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24 暴走族と勇者

「おい、てめぇが御剣山みつるぎやま翔一しょういちか」

 翔一と京市きょういち優次ゆうじが一緒に下校していると、数人の性格の悪そうな少年が二人の行く手を遮る。

 背が少し高く、派手なジャケットとパンツ。いかにも不良という雰囲気。

「はあ、そうですけど」

「翔一君」

 とぼけたような雰囲気の翔一に対し、京市は大柄な少年たちが怖くて、思わず翔一の背後に隠れた。

「だったら、ちょっとこい。てめぇに用があるんだよ」

「彼は関係ないですよね、京市君、悪いけど一人で帰って」

「でも……」

「いいからいいから」

 翔一は笑顔で促すと、京市はもじもじしていたが、見送る。

 少年たちは翔一を囲むようにどこかに連れて行った。

 途中でさらに不良少年が二人増えて四人。

 雰囲気を見る。

 彼らも喧嘩などで、多少場数を踏んでいる感じだった。

 もちろん、人を殺したことなどない。

(そこまでの悪じゃないけど)


 翔一が連れてこられたのは人気のない公園だった。

 近所の神社と繋がっていて、そこそこ広い森がある。

 子供の遊び場があるような場所に、バイクにまたがった少年がさらに二人いる。

 目つきの悪い少女も二人いた。

(暴走族、かな)

 彼らは全員学校の生徒ではない。見たことがない顔だった。

(六と二。小柄な僕を相手するにしては多すぎる、よね)

 少年たちはかなり凶暴そうだ。

 バイクをふかして、大きな音を立てる。脅しの一環だ。

 バイクには何かロゴが書かれている。

(スコーピオンズ。暴走族集団の名前かな)

 少女たちは派手な格好で暇そうにしているので、たぶん、暴力や脅迫には参加しないのかもしれない。

「ところで何の用ですか」

「用もくそもねぇぜ、てめぇ、最近調子に乗ってんだってなぁ」

 何のことやらさっぱりわからない。

(僕の親友がいたら、こういう人たちのことが手に取るようにわかるのに……あ、でも、あの人だったら、迷わず殺してしてしまう)

 苦笑する翔一だった。

 しかし、その態度は彼らの癪に障ったのか、

「おい、舐めてんのかチビ!」

 一番カッカしてる奴が胸ぐらをつかむ。

 周りの連中は薄ら笑い。

「怖いです、やめてください」

 無表情に答える翔一。

「おい、やめてほしかったら誠意出せ」

「誠意?」

 若干、小柄でイケメンの男が横から声をかける。ビビらせて、金をとるのだろう。

(金が目的なのかな……違う気もする。でも、払わなかったら殴るのかな)

「わかってるだろ、チビ」

 胸ぐらをつかんだ男が右手を振り上げる。

 翔一はとっさにそいつの懐に跳び込んだ。

 びりびり、シャツが破ける。

 男のベルトを掴んだが、技が出ない、

(あれ、柔術ってどうやるんだっけ)

 剣術はさんざんやったが、教えられた柔術の修業を怠っていた。

「ち、放せ!」

 叫ぶ男。

 翔一は面倒になって、膝で股間を蹴り上げた。

「グハ!」

 怪力だ、男は一撃で悶絶する。

(しまった、やりすぎた!)

「心配するな、気絶しただけだ」

 ダーク翔一の声が精霊界から聞こえて安心する。

 男が倒されたのを見て、血相変えて、残りが迫ってきた。

「やりやがったぜ、こいつ」「取り囲んでタコ殴りにしろ!」

 翔一は慌てて森に飛び込む。

 神社と繋がっているが、下生えが多く、移動し難いが、身を隠すにはちょうどいい。

 翔一は稲妻のように草叢に身を隠すと、

「クマクマっと。これで奴らに天罰下すクマ」

 隠密が得意な子熊に変身する。

 隠密精霊を呼んで、身をひそめた。

「おい、あいつどこ行きやがった」

「一瞬で見えなくなったな」

「懐中電灯もってる奴いないか」

 まだ夕方だが、この神社は照明も弱く暗い。

「バイクのヘッドライトで照らせよ」

 翔一は木の上に登ると、忍者のように素早く跳んで移動する。

「クマクマ」

「今なんか変な声聞こえなかったか」

 シュッ!  シュッ!

 かなり大きな石が飛んでくる。バイクに命中して、バイクに乗った二人は衝撃で転倒した。

「うわ!」「ゲほ!」

 バイクを狙った石は特に力加減せずに投げたので、バイクは破損する。そして、石が飛び散って、乗っていた少年は胸に打撲を受けた。

「おい、バイクが壊れたぞ、大丈夫か!」

 一人の少年が駆け寄るが、バイクの二人は痛くて動けないらしい。

(あと二人クマか……)

「木の上に何かいるぞ!」

 翔一はさっと移動して、彼らに補足されない。小刻みに隠密精霊も張る。

「クマクマ」

「なんか黒くて、人間じゃないみたいだ……」

 一人が青い顔になる。怯えて幼い顔になった。

(でも、一人を大勢でリンチしようなんて奴らに同情の余地はないと思うクマ)

 翔一はこぶし大の石を軽く放物線で投げる。

 見事、健在している少年のみぞおちに命中した。

「ゲほ、ぐほ」

 そいつは慌てて物陰に隠れる。

 もう一人も怖くなったのか木の陰に隠れた。

「クマクマ」

 翔一は隠れた少年たちの見えている部分、手や足に強めに小石をぶつけた。

「うわ、くそ手が!」

「あ、つ、いて! 足が!」

 見ていた少女たちは怖くなったのか、公園から走って逃げようとしている。

「逃がすかよ、ダークボルト!」 

 ダーク翔一が闇の球を少女たちにぶつける。

「ダーク君! やりすぎだよ!」

「心配するな、精神ショックだけだ」

「……それならいいけど、人殺しは絶対ダメクマだよ」

「わかってるって、俺もそんなことぐらいはな」

 少女たちは闇の球を喰らって、意識が飛んだらしく、くたっと倒れる。

 少年たちも諦めたのか、慌てて逃げようとするが、

「フハハ、ダークボルト連弾! 弱い奴には圧倒的勝者! それが俺」

 精霊界の中で、腕を組んで胸をそらす黒い子熊。

「それ、自慢にならないクマー」

 精霊界からダーク翔一が魔力を発射する、実際はチビクマが撃ったのだが、少年たちは次々と倒れた。


「最初から、こうやっておけば早かったクマかな」

「石をぶつけて、絶望を与えてからだから精神ショックがよく効いた面もある。ところでどうするよ、こいつら。お仕置き必要だろ」

「うーん、僕は敵を倒すのはやれるけど、お仕置きってのは苦手クマ」 

「じゃあ、俺に任せろ」

「嫌な予感しかしないけど、仕方ないクマ。殺しだけは厳禁だよ」

「わーってるて」

 ダーク翔一はエレメンタルなどを呼ぶと、嬉々として少年たちにきつめのお仕置きを施しに行く。

 見ていると、クマのぬいぐるみに憑依して、実体を作って何かやるようだった。

「本当に大丈夫クマ?」

 翔一はそういいながら、やりすぎた打撲に治癒精霊を纏わせる。

「心配するな。怪我もさせない殺しもしない。俺の愛溢れるお仕置きを」

「愛溢れるってところは確実に嘘クマー」

「言うなれば、お仕置き芸術かな」

「じゃあ、僕は帰るよ、ダーク君も遅くならないうちに帰ってくるんだよ」

「ああ」

 翔一はそういうと、家に向かう。


 公園を出ると、京市が走ってきた。

 後ろに、体育教師がいる。

「お、御剣山、何もなかったのか。シャツが破れているが」

 筋肉だるまのような体育教師が珍しく知能を使って指摘する。

 確かにシャツは破れていたが、翔一は全く普段と変わらない顔をしていた。

「翔一君……」

「よくわからないけど、怖い人たちだったから逃げたんです。でも、追ってくる雰囲気もないから、脅しだけだったんじゃないですか」

「ふうむ。それならいいが、そのシャツは?」

「逃げた時、木の枝に引っかかったんです」

「それはいいが、お前、その体を……」

「あっと、そうでしたね。ごめんなさい」 

 翔一はすぐに胸元を隠したが、恐ろしい傷跡が見えていたのだ。

 京市はそれに気づいて絶句する。

「翔一君、凄い傷跡が……今の何?」

「何もなかったのなら、もういいだろう。御剣山、またあいつらがくるようなら警察に相談しろ。学校は手に負えないからな」

 無責任なようだが、近年は教師も限界があるという認識に変わりつつある。

 翔一と友人は連れ立って帰った。




 翌日。

 小さな事件があった。

 パンツ一丁で露出した少年六人が、電柱の高いところに吊り下げられて発見されたのだ。

 そして、その下には、縛られて放置された少女二人。 

 吊り上げられた少年たちは特に健康に異常もなかったが、救出には時間がかかり、存分にカッコ悪い姿を晒し続けることになった。

 マスコミまで駆けつけて、思った以上に大騒ぎになる。

「……少年たちは暴走族だったということですが」

「たぶん、敵対組織の報復か何かでしょうね。自業自得ではありますが、警察も犯人の行方を追っています」

「少年たちは何も見ていないという供述です。これだけのことなのに、目撃情報もありません」

「不思議な事件ですが、大きな被害もありませんからねぇ」

「では、次のニュースです……」

 翔一はプチッとテレビを消す。

「犯罪組織は怖いクマー」

 子熊形で、ごろっとソファーに横になる。

「なあに、今の事件……そういえば、うちの学校でも似たようなのあったわね。不良生徒が校庭で……」

 姉のそのが翔一の横に座る。

 汗を拭いているので、ジョギングから帰ったのだろう。

「僕は思うクマだけど、稀にいるじゃない? コートの下はすっぽんぽんっておじさん。あれと一緒だと思うクマ」

「思うクマ、じゃないわよ。そんな変態がいっぱいいるわけないわ」

 園は苦笑する。

 そんな話をしていると、

「園ちゃん、お風呂入りなさい」

 母の声が聞こえる。

 この話題はそこで終わりになった。


 姉が風呂から出た後、自分も風呂に入ろうと、脱衣所に向かう。

 途中の和室でダーク翔一の霊体がごろごろしていた。

 尚。彼は風呂トイレ家族の私室には入れない。プライベートエリアには小さな結界を施したのだ。

「ダーク君、そういえば、あの人たち僕にどんな用事があったか知ってるクマ?」

「ああ、お仕置きに夢中であまり調べなかったなぁ。でも、翔一をぶん殴れって奴らに依頼した人間の顔は見た。観相精霊使ってな」

「へえ、どんなビジョンだったの?」

「今、見せてやるよ」

 精霊と接触して、一つの映像が脳に映る。

 少年だった。

 見た目は、以前、翔一に因縁をつけていた不良少年の小倉おぐら

 しかし、異様にニタニタした顔で人間と思えないほど引き歪んでいる。

(あ、この顔の感じ、どこかで見たような……)

 不気味な感じに少し寒気がしたが、これ以上のことはわからないようだったので、すぐに忘れてしまった。


 その後、翔一を脅迫した暴走族は「パンイチ団」というあだ名を貰うことになり、解散になったという。

 元メンバーたちはひっそりと街を去り、中小企業に就職した。

 その後、彼らはまじめに働き立派な一市民となる。

 平和にことは終わった。




2021/2/25~2024/10/1 微修正

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