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承認欲求モンスターなのでなろうにも投稿させていただきます。
楽しんでいただければ幸いです。
時は四月。
まだ肌寒さを残す風を裂きながら翔ぶ姿がある。
五体に装甲を纏った少女達だ。
3人を1組とした少女達は旧時代の戦闘機もかくやという速度で飛行しながら、接敵を待つ。
そして、その視線の先に黒い異形を捉えた少女は高らかに声を上げた。
「バリアントと接敵! 小型が3、中型が1!」
先頭を行く隊長格の少女の声に無言で頷いた2人が三角形を広げるようにして陣形を変えれば全員が流れるような、
それでいて誤差なく揃った動きで腰から提げた各々の得物を手に取る。
ふよふよと宙を漂う黒い異形──バリアントを頭部スコープの真芯に捉え、
「今だ──!」
右側の少女が構えたエネルギーライフル、その銃口から光条が放たれると吸い込まれるようにして小型バリアントを貫く。
そこでようやく接敵に気がついたか、バリアント達は体躯に見合った爆発と共に四散する仲間を置き去りにするようにして逆方向へと逃げようとしていく。
「逃がさない、ってぇ!」
だが既に予見されていたそれが許されるはずもなく、左側の少女のバズーカより放たれた大型の弾頭が先頭のバリアントへと着弾する。
榴弾と呼ばれるそれは爆発と共に破片を撒き散らし、直撃した個体を死に至らしめる。
それだけではない、他の2匹をも損傷させつつ爆炎で視界を封じたのだ。
「はあぁぁぁぁっ!」
そうして生まれた隙に対し、隊長格の少女がエネルギーによって形成される刃を横薙ぎに振るい小型のバリアントを両断する。
「もう一撃!」
そこから手首を返しながら腕を振り上げ、文字通り返す刀で中型バリアントを斬撃する。
両断には至らずとも、片の触腕を含む半身を斬り裂かれたバリアントは血しぶきじみて体液を撒き散らす。
しかし未だ絶命には至らないか、機械音とも唸り声ともつかぬ奇音を上げながら無事な方の触腕を振るう。
反撃に対し隊長格の少女は回避も防御も取らない。
その凛々しい顔は放たれた触腕によって無残にも両断──されなかった。
「これで、終わりっ!」
半透明のエネルギー防御壁、装甲によって自動で展開されるシールドが触腕を弾き返す間に態勢を整えた少女は、追撃に横一閃の斬撃を放つ。
致死量のダメージを負ったバリアントがその身体を自壊させるように爆発させるが、その衝撃も防御壁に阻まれ少女に傷一つ負わせることはない。
そうして状況を終え、周囲に敵がいない事を確認した少女達は安堵の息を吐く。
そのうちの1人、特に気を緩めたらしいバズーカの少女が屈託のない笑顔とともにこちらへ向けて手を振る。
「オッケーオッケー、今回も華麗に大勝利! みんな私の活躍見てるゥー?」
「わっ、灯里! これ真面目なほうの撮影なんだってば!」
隊長格の少女が慌てながら止めにかかるが、灯里と呼ばれた少女はその身勝手さと機動力を発揮し止まらない。
「ちょっと、千聖! 灯里止めるの手伝って!」
「別に……何か問題があれば編集されるでしょ」
「確かにそれはそうだけど、でも怒られるの私なのよ!」
「へぇ」
「すっごい他人事みたいにー!」
「だってアタシは恵じゃないし」
そんな問答をしている横で曲芸飛行をしてみたり、ピースサインを作る灯里。
学校や部活の友達とそう変わらない、賑やかな様子で少女達は帰投していくのだった。
●
暗い部屋の中、テレビから聞こえてくる声を聞いていた。
「以上、エトワールコーポレーションによる迎撃作戦の様子でした。
いやあ、やはり高い実力を持っているんですね!」
「東京クレイドルの防衛を一手に担う大手企業ですからね、装備だけでなく育成にも力を入れているのがわかります」
「そうですね。特に匣・八子のダブルエースがほぼ同時期に引退した時はどうなるかと思いましたが、恵という新たなエースの誕生により……」
アナウンサーと専門家が熱っぽく語るのはエトワールコーポレーションによるバリアント撃退作戦の様子と、最近の事情だ。
宇宙からやってくる異形の機械生命体「バリアント」。
その起源は異星人の侵略だとか宇宙開発に使われるはずだった自己進化・自己生産機能を持った機械群だとか色々言われているが、人類はまず起源の解明よりも対処に追われる事になった。
そして人類はクレイドルと呼ばれる生活区域の中に押し込まれながらも生体活性金属などの技術を得て、対バリアント用戦闘装甲……「ドレス」の開発に成功。
細胞がどうといった理由からドレスとの神経接続適性は年若い少女しか持つ事が出来なかったが、ドレスとそれを駆る乙女達──「メイデン」の少女しかいないという欠点を補って余りある戦闘能力はバリアントに支配されかけた世界を再び人類の元へ取り返した。
そうして今では決死の戦いといった様相は影も形もなく、駆除の様子がスポーツ感覚で観戦されるようなものに成り下がったのだった。
「別に、高尚な戦いがしたいわけじゃないからいいけどね……」
恐らくこれは、ボクだけでなく街行く人に聞けば10人中9人は同じ事を言うだろう。
そりゃあそうだ、誰が他人を命がけの戦いに送り出したいものか。
いるとすればそれは相当捻くれた人間だろう。
「続いて次のニュースです」
「え、あっ、やばっ……!」
こうして憂鬱に浸っている場合ではない。
朝のメイデンニュースが終わる頃には既に家を出なければならない時間なのだ。
既に着替えは済ませてある。
洗面台で親譲りの茶髪を整え、準備も万端な鞄を手に取り学校へ向かうべく玄関のドアを勢いよく開く。
「やあ」
するとそこには金髪、糸目、和服姿という胡散臭さの三乗のような男性が立っていた。
しかも様子を見るにどうやら出待ちだったらしい。
硬直するボクに構わず話を続けるあたり、相当肝が太いようだ。
「いやあ、朝早く来てしまったし起こすと悪いと思って待っていたのだけどね……少し君と話がしたいのだけど、いいかな?」
「お……」
「お?」
「おまわりさああああああああああああん!」
「わーっ!? ちょっと待ってくれたまえよ! 私はほら、こういうもので……」
叫びながら逃げるボクを追いかけ、名刺を渡そうとする不審者。
だが受け取ればおそらく最期だ、きっと闇アイドル事務所などに所属させられ際どい衣装でお偉いさんの接待をさせられるに違いない。
自分大好きというわけではないが、流石に羞恥心はまだ持っていたい。
「嫌です! 遠慮します! ごめんなさい!」
「そう言わず! せめて話だけでも! きっと君の為になる!」
そんな不毛な問答を続けながら自慢の健脚で逃げ惑っていると、ちょうどパトロール中に先程の叫びを聞きつけたらしき警官が現れる。
「お巡りさん! あの人! あの人に追われてます!」
「なんだって!? うら若き少女を追い回す怪しい男……ちょっと署まで同行してもらおうか!」
「うっわあ、とんでもないスピードで誤解が進んでいくぞう!」
なんだか一周して楽しそうな雰囲気を纏った不審者は、意外にも大人しく警官に従うのだった。
●
「……で、バリアント駆除業者の社長ってあんたの身分はともかく、この子の家の目の前で出待ちした挙句追い回した事は事実……と」
「ええ、はい、仰る通りです……」
「困るんだよねそういうの、こっちとしてはああ言われたら対処せざるを得ないんだからさ……」
「はい、はい……反省しています……」
「まあ? 三月さんの事情はわかったから今回は何もしないけどさ……」
ガチめに説教する大人とされる大人、そしてその巻き添えを食らうボク。
近所の交番は酷い様相となっていた。
「ごめんねお嬢ちゃん、三月さんも死ぬほど胡散臭いだけで悪気はなかったみたいだし……許してやってよ」
「あ、はい。 胡散臭いだけで話を聞かずに逃げ出したボクも悪かったかなぁ……って」
「おや? これはdisりがまだ続いてるやつかな?」
そんなやりとりをしながらも両者無事に解放される。
話とやらを聞くため、歩きながら喫茶店を目指す。
ちなみに学校は仮病で休む事にした、別にボクは真面目な生徒ではない。
「もう、何やってるんですかホント」
「ごめんごめん……こっちも結構切羽詰まっててさ」
「切羽詰まってるからって出待ちされたらホントにビビりますよ……」
そんな軽口を叩きながら、雰囲気があるというより古い喫茶店へ腰を落ち着ける。
おごりという事で遠慮なくジュースを頼み、目の前の男性──三月が頼んだコーヒーと共に運ばれてきたところで本題に入る。
「それで貴方……三月さんがバリアント駆除業者「フェブラリー・ラボ」の社長さんなのも、直々にボクをスカウトに来たのもわかりました。 でも……ボクをスカウトだなんて正気ですか?」
「何か問題があるのかね?」
「山ほど」
「と、言うと?」
わからないという風に、わざとらしく肩をすくめてみせる三月に若干の苛立ちを覚えながらも言葉を続けていく。
「そもそも、ボクの事をどこまで知ってるんですか?」
「そうだね……雹堂八子くん。
もとは東京クレイドルの防衛を担うエトワール・コーポレーションで宝条匣と共にダブルエースと呼ばれていたが、不可解な事件により解雇処分を言い渡されたこと。
その事件の際、共に帰投した匣くんの腕が八子くんの武器によって切断されていて今なお昏倒状態にあること。
そしてその出撃の直前に言い争いをしていた事から人間関係の縺れの結果仲間を攻撃した、"仲間殺しの八子"などと呼ばれている……というところまでかな」
「なら、そんな悪評が立っているボクを雇えばどうなるかわかりますよね?」
わかりきった事だ、メイデンの任務はチームワークが肝要となる。
そのチームワークを乱すであろう人間……仲間殺しなどと言う名で呼ばれる者を信頼出来るだろうか。
それだけではない、会社全体が「あの仲間殺しがいる」という事で偏見の目を向けられかねないし、エトワールから睨まれるリスクだってあるのだ。
「ふむ……確かにデメリットはあるね。 だが、少なくとも私は仲間殺しなどといった話を信じてはいないよ」
「三月さんがそうだとして、周りからの目線です。 社長であればそういう視点も必要なのでは?」
図星だったか、そう言われて考え込む様子を見せる三月社長。
しかし、次の瞬間にはケロッとした表情でこちらに相対する。
「私はそれ込みで君をスカウト出来ればメリットのほうが勝ると思っているのだけど……」
「メリット、あるんですか?」
「ああ……なにせうちにはメイデンがいない!」
「…………は?」
大仰な身振りを加えてしょうもない事を言い出す三月さん。
やはり不審者なのではないかともたげてくる疑念を抑え込み、冷静に話を伺う。
「あの、もしかして……」
「ああ、この横浜クレイドルは担当する企業が我がフェブラリー・ラボだったのだけどね……
にも関わらず引き抜き・体調不良・寿退社によってメイデンの数が足りていなくてね……有り体に言ってピンチの状況にある!」
「……エトワールならメイデンが有り余ってるはずですし、そちらに任せればいいのでは?」
「そんな事をしたらうちが倒産してしまうんだよぉ〜〜〜〜!」
大の大人がマジ泣きしながらこちらに縋り付いて来る。
倒産云々と言われても数百万人規模の居住区域の平和と一社の命運と言われれば迷う事などない。
だが、こうして目の前に当事者がいて自分がそれを解決出来ると言われれば良心が痛むというものだ。
「……メイデンなら誰でもいいんじゃないですか? 他を当たるとか……」
「本当はね、君のこともそっとしておきたかったんだよ……」
察した。
これは他にメイデン候補がいなかったのだろう。
仮にも免許制であり、命の危険など99%無いと言い切れる業務であるが残りの1%を危惧したり、何かあれば出撃要請が来るメイデンという仕事を嫌がる人間は多い。
そもそも若い女性しかなれないという事で花の女子高生が主なターゲットなのだ、女子高生は他にやりたい事が多いのもまた事実。
いくら大手であるエトワールやフォーティツーがアイドル的なイメージを打ち立てた所で人気のある職業ではないのだ。
「はあ、事情はわかりましたけど……」
自分がまたメイデンとして飛べばどんな好奇の目に晒されるかわかったものではない。
目の前の不審者一歩手前には申し訳ないが断ろうとした所でけたたましい着信音が鳴り響いた。
自分のものではない、三月のそれだ。
「すまないね、どうやら緊急の案件のようだ」
そうして電話に出ると、その表情は深刻なものになる。
相槌もどこか重く、そしてこちらへ期待の視線を向けている。
「わかった……いや、美樹くんにこれ以上の負担をかけるわけにはいかない。 こちらで対処するから安心したまえ」
その言葉を最後に電話を切る三月。
至極真剣な表情でこちらへ向き合うと膝を地に着け、流れるようにして両手、肘、額と着地していく。
「申し訳ない! 今回だけでいい! 出撃してもらえないだろうか!」
それは見事な土下座だった。
「そ……それが大人のやる事ですかーっ!?」
流石にここまでされて断る事が出来る程強情ではない。
タクシーを捕まえ、フェブラリー・ラボへ急ぐのだった。
こちらには正真正銘の初投稿です