表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/291

25 恐怖、邪悪格闘家集団の挑戦クマ! その1

「諸君、今回の任務は婦女子救出だ。詳細は端末を見てくれたまえ」

 暗黒司令が、トビ三毛を撫でながらソファーに座っている。

 端末画面に見える司令の顔は影になっていてはっきりしない。

 彼は日本防衛会議の最高責任者である。正体は不明だが、その辣腕ぶりは一定の評価があった。

 彼の指揮の元、いくつもの浸食現象が撃退されている。

 警察自衛隊との連携も巧みであり、個性的なヒーローたちを纏める能力が高い。

 しかし、彼は自らの素性を隠している。理由は不明だった。

 今も暗黒司令の顔は影になっている。いつもシルエット以外見えないために「暗黒司令」という名を得ていた。

 軍の高官というような服装をしている。

 白い手袋。低い渋い声。

「フン。つまらない任務だったら断るからな。俺に似合う強敵が必要だぜ」

 ふんぞり返って、机に脚を乗せるれつ銀河ぎんが

(うわー、またこいつクマ。パンツ一丁晒し喰らっても、反省足りてないクマー)

「ブレードローズと、スターストライカーケンジ。そして、私ね。肉弾の奴ばかり」

 赤嶺あかみね明日香あすかがつぶやく。

 明日香はそのままプロレスラー兼ヒーローとして参戦している。

 人狼の本性は日本防衛会議には申告しているが、ヒーローの隠した正体として登録しているので、表向き、彼女の人狼としての能力は知らせないことになっていた。

「赤嶺明日香さん、初めまして、僕はスターストライカーケンジ。こちらは、ブレードローズさん」

「明日香さんよろしく」

「ああ、あんたらは下級だから無理はするなよ」

 明日香の不遜な態度に、若干、固まる二人。

「どうでもいいけど、また、そのチビのクマ野郎がついて来るのか」

 烈銀河は憎々し気に治癒クマー翔一しょういちを見る。どうやら、以前テロリストに酷い目にあわされた責任を翔一に転嫁しているようだ。

「烈さん、彼は治癒専門だからついて来てくれて助かるのよ」

 ブレードローズが翔一の肩を持つ。

 相手が男なら、胸ぐらの一つでもつかむ烈だったが、さすがにそれはやらない。かわりに、床に唾を吐く。

「クマクマ」

 翔一はあえて感想はいわなかった。

「あいつ全く反省してないなぁ。パンツ一丁晒しでもへこたれないとは、腐った根性だけは認めてやるぜ。しかし、次、お前は地獄を見る!」

 ダーク翔一の声が精霊界から聞こえてくる。

 見ると、ダーク翔一は精霊界からモフ手を伸ばして、キッチンペーパーの紙片に烈の唾液を染み込ませていた。

(汚いクマー)

「テロリスト共の要求は一読して頂こう」 

 暗黒司令の指示で資料を開く。

「えーっと、『我ら、格闘家集団Xかくとうかしゅうだんえっくす。○月×日△時、某廃墟に五名のヒーローを招待する。銃器とエネルギー兵器化学兵器を使わない二級下位以下のヒーローを派遣されたし。尚、断ったり負けた場合どうなるか、添付資料のこの女性が。フフフ』ということですクマ」

格闘家集団Xかくとうかしゅうだんえっくす。ね。つまらん奴らだぜ。私が叩きつぶしてやる」

 拳を鳴らす明日香。

「条件が細かいけど、超能力とか魔法はいいのかしら」

 ブレードローズがつぶやく。

「二級下位以下なら勝てるという奴らなりの見切りだろう。私はこのような外道よりヒーローの方が強いと信じている。諸君の健闘を祈る」

 暗黒司令がまとめてしまう。

「おいおい、司令さん。ちょっと人数が少ないだろう」

 烈銀河が文句を垂れるが、

「すまないが、今は人材不足なのだ」

「……また恐竜か」

 明日香がつぶやく。

「治癒クマー君を大将にしてそれまでの四人で奴らに先勝してくれ。奴らは団体戦形式が好きだと過去の対戦から判明している」

「資料によると、過去一度同じ事件があって、ヒーロー側が負けているわ。可哀想に、人質に取られた女性たちは……」

 ブレードローズが資料を見て眉を顰める。

 人質の女性はいまだに行方不明、政府に写真が送られてきたという。

「浸食最初期の頃に彼らとの戦いがあった。防衛会議の立ち上げもなかった時代だ。その時は残念ながらまともなヒーローはほとんどいない状況、しかし、今は彼らに簡単に負けることはないだろう。私は信じている」

「へへ、人質の女はアダルト女優になるしかねぇな」 

 資料の写真を見て下品この上ない発言をする烈銀河。

 女性陣が厳しい目で睨みつけるが、烈には通じていない。

「今回はこの女性、どこかで見たな」

 ケンジがつぶやく。

 翔一も見る。

「!!」

 そこに写っていたのは姉の御剣山みつるぎやまそのだった。

(確かモデル活動で泊りがけでどこかに行くといってた。お母ちゃんは知らないクマ)

「人質の女、悪くねぇな。今頃どんな目に合ってるのか楽しみだな」

 烈銀河の無神経すぎる言葉。

(お姉ちゃんは絶対助けだすクマ!)


 ヒーローたちはスカイレンジャーヘリで現地に急行する。

 荒廃した山間部の集落で、昔の学校があった場所だ。

 雑草が生い茂り、建物は急速に老朽化している。

 しかし、件の場所はまだ壊れてもおらず、健在だった。

「古い小学校よね」

 ブレードローズが少し不安げにいう。

 無人ではないかという雰囲気だったが、体育館に入った瞬間、大勢の人間に囲まれた。

「ようこそ、ヒーロー諸君。我らは格闘家集団Xかくとうかしゅうだんえっくす

 覆面黒服の男たちが十数名。体育館のステージの前には五人の格闘家らしき、これも覆面の男たち。

 そして、縛られた園がステージの上に座っている。

 意識を失っているようだ。

(とりあえず、命に別状はなさそうクマ)

 マイクを持った男。

 壮年の白髪の男。がっしりした体型の六十代くらい。彼が、この会を仕切るリーダーらしい。

「今日はヒーローたちと格闘家集団による団体戦を行います。先に五勝した方が勝ちとなる。全員が誰かと戦って、相手を変えてもう一戦する。十戦してまだ勝負がつかない時は、我らの勝利とさせてもらう。その代わりですが、そちらが対戦相手を決めていただきます。どうですかな。濃厚な戦いの場となったでしょう」

 黒服たちが一斉に拍手をする。

「おい、大けがでもしたら、二戦目なんてできないだろう」

 烈銀河が文句をいう。

「その場合、出場できないものの不戦敗となります」

「……」


 格闘家達は、

『大将、十文字じゅうもんじ桀鉄けつてつ 虚空流空手

 副将、大藪おおやぶつよし ボクシング

 中堅、田中たなか雄一ゆういち フェンシング

 次鋒、とまり征四郎せいしろう 玉真空手

 先鋒、只野ただの平八へいはち 柔道』

 対して、ヒーロー側、

『大将、烈銀河

 副将、治癒クマー

 中堅、ブレードローズ

 次鋒、スターストライカーケンジ

 先鋒、赤嶺明日香』

 相談の結果、このような順番になった。

「あたしが最初に出て全部倒してやるよ」 

 赤嶺明日香はそういうが、一人でどんどん倒していくルールではないことを言葉で理解しない残念脳だった。 

「いやー、あの、ルール間違ってると思いますよ」

 ケンジがそういっても、明日香は不思議そうな顔をするだけである。

「俺が大将を倒して、二級ヒーローの真の強さをわからせてやるぜ!」

(烈銀河ウゼークマ)

「クマちゃんは不戦敗でいいのよ。治癒専業なんだから」

 ブレードローズが心配そうに見る。

「皆さんが頑張ってるのに、僕も戦うクマ」

 ふと明日香を見る。

 彼女は翔一の実力の一端を見たことがあるはずだったが……。

(気のせいか、彼女は僕の力のことを忘れているみたいクマ。まさか、空気読んで演技?)

 しかし、明日香は全く何も考えていないように見える。

 ナチュラルに頭悪い系女子なのかもしれない。


 対戦相手が決まると、柔道場のような場所で戦士たちは集められ、戦の準備とばかり、軽く動いて汗を流している。

 格闘家軍団は全員仮名であるという。更に黒い覆面やアイマスクをしているので正体はわからない。

「あいつら、名のあるスポーツ選手じゃないかしら」

 明日香が彼らを観察しながらいう。

「確かに、みんなすごい体してるクマ」

「鍛え上げた技を使いたい、でも、ヒーローとして悪と戦うなんてまっぴらってタイプの奴らなのよ。悪と戦うのって命がけだからね、ヒーロー相手だったら、謝ったら許してくれる奴多いし」

「そういうの見越して勝ちの快感が欲しいクマですか……手加減する必要ないですね」

「そういうことよ。でも、あんたは不戦敗選んどきな」

「クマクマ」

 ダーク翔一が何やら精霊界で画策している。

 ひと汗かいている奴らから、こっそり汗を回収しているのだ。

(また、何かやってるクマー)

 敵の大将十文字だけはどっしりと座り、じっとヒーローを睨みつけている。


 会場にはいくつものカメラが設置されている。

 たぶん、ネット会員に有料で視聴させているのだ。

「最初の戦いは、先鋒同士、ヒーロー赤嶺明日香、プロレスリング。格闘家Xは只野平八、柔道」

 只野はずんぐりむっくりした体型の男で背は明日香より頭一つ大きい。そして、全身、気持ち悪く体毛が濃い。

「明日香ちゃん。僕、君のこと大好きなんだ。しっかり、抱き合って寝技やろうよ」

 よだれを垂らしている。

「うわ、キモ!」

(うわ、キモ! クマ!)

「始め!」

 老人の声とともに戦いが始まる。明日香はおっさんに抱き着かれたくないので、長い手足を生かして、拳と蹴りで小刻みにダメージを与えていく。

「はぁ! は!」

 只野が突進すると、華麗に跳んで掴みをかわす。大きな隙に連続でチョップが入る……が効いていない。

(明日香さんは人狼。人間形だと多少落ちるけど、パワーは男よりあるクマ、あのおっさん相当頑丈クマー)

 肉薄する只野に逃げきれず、結局、立った状態で組み合うことになる。

「横四方固めがいいかなぁ、縦も捨てがたいよね。ハァハァ」

 スケベそうな寝技をかけるつもりらしく、明日香の足を必死に取ろうとする。

 明日香は素早い足さばきで、只野の変態的な動きを封じた。

「おい、あのねーちゃん助けてやろうか」

 ダーク翔一の声。

「明日香さんはあんな雑魚に負けないクマ」

 背も力も頑強さも只野が勝っていた。

 しかし、狙いの技をかけるために無茶をやっていたのだ。

 焦れて、両手で足を取りに行く。

「くらえ!」

 明日香の膝が只野の鼻で爆発した。盛大に噴き出す鼻血。

 衝撃でふらふらした只野のこめかみを、明日香のかかとが粉砕する。

 脳に衝撃を受けて、只野は昏倒した。

 手下の黒服たちが拍手を送る。

「ち、馬鹿め、スケベ根性出すからだ」 

 敵の副将、大藪が道場に唾を吐いた。

 泊と田中はタバコを吸い始める。

 さすがのヒーロー陣営も顔を見合わせた。

「あいつら、マナーもモラルも学んでないんだな」 

 ケンジが呆れている。

「違うね。上の人に強制されたから、こっそり破るのが快感なんだよ。つまらん奴らさ」

 明日香はタオルで汗を拭きながらそういった。


「二戦目は次鋒。スターストライカーケンジ。対、泊征四郎、玉真空手。始め!」

 道場に立った瞬間、挨拶もせず始めさせる司会。

 根本のモラルが欠如しているのだ。

 泊征四郎はすっきりとした体形で、いかにも空手家という雰囲気である。身長は只野より低い。

「僕は正義のヒーローとして、君たちみたいな考え違いの奴らをこの拳で矯正してやる!」

 スターストライカーケンジと泊の体格はほぼ同等だった。

「ふ、やれるもんならやってみろよ、三下」

 空手の構えを取る泊。

 彼の玉真空手は一般に非常に多い流派で、日本全国で大勢の人間が習っている。

 もちろん、心技体、武術家として厳しく鍛え上げられているはずである。

 しかし、この男は平然と神聖な道場でタバコを吸い、相手を罵り、一礼もしない。

 ケンジは怒りを感じて、拳にスターパワーを矯める。

 そして、泊に連打を繰り出した。

「流星拳!」

 高速連打だが、泊は器用にいなしてしまう。

 そして、わき腹を狙った蹴り。

 ケンジも素早く逃げて蹴りをかわした。

 意外と丁々発止の戦いだった。

(実力は同じくらいクマ)

 翔一の見立てはそうだった。

 立ち技の勝負は一瞬で着く。

 泊はひょいっと拳をかわして、背中を見せて後ろに倒れ込む。

(誘いだ! ケンジさん、騙されないで)

 しかし、あっさり誘いに乗って隙を見せて迫るケンジ。

 泊は倒れたように見せて、強烈な蹴りを地の底からケンジの腹に叩き込んだ。

(カポエイラ? 似てるけど違うような)

「ぐふ!」

 膝をついたケンジ。

 泊はゆっくり近づくと、拳を叩き込む。

 一撃で気絶したが、更に、何度も殴った。

「おい、もうケンジは負けたぞ、止めろ」

 明日香が怒鳴るが、誰も止めない。

 にやにや顔で最後の渾身の拳を叩き込もうとする泊。

 翔一はエアーエレメンタルを出して、ケンジを寸前で助けた。

(魔力の見えない人には転がって逃げたように見えたと思うクマ。多少無理はあるけど……)

「え、なんだ!?」

 泊も人々も唖然としていたが、場外に出たケンジが負けなのは明白だった。

「泊征四郎勝利!」

 司会が告げると、黒服たちは拍手する。


「顔面の骨が折れてる。医者に行った方がいいと思うよ」

「わかってるけど、治せないか」

 明日香が心配そうに聞く。

「頑張るクマ」

 妖術で骨をくっつけて、治癒精霊を纏わせる。

「……あ」

 ケンジは意識を取り戻したが、さすがに戦うのは無理だろう。

「眠った方がいいクマ」

 睡眠精霊を纏わせると、ケンジはすぐに寝息を立てる。

「三戦目はブレードローズ対田中雄一フェンシング!」

 司会の声がこだまする。

 極悪格闘家とヒーロー軍団の戦いは始まったばかりだった。




2021/2/27~2024/10/1 微修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ