Tiny Tiny
白昼の横浜、その一角のビルで固唾を飲んで画面を見守る人影がある。
フェブラリーラボのメイデン達だ。
その中でも一際小さな少女が無心でF5キーを連打し、サイトの更新がかかるのを今か今かと待ち構えている。
「玲花!」
叫びに呼応するようにキーボードから腕を引けば、逆のマウスを持つ指に力が入る。
そうして表示されていく画面、白地に番号が羅列されたそれを眺め……ある一点で皆の視点が止まる。
画面と受験票を交互に見やり何度も何度も確認し、ついにその画面に表示された番号が手元の紙の中にある事を認めれば、PCから勢いよく立ち上がり勝鬨の声を上げる。
「いぃっ……やったぁ────ッ!」
●
「やった! やりましたよ! ついに合格しました!」
玲花はメイデン試験2回目の受験と聞いていたが、無事に合格出来た事をメイデン協会のホームページが告げている。
小さいながらに全身をフルに使い、喜びを表現する様は見ているこちらもつい嬉しくなってくる。
「おめでとう、玲花」
「いやー、ようやくれいれいもメイデンかー……今夜はお祝いだね」
「た、高いのはもう勘弁してくれたまえよ……?」
トラウマがフラッシュバックしたか、三月社長は顔を青ざめさせながら後退りしていく。
それを蚊帳の外において、少女3人で盛り上がり始める。
「さっそく適合試験だね、どのドレス着る?」
「ラプターはやっちゃん、レオは専らアタシが着るとして……後はパンサーとかタートル?」
「タートルってあのロクに武装持てないアレ? 使ってた人いたの……?」
「いや? 安いからって事で買ったはいいけど倉庫で埃被ってるやつ」
「そんなの勧めないでくださいよぉ!?」
そんな他愛もないやりとりに大人気ない三月社長は積極的に水を差しに来る。
「残念だけど、それよりも先に免許を発行しないといけないね。 まぁ免許センターの場所は覚えてるかい?」
「ええ、なにせ2回も行きましたからね!」
「……コレ、笑っていいところなの?」
自虐ネタを織り交ぜつつ準備を進めると、威風堂々といった雰囲気で胸を張ってラウンジから出て行く玲花を見送る。
扉が閉まりきったところで、3人が集まり誰も聞いていないのにコソコソと話し始める。
「……で、実際のとこどうなの?」
「実際とはなんだね?」
「れいれいが戦力になるのかってところ」
「あ、それボクも気になってました」
「なあんだ、そんな事かね」
本当に言葉通りの表情を見せられると思わずイラっとさせられるが、これが三月社長のデフォルトなのでここで反応しているとキリがない。
「玲花くんは我が社が誇る天才さ、何も心配する事はない」
「ホントぉ〜?」
「なんか普段から小動物みたいな扱いしてるせいか、戦うとなると不安になるんだよね……」
「臆病だし……」
「やたら手のひら返し早いし……」
「君たち結構容赦なくdisるね?」
と、語っているとふと一つひっかかる事がある。
普通はメイデンとしたの免許を持つ人間でなければ雇わないはずの駆除業者が、なぜ取得見込みであったとはいえ玲花を入社させていたのか、だ。
「そういえば、どうして玲花を入社させてたんです? 犯罪?」
「私の事をなんだと思っているのかね……まあ、語ると少し長くなるけどいいかな?」
「良くないから三行で」
完全に長々と語る気満々だったらしく出鼻を挫かれるが、少し思案し考えを纏めた後に喋り出す。
「・玲花くん北海道クレイドルから上京するが路頭に迷う。
・それを偶然見つけた私が保護する。
・才能を見出し現在に至る」
「もしもしお巡りさん? はい、そうです……この前の。 ええ、三月社長なんですけどやっぱり……」
「反応速度がダンチだ!」
美樹に羽交い締めで止められ、通報は諦めるが納得行かない事だらけだ。
それが現代だと諦め切れるほど大人ではないので、抗議の声を上げる。
「いや、だってこんな胡散臭い人が……こう、マニア受けしそうな玲花を保護って! やっぱり裏の顔は闇アイドル事務所だったりしませんかここ!?」
「何の話!?」
そんな他愛もない馬鹿騒ぎ、それを切り裂くように唐突にサイレンが鳴る。
バリアントがクレイドルへ接近している事を報せるものだ。
普通であれば接近を許す前にレーダーが感知し、こちらに駆除の依頼が出る。
そうならなかったという事は──
「また!?」
「レーダーの不調でないなら、どうしてこの距離まで分からないのさ!」
そう騒ぎ立てながらも、出撃の準備を進めていく。
自分はまだ療養中でドレスの装着こそ出来ないが、その補佐は出来るという事で共に輸送列車へ乗り込む。
「そうだ、玲花は!? メイデンになったなら……」
『いや、ダメだよ』
「なんでさ!」
通信で割り込んできた三月社長に、一人で出撃しなければならないと告げられた美樹が抗議の声を上げる。
『だって、免許不携帯でドレス着たら罰則だし……』
「…………仮にもドレスって、クレイドル壊して余りある戦力だしね……」
「た、確かに」
コンプライアンスは企業として重要である、守らなければ様々な罰則が言い渡される事になる。
仮に出撃停止など貰おうものなら1発で行政指定から外され倒産待った無しだろう。
『玲花くんには免許を貰ったらすぐに戻るように伝えてある。 それに今回は小型が5、中型2といった小規模な群れのようだしなんとかなるだろう』
「ならいいけど……」
しぶしぶといった様子で納得し、列車がゲートへ到着するのを待つ。
「ごめんね、ボクが出撃出来ないばっかりに」
「いや、このくらいは一人でなんとかしてきたし平気平気」
そう語る美樹の横顔はこの前の戦闘時のような強がりや不安のないもので、なら任せられると心から思える頼もしさを纏っていた。
お風呂の中で書いてたので初投稿です