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20 コンサート会場襲撃 その2


「ねえ、あれ、なんだと思う」

「さあ、でも悪そうな魔術だったわよね」

「そうでもないわ……」

 彼女たちの会話は控室に戻ってから行われたので、治癒クマー翔一しょういちは気が付かなかった。


 一仕事終えて、気分よく控室に入る治癒クマー。

「皆さん、ひじりさんの魔術は無事終わりましたクマ。安心してステージに立ってください」

ひじり美沙みささんって、さっきから、自衛隊の指令室から出てないわよね」

「それに、魔術やってたのあなたでしょ」

「見てたのよ……」

 赤青緑の順番で話してくる。

「ぐ、しまったクマ。覗きは禁止したはずクマー」

「嘘はいいの?」

「そうよ」「そうよ」

「ぐぬぬ……ごめんなさいクマ。僕は政府からの特命で動く秘密捜査官。だから、心ならずも皆をたばからないといけないクマ。だから黙っていてい欲しいクマクマ」

 と、さらに嘘を重ねる翔一だった。

「本当かしら」

 赤は信じていないようだ。

「じゃあ、実際試してみるから、信じてほしいクマ」

(効果を実体験させてごまかすクマ)

 と、翔一は思いつく。

「ふーん、じゃあいいわ。どうしたらいいの」

「ステージに立ってほしい、それだけクマ」

 少女たちは興味津々でステージに立った。


「何か感じるわ……守られているみたい」

 緑は霊感が強いのだろうか、怪訝な顔。他の二人は何も感じないようだ。

「じゃあ、物を投げるから見ていてクマ」

 翔一は観客席に立つと、紙を丸めて投げる。

 すると、結界に当たった瞬間、その紙玉は跳ね返って、翔一のおでこに命中した。

「悪意はまっすぐ帰るクマー」

「すごい、私たちもやってみようよ」

 彼女達も観客席に来ると、紙を丸めて投げつける。

 紙玉は跳ね返って彼女たちのおでこに当たった。

 キャッキャいいながら、彼女たちは大喜びだった。

「きゃー、面白い!」

「すごいのね、クマちゃん」

「……」

 ひとしきり遊んでいると、

「あんたたち、お昼ご飯食べてしまいなさいな! 時間がないのよ!」

 マネージャーがかなり怒り気味でやってくる。

「はーい」

 同時に三人が答えた。

「僕もご飯食べるクマ。お母ちゃんのお弁当がある」

「へえ、クマちゃんのお母ちゃんって熊なの」

 赤が聞いて来る。

「違うクマ、凄く美人で優しくて料理の上手な人間だよ」

「ねえ、見晴らしのいいところで食べましょうよ。控室なんて息が詰まるわ」

 青の提案に皆が賛成する。

 ドームには見晴らしのいい展望スペースがあり、そこで食事などもとれるのだ。

 各自お弁当を持って、階段を上った。

 

「お母ちゃんのお弁当クマー!」 

 翔一は大好きな母のお弁当を広げる。

 展望スペースにはテーブルと椅子が用意されていた。

 四人は緩く座る。

「今日は、ゴマおにぎりがメイン。野菜のお浸し、豚の生姜焼き……」

「すごく美味しそうね、ちょっと貰ってもいい」

「どうぞクマ」

「じゃあ、代わりにこれあげる」

 展望スペース付近は数人の自衛隊員が静かに待機している。

 仲間が働いているのに、自分だけ女の子たちと遊んでいるような気分になった。

(まあ、僕も一仕事したクマだけど……)

 おにぎりを幾つか食べる。

 美味しい。

 もう一つをつまもうとしたとき、

 ドガ!

 突然、弁当が叩きつけられ、ぶちまけられた。

 何かが当たって、翔一は椅子から転がり落ちる。

「うわ!」

「何のんきに食ってやがるんだ、この四級!」

 れつ銀河ぎんがだった。

 突然やってきて、翔一の弁当を叩き、ついでに翔一ごと吹き飛ばしたのだ。

 そんなことをされると思いもしなかったので、完全に不意打ちを喰らった。

 烈は不意を打つために軽くホバリングしていたようだ。

 足音がしなかった。

「お母ちゃんのお弁当!!!」

「酷い! 何なのこいつ」「ヒーローよ、最低!」「……クズ男」

「おい、チビ、てめぇ、俺がまじめにやってるのに、のんびり飯なんて食いやがって」 

 強い握力で肩を掴まれた。

 バキ!

 重箱を踏みつぶす烈銀河。

(こいつ!)

 ブワっと毛が逆立ち、凶獣の目になる。

「へ?」

 一瞬たじろぐ、烈。

 翔一は激怒したが、ふと、少女たちの不安な顔が目に入った。

(ここで怒ってこいつを殴るのは簡単だけど、大きくなったり喧嘩したら、女の子たちを怖がらせるクマ……)

 そう考えて、じっと巨獣化を耐えた。

「おい、ヒーローのくせに弱い者いじめするのか」

「そうだ、そうだ」

 見ていた自衛隊員が、声を上げる。

 烈はギロッと兵士を睨むと、無言で去っていった。

「酷いやつ。あいつ何て名前」

「クレーム付けてやるわ」

「私のあげるわ、クマちゃん」

 翔一は首を振る。

「見苦しいところをお見せしましたクマ。ごめんなさい。皆さんはゆっくり食事を摂ってコンサートに備えてほしいです」

 散らばった弁当を片付ける。

 お気に入りの重箱が完全に壊れていた。

 さらにふつふつと怒りが湧く。

(よくもお母ちゃんの重箱を!)

「グルルル」

 思わず唸ってしまった。


 コンサートが始まる。

 大勢の人間で埋まる会場。

 漆黒の闇に包まれ、そして、ステージが光に包まれる。

「みんな―! 来てくれてありがとう!」

 赤の声に、ファンの絶叫がこだまする。

 翔一はとにかく結界の維持に気を使った。

 特に問題は起きない。

 順調にコンサートはプログラムを終えていく。

 ファンはアイドルヲタクなので、見た目は良くないが、マナーの悪い奴はごく一部でかなり大人しい連中だった。

 しかし、

(汗、脂、口臭、そして、見た目。あまりに汚いクマ……)

 動物には刺激が強すぎる。

(自分を顧みないでファン活動に没頭しているともいえるクマ?)

 そう思ってみていると、誰かがサイリウムを投げた。

(あ!)

 しかし、サイリウムは結界にあたると綺麗に跳ね返って、投げた男の額に直撃した。

「ブベ!」

(ぷぷ。ザマァすぎるクマ)

 その後、二度ほど紙コップを投げるような愚か者がいたが、同じ結果で天罰を受ける。

(この結界、特許取って売り出したいくらいクマー)

 弁当を破壊されて、かなり苛立っていたが、これに関しては少しすっきりした。

 コンサートも終盤になり、クライマックスの曲になる。

(この子たち、小さいのに本当に頑張っているクマ)

 全力のダンスと歌。彼女たちの実力と努力に思わずほろりとする翔一だった。

 その時、

 何かが結界に命中した。

 そして、それは目に見えないが、跳ね返って、撃った奴にあたる。

 連続して発射されて、次々と反射された。

(狙撃! 何が発射されたクマ?!)

 しかし、暗い会場でしかも騒音が凄い。敵の存在はわからなかった。

(結界が抜けたら最悪クマ。こっそりエアーエレメンタルをさらに配置して物理防御とする。コンサートも後ほんの少しで終わるクマ!)

 大きい微風のエレメンタルを呼んで結界の外側に配置する。

 エレメンタルは気体の塊だが、存在があり通常の攻撃で消滅に至る。逆にいえば、身が持つ限り盾になってくれるのだ。

 さらに十発近い何かが当たったが、結局、結界は抜けなかった。

 エレメンタルも多少ダメージを食らったが同様である。

 弾のブーメランが当たったテロリストが倒れている雰囲気もなかった。さすがに、観客も隣の奴が倒れたら気が付くだろう。騒ぎも起きていない。

 攻撃に誰も気が付かない。

 やがて、コンサートは終わる。


(エレメンタルたち、頑張ってありがとうクマー)

 こっそり精霊を異界に返す。

 明るくなると、人々はため息をついて会場をぞろぞろと出ていく。

 しかし、何故か、ぼーっと立って、出て行かない人間がいた。

「お客さん、コンサートは終わりましたよ、出口は向こうです」 

 観客整理のバイトスタッフが声をかける。

 動かない観客は青い顔をして無言だった。

「観客の皆さん! すぐに会場から出てください。不審者がいます!」 

 聖美沙と思しき声が流れてくる。

 観客は概ね出ていたので、パニックはなかった。可能な限り速足で移動する。

「荷物の受け取りは後日でお願いします。責任を持って預かります!」

 観客たちは恐怖したが、かなり落ち着いてもいる。要は、テロ慣れしてしまっているのだ。

「スタッフは下がって、自衛隊とヒーローに任せて!」

 あかし少尉の声が聞こえた。

 スタッフはかなりパニックを起こして逃げ散った。

 翔一は隠れる。 

 少女たちも避難したようだった。

 自衛隊とヒーローが十人ほどの蒼い顔の奴を取り囲む。

 やがて、

「こいつ、中に何か入っているぞ!」

 自衛隊員が叫ぶ。なんと、動かない偽観客たちは体の皮がバリバリと裂けて、中から昆虫のような生き物が出てきたのだ。

 黄色と黒の体、透明な羽。羽ばたいて宙に浮く。

 蜂型人間。手には肉体の一部のような武器を持っている。

「グレイの昆虫人間だ!」

 自衛隊が銃を撃つ。

 命中しているようだが、昆虫人間には効いていない。

「こいつらは銃が効かない! 下がっていろ」

 烈銀河が出てきた。手にはギャラクシーソードが握られている。聖美沙が許可したのだろう。

「ギャラクシー烈斬!」

 烈はド派手な胴斬り技を繰り出した。

 見事一匹仕留める。

 しかし、他の昆虫人間が冷静に棘針銃で烈を撃った。

 銃は昆虫の体の一部のような素材であり、銃の形を雑に模した肉体の一部ともとれる形状。筒状の先端があり、そこから無音で棘針が発射される。

 コンサートで発射されたのはこれだったのだ。どういう理屈か、彼らには自分の銃が効かない。 

「グホ!」 

 棘針は烈のメイン装甲を貫通できないが、謎のエネルギーが籠っており、烈を打撃で打ちのめす。

 一斉に撃たれたので、かなりの命中弾があった。

「喰らえ、マシンガンシュート!」 

 ジャック・棒波津が必死に四十五口径を連発しているが、全く外骨格を抜けなかった。

 蜂の怪物たちは上空を飛び回って棘銃を乱射する。

 腹の毒針は積極的に使ってこない。あまりライフル弾を食らいすぎると死ぬので接近戦を嫌っているのだ。

 飛び回って棘銃を撃つ方が効果的だと見抜いている。

 見た目と違い狡猾な敵だった。

「くそ、ぶんぶん飛び回りやがって」

 狙いがつけられず、叫ぶ兵士。それでも命中弾を叩き込むものが多い。

 しかし、空対地上では、若干、不利である。

 自衛隊員が次々と棘針の餌食になっていた。

 政府支給の頑丈なボディアーマーのおかげで死亡はしないが、負傷者が続出している。

 翔一とダーク翔一は必死に治癒精霊を送り続けた。

「もうここには賢者の石はいません。駐車場に集結してください」

 非常に落ち着いた少年のような声が聞こえてきた。

 昆虫怪物は動きを止めると、窓を突き破って一斉に飛び出す。

(賢者の石? 京市君と同じような子がいるのか)

 翔一は脈絡もなく、そのように連想した。

 謎の石を体内に持つ子供。

 その一人が、あの少女たちなのかもしれない。

 翔一は急いで彼女たちを守りに向かう。

 とりあえず、距離的に近い控室に走った

 

 バックヤードに人間の気配はなかったが、控室を確認に来たのか、昆虫人間が三匹もいた。

(よかった、女の子たちは逃げたんだ。しかし、外に出るにも邪魔……誰も見てないクマだよね) 

 きょろきょろ見るが、自衛隊はこちらには来ていない。護衛対象がいないとわかっているのだろう。

 スタッフも逃げ遅れた人はいないようだった。

 監視カメラを機械精霊で止めてから『白銀剣』を抜く。

 いずれにしても、外に出ようと思うと、彼らを倒さないと遠回りすることになる。

(廊下に二匹、控室に一匹)

「チェストオオオオオオオ!」 

 剣を担ぐように構えると、肉の砲弾のように低空を跳ぶ。

 切っ先が壁に当たりそうだったので、極力斜めに振り下ろした。

 ガガ!

 それでも、長い剣が壁を少し削ってしまった。

 巨大な蜂の怪物は跳んでくる翔一に棘銃を向けるが、早すぎて狙いがつけられない。

「白虎二段、雲耀剣!」

 次の瞬間には彼らの背後に子熊はいた。 

 真っ二つになって、体液をまき散らす怪物たち。

「白虎逆流剣!」

 着地と同時に逆に跳び、控室の扉を叩き斬る。

 ズン!

 扉のすりガラスの窓に怪物の影があったのだ。

 キシャアアアアアアアアア! 

 と金属的な悲鳴を上げる。

 扉ごと真っ二つにされて、蜂の怪物は動かなくなった。

「いたた、棘が刺さってたクマ」

 肩口に一本当たっていたのですぐに抜く。

 毒はない。どうやら、棘は彼らの爪に近い形状をしている。

「銃は厄介だな、棘弾は奴らの体の一部だから鋼体精霊は効かないようだ」

 ダーク翔一が治癒精霊を呼んでくれるが、怪我は小さなもので、纏う前に治ってしまう。

「銃弾対策を何か考えないとダメクマだね。しかし、今はそれより」

「ああ、駐車場だ。すごく嫌な気配があるぞ」

 翔一はうなずくと剣をしまい、裏口から外に出た。




2023/9/23 2024/9/30 微修正

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