115 ショッピングセンター襲撃、黒きファラオの呪いクマ その6
一級ヒーロー『白銀疾風』エリックとセト仮面の男『ヴァンパイアマスター』オーガスタスはのっけから激しく魔力をぶつけあっていた。
共に宙に浮き、激しく動き回る。
電撃と黒い魔力が交差した。
エリックはテレポートのような速さで、魔力を回避する。
仮面の男はそれに対して、電撃をそのまま喰らっていた。
「フフ。確かに強力な稲妻だ。しかし、我には効かない。異界の魔力と直接つながったのだ。魔力は無限だ!」
両手を広げ嗤う男。
「そうかな、僕もまだ本気じゃないよ」
「貴様が終わったことを教えてやる『キラーアイ』アンバー。エリックを攻撃しろ」
「……」
しかし、有名ヒーローアンバーはいなかった。
「何?」
振り向いて確認するが、誰もいない。
「さっき、大きな毛むくじゃらの者がどこかに持って行ったよ」
にやりと笑うエリック。
どこかの店舗の入り口の影に、フカフカの毛皮が微かに見えている。
「毛むくじゃらだと!」
きょろきょろする男。
室町すずの姿もない。
「依代まで。貴様、どこにやった!」
激怒するセトの仮面。
暗黒魔力を辺りに発射する。
ひらりと躱すエリック。
「知らないよ。諦めろ、君たちの犯罪は破綻した!」
電撃を拳に集めて連打で殴る。
杖で受ける男。
殴りの勢いがすさまじく、杖は遠くに飛ばされた。
「クソ! 喰らえ、闇の渦」
片手を魔力の渦巻に変えて、エリックを撃とうとしたが、
「風」
ふわっと存在が消える。
男の一撃は空を斬った。
「雷剣!」
エリックは男の背中から電撃を剣状にした魔力で貫く。
「ぐおお!」
男は床に転がり、そして、すぐに宙に浮く。
焦げて穴の開いた体はメキメキと治っていく。ぼたぼたと落ちる血液。誰かから吸ったものだ。
「許さん。闇の貴族である私にここまで無礼を働いた男。死で償わせる」
カっと赤い目が光る。
すさまじいオーラの波動だった。
「!」
エリックは電撃を放とうとしたが、動けない。
「我の邪眼。アンバーを奴隷にしたのはこの力。フフフ。やはり、貴様も破滅の運命をたどるのだ」
仮面の魔力が邪眼をさらに強化しているのだろう。
決して負けていない精神力を持つエリックも、動きを封じられた。
(次元の亀裂から魔力をもらっているクマ)
闇の波動が吹き抜け中央の次元の亀裂から男に注入されている。
魔力が見えない者にはわからないことだったが。
オーガスタスは右手に闇の力を矯め、ゆっくりとエリックに迫る。
「これを喰らって、全身腐敗して死ぬのだ」
「……」
汗が滴る、エリック。
「おーい、落とし物クマ」
突然、そんな声がした。
次の瞬間、仮面の男の胸に、先ほど飛ばされた杖が貫いていた。
「がは! 何!」
霊視ができるものなら、同時に闇の魔力が切断されたことに気が付くだろう。
「悪党。正義の拳を受けろ!」
エリックは四肢に電撃を集め、高速の連打を叩き込む。
派手な電撃が何度も体を貫く。
「おぼえて、おけ、ヒーローども!」
床に落ちる、セトの仮面と杖。
首魁『邪眼』オーガスタスはボロボロになったローブを残して霧となって消えた。
「ち、霧になったか」
風で移動を妨害しようとするが、魔力の移動は阻害できない。
消えてしまう。
「しかし、仮面は回収した……、ん、この杖」
見ると、杖の先端、松ぼっくりのような装飾がなくなっている。怪力で折り取られたように見えた。
「……」
大勢の兵士たちがショッピングモールを駆け巡る音や声が聞こえてくる。
銃声や戦いの気配はない。
「君たち、大丈夫」
二人の女性がベンチに寝かされていた。
一階、中央吹き抜け付近のフードコートである。
「え? ここ、どこ」
「うーん」
中性的な美少女、室町すずは目が覚めるとキョロキョロした。
美しき『キラーアイ』アンバーは頭痛がするのか眉をしかめている。
二人の前には正統派美男子のエリック・フリュクベリと野性的な大神恭平が立っていた。
「私、エジプト展にいたのに」
すずは美男子二人に目をぱちりとさせる。
「安心しろ、もう助かったぜ。テロ野郎どもは全員逮捕だ」
「人質も全員解放。ここまでの成果は奇跡的だよ」
大神の言葉をエリックが継ぐ。
「あなたたちは?」
アンバーが頭を押さえながら問う。
「僕はエリック・フリュクベリ。彼は大神恭平」
「オオガミ? 日本人よね、雰囲気からして」
「ああ、ここは日本だよ、キラーアイ。君の記憶はいつが最後なんだ」
「あなた風使いのエリックね、思い出したわ。私……ニューヨークでバンパイア集団を追っていたのだけど……」
「それはたぶん一か月前くらいの話だよ。君はオーガスタスにつかまっていたんだ」
「……そう。記憶がないわけじゃないの、ここのことも何となく場面場面は覚えているわ。でも、繋がらなくて、訳が分からない……」
「無理はしないでいいよ。今は日本で休息して、回復したらアメリカに帰るんだ」
エリックとアンバーの会話。
二人は少し面識がある。
軽いモフ感のある足音が近づいてきた。
「ヒーロー諸君、ご無事で何より」
「よう。俺たち大活躍したんだぜ」
子熊のぬいぐるみ、土器面と黒い子熊が入ってくる。
「えーっと、君たちは」
さすがのエリックも、少し驚いた顔。
「私たちは二級下位ヒーロー『祈祷師ゼロ』だ。私は土壁源庵」
「俺はスーパーヒーローダーク君だ」
モフ手が差し出されたので、思わず握手するエリックとアンバー。
「ぬいぐるみ。よね?」
当惑の表情を浮かべるアンバー。
「歩いて喋る子熊ちゃん。私、これほしいけど貰っていい?」
目を輝かせて、空気が読めない室町すず。
「ところであんたら、でっかい熊を見てないか。私の弟子なんだが」
源庵が問う。
「でっかい熊? ああ、もしかして、大クマー?」
「ほう、奴がいたのか。俺はお目にかかったことがないが、奴が背後で動いていたのなら、テロ野郎どもに勝ち目はなかったかもな」
エリックと大神の反応。
「そう、大クマーは私の弟子。治癒クマーもな。そういう設定だ」
モフ胸を張る源庵。
エリックが英語でアンバーに聞く。
「……記憶があるわ。ついさっき柔らかい毛皮に包まれた。あの時から私の心に安心感があったの。それまでは心が刻まれるような無限の苦痛に……」
「彼がどこに行ったか、知らないか?」
「たぶん、あちらに行ったわ」
彼女が指さす方向には地下駐車場に続く階段があった。
鎖が張られ『工事中』の看板が立つ。
薄暗い地下駐車場。
がらんとした空間に二台のバン。
駐車場の壁には、どこかにつながる大きな穴。
そして、場違いで豪華な棺がアスファルトの上に置かれている。
ゴト。
棺が揺れて、中から、赤い目を光らせ青白い死人のような顔いろの男が出てきた。
全裸である。
「下僕ども、急いで脱出しろ」
棺の扉を開けながら声をあげるのは『邪眼』オーガスタス。
しかし、返事をする者はいなかった。
「何。どういうことだ」
ローブを纏いながら、暗い駐車場を見回す。
無人。
ところどころに、塵の山があった。
服と武器が落ちている。
「なぜ、こんな危険な場所に棺を置いたのです?」
突然、影から声がする。
「誰だ!」
「因果をたどってきました。あなたの杖を使って術をかけて」
黄金の松ぼっくりが転がる。杖から折りとったものだ。
「……何者だ、杖を投げたのはお前だな」
「そうです。でも、もっと遠くにあなたの棺はあると思っていました」
「我は自分の手元に大事なものを持っておく」
「そんなにあの仮面が欲しかったのですか、すぐに復活してでも取り戻したいと」
「そうだ、あれは異界の魔神の力を己の物にする秘宝だ」
「『魔神の奴隷にされる』の間違いだと思うクマ」
「我と魔神はお互いを必要としている」
オーガスタスは棺に隠してあるサーベルを取り出すと、一歩踏み出す。
闇の中に大きな何かが立っていた。
毛皮が見える。
「大熊」
「……」
「部下はどうした。手練ればかりだった。棺を守る精鋭だ、十人もいる」
「塵になりました」
事もなげにいう。
「八十年以上も共にした仲間たちだ。まさか……信じられん」
「……」
しかし、大熊以外、誰もいない。
壁やアスファルトの地面には弾痕や金属の武器でひっかいたような跡が走っている。
戦いがあったのだ。
塵の山と一緒に転がっている武器は、どれも非常に危険なものばかりだった。銃、刀、鞭……、全て何らかの魔力がある。
「棺を車から降ろしたのも貴様か」
「はい」
「大クマーだな。聞いたことがある。日本には非公認の強力なヒーローがいると。知性を持った熊で剣をふるうという」
サーベルを鞘から抜く。
黒い波動が走った。
「魔法も使うクマ」
赤い目が光る。
「ワーベアーか貴様。剣も使い、魔術も使う。そして、人獣の膂力と回復力……確かに、とんでもない奴だ。強力な吸血鬼にも匹敵する」
「僕はこの力を悪党退治に使う」
「アメリカのヒーローは悪を殺さない。お前はどうするのだ」
「……僕はアメリカのヒーローじゃない」
白く長い剣が闇に浮かぶ。
「貴様が引くのなら、金もマジックアイテムも奴隷も好きなだけやる。何をしても許されるのだ」
「……あなたを許している人はどこにもいない」
ボッ。
剣はいきなり燃え上がる。
オーラの炎が闇を裂いて、人外の獣を照らした。
「モノリスアヤメ襲撃事件は警察と自衛隊の突入作戦により劇的な成功に終わりました。同時に突入した、ヒーロー『白銀疾風』エリック、『シルバーファング』の大活躍により幹部が倒されたとのことです」
いつもの女性アナウンサーがニュースを読み上げる。
「人質は全員無事。アメリカで行方不明だった『キラーアイ』アンバーも救出されました」
「素晴らしい成果です」
解説員が笑顔でうなずく。
「武装集団宇宙人類解放戦線はほぼ逮捕されました。首魁のオーガスタスは死亡、その他、幹部も戦闘の末死亡しました」
「逮捕できなかったのは残念ですが、緊急事態ですのでこれは仕方がないでしょう」
「ええ」
「政府を脅していた渡辺はどうなりました」
「警察の発表では、彼も逮捕されました。取り調べに対し、現在、黙秘を続けいているそうです。尚、同日開催されていた日本エジプト友好展で、展示物の遺品には全く損害がありませんでした。エジプト駐日大使は感謝を表明しております」
「いろいろと疑問も多い事件ではありますが、いずれ、特集番組を組みたいと考えています。しかし、市民や警察自衛隊に犠牲者がなくて本当によかった」
「はい、では、次のニュースです……」
ぷち。
テレビを消すモフ手。
「テロリスト怖いクマー。お母ちゃん。ご飯おいしかったクマー」
朝食を全部食べた子熊の翔一。
ごはん三杯と味噌汁、鮭の焼いた切り身。漬物、煮物。
あっさりと胃袋に収まっていた。
「今日も頑張ったのよ」
「ありがとうお母ちゃん。じゃあ、僕学校に行くクマ」
人間に変身して身支度を整え、カバンを持つ。
「行ってらっしゃい」
少年は外に消える。
「……」
無言の詩乃。
「どうしたのお母さん」
園がパンを食べながら着替えるという、器用な状態で問う。
「翔ちゃんの……治癒クマーちゃんの活躍を見たの」
「よかったじゃない。人質を先導したって聞いたけど」
「ええ、あのショッピングモールで『皆さん、落ち着いて逃げるクマ。こっちクマです』っていいながら、逃げ遅れた子供とお年寄りを守っていたわ。警察が突入してから、解放された人々を案内していたのよ」
「ふふ。やっぱり、あの子はヒーローなのよ。強くなくても」
「そうよねぇ」
「もう、許してあげたら? ヒーローに復帰させてあげたほうがいいわ。あの子、お母さんが禁止しても自分一人でヒーロー活動やると思うの」
「……」
「一人で活動した方が危険よ。公認だったら、暗黒司令という人が身分保障してくれるんでしょ」
「……」
園は着替えと食事を済ませると、家を出る。
「行ってらっしゃい」
娘を見送りつつ、ため息をつく。
一人、リビングの椅子に座った。
「警察や自衛隊の家族も、私と同じように思っているのよね。でも、我慢している……」
詩乃は何かを思いついて、スマホを手に取る。
誰かに連絡を取った。
「御剣山です……ええ……はい」
真剣な表情。
「……ええ。お願いがあるの……」




