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虹になれ

 ゲートに着いたボク達は、そのまま急いで格納庫へと向かう。

 入り口から格納庫までの通路を小走りで駆け抜けながら、通信してくる三月社長含めた簡易ブリーフィングを行うのがここ最近の定番になりつつあった。

 しかし今回に限ってはそうもいかない。


「ブリーフィングしようにも、数以外の情報がないんじゃあ、なぁ……」

『結局さっきの警報から追加で入った情報は大型種がいるって事だけだ』

「ってかなんでわからないの? マジで故障っぽい?」

『クレイドル運営局に聞いたら確認し次第連絡します、だってさ』

「お役所仕事だねぇ」


 普通そう答えるしかないのでは? と思いつつ、この2人が何かと反体制派っぽいのはいつもの事のようなので口には出さない。

 いつも通りハンガーに足を乗せ、装着姿勢を取る。


「美樹のドレス、どうする?」

「今回はレオ使おうかなって」


 自分がよく使うラプターも少々型落ちしているが、レオはさらに世代を遡る代物だ。

 しかし、機動力こそ劣るものの大型の武器を携行できる点やシールド性能の高さから名量産機としてメイデンには人気のドレスである。


「そうだね、何があるかわからないし……正直大型相手だとボクはパワー不足だから助かるよ」

「やっちゃんでパワー不足だったらだいたいのメイデンがダメなんじゃないかな……」


 お互いを横目に見て喋りながらもドレスの装着は行われていく。

 朱色をベースに黄色を散りばめたカラー、ラプターに比べ太めの手脚にはハードポイントがいくつも設けられ様々な装備の携行を可能とする。

 胸元のパーツもまたラプターより大型、必ずしもジェネレータパーツの大きさが出力に直結するわけではないがレオに関してはそうだと言える。

 獅子のたてがみをモチーフにした、象徴性の高いヘッドギアを装着すれば前面がバイザーに覆われる。


「なんか、色合いもあいまって戦隊モノみたいな感じしない?」

「わかるけどさ……ほら、早く行くよレッドレオ」

「がおーっ!」


 ●


 相模湾に面した南側ゲートから出撃し、まだ肌寒さを残す上空を飛んでいると、しばらくして黒い敵影が薄ぼんやりと見えてきた。

 大量のウォーロック、そして……


「げ、ビショップにクルセイダーまで……」

「大型いるって言ってたけどさ、2体いるのは聞いてないって!」

『美樹くんが言った通り、大量にせびらないといけないねえ……』


 突撃槍と戦闘機をくっつけたような、全長8mほどのバリアントがクルセイダー。

 槍のような部分にエネルギーを纏い、ひたすら質量攻撃を仕掛けて来る戦法はウォーロックのそれと変わらない。

 しかし単純な大きさの差や、射撃のための器官を廃した事で得たか、高出力らしいブースターのような器官によって加速し行われるそれはメイデンのシールドをすら脅かしかねない。


 だが、それよりも厄介なのが壺のような形をした、7mほどの大きさのバリアント、ビショップだ。

 攻撃のための器官は短い触腕しかなく、単騎であればそれを振り回すか体当たりしか出来ないため危険度は低い。

 しかし、周囲のバリアントを指揮すると共にシールドを貼る機能を持ち、小型バリアントの群れの中にいるだけで群れの脅威度をグンと引き上げる難敵だ。

 それらを目の前にしても、美樹は気楽な様子でこちらの肩をポンポンと叩く。


「ま、でもやっちゃんがいるならなんとかなるでしょ。 さっきの映像みたいにビショップからお願い!」

「……ちょっといいかな?」

「おっとぉ? なんだか不穏な切り出し方だけどどうしたのさ」

「うん……今のボク、ビショップと相性最悪というか……多分あいつが貼るシールド抜けない」


 美樹の笑顔がみるみる曇っていき、目に見えるほど青ざめていく。

 そこまで期待されていたのかと思うと少しよくない嬉しさを抱くが、そんな事よりも現状に対応しなければならない。


「えーと、さっきの映像だとずんばらりんって斬り捨ててたじゃん。 エイプリルフールなら先日終わりましたが」

「うん、ボク嘘苦手。 あのね? あの時はドレスや武器の性能が良かったというか……大容量だった上にシールドの性能低めでその分の出力を武器に回してたから速攻できたんだよね……」


 それを聞いてしばらく宙を眺めたり見えない何かを追うように目線を動かしていたが、ハッとしたように意識を正常に戻す。

 そして気楽な様子でこちらの肩をポンポンと叩き。


「ま、でもやっちゃんがいるならなんとかなるでしょ。 さっきの映像みたいにビショップからお願い!」

「現実を受け入れられないあまりループした!?」


 一応わかってはいるのか、冷静になって頭に手を当ててくねくねと全身で苦悶を表現し始める。


「パワー不足ってそういうことか……それじゃアレ、どーするよ……」

「いやまぁ、使い慣れてるからって出力落ちてるの承知で同じような武器選んだボクも悪かったけどさ……お願い、美樹のエネルギーランチャーが頼みなの!」

「マジかー……わかった、その代わりアタシはやっちゃんほど上手くやれないからビショップまでの道をつけてくれる?」

「もちろん」


 ようやく覚悟を決めたか、これまでとは打って変わって真剣な面持ちでこちらを見つめる美樹。

 それに応えるようにライフルを持った手を上げ、戦闘を開始する。


 ●


 ウォーロックは攻撃一辺倒のバリアントだ、先手を打って潰すなり躱しながらチマチマと数を減らせれば大したことはない。

 だが、それが難しい状況になればその攻撃力は一気に牙を剥く。

 美樹がエネルギー弾の斉射を避けながらウォーロックへの一発を見舞う。

 エネルギーランチャーは、通常であれば2体ほど巻き込んで貫けるはずの出力であるが、減衰させられた事によって戦闘続行に支障が出ない程度の損傷しか与えられない。

 ましてやライフルなど効いている様子もない。


「ダメだ、あのビショップ強いやつだよ! 至近距離じゃないとシールド抜けな……どわぁーっ!?」

『美樹くん!?』


 そうして手間取っていれば、クルセイダーが美樹を狙い突進してくる。

 その速さはウォーロックとは段違い、最高速であれば軽量級のドレスですら抜き去るほどのものだ。

 それを乙女らしくない声と引き換えになんとか回避した美樹が、まだ始まって間もないのに荒い息を吐く。


「そ、そもそもアタシ大型相手すら初めてなんだけど……怖ぁ〜っ!」

「大丈夫、いざとなったら逃げよう!」

「……だね!」

「命あっての物種!」

『私もそう思うよ』


 なんだか後ろ向きな覚悟を決めつつ、敵の只中へと飛び込んで行く。

 ウォーロックが一斉にこちらを向き、エネルギーを砲門へ蓄え始める。

 そのうち近場の一体に向けブレードを振るうもののシールドに触れた瞬間目に見えて減衰し、多少大きな傷を残したかという具合のダメージにしかならない。


「それでも、ノーダメージじゃないなら……!」


 十全ではない、だが十分だ。

 ウォーロックから一斉に放たれたエネルギー弾を、砲門の向きから射線を割り出す事で死角を見つけ逃げ込む。

 そうして、次はすぐそこにいたウォーロックを横から斬りつける。

 攻撃している個体含めた敵がこちらを向くまでに3回は斬る事が出来、流石に放電やエネルギー漏れといった負傷を与える事に成功すれはそのまま離脱しまた次。

 さらに次、文字通り次々に死地に身を置きながらも無傷で敵を傷付けていけば、やがて爆散する個体も出始める。


「ビショップから……あおぉぉおぉっ!? 先に……やるのは無理なの?」

「こいつらが貼るシールド、身体が大きいほど硬いの!」

「大きいほど硬い……みっちゃん社長! 今の録音できて……うひゃぁーっ!?」

『出来てるけど如何わしい事に使うだろうからダメ、というか大丈夫かい?』

「あんまり!」


 内容こそ緊張感に欠けるが、張り上げた声は気合の叫びにも似る。

 美樹が戦術の要とわかっているのか、執拗に襲ってくるクルセイダーを引きつけてもらっているうちに少しでもウォーロックの数を減らし道をつけなければ……

 と、そこでブレードの刀身がボヤけはじめる。


「え……嘘、まだやれるはずなのに……!?」

『……リミッターだ! シールド越しに敵を斬ろうとするとエネルギー消費が増えるから、すぐにエネルギーが底をつく……それで移動やシールドに悪影響が出る前に武器へのエネルギー供給を弱めてるんだ!』

「え、マジで!? やっちゃんもうガス欠!?」

『メイデンがいる限りエネルギーは無限だからそれはない……けれど、それを供給する出力には限りがあるって事さ、しばらく弱火でやらなくちゃならない』

「このタイミングで……まどろっこしい……!」


 殲滅のペースが落ちるだけの話、とはいえクルセイダーと大量のウォーロックという脅威を少しでも速く解消したい今はそれが手痛すぎる。

 少しでも速く殲滅する手段に心当たりがないではないが、リスキーが過ぎる……などと考えていると美樹が声をかけてくる。


「アタシが突っ込む、シールド容量にはまだ余裕あるし」

「ま、待って! まだウォーロックが……!」


 バリアントは個ではなく群で動くとされ、そして決して馬鹿ではない。

 ましてや統率個体であるビショップがいる以上、今は自分を狙っているウォーロック達が明確にビショップの脅威となる火器を持つ美樹を逃すはずがないのだ。


「イケるイケる……というか……早く行かせてえええええええッ!?」

「や、ヤケだ────ッ!?」


 視覚的にも恐ろしいクルセイダーに粘着され、反撃しても全然効果がないという恐怖に痺れを切らしたか。

 ウォーロックの群れの向こうにいるビショップ目掛けて突撃していく。

 ウォーロック達はクルセイダーの突進に備え道を開けると共に、美樹へ照準を──向けなかった。


「あ、あれ? ボクを狙ってくれるのはありがたいけど……」

 間隔が空いたお陰で死角も増え、反撃を考えないならば容易に躱す事が出来る。

 だが、何体かのウォーロックに関しては自分の身体にぶつかる勢いで駆け抜けていく美樹すら一切構う様子がない。


「ボクのほうを恐れたって事? いや、でもこの状況で……?」


 統率個体がいる時のバリアントは、本当にこちらのしてほしくない事をやってくる。

 今のようにエネルギー切れを起こしたものがいたとして、シールドの防御力が高い事は分かっているので後回しにされる事が多い、はずなのだが……

 そんな思案も、空気を裂いて飛来する音によって霧散する。


「クルセイダー……!」

「ごめんごめん、マジで無理! やっちゃん頼んだ!」

「頼まれても……いや、流れ的に当たり前か……!」


 とはいえ、例え武器が十全に使える状態であってもクルセイダーの足止めは難しいだろう。

 まだ自分を狙っているならば、撃破の目もあるが……などとないものを強請った所で何にもならない。

 唯一の解決策を実行すべく、散ったウォーロックの方へと向かっていく。


 シールドは無敵ではない、衝撃を殺しきる事が出来ないからだ。

 クルセイダーやウォーロックの突進が脅威となるのは、死の危険ではなくその衝撃が主な原因であり、その衝撃で大きく撥ね飛ばされる事によるリスクも発生する。

 そしてドレスが展開するシールドも、ビショップによるシールドも細かい違いはあるらしいが大筋は変わらない。

 であれば、勢いのある大質量……シールドを纏った自分が全速力でぶつかればウォーロックとて撥ねとばす事が出来る──!


「名付けて、メイデン轢殺アタ──ック!」


 ウォーロックへ正面からぶつかり、クルセイダーの横腹へと叩きつける。

 大きな衝撃によって少し頭がくらくらする……が、しかしウォーロックも、そしてクルセイダーも同じかそれ以上のものを味わったのだ。

 しかもこちらは衝撃に備えていたが向こうはそれが叶わなかった、その差は大きい。

 ウォーロックはちょうど傷つけていた個体だったようで爆散し、クルセイダーはその進路を僅かだが逸らされている。

 十分だ。

 ひんひんと泣く美樹のすぐ横を通り過ぎていくクルセイダー、そしてビショップの元に辿り着いてしまえばその巨体が遮蔽となる。


「頼むから終わってぇぇぇえぇえぇぇぇぇ!」


 美樹怒りのエネルギーランチャー3連射、至近距離で叩きつけられたシールドは徐々に性能を落としていき、ついには──


『シールドの消滅を確認、今だ美樹くん!』

「もうやってるよぉぉおぉぉおぉぉ!」


 そのままリロードを挟み、再びの3連射を叩きつけられたビショップの全身から煙が上がる。

 それと共にウォーロックからシールドが消えていくのがわかった。


「こうなればこっちのもの……!」


 しばらく武器を使わなかった事で少しは余裕が生まれたか。

 ブレードの代わりに構えたライフルは、万全といった具合に光条を吐き出し次々にウォーロックを撃ち落としていく。

 連射ペースが早すぎるせいか、すぐにまたエネルギー切れを起こしてしまうがその頃には粗方のウォーロックが片付いた。

 後は──


「やっちゃん! やっちゃん! こいつはどうすんの!?」

「うーん……ボクの事狙ってくれるならカウンター仕掛けるんだけど……」

「悠長ォ──!」


 とにかく今の条件でなんとかしなければならない。

 厄介な事にビショップ以上に装甲が厚く、しかも前面はエネルギー刃、後方は移動のためエネルギーを噴出している関係から射撃の通りが悪いのだ。

 そして自分を狙っていないからカウンターも……と考えたところで一つの案が頭を過る。


「美樹、ランチャー貸して」

「え……構わないけど……ハードポイントの規格とか合わないし、やっちゃんのエネルギーは……」

「いいから、あとはよろしくね」


 迫るクルセイダーを前に、半ば無理矢理にランチャーを借り受ける。

 すると、角度がわずかにこちらにズレた事で狙いをこちらに変えた事が見て取れる。


「これなら……!」


 すれ違い様にブレードを……と取り出そうとした瞬間目眩に襲われる、エネルギーの使いすぎだ。

 メイデンの生体エネルギー、旧時代は眉唾物とされてきたそれを動力とするドレスは即ち体力や気力の類を削って力とするものだ。

 昨今の技術力の上昇により、命までを賭ける代物ではなくなったものの酷使すれば身体に悪影響が出るのも当然だ。

 いや、今は原理の話はいい。

 ただ、ブレードを突き立てて削りきるにはコンディションが不安だという事実がある。


「でも……ボクの武器でヤツを倒すには……」


 と、そこまで考えてある事に気付く。

 そうして気付いたならば実行だ、幸いにもクルセイダーはすぐ近くにまで迫っている。

 その突進を、シールドが展開するかしないかといった瀬戸際で回避する。

 風圧が髪を、頬を揺らすのに任せながらブレードではなく左手の得物──先ほど受け取ったエネルギーランチャーを構える。

 だが、おそらくは足りない。

 思考によってラプターのOSへ介入、各種諸注意のポップアップを出た瞬間に潰していけば、最後のポップアップの承認ボタンを押す。

 当然のようにアラート音が思考を塗りつぶす勢いで鳴り響く。

 それと同時にコとも、カともつかぬ音がドレス全体から溢れて、ランチャーのチャージ率を表すメーターが振り切れ赤い表示を出す。

 装着者の身体を守るためのリミッターが外されたのだ、当然だろう。

 全て構わない。


「これで────ッ!」


 トリガーを引けば、ランチャーは許容量を超えた奔流に砲身を崩壊させながらも破壊を宙に疾らせる。

 反動こそないが、轟音と共に迸るエネルギーは暴風の様にボクの身体を揺らす。

 ただでさえ無防備な横腹にそれを叩きつけられたクルセイダーは一瞬で貫通し、風穴を中心に爆散し破片を宙に散らしていった。


『バリアント反応、全て消失……終わったよ』

「す、すっごいなぁ……」

「へへ……なんとか……なりました、ね…………」


 自分で言った事に安堵して気が抜けたか、あるいはただ単に生体エネルギーをほぼ使い切り、限界だったか。

 くらりと視界が揺れるとそのまま意識は眠りに落ちていった。


「やっちゃん!? やっちゃぁーん!」

初の本格的戦闘回になるので初投稿です。

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