を田中の首に突き付ける。

「勝負あり、ブレードローズの勝利!」

 司会が叫ぶと、黒服たちが拍手する。

(神様の光、ばれなかったクマ)

 ほとんどの人はブレードローズの必殺技が大いなる光を発したと勘違いした。

 ローズに治癒精霊を纏わせる。

 彼女は疲れきって、倒れるように座り込む。

 十文字が翔一をじっと見ていた。

 彼だけが異変の真相に気が付いていたのかもしれない。


「さあ、お前の番だけど、どうするよ。俺の助力を受けるか?」

 ダーク翔一が精霊界で何かを取り出す。

 泥粘土で作った人形、ボクサーの姿を器用にまねている。

「ダーク君、人形作り上手くなったクマ」

「おまえの対戦相手、大藪おおやぶつよしだったか。あいつの人形だ。奴の汗を練り込んだから呪力は高いぞ。こいつにいじめを行えば奴は戦えなくなる。お前の不戦勝だ」

「卑怯ではあるけど魅力的クマ。ぼくはお母ちゃんに上位に行くなといわれている。あいつに普通に勝つと、四級ではいられなくなるクマ」

「じゃあ、俺のプランに従え、こいつに呪詛を送って戦えなくしろ」

「具体的にはどうするクマ」

「こいつのトランクスを下げて、尻に下剤を流し込む」

「……勝負とは残酷クマ。それでお願いします」

 翔一がそういうと、ダーク翔一は大藪の人形のトランクスを下げ、尻に浣腸を施す。

「圧倒的な残虐、フフフ」

「さすがに、僕もこれは心が咎めるクマ」

「これが勝負の世界なんだ」

 大藪を見ると、顔が真っ青になっている。腹を抑えて脂汗を流している。

「四戦目。治癒クマー、対、大藪強、ボクシング……大藪どうした。顔色が悪いぞ」

「僕は闘うクマー。棄権は撤回クマァ!」

 どう見ても素人くさいファイティングポーズを取る治癒クマー。

 大藪は必死に道場に立つ。

「ちょっと足りないみたいだな。もう一本行っとくか」

 ダーク翔一が、更に浣腸を人形に突っ込む。

(これは残酷すぎるクマー!)

 大藪はミイラみたいな顔になると、全速力でトイレに向かって駆け抜けた。

「……対戦相手が逃亡したクマみたいですが?」

「うむ……どうも釈然とはせんが、君の勝利みたいだな」

 老人は渋い顔でうなずく。

「治癒クマー不戦勝で勝ちました。クマ!」

 まばらな拍手とブーイングを受けたが、

「勝てば官軍クマ。今どんな気持ち? どんな気持ち?」

 治癒クマーは格闘家集団に挑発を行うのだった。


「ようやく俺の番が来たか。大将戦だ。蹴散らしてやるぜ!」

 吼えるれつ銀河ぎんが

「五戦目、大将戦。『銀河剣』烈銀河、対、十文字じゅうもんじ桀鉄けつてつ、虚空流空手。始め!」

 烈は剣を抜く。そして、十文字は鉄の小手を嵌めた。

「武器を使うのなら、俺も防具くらいはつけよう」

 重々しくいう十文字。のっそり立ち上がると、身長は二メートル以上ある。烈銀河は百七十センチ程度。

 十文字は圧倒的な迫力だった。総髪に空手胴着、鉄の小手。

 銀河スーツを着た烈銀河の方が装備は上だが、ひ弱に見えた。

「背の高さが勝敗の原因ではないと証明してやるぜ! 行くぜ! 銀河連斬ッ!」

 烈銀河得意の速攻斬りだ。

(この剣術はそれほど悪くないクマ)

 と翔一は思うが、無駄なポーズが意味不明で、そもそもあまり速さがない。

 カンカンカン!

 小手で軽く弾かれる高速剣。

 攻撃を全て無にされて、烈銀河は大きく隙が開いた。

「むん!」

 十文字のカウンターがいきなり繰り出される。

 烈の懐に入った強烈な至近の殴り。

 完全に動きを見切っていた。

「ゲボォ!」

 腹にめり込む拳。

 膝をつく烈。

 そして、必殺の回し蹴り。

 烈は吹き飛び、道場の外に転がって、壁に激突して止まった。

「い、生きてるクマ?」

「霊魂は離れていない、でも、大けがだ。気を失っている」

 ダーク翔一の分析。

「治癒するクマー。嫌な奴だけど見捨てることはできない」

「十文字桀鉄の勝利。これでヒーロー三勝、格闘家Xかくとうか えっくす二勝。二巡目突入の前に一時間の休憩をはさむ」

 老人の宣言と黒服たちの拍手。

「はあ、烈の奴、口先だけだったわ」

 赤嶺あかみね明日香あすかのため息。


 ヒーローたちは古い学校の校舎に案内された。

 そこで休憩できる。

 簡単な食事も用意されていた。

「一応、私たちの勝利だけど、向こうの方が戦える奴が多いわ」

 ローズのつぶやき。

「そうね」

「お母ちゃんのお弁当食べるクマー」

 翔一は新しい重箱を出しておにぎりを頬張る。

「美味しいクマー」

「私も、一つちょうだい。あいつらの料理食べる気がしないの」

「毒は入れてないかもしれないが、絶対ともいえないか」

 ブレードローズと明日香は敵の用意した軽食には手を付けず、翔一の母が作った弁当を少し貰う。

「なかなかおいしいぞ」

 明日香が口に物を入れながらしゃべる。

「そうでしょう、そうでしょう、クマクマ。多めに作ってもらってるから、どんどん食べてくださいクマ」

 ケンジと烈は寝かされている。

 治癒精霊で命の危険はないが、戦える状態ではなかった。

 黒服が入ってくる。

「お伝えします。大藪おおやぶ只野ただのは棄権します。そちらは、スターストライカーケンジ殿と烈銀河殿は棄権でよろしいか」

「ええ、そうして」

 翔一は一つ思いついたことがあった。

(下剤攻撃も悪くないけど、あの大将の大男には通じないクマだろう……そうだ!)

 このままでは十文字相手には必ず星を落とすことになる。明日香もローズも奴には勝てない。

 そして、ダーク翔一もあの男の呪い人形は作っていない。そもそも、十文字は小手先の術が通じそうもないオーラを持っていた。

 そう考えて、翔一しょういちは一つの提案をする。

「おじさん、僕は参戦しないけど、お兄ちゃん呼んだからそちらとお願いするクマ」

「兄……ですか。どのようなお方です?」

「熊です」

「はあ?」

「この子は元々戦う予定はなくて、棄権するつもりだったから、その方がいいんじゃないか、戦ってる映像が欲しいんだろ?」

 明日香が助け舟を出してくれる。

「少しお待ちください。ご主人様と相談します」

 男は廊下に出ると、通信機で話し始めた。

「兄って、クマちゃんそんな方がいたの?」

 ブレードローズがお茶を飲みながら聞いて来る。

「うん。恥ずかしがり屋でヒーローはできないけど、こっそり皆を応援したいクマっていってました」

「クマちゃんの兄貴って毛皮とか色同じなの? モフれる?」

 明日香が興味津々の顔。

(やっぱり、前のこと完全に忘れているみたいクマ……ま、やりやすくていいかな)

 やがて、黒服が再び来る。

「いいでしょう。許可が出ました。あと、招待されたヒーロー側のご希望で対戦相手を決める事になっています。早めにお決めください」

「十文字さんは僕の兄がお相手しますクマ」

「じゃあ、空手の人は私よね、同じ人と相手するのは駄目なんでしょ?」

 ブレードローズが問う。

「ええ、そうなりますね」

 黒服がうなずく。

「じゃあ、私がフェンシングの田中。空手とやりたかった」

「明日香さん、武器は使うクマ?」

「昔、薙刀やってたけど、それぐらいかなぁ」

「相手は武器を使うから、やはり、素手では苦しいクマ。嫌な奴だけど達人だよ」

「といっても、武器が無いから」

「僕が裏山で作ってくるからちょっと待って」


 翔一は学校の裏山に入る。

 黒服が監視の元なのが癪だが仕方がない。

(映像とか撮られたら厄介だから、機械精霊纏わせておくクマ)

「ついでに狂気精霊憑依させて、無害にしておけ」

「ダーク君さすが」

 監視の男は狂気聖霊に取りつかれると、地面に向かって涙を流しながら謝り始める。

 翔一は剣を出して、オーラの強い真っ直ぐな若木を伐る。

「枝を削いで、薙刀に生まれ変わるクマー」

 魔法の長ナイフを取り出し、柄を外して先端に括りつける。前の世界から持って帰った武器の一つだ。乱戦に時々使っていた。

「このナイフ……確か電撃の追加効果あったクマ」

 泣いている男の尻に軽く当てると、電撃が走る。

「はうぅ!」

「この世界でも効果あるクマ」

「柄にも強靭精霊入れとけよ。俺が呼んでくるから」

「そうするクマ。受祚じゅそ物にする」

 翔一は若木の柄に呪紋を施し、精霊を呪縛する。

 振り回してみる。

「なかなか悪くないクマ」

「あのブレードローズも強化した方がいいぞ。空手の奴は強敵だ」

「時間が無いから精霊を受祚憑依させるクマ。体に迅速精霊、鎧に強甲精霊、剣に力精霊。ダーク君呼んでくれるクマ?」

「ああいいぜ。狂気精霊はもういいだろう」

 翔一が校舎に入ったと同時に、黒服は正気に戻る。


「へえ、即席の割にはなかなかの出来じゃないか」

 薙刀を振り回す明日香。

 ダーク翔一がブレードローズに精霊を憑依させている。彼女の長い髪をこっそり採取し、それを使って精霊への抵抗を抑えながらである。

 ローズは不思議そうな顔をしているが、気が付いてはいない。


「ヒーローの皆様、そろそろお時間です。治癒クマー殿の御兄弟はいつお見えになります?」

「恥ずかしがり屋さんだから、直前に来ますクマ。僕たちは以心伝心でつながっているから大丈夫」

「……時間までに来なければ、不戦敗ですから。お気を付けください」

 不審の目で翔一を見る黒服。

 ヒーローたちは会場に向かう。

「明日香さん、変身して戦わないクマ?」

「ああ、あたし、あんまり変身得意じゃないんだ。月が満ちた前後だけかな。変身できるの」

「……」

 翔一が見た感じでは、彼女は少し精霊界とのつながりが弱い。

 祖霊もあまり守っていないようだ。

「お寺とか神社とか参拝して、なんでもいいけど霊的な守りを強化した方がいいと思うクマ」

「あんた、術者だったよな、時間があったら、色々教えてくれよ」

「学校があるから、それ以外の時間ならアポ取ってほしいクマ」

「中身の人は学生だったな。そういえば」


 会場は先ほどと同じ状態。

 人々が見守る中、ブレードローズととまり征四郎せいしろうが向かい合う。

 泊は両手にトンファーを持っていた。

「二巡目、第一戦。ブレードローズ、対、泊征四郎。始め!」

 ブレードローズはあちこちに包帯を巻いている。治癒精霊のおかげで問題はほとんどないが、見た目には痛々しい。

 対して、泊は全くダメージがない。

「ローズ連撃!」

 凄まじいブレードローズの連続突き、泊は必死の防御を行う。

 ローズの動きは先ほどより良い。泊はたじたじだった。

 しかし、寝転ぶように体を地に落とすと、必殺の蹴りを繰り出す。

 わき腹を蹴られそうになったが、ぎりぎりでかわす。体を少し掠めた。

「うっ!」

 打撃は強烈だったが、装甲が増しているので、実害はなかった。

 戦いは激しく左右に動く泊をローズがほんろうされる展開になった。

「ちょこまかと動くなあいつ」 

 明日香がつぶやく。

 しかし、徐々に目が慣れてくると、ローズは反撃に出た。

 剣による連続突き。

 ガガ!

 腕や胸を刺すが、よく見ると薄い金属の防具を道着の下に着こんでいる。

 元より、ローズは殺す気もなく、けがを負わせて降伏させるつもりだった。

 その、温情が仇になった。

 防具の効果と剣の手加減で泊は全くダメージを負わず、逆にローズの隙を突いた。

 泊はさっと後ろに跳ねると、トンファーのスイッチを押す。

 ポンっと軽い音がした後、ワイヤーが先端から飛び出し、ブレードローズの剣をからめる。

「なに?! キャ!」

 電撃が彼女を襲う。思わず剣を落としてしまった。

 にやりと笑うとトンファーを捨て、ローズにとびかかる泊。

 抱き着いて、締め上げる。

 こうなってしまっては彼女に勝ち目はなかった。

「へへへ、たっぷり楽しませてもらうぜ」 

 美女に抱き着いて、体をまさぐる。

 ローズは首を絞められて、意識が飛ぶ。

「ローズ、動けませんね。泊征四郎勝利!」

 老人が告げると拍手が起きる。

 にやにやしながら泊はローズを嘗め回していた。

「この女、俺が貰う」

「いつまで触ってんだよ、この変態野郎!」

 明日香が油断しきっている泊の肩を、薙刀の柄でぶん殴る。

 ボコ!

 海老ぞりになる泊。

「うが! 鎖骨が、折れたぞ!」

 じたばたする。

「赤嶺さん。乱暴はやめてもらおうか。人質がいるのを忘れては困る」

 老人が諫める。

「あたしはプロレスだよ。場外乱闘はルール内。それに、あいつはセクハラやってた」

「勝者が敗者を嬲るのは当然の権利です」

 老人は根本のモラルが欠落しているようだ。

「なんて奴らだ」

 呆れる明日香。

「……まあいいでしょう、油断した姿を晒した泊征四郎にも問題はありました」

 老人がそういうと、この件は不問となる。

「クマクマ」

 翔一はひょいとローズを抱きかかえると、自陣営の片隅に持ち帰る。

 ローズはぐったりしているが、意識を失っただけだ。

 絞められた部分が少し内出血していたので、治癒精霊を纏わせる。

 翔一はタオルを敷いて、ローズを寝かせた。




2021/2/28~2024/10/1 微修正

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