113 ショッピングセンター襲撃、黒きファラオの呪いクマ その4
ぞろぞろと展示会場の非常口から脱出する人々。
眼光鋭い球磨川風月斎と四天王たちが彼らを見守る。
当然、警備隊も彼らについて行った。
「狙撃兵はいません、しかし、敵が出てくる可能性があるクマです」
「心配いらぬ」
鋼金剛がうなずく。
「翔ちゃん……」
詩乃が心配そうに見つめる。
「お母ちゃん。僕は目の前で困っている人を見捨てられないクマだよ。室町すずさんを悪党たちの手から奪い返さないと僕は永久に後悔する」
「……」
「さあ、今は逃げて。源庵先生がいるから僕は大丈夫だよ」
「気を付けて。無理はしないで」
「うん」
「……」
詩乃は何かいいたげだった。
しかし、子熊を一度抱きしめてから、人々と一緒に展示会場を出る。
「とりあえず、敵の情報優位を打破しないと駄目ね」
胸に下げたデータパッドのAI、リリーが述べる。
「どうしたらいいクマ」
「二階のスタッフエリアにセキュリティ管理室があるわ。そこでサーバーと監視装置の管理を行っているの。状況から推測して間違いなくそこが抑えられているわ」
リリーは気づかぬ間にオフラインの端末をいくつかハッキングしていたようだ。
「ハッカーがいるクマ?」
「ええ、たぶん」
治癒クマーと土壁源庵、そして、ダーク翔一が暗い通路を歩く。
「こっそり行けるクマ?」
「排気ダクトが繋がっているけど、対策はやってるかもよ」
「外壁から回り込むかな」
「ならば、我々はいったん精霊界で待機だ」
窓は概ね開けられないようになっているので、換気用の小さな窓から出る。
外壁に爪を立てて目的地に向かう。
直線距離ならばたいした距離ではなかった。
「クマクマ」
ふと、外を見ると、警察自衛隊など車両が止まり、ショッピングモールを取り囲んでいる。
特殊部隊とヒーローの中でも上級の者たちが待機しているようだ。
(大勢の味方が駆けつけている)
翔一は心強くなって前に進む。
件の部屋の窓にとりついた。
(鍵は普通だけど、何かセンサーがついているクマ)
強めの機械精霊を纏わせてすべて無効化し、窓をそっと開ける。
黒覆面が三名。そして、ぼさぼさ髪に眼鏡、細身の男が一人。
なぜか、男の手は端末のキーボードに半分沈んで融合している。男は他の男たちと同じく、椅子には座らず、立ってモニターを監視していた。
(やっぱり、何かの超能力クマ)
するっと隙間から入ると、大きめの睡眠精霊を呼ぶ。そして、彼らに纏わせた。
「?」
彼らには何らかの抵抗があったが、翔一の呼ぶ精霊には耐えられず、ゆっくりと崩れ落ちる。
「な、何だ、この睡魔は」
眼鏡の男だけはふらふらしながらも睡魔に抵抗している。
しかし、机にしがみつくがやっとだ。
「やるぞ!」「おう!」
いきなり精霊界から土壁源庵とダーク翔一が棒切れを持って飛び出してきた。
「悪党めタコ殴りだ!」
「動きの鈍ったヲタク野郎なんて俺の敵じゃないぜ!」
石槍と木の棒でポコポコと男を殴りつける熊のぬいぐるみたち。
「痛い! やめて! やめてください。降参します!」
脛や尻、肩を殴られて、ひぃひぃ泣き始める男。
「ふう。わかればいいんだ」
「情報を全部吐け」
モフ足に踏みつけにされるヒョロ男。
「わ、わかりました……」
男は古谷という。テロリストにやとわれたフリーのハッカー。
小さな『賢者の石』を飲まされて精神とネットワークを融合させる超能力を得たのだ。
「私は色々ハッキングの前科がありましてね。やらかした賠償なんかで借金も莫大なんです」
「それハッキングでどうにかしないクマ?」
「ネット上ではヒーローハッカーに監視されてるのです。超能力は得たけど、アメリカではちょっと……」
「日本では大丈夫クマ?」
「目立たなければセキュリティテリトリーの違いもあるのでテロに協力しても大丈夫かなと。金にもなるし」
「それで悪に加担したのか、恥知らず!」
ダーク翔一が怒って木の棒を振り上げる。
「うわ、許してください!」
「敵の目的とボスや幹部の情報を教えるクマ」
翔一は話をしながら、黒覆面たちを縛り上げて無力化している。
「雇い主はグレイ勢力と悪魔教の混成部隊です。企画は悪魔教です。グレイの手下と私は手を貸しているだけ」
古谷は外付けメモリーを渡してくれる。
「これにテロ集団の情報が入っているクマ?」
「そうです、こっそりリスト化していたんですよ。後で警察関係に情報として売れそうだから」
「本当にクズだな、裏切ることまで予定していたのか」
木の棒で小突くダーク翔一。
「は、はい。すみません」
翔一はデータパッドにメモリーを挿入した。
「……とりあえず、ウィルスはないわね。……はい、情報よ」
ざっと情報を見ると、
「『宇宙人類解放戦線』と『家畜管理官の渡辺』は事実みたいクマだね。本当にこんなおかしい奴らがいるんだ。超能力者は機械人間の『メタリックガーディアン』、魔法消去と火炎その他諸々が使える超能力者『ウィザード』。この二人は倒したクマ」
「クマさんたち、あんたら何者なんだ」
古谷に聞かれるが無視。
「泥炭パワーの『フラークマン』。超眼力『キラーアイ』アンバー。ん? アンバーさんは正義の人だよね?」
「あの女は支配されているという噂です」
「どういうこと?」
「リストの最後、ヴァンパイアマスター『邪眼』オーガスタスに眼力対決を挑んで負けたと聞きました」
二人は海外で有名なヒーローと悪党だった。アンバーは古参のヒーローであり、アメリカでも中堅の存在。オーガスタスはアメリカで暴れている極悪吸血鬼である。
「あとは、『ザ・グール』……なんだこいつ。大体こんなものか、おい古谷、敵の配置を吐け」
弱い相手にはイキリ返るダーク翔一。
「は、はい、暴力くまさん」
モニターに映像を写す古谷。
半透明立体画像の建物に、幹部と黒覆面、人質たちを描き出していた。監視カメラから位置を割り出して、リアルタイムで敵の配置がわかる優れものである。
「さすが、ハッカーさんクマー。これなら、敵の居場所がすぐにわかるよ。おじさん凄い腕前クマ」
「いやー。それほどでも。フフ、たしかに、私は天才ですが」
「調子に乗るなよ、おっさん」
黒覆面は三階はほとんどいない、二階に大半がいて、一階は入り口を固めている連中が多い。尚、現在は内装工事中の地下駐車場があり、そこは兵士も人質もおらず、無人である。
見ると、幹部たちは一階に集中している。
「幹部たち、何やってるクマ」
監視カメラに映す。
「……儀式、だな。たぶん、オーガスタスというやつがあの黒犬みたいな仮面をかぶっている。他は見ているだけだ。泥まみれの巨人が剣を持って、横にぼーっと突っ立っている女の子……嫌な予感がする、生贄みたいだぞ」
源庵がモフ腕を組む。
「もっと嫌なことを教えてあげますよ。二階に集められた奴らは儀式の最後に殺されるそうです」
「なんだと! 早くいえよ、そんなことは。というか、てめぇ、そこまでの極悪に協力して、人として恥ずかしくないのか!」
激怒するダーク翔一。
木の棒で尻を小突く。
「金に困っていたんだ、それに悪党に睨まれてどうしようもないだろう? 逆らえば死ぬんだよ」
「ち、とにかく、儀式を止めないと」
「つかまっている数が多すぎる。一気に解放しないと、敵が慌てて殺し始めたら万事休すだ」
珍しく源庵の声に焦りがある。
「外の味方たちと協力するのがいいと思うクマです。一気にシャッターと扉を解放して、特殊部隊とヒーローが制圧してくれたら、あとはすずさんを救出して……」
「儀式はあとどのくらいで終わる」
源庵が古谷に問う。
「さあ、あと二十分ほどじゃないですか。作戦の終了時間が三十分後なので」
「じゃあ、今から十分後に一斉に突入してもらうクマ。リリーちゃんに妨害を切ってもらって情報を送る。そして、僕たちは室町すずちゃんを奪還する」
「どう見ても、あの子はメインの依代にされている。狙ったことなのか」
源庵の指摘。
「わかりません。最初は人質の中から子供を選ぶといっていたような……」
首を振る古谷。
「ここに遊びにきたのは偶然なので、違うと思うクマですが。女優さんだから依代に適していると思われたのかも」
「とにかく考えている暇はないぜ、警察に連絡だ」
「リリーちゃん、僕たちは首魁に迫る位置に行くよ。連絡はお願していいクマ?」
「ええ、任せて。今から妨害電波を切るわ」
妨害電波を切れば、ショッピングモールのシステムはリリーの支配下に入った。
翔一のAIが警察に連絡する。
「こちらリリーよ、警察自衛隊の皆さん、指揮官に繋いでください。通信は聞かれていません」
五秒ほどで、壮年男性の声が出る。
「こちら警視庁、帯刀警視。何者だ、人質なのか」
「違うけど、ヒーローの協力者よ。ひそかにテロリストの裏をかいて情報を集めていたの。すぐに送った情報を確認して。敵と人質の配置がわかるわ。妨害電波を切ったから情報はリアルタイムよ」
「……ありがたいが、この情報の信ぴょう性を評価する必要が……」
「何をいっているの、あなた。今すぐ動かないと助かる命も助からないわ。すぐに配置について、あと六分後、十四時半ジャストに突入してちょうだい」
「しかし」
「敵は邪悪な儀式をやっているわ。荒唐無稽かもしれないけど、人質を生贄として殺すことだけは現実よ、一気に何百人も死ぬの!」
「……わかった、詳細な情報感謝する」
通信はすぐに切れず、少し会話が聞こえる。
「帯刀さん、中央は僕がやるよ。特殊部隊は各入り口から突入してください」
「頼む、エリック君」
「皆の者。落ち着いて静かに確実に動くのだ。我らを信じていれば大丈夫だ」
鋼金剛の声にうなずく人々。
非常口から出て、段になった建物の二階屋上から地上を目指す。
映画館などが併設されている関係上、厳密には五階建くらいの高さがあり、場所によって階層は小刻みになっている。
ゆえに、思った以上に地上への移動は距離があった。
そして、エジプト友好展を見にきた人々は年配者と子供が多く、移動に時間がかかる。
「大丈夫だ。足元に気を付けるのだ」
球磨川風月斎は子供たちに優しく声をかける。
二階屋上から地上までは、西側の非常階段をまっすぐ降りるだけだった。階段を降りるとショッピングモールの裏手に出る。
そして、そこから裏口まで五十メートルほどの距離がある、裏口には警察特殊部隊の兵士たちが待っていた。
彼らは紙飛行機を受け取って、状況を把握している。
「どのぐらいかかると思う」
「十分ぐらいでござろう」
地金剛に答える球磨川風月斎。
人々をせかしても、早く動けるものではない。
「あ、黒覆面いるよ」
若木金剛がモフ指をさす。
二階屋上に渡り廊下があり、さらに南の中規模の商業施設の建物が繋がっている。
そこから黒覆面の一団が十数人やってきたのだ。
そして、階段を上って北側から現れる黒覆面の小部隊六人。
「ち、まずいな」
風金剛。
「心配召さるな。我の呪術ご覧あれ」
鋼金剛が九字を切ると、空間に半透明の符がいくつも浮かび、術が展開される。
「撃て! 逃がすな!」
南側からサイレンサー付きのSMGが掃射されるが、符の前で全て止まり、ボロボロと屋上に金属の弾が転がる。
「キャー!」「うわ、敵だ!」「逃げろ!」
叫ぶ人々。
「落ち着くのだ。弾は魔術で止まっている」
風月斎の男性的な声が響くと、人々のパニックは収まったようだ。
それでも小走りで脱出口に向かう。
「貴様ら、丸腰の人間に迷わず引き金を引いたな。許さん!」
風金剛が叫ぶと、次の瞬間には南側の黒覆面の前にいる。
瞬きする間もなく、二人の兵士が地に伏せた。
「風牙流柔術、貴様たちは何が起きたのかもわからぬうちに倒される!」
彼らは関節を外され、苦痛にうめいて動けなくなっていたのだ。
ナイフを抜いた兵士がさらに宙を舞う。関節を極められて地面にたたきつけられる。
魔法のような柔術だった。
「風、お前ばかりにやらせんぞ。鉄拳制裁!」
地金剛が銃弾を跳ね返しながら突進。二人三人と殴り飛ばす。
「とう!」
若木金剛が木の棒を出して、北側の兵士たちを殴り飛ばし始めた。
銃撃が当たるが、どうやら、鋼金剛の防御符が彼を守っているようだった。
ボコ、ボコ。
太めの丸太が黒覆面たちを殴り倒す。
黒覆面たちは数が多いが、坂東力士四天王が圧している。しかし、すぐに乱闘は終わらないようだ。
「キャー!」
地上から、悲鳴。
風月斎が見ると、人質に立ちふさがる鈎爪の怪物。
グールのような不気味な姿の大男だ。
人々は階段に戻って立ち止まる。
警備隊がライフルのストックや拳銃で襲い掛かるが、爪の一撃で吹き飛ばされる。
血は出ていない。アーマーで耐えたが気絶した。
「いかん!」
風月斎は柵を越えて、地上に跳ぶ。
手すりや壁を蹴って、稲妻のように敵の前に立った。
パンパン!
警察が支援射撃をしてくれるが、大グールには効かない。
恐ろしい速度で鈎爪を振り回してきた。
さっと回避して『ソルヴァル』を抜く風月斎。
ドン!
大型ライフル弾が怪物を貫いたが、その傷はすぐに修復されていく。
「俺は単なるグールではない」
ニヤッと笑う怪物。そして、頬を膨らませる。
ブッと毒液を吐いた。
「ぬん!」
笠を盾にして、毒を防ぐ。
回避だと人々に当たる可能性があったのだ。
表面が溶ける。
「人質を守らないといけない。苦しい戦いだな」
嗤う怪物。
滅茶苦茶に振り回される鉤爪。
風のように躱す。
「どうする、次はもっと大量の毒液を浴びせるぞ。後ろのゴミどもも浴びずにはいられまい」
怪物の頬が極限まで膨れ上がって行く。
風月斎は笠を捨てて、刀を担ぐように構えた。
馬鹿にしたような目で見る大グール。
一瞬の静寂。
大グールの肺が膨らんだ。
次の瞬間。
ズブ!
グールの喉に刺さる小太刀。
風月斎は一歩も動いていない。太刀で斬ると見せかけて、小太刀を投げたのだ。
肺の空気を小太刀に塞がれて、口蓋に貯めた毒液は噴射できなかった。
焦る怪物。
「破極撃」
そして、飛び込んだ風月斎の暴風のような掌打がグールの顔面を叩く。
格闘家、海原我神の必殺技だった。
弟子から技のあらましを聞いていたのだ。そして、密かに鍛錬していた。
子熊の一撃は首の骨を折り、グールの頭はぐるっと回って毒液を横の壁に吐く。
ブシュー!
溶けて、煙を上げる壁。
それでも爪を振り上げる大グール。
ブン、
白い剣が一閃。
腕と頭蓋を斬り飛ばされて、地に倒れ伏す。
「お見事でござる、風月斎殿」
見上げると、鋼金剛がポーズを決めて声をかけてくる。
「こちらはもう終わった」「ぬう、あまりに歯ごたえがなかったですな」「俺、頑張った」
残りの四天王も手を振ってくる。
「皆の者。すぐに警察の元に飛び込むのだ」
障害がなくなって、走る人々。
「歩けるか」
警備隊長を起こす風月斎。
「はい。……ありがとう。ヒーロー」
子熊たちは鋭い視線で警戒しながら、人々を見守った。
2021/10/10~2022/5/22 微修正




