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112 ショッピングセンター襲撃、黒きファラオの呪いクマ その3

 治癒クマーの姿はそれなりに有名であり、ジムエリアに立てこもっていた人々は受け入れてくれる。

「今、何があったんだ? 暗くなったかと思ったら、あの金属人間みたいなのが……」

 機械人間の残骸を指さす警備小隊の隊長。

「さ、さあ、わからないクマー。大クマー兄がきたのかな」

 咄嗟にいつものごまかしが口から出る。

「大クマー。そんなヒーローがいるのか?」

「超恥ずかしがり屋さんですクマ」

「まあいい、よくわからないがそれでも助かったのは事実だ」

 機械人間を失って、黒覆面のテロリスト兵士たちも退却している。

 警備兵は五人。一般人はジムの客と近くを歩いていた人たち。女性が多い。子供もいる。

 怯えているが、けが人などはいないようだ。

「非常口から脱出できないクマ?」

「無理だ。三階の屋上から非常階段は丸見えだ。狙撃されてしまう」

 鏡を使って屋上を確認すると、長いライフルを持った敵兵が複数見える。急いで降りたとしても、犠牲は必至だろう。

「よく気が付いたクマ」

「逃がさないように、警告射撃を受けたんだ。奴らは俺たちをここにとどめるのが目的らしい」

「人質は十分なはず、何が目的なんだ」

 逃げられなことにいら立ちを隠せない警備兵や一般客たち。

「政府脅すために、たくさんの人質が必要。一応そういう説明クマ」

「どこで知った? 連絡が取れるのか」

「ええっと、そう、スマホでニュースを見たクマ。政府を脅しているって」

「スマホは中継機が抑えられて繋がらないのだろう」

「僕のはテレビが見られるクマ」

「そうか、なら」

 彼もテレビを見ようとしたが、妨害電波のため無理だった。

「警察がきたときに妨害電波流し始めたクマ。無線も電波ももう無理」

「くそ! これでは打つ手なしじゃないか!」

 警備兵の一人が、苛立ち、壁を叩く。

「敵にはハッカーいると思います。かなり凄腕の」

「そういうことか、監視カメラは切るべきだな」

 数人の男がカメラのケーブルを外す。

 翔一は説明しなかったが、この部屋に入る前に、監視カメラに機械精霊を纏わせていた。

「そうだ、紙飛行機を飛ばすクマ」

「紙飛行機?」

「しばらくしたらジムエリアから人質が脱出しますって、メモかいて飛ばすクマだよ」

「何をいっているんだ」

「じゃあ、この紙にクマクマッと。メモ書いたクマ。そして、窓から飛ばす」

 治癒クマーは適当なチラシを拾うと、マジックで文章を書く。そして、紙飛行機の形にした。

 窓を少し開け投げる。

 ふわっと飛ぶ紙飛行機。

 ふらふらと飛ぶが、落ちることはなく、警察車両のフロントガラスの上で止まる。

 黒づくめの特殊部隊員が回収して車に持ち込んだ。

「どう、やったんだ」

 唖然とする警備兵。

「風の精霊を呼んだクマ」

「君は魔術が使えるんだな」

「ささやかな術だけです」

 見ていると、警察と機動隊の一部が非常階段との最短距離に集結している。

 警察が素直に動いたのは、紙飛行機の異常な飛距離と正確な動きにを見ていたからだろう。味方の存在を感じてくれたのなら、警察も愚かではない。

「僕が狙撃手をなんとかします。ことが済んだら急いでこのルートで逃げてください」

 翔一は例のパンフを見せて、建物の陰になる移動ルートを示す。

 モノリスアヤメの北端から警察の元に駆け込むのだ。

「しかし……」

「僕は隠密得意クマです。壁も楽々登れます。一階の敵はシャッターを閉じてますから外は見えていません」

「狙撃手さえ何とかなれば、この人数位なら逃げだせるかも。しかし、狙撃手は二人いるぞ」」

「兄の大クマーに頼んで、何とかしますクマ。終わったら、紙飛行機送ります」

 うなずく警備兵たち。

「悪いが頼む。こちらは女性も学生もいるんだ。何とか逃がさないと」

「敵を無力化したら連絡を送るから、すぐに逃げられるように準備しておいてください」

 子熊の言葉にうなずく警備兵たち。

 治癒クマーは、控室の小さな窓から出て、外壁に爪で張り付く。

 そして、するすると登った。

 そこそこ凸凹があるので、何とか狙撃手から見えない場所を伝う。

 隠密精霊も呼んだ。

 壁は白いのでかなり難しい隠密である。

(僕は焦げ茶色で壁は白。さすがに警戒している狙撃手から発見されるとは思うけど、接近できたらいい)

 

 屋上の手すりを乗り越える瞬間、離れた側の狙撃手に撃たれた。

 ドン!

 わき腹を掠める。

 しかし、銃弾は止まって落ちていった。

(鋼体精霊使っておいて正解クマ。でも。精霊さんは今の一撃でかなり弱ってしまった、連発されたら無理だ)

 乗り越えた目の前には敵の狙撃手。

 拳銃を抜く黒覆面。

「エイ! エイ!」 

 木刀で強打する。

 拳銃を叩き落として、男の背中を激しく打つ。

 防弾チョッキを着ていたが、衝撃は止められず、コンクリートの床にたたきつけられた。

「ぐお!」

 全く動かない。完全に気絶したようだ。

「クソ、機械精霊が効かない」

 宿精の声。

 二発目の銃撃。

 咄嗟にフライングシールドを出す。

 ガンと激しい衝撃があるが、重装甲は抜けなかった。

 狙撃兵たちは互いをカバーできる位置で複数人いる。そのうちの一人が状況を見て翔一を撃ったのだ。

「こうなったら、妖術だ。黒い呪縛!」

 精霊界から黒いモフ手が出て、呪力を放った。しかし、

「カウンターマジック」

 重い声が聞こえ、ダーク翔一の術が消えた。

「え? なんだ」

 驚く宿精。

 狙撃手の三発目をさらに盾で止める。

「よく見て、術者がいるクマ!」

 虚空に半透明の男が浮いている。 

 黒いぴったりした服にぼさぼさの黒髪。ひょろっと背が高く、大きな目とにやつく口元。

「熊の怪物。聞いたことがあるが、子熊だな」

「お前、何者クマ」

「話をしている場合か?」

 屋上、南側の角にはさらに二人の狙撃手がおり、彼らが銃口を向けてきた。 

 さっと、排気装置の陰に隠れる。

 大口径の銃弾はスポスポとその程度の遮蔽は抜いてくるので、結局、シールドを置く。

「こっちだ、熊小僧」

 はっと振り向くと、男が手に炎を矯めて宙に浮いている。

 ボムっと火炎弾が発射された。

「チビクマ!」

 精霊界から鏡を背負ったチビクマが現れる。

 鏡は炎をはじき返した。

「クソ!」

 男は自分の火炎を何とか回避する。

 しかし、その隙が命取だった。

 ボス!

 胸に大きな丸石が当たる。

 翔一が精霊界から石を取り出して投げつけたのだ。

「うぐ!」

 手すりに座るように落下したが、意識を保てず、地上に落下する。

 見ると、ナイロン製のひさしに跳ね返って地上に転がった。

「ウィザードがやられた」

 狙撃手の声が聞こえた。


「暗黒精霊!」

 狙撃兵たちを闇で包めば、彼らに勝ち目はなかった。

 木刀の一撃を体に叩き込んでいく。

 慌てていたが、敵は何もできない。

 木刀を体に喰らって苦痛で気絶した。

 テロリストをひもで縛って、銃器を精霊ポケットに放り込む。

「よし、これでいい」

 モノリスアヤメ北側屋上の制圧を確認したので、チラシを二枚取りだした。

 紙飛行機を二つ作る。

 一つは、警察に狙撃兵を無力化したので、今から人質が脱出すると。

 一つは、ジムの人々にもう大丈夫だと。

 二つの白いメッセージは風の精霊の力で、見事に舞って目的地に着く。

 そっと非常階段を見ると、ジムにいた人々が急いで降りていた。

 機動隊が人々を守って収容する。

(それでも、助かったのは三十人くらいクマ)


「フウ、俺たちの活躍、警察に見られたかもな」

 ダーク翔一が胸を張る。

「僕たち、背が低いから、屋上の柵で見えなかったと思うクマだよ」

 屋上の柵は金属板が張られて、外から見えることはない。

 成人の胸の高さほどがある。

「んだよ、それ。というか、お前もうヒーローじゃないだろ。活躍隠さなくてもいいのでは?」

「敵にも味方にもばれないほうがいいクマ。目立つと家族にいろいろと迷惑かかるよ」

「ふーん。まあ、それもそうかもな」

 翔一はその間に、敵の持ち物を探る。

 覆面を取ると、白人と東洋人と浅黒い肌の人。人種民族はばらばらのようだ。

「通信機は使えないけど、連絡はどうやるクマ」

「精霊じゃないよな、それはすぐに俺たちは気が付く。テレパシーとか、超能力じゃないか」

 試しに、敵のヘッドセットを無理やりつけてみる。

「おい、どうした。定時連絡を入れろ」

 何者かの男の声が聞こえる。

「何も問題ないクマです」

 思わず、答えた。

「クマ?」

「あわわ。だ、大丈夫です、く」

「アルファ班、連絡が取れない者がいる。何かわからないか」

「確認してから報告します。電波障害かも」

 適当に答える。

「ジムの奴らはどうした」

「抑えています」

「現状維持しろ。儀式はすぐに始まる」

「了解」

(儀式?)

 通信は切れる。

「リリーちゃん、敵は通信できるみたいだよ」

 胸のタッチパネルに問う。

「妨害はいくつかの場所で発せられて、通信するときだけ必要な区画で切るみたいね。効率よく制御しているわ」

「普通は妨害されていたら、それがブチブチ切れるとか思わないクマ」

「そういうことよ。奴らは長い通信をしないようにしているのかも」

「なるほど」

「儀式。やっぱり、オカルト絡みの何かだ。人質を円形のエリアに集めているのが怪しすぎるぜ。お?」

 考え事をしていた宿精は、突如、目の前に現れた霊体に驚きの声をあげる。

 翔一も見ると、それは存在感が虚弱な祖霊。

「おじさんは展示会場で結界を……」

 彼は結界の維持管理を頼んでいた祖霊である。

「フムフム、おい、結界破られたらしいぞ」

 宿精の言葉に、

「すぐに行こう。お母ちゃんが心配クマ!」

 壁に爪を立てると、屋上から壁を伝ってまっすぐ南側の展示会場に向かった。




 展示会場の外壁、屋上側からそっと中を覗く。

 見た感じに異常はなかった。

 人々は不安そうだが、戦闘があった気配はない。母が隅の方に座っている。

 ふと見ると、監視カメラは止められていた。

 警備兵が敵に情報を送るだけだと気が付いたのだろう。

 窓を機械精霊で開けると、入って行く。

「治癒クマーちゃん!」

 詩乃は子熊に気が付くと、ぎゅっと抱きしめる。

「何があったクマです」

「すずちゃんが! どうしよう」

 かなりおろおろしていた。

「お母ちゃん、落ち着くクマ」

「治癒クマー君!」

 警備隊長がやってくる。

「何があったのか教えて下さい」

「実は……」

 翔一が去ったあと、敵が大挙して押しかけたという。

 彼らは『セトの仮面』の引き渡しを要求し、素直に渡せば、攻撃はしないと約束した。そして、結界を何らかの手段で消したのだ。

「敵のリーダーは上品な感じの外国人でした。話し合えばわかる、そんな感じがして……」

 警備隊長が顎に手を当てる。

(魅了系の魔法かもしれない、もしかしたら吸血鬼?)

「すずちゃんがあの仮面を手に取って、ふらふらとあいつに渡しに行ったの。止めようとしたけど、あの子がすごく怖い目でにらみつけて、私、手が止まったわ」

 詩乃が少し震えながら述べる。

「あの子はいったいどうしたんだ」

「魔術で操られたと思うクマです。僕は助けに行く。敵の目的はあれだったんだ」

「それなら、我々は非常口から脱出できるのではないか」

 警備隊長の言葉に、パンフレットを取り出す。

 ここは建物の中心部から若干南で、敵が集結している二階中央を掠めて逃げる必要があった。

 一旦屋上に出て、北から逃げるにしても、移動距離が長すぎる。

「うーん、敵は僕たちに興味ないと思うけど……」

 思わず、腕組みをする。 

 危険度だけいえば室町むろまちすずを今すぐにでも助けに行くべきだが、彼らも見捨てられない。もちろん、このままここにいるのも危険だろう。

「ん? 誰かくるクマ」

 精霊界にゲートが開き、小柄でモフっとした何かが現実世界に出現する。

「よっと、ようやくきたぞ」

「……」

 精霊界から出現したのは、土器の面を被った子熊のぬいぐるみと、同じく、笠と胴丸、腰に刀を二本挿したぬいぐるみ。

 土壁源庵つちかべ げんあん球磨川風月斎くまがわ ふうげつさいだ。

「先生たち!」

「きゃ! どこから出てきたの? 源庵さんと、風月斎先生よね……」

 詩乃が驚く。

「詩乃さん、私がきたからにはもう安心ですよ」

「これは奥方。御無事で何より」

「先生たち、ありがとうクマ。きてくれて」

「テレビでかなり切迫したニュースを見たからな。精霊界から距離を飛ばしてきたのだ」

「そんなことができるクマ。結構、ここまで遠いですよね」

 前に山中にきてもらった時は、頼んでから時間がかなりかかっている。今回は数十分できたのだろう。

大絹姫おおぎぬひめに術を頼んだ。さすがの腕前だ」

 土器面の子熊がうなずく。

 翔一はかなりほっとした。

 やはり、自分一人でどうにかできるものではない。宿精とAIも頑張ってくれているが人手不足は否めない状況だったのだ。

 人々は突然の異様な存在の出現に驚いているが、歩いて喋る子熊のぬいぐるみという恐怖感のない彼らに、パニックを起こすようなことはなかった。

「先生、今ここにいる人たちにテロリストたちは興味を持っていないクマです。今なら脱出できると思います」

「フム」

「僕は連れ去られた女の子を助けに行きますクマ」

「翔一君、私も手伝おう。風月斎殿、人質は頼んだ」

「あいわかった。人々は拙者が脱出させよう。しかし、拙者一人ではこの人数を守り切れるかどうか」

 見ると、避難した人々は五十人程いる。

 仮面が奪われた後、隣接する映画館から更に数十人が逃げ込んできたのだ。

 尚、翔一は知らなかったが、その時間で上映されていた映画は非常な不人気で、客席がガラガラだったのが幸いした。テロ集団もほとんど無視していたようである。

「心配するな、私の秘儀をお見せしよう」

 そういうと、土壁源庵は自分と同じようなぬいぐるみを四体置く。

「出でよ! 我が同胞はからかたち」

 ほとんど前ぶりもなく目を光らせる土器面のぬいぐるみ。

 モフ手を上げ、ぐっと拳を握ると、精霊界から幽体がやってきてぬいぐるみに宿った。

 目が光り、立ち上がるぬいぐるみたち。

「すごい、クマ! ほとんど儀式もせずに!」

「フフ、我らいにしえのつわもの、坂東力士四天王ばんどうりきししてんのう! 見参!」

 モフ力こぶを見せつけるぬいぐるみたち。

 しかし、

「……気のせいか、微妙な体ですな」「うーん、もうちょっとカッコイイ依代はなかったのですか」「くまちゃんですね」

 何となく、気合の入らない子熊四体。

「いいから、今はそんなこといってる場合じゃないし。ここにいる人々を君たちは守って、外で待機している人たちに渡すのだ」

 源庵の言葉にうなずく四天王。

「敵は超能力や銃を撃ってくるクマ。魔術は使えます?」

「心配いらぬ、四天王筆頭の鋼金剛はがねこんごうが究極の防御呪をお見せしよう」

 いちいちポーズをつけながら答える。

 とりあえず、強そうな四天王筆頭の子熊。

「フ、風金剛かぜこんごうの私の前に、小賢しい銃撃など無意味。引き金を引く前に地に伏せておるわ」

 ニヒルな感じの二番手の子熊。

地金剛ちこんごうの俺が小賢しい攻撃をはじき返す」

 ぬんと気合を入れる三番手の子熊。

「えーっと、若木金剛わかぎこんごうも頑張る」

 最後の四天王最弱の子熊も何となくポーズをとった。




2021/10/9 微修正

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