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11 ヒーロー試験

 大都会、東京。

 晴天の朝。


 近代的なビルの玄関に『世界防衛会議日本支部、ヒーロー試験会場』と掲示板がたてられている。

 ここは都心の官公庁が並ぶ地域。

 その建物は、普段は上流層相手のスポーツ施設なのだろう、非常に高い天井の一階部分がある。

 施設前には大勢の人がつめかけていた。


 一台の車が止まる。

 サングラスの男と一匹の子熊が降りた。

 男は人狼の大神おおがみ恭平きょうへい

 そして、子熊は御剣山みつるぎやま翔一しょういちだった。

「おまえ、ヒーロー登録はいいけど、人間体は隠すのか?」

 大神が人々の様子を見ながら翔一に声をかける。

 並んでいるのはヒーロー志望者であり、仮面や覆面をかぶり、ヒーロー的なスーツを身に着けている。

「僕はそこそこ有名人の子供クマ。両親に迷惑はかけられないクマ」

 翔一も列を見ながら答える。

 オーラの強さはまちまちだが、一般人よりは強い人が多い。

「おまえの親父だけはもっと天罰喰らった方がいいと思うけど、お母ちゃんは大事にしたいわな」

 翔一の父は息子が失踪中に若い女と不倫して世間から大バッシングを受けた男だった。今は休業中だが、中堅俳優である。

「大神さんは登録しないクマ?」

「俺は人狼協会だけで十分。おまえも入っているんだから、わざわざ一般ヒーローやらなくてもいいだろう」

「会長さんにヒーロー登録してくれっていわれたクマ」

「んなもん無視していいんだぜ」

「年金が出ると聞いたクマ」

「ほう。金か……」

 顎に手を当てて考え込む大神。

明日香あすかさんは登録したって連絡貰いましたクマ。池袋いけぶくろさんと猪田いのださんはあまりやる気ないみたいですけど」

「明日香から聞いたのか」

「はい」

 人狼協会の面々とは連絡先を交換している。

「確か、明日香はヒーローやるといってたな、会議の時に。……あのおっさん二人は期待するな。きもい奴らだから防衛にしか使えん」

「大神さんはどうしますクマ」

「金が出るならやってみるか。人狼協会から出る報酬は少ないからな」

 そういいながら、列に並ぶ大神。

 翔一は彼の真後ろに並ぶ。


「明日香さんは人狼であることを隠して登録するみたいですクマ」

「それはそうした方がいいだろう。明日香は特にレスラーだから……人狼とばれたらバッシング受けるのは間違いない。プロレスでリアルなんて追及してる奴はいないと思うけど、世間なんてそんなものだからな」

「明日香さんは戦うときに人狼に変身しないクマですか」

「あいつは血が薄いんだ。以前変身体を見ただろ? めったに変身できないし、してもあれが限界。だから、人間体で登録したんだよ。たぶん」

 大神の言葉にうなずく翔一。明日香から人狼の気配は弱いと感じていたのだ。

「大神さんはヒーローネームをどうするクマ?」

「俺なら……『輝く白銀』シルバークローとかどうだ、適当に思いついたけど、結構カッコいいだろ」

「うーん、まあ、それなりに」

 そんなことを話していると、受付の順番が来る。

 大神はその場で用紙を受け取ると、横のテーブルで記入し始める。

 記述に不備がある人間が多いのだ。

 翔一の番になった。

「ええっと、人獣熊人間の『疾風』アイアンクマーさん。『疾風』は既に他の方が登録されてます。二つ名を変更してください」

「そういわれても困るクマ」

「仮登録で、AIが適宜決めます。後から変更できますよ」

「わかったクマ」

「『終末怪物エターナルキッド』アイアンクマーと決定しました」

「すごい。適当感がすごいクマ!」

「変身ヒーローとありますが、変身前の正体は隠しますか?」

「ええ、それでお願いしますクマ」

 大神はそれ聞いてキョロキョロと周りを見る。

 顔を隠している者が非常に多い。

(俺はどうしようか、戦うときは撮影されることもあるから、逆に変身体を登録した方がいいわな。人間体の素性ばれたら、テロ野郎どもに知り合いを脅されるかもしれない)

 大神はそう考えて、思わず、帽子と感冒用のマスクをつける。サングラスは普段からつけているのでそこは安心だった。

「受付さん、記入、済みました」

 大神は急いで書いたが記入に不備はなく、すぐに会場に入れる。

 翔一は体力測定会場に一足早く入っていた。


「えー、何々、『体力測定会場では基本的な体力の数値化を行い、特殊能力を測定してヒーローのランク付けを行います。結果、どのようなものであっても、ノークレームでお願いします。尚、一般人より著しく劣る上に特に能力もない方はヒーロー認定しない可能性もございますので、ご了承ください』……なるほどね、確かに、ヒョロガリで喧嘩の一つもできない奴が、イキって戦場に立たれたら死人増えるだけだからな」

 大神が渡されたパンフを見ながら、ぶつぶつつぶやく。

「大神さん、やっぱり登録するクマ?」

「おい、名前で呼ぶなよ、俺はシルバークローだぜ」

「じゃあ、僕はアイアンクマーですクマ」

「いいにくいな、鉄クマでいいじゃん」

「いきなり短くしないでほしいクマクマ」

 案内係の女性がやってくる。

 美しい女性が多い。

 書類に目を通しながら、声をかけてくる。

「人狼系の皆さんは防御力が高いので自動的に三級ヒーロー中位になります」

「おい、俺は正体は明かせないが人狼協会所属だぜ。二級以上じゃないとやらないぜ」

「僕もそうクマ」

 バンフレットに記入があったが、ヒーローの階級は三級から一級に分かれている。さらに、三級は上中下、二級は上下と内部で階級がある。尚、一級は内部で差はない。

 単純に見て、三級中位だと下から二番目となる。

「それより上は体力測定で結果を出して頂かないと……特別扱いをしているという批判が起きますので……」

「ああ、仕方がないな、やってやるか。変身してからの方がいいのか」

「記録を取りますので、秘密にしたい正体などは隠しておくのが普通です」

「あと、お嬢さんと連絡とりたいが」

 サングラスを外して、強い視線で女性を見つめる大神。

「あ、あのその、困りますお客さん」

「俺の正体知りたくないの?」

 赤くなる案内係。

 確かに、大神はかなりカッコいい人物だった。

「やめろ、お嬢さんが困っているじゃないか」

 後ろを見ると、背の高いいかにもイケメンヒーローと呼べるような男が立っていた。

 銀髪に銀の瞳。酷薄な唇。

 何らかのハイテク素材のスーツ。

 大神と睨み合う。

「お、お客様。困ります。トラブルは……」

「僕は『白銀疾風』エリック・フリュクベリだ。憶えておけ。女性への乱暴は許さんぞ」

「乱暴なんてしてないだろ。勘違いするな。俺は女性を愛するだけの無害な男だ」

「フン、体臭は有害だがな」

 敵意むき出しのイケメン二人。荒々しい風貌の大神の方が翔一はなんとなく好きだったが、案内係の女はどちらのイケメンの肩を持つか決めかねているようだった。

「おい、後ろが閊えているんだ、早くしてくれ!」

 誰かの声がきこえる。

 二人の男は睨み合いを解くと、測定会場に無言で向かった。


 測定会は、速度、筋力などを測定する。

 特殊能力を持つものは自己申告してそれを披露する。

 雰囲気にのまれ、気後れしていると、首に掛けたスマホが鳴る。

 出ると、母だった。

「翔ちゃん、もう終わったの?」

「今からですクマ」

「三級中位より上はダメよ、危険な任務が多すぎるから。まだあなたは子供なのよ」

 母の詩乃しのはヒーロー登録をかなり渋った。

「大丈夫クマですよ。僕はタフだから」

「とにかく、ダメなものはダメ! ちゃんと備考欄に『三級下位志望』と書いておきなさい」

 母にしてはかなり厳しめの命令だった。

「わかりましたクマ……」

 電話を切る。

「なんだ、おまえ、お母ちゃんに止められてるのか。心配なんだよ、素直にいうこと聞いておけ」

 人狼の大神は聴覚が優れている。電話の声も丸聞こえなのだろう。

「おおが……シルバークローさんはご両親は心配されないクマですか」

「俺は孤児だから。……人狼は多いんだぜ、理由は不明だが」

「ごめんなさい」

「気にするな。そんなことより、さっさと受けてしまうぞ」

 二人は測定に向かう。

 大神は二足歩行人狼になると、驚異の身体能力を見せつける。

 大神が軽く動くだけで人間の目では補足できない。力も段違いで、優しくたたいただけでパンチ力測定器の上限まで達した。

 どよめきが起きる。

 しかし、先ほどのエリックの番になると、彼も同じく圧倒的な能力だった。

 速度と力は大神ほどではないが、それでも通常を上回り、さらに特殊能力もある。

(風を操っている?)

 どうやら、空気を自在に操れる能力者であり空を飛べる、雷気を纏うこともできるようだ。

(生まれつき風の精霊が力を貸しているクマ?)

 精霊術師、御剣山翔一視点だと、どうしてもそうなる。

 彼は分類すれば超能力者である。

「凄いな、大型新人が二人も来たぞ」「これで日本も安泰だ」

 審査員たちのつぶやき。


 翔一の番が来た。

 大型の熊形になればかなりの実力が出せるのはわかっていたが、母の言葉が重かった。

 結局、子熊形で頑張る。

 短い脚の二足歩行では速度は遅い。

「クマクマ!」

 パンチは測定器に背が届かなかった。

「クマー!」

「本当にこの子は人獣なのか……ここまでひどいのは初めて見たぞ」「一応、人狼協会所属らしいですが……」

 審査員のつぶやきが聞こえる。

 さすがに、このままではまずいと思い、モフ手を上げる。

「特殊能力で怪我の治療などができますクマ」

「ふむ、それは有用な力だ。脚を捻挫した人が居たよな、連れてきてくれ」

 黒い金属の防護服に身を固めた男が来る。

 ひょろっとした印象だが、筋肉がないだけであり、背は高くない。

「彼は必殺キックを披露した時に、捻挫したのだ。治してみてくれ」

 翔一はうなずく。

 精霊界のダーク翔一が面倒くさそうに男の足首に治癒精霊を張りつけた。

「おおお、足首の痛みが嘘みたいに消えました!」

「痛み止めだけかね?」

「腫れも引いています。これはなかなかのものですよ。すぐにもう一度必殺キックを……」

「それはもう十分だから。大人しくしとけ」

 さらにもう一人の怪我人が連れてこられる。

 格闘技の試合でも見せたのだろう。

 顔面がかなりボロボロになった女だった。

「このまま治せば、ちょっと酷い顔になるぞ。妖術を使えば、整形してから治せる」

 ダーク翔一の声が聞こえる。

「どうするクマ」

「血を少し貰う。怪我を悪しき因果、呪詛に変えて、聖性精霊で消滅させる」

「ばれないようにこっそりやるクマならいい」

「心配するな、この場に魔術者はいない」

 翔一は診察するふりをして、彼女の鼻から血液を採取。宿精に渡して、術をかける。

 みるみる、骨が元通りになって、顔が綺麗になった。

 すぐに治癒精霊をかぶせる。

「え、凄い。なんだか全部元に戻るみたいだ。痛みも引いていくよ」

 女は呆気に取られている。

「君、すぐに戦えそうかね」

「ええ、もちろん」

 女はにんまりして拳を見せる。格闘技ヒロインなのだろう。

「念のため、お医者さんには行った方がいいと思うクマです」

「ありがとう、熊さん。君の名は」

「僕は、しょ……アイアンクマーですクマ」

「あたしはムエタイの選手。ナミだ、よろしく」

 女は翔一のモフっとした手と握手する。

「仮名アイアンクマー、他に能力はないのかね」

「え、あ、ハイ、クマ」

 もう十分かなという思いもあった。

(能ある熊は爪隠すクマ)

 謎の格言を思いつく翔一だった。




 数日後。

 郵便物が来る。

「翔ちゃん、大きな封筒だよ」

 姉のそのが翔一に手渡した。

 今日は人間形を取っている。

 封筒をビリビリ破って書類を出す。

 日本防衛会議からだった。

「えーっと、どれどれ。『制限付き三級』……? 制限付きってどういう意味だよ」

 翔一はネットで調べることにした。

 自室のモニターの前に座る。

「カチャカチャターン! ええっと『制限付き三級は特殊なヒーロー階級で通称四級、月六万のヒーロー年金支給、招集を一定数以上断ったり、素行に問題があるときは抗議権無しで級をはく奪される。公務での単独任務禁止。会議指定のヒーローと必ず協力して任務にあたる義務がある』か」

「入るわよ」

 園が翔一の部屋に勝手に入ってくる。

「お姉ちゃん、ノックぐらいしてよ、エチケットだよ」

「ねえ、そんなことより……あ、『制限付き三級』って最下位だよね。三級下位より下の。フツーの人間なのに、ヒーロー志望の人が指定される地位よ。プププ」

「勝手に入ってきて、勝手に人の手紙を見る……マナーがなってないですよ!」

「うるさいわね。小さいこといわないの!」

 そういいながら出ていく。

「お母さん、翔ちゃん四級だったよ」

 階下で園の声が聞こえる。

「あら、よかったじゃない。危ない任務も来ないわ」

「翔ちゃんふてくされてるわよ」

「いいの。それで」

 翔一はため息をつきながら、封筒に入っていたスマホを起動する。

 ヒーロー専用のタブレット的なものだ。

 会議指定のアプリがインストールされており、初期の起動設定を開始する。

「でも、僕も今日からヒーローだ。僕の友達は喜んでくれるかな」

 翔一は異世界で出会った友人たちの姿を思い出して、少し微笑んだ。




2022/10/22 2024/9/28 微修正

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