廃墟の廃線駅の掲示板
廃墟の駅舎の掲示板の話。
廃墟の廃線駅の続編。
この地区1番の心霊スポット、それが『枝下駅の掲示板』だ。
大正時代に建てられた駅舎はオンボロで、力士が五人ほど一斉に張り手をしたら、破壊出来るほどだ。
その駅にある掲示板だが・・・
何年前からだろうか、メモが貼り付けられるようになったのだ。
その由来になった事象だが・・・
数年前、ストーカー被害があった女性が、この掲示板に恋人宛のメモを画鋲で貼り付けた。
そしたらメモに返事が来た、というか追記されたのだ。
そのおかげで二人は結ばれた、と。
怖いけどラブスポット。
今は夏。
この時期、この駅舎の周りは草がボーボー、意を決して分け入る他無い。
虫もいるし、草も切れそうな硬い葉だ。
この辺りにも不良はいる。不良よりは緩いヤンキーか。
こういうおっかない所に行って、『俺強いじゃーーん?』をアピールする馬鹿はいる。
「なあ、あの駅行ってみようぜ。夏だしさ、肝試しにさ」
緩いヤンキーは俺の幼なじみだ。やっぱり馬鹿だったか。
「えーーー。あそこ、今草生い茂ってて、虫いっぱいいるぞ。俺幽霊は怖く無いけど、虫は怖い」
中々に正直に言ってみた。実は俺はその・・・心霊体質だった。
子供ころに冷やかされ、それ以来黙っている。
仲間内で、俺は『キリ』と呼ばれている。
で、最初に肝試しを提案したのが、『ボノ』だ。馬鹿ばっかやっている能天気だ。
俺はこっそりと思ったものだ。
霊って、馬鹿や能天気には察知出来ない。出来た時は、もうアウト。死しか無い。
他にお馬鹿な友人『エゾ』と『チッチ』、『リオ』がいる。チッチとリオは女だ。
こんなバカと連んでいるのだから、ちょっとビッチでバカだ。
言っておくが、俺はバカでは無い。
なんか知らないが、俺はこいつらの仲間にされている。解せぬ。
いや、保護者と思われてるに違いない。
とにかく行きたくない。
男と女のカップルで行けばいい、俺は抜けたい。本気で思っていたんだが・・・
「えりやちゃんが行くって!!」
チッチの声に、俺は呆然とした。山田が参加?
バカ共は『ヤッフー!!』と騒いでいる。大喜びだな・・・
なんでだ?!結構可愛くて、頭も良い、普通に良い子のえりや・・山田恵里谷がこんなくだらない事に参加?どうやって連れてきた、チッチ!!こんなくだらない事で本気を使うな。来週テストだぞ、そこに使えよ。
つーか、山田!!こんなところ来てないで帰れ!!クズが二人、絶対お前を狙ってる!!
あ、あかん・・・俺、絶対に行くしか無い。山田を守らなければ。
「俺山田と組むわ。やー、チッチありがとう!」
そして彼女を俺の側に引き寄せた。
男二人が文句を言うが、女二人が何か宥めているうちに、デレデレになっている。
あーー・・・お前らいつの間に。はいはい、青春デスネー。
と言うわけで、ファミレスで軽く食べた後、例の駅へ向かったのだ。
食べ終えて外に出ると、もう薄闇になっていた。
あそこら辺は電灯も少ない。はっきりいって薄暗い。
まあ六人で行くのだから、変な事態にはならないだろう。バカ四人はどうすれば良いか・・・
「ねえ、切渓くん」
「何?山田さん」
「今から行くの、枝下駅よね」
「・・・なあ、山田さん。何で参加したんだ?」
「・・・面白そうだったから」
俺は彼女の耳元に口を寄せ、小声で囁いた。
「俺から離れるなよ。あそこ、マジヤバイからな」
「きゃ」
彼女の『きゃ』に、前で歩いていた四人が瞬時に振り向いた。
何でそんなにニヤニヤしてんだチッチ、リオ。
「なーにぃー?キリぃ〜〜。まだ襲っちゃ駄目だぞぉ」
「襲うかバカモン」
「やっぱり山田は切渓みたいなのがいいかー」
そんなにしょんぼりするな、ボノ、エゾ。
いや、お前らが普通なら、ワンチャンあるんじゃないのか?
「うふふ〜、しかたないじゃん、キリかっこいいもん」
「なんだとぉ〜。そうだけどさ」
前のバカ共四人はニヤニヤしている。全く呑気なもんだ。
・・・ヤバイな。頭が痛い・・・
もう暗闇に、ぼんやりと駅舎の影が見えた。
「切渓くん、どうしたの?」
山田が心配げに俺を見る。
いけない、逆に心配させてる・・でもここは正直に。危機感を持ってもらわないと。
「あまり大丈夫じゃ無い」
「えっ」
「だから、本当・・俺から離れないで。怖いかもしれないけど、俺に何かあったら逃げて。来た道を走って戻れるようにしておいて。あの道の方が、全然大丈夫だから」
「でも、掲示板に用があるの」
「・・・ああ、そうか」
掲示板にメモをつけると、追記があって、意中の人と結ばれる、だったか?
それを狙っているのか?
でも、死んだら意味が無いぞ。
仕方がない、守るか。
あのバカ共は、霊障は大丈夫だ。何たって、本当にバカだから。
霊が嫌いな陽キャだからな。あいつら太陽レベルだから。
俺があのバカ共の側にいるのは、この太陽レベルの霊封じ性能。そしてまあ、楽しい。
・・まあ、昔から一緒にいる連れでもあるしな。
「着いたぞー」
「うわ、草ボーボー。駅舎に近寄れないーー」
「でも、えりやちゃんのお願いかなえなくちゃね!」
ああ、そういうことで協力してやってるのか。女共、可愛いな。
女共、彼女と結構仲が良いらしい。お前ら、山田に迷惑かけてないか?
「掲示板にメモだったら、昼間にやれよ」
「ダメェーーー↓。夜にやってこそでしょ。この難易度を上げた感じで、クリアする事で、さらに成就」
「難易度って・・・お前らは陽キャだから・・・痛っっ・・」
「あれ、キリ、大丈夫?」
「ほれ、さっさと掲示板・・・行くぞ。エゾ、ボノ、お前らも」
「うぇーーい」
ボノは段ボールを持ってきていて、草に置いて、三人で踏むと草が潰れて歩きやすくなる。
こういう事になると賢い二人だ。俺もそれに続く。
ぐしぐしと踏みしめ、徐々に前進して、10分後に駅舎に辿り着いた。
当然、とうの昔に電灯は外されているので、俺が持ってきた懐中電灯、そして各自の携帯ライトで辺りを照らす。
「どこかな、掲示ばっ、ぎゃあ?!」
ボノが悲鳴を上げた。
俺もずしん、と頭が痛くなった。痛みを堪えつつ、掲示板を見る。
背筋が、ゾッとした。
掲示板の枠も建設当時のものなのだろう。
古い塗装も剥がれ、虫に喰われてガタガタだけど、その枠をはみ出して尚、貼られるメモが壁ビッシリ。貼ったメモの上から更にメモが貼られ、風化した画鋲がぼつぼつと刺されているのだ。
可愛らしい文字、蛍光ペンで書かれたカラフルな文字、イラスト付きの丸文字・・・
俺は気がついた。
例の追記が書かれているのだ。誰かの悪戯と思っていたけど・・・
メモは最近の風潮だ、名前などの個人情報は書かない。『彼が好きです、両想いになりたいです(はぁと)』みたいなことしか書かれていないのに。
追記は・・・
『飯田このみ フラれるよ』
書いたであろう人物の名前を書いているのだ・・・
他のメモを見ても、名前を特定しているのだ。だが・・
『上田友美 フラれるよ』
『大石健吾 フラれるよ』
・・・・・・・・全部フラれる、とある。あれ?恋を成就させるんじゃないのか?
ああ・・頭が痛い・・・くそっ・・すごく負の霊障が・・・濃い・・・
「キリ?どうした!」
「ボノ、エゾ、みんなを連れて、逃げろ!!」
俺はついに膝をついて、四つん這いになった。
息がだんだん荒くなり、額から汗が流れてきた。だけど体は極冷えで震えが止まらない。
ああ、目が回る・・・
「何言ってんだよ、置いて行けるかよ」
「お前ら、体が怠いなら、すぐにここから離れろ」
「うーん・・確かに」
「ちょっと怠い?というか、眠いーー」
陽キャさえ怠くさせるとはね。ここ、凄いぞ・・
「女共を早く送ってやれ。・・俺は少し休んだら帰るから」
「切渓くん、でも」
「山田が一番危ないんだよ!帰れ!!お前ら四人!!山田を囲うようにしてくれ!!」
汗が、そして涎が垂れ下がる。地面に着いている腕が、わなわなと震える。
目が回る・・
濃い。
すごく、霊障が、濃い。
このままこれを放っては置けない・・・
ここにメモを、思いを、どんどん積み重なった結果、悪霊レベルの霊障に変化したんだ。
出来るか?
俺は五人をちら、と見る。俺を心配してるようだ。
ふん、役立たずのくせに、一丁前に心配か?本当、俺が好きだな!
「@@@@@@@@@@@@@@@@!」
梵字の術を唱え、メモに両手で壁ドン。
すると画鋲がパパパパと飛び、メモがびゅううと舞い散って、最後の一枚だけが残った。
これがまた、濃い。最強に、強い。
薄暗い駅舎なのに、文字が分かる。これがここに貼られた、最初のメモだろう。
『会いたい 会いたい 会いたい
どうして会ってくれないの
返事が無い 私が嫌いなの
待っているのに
ずっと待っているのに
私を無視するの
もういい
もう 死んじゃえ 殺してやる』
もういい、から赤黒い文字だ。多分、血だ。
俺はメモを両手で覆う。
熱い。燃えるほどの熱さだ。
そして彼女の思いが手から伝わる。
追記にフラれると書いたのは、彼女がフラれたからだ。悔しかったのか?やきもちか?
まあ俺は当人では無いからな。事情はさっぱりわからん。
このメモは、ずっとずっと彼?を待っていたのだ。
でも他のメモに埋もれ、見つけてもらえなかった?
不意に、目の奥、眼底か?
誰かの光景が浮かんだ。
病室に男が来て、手を握ってくれている。
そしてメモはぼろっと崩れて消えた。
とたんに霊障は消え、体が自由になった。
とりあえず霊障を払うことが出来たようだ。
「キリ!大丈夫か」
「ああ、なんとか。お前ら、ここから離れろって言っただろうが」
「お前を置いて行けるかよ」
「なぁ」
「ねーー」
「そうそう」
この馬鹿野郎が。巻き添えで祟られたかもしれないのに。
「キリ、体クラクラじゃん」
「疲れたんだよ。こんな霊がいっぱいのところ連れてくるから」
「えーー!霊見れたの?」
「みたかったーーー」
「お前らみたいな陽キャのところなんか来ねえよ。山田さんは大丈夫?」
「え、ええ」
「山田さん、俺らで守ったぜ!」
「キリの言うこと聞いたーーー」
何でそんなに偉そうなんだ、お前ら。
俺たちは駅舎を後にして、家に近いコンビニで解散となった。
だが山田はちょっと離れているので、俺が送ることとなった。
「ちゃんと送ってあげてねー」
「へーへー。当然だ」
チッチとリオが、ニコニコ手を振っている。
こいつらはボノとエゾが送るようだ。お前ら、知らんうちにくっついているようだな・・
「掲示板、あれはやっぱり使わない方がいいぞ」
「うん・・」
「神頼み?じゃなく、堂々と告白するといいと思う。山田は可愛いから、大丈夫じゃないかな」
「そうかな」
「確実にチッチとリオよりは可愛い」
「二人と仲がいいのね」
「あいつら四人、幼馴染だからな」
「そうなんだ。ずいぶんタイプが違うね」
「うん。あいつらは陽キャでおバカだからな」
「酷いわねー」
「ほら、愛すべきバカ枠ってやつ?」
「うふふ」
「ああ、この辺りまででいい?」
目の前にはコンビニがある。さっきコンビニから家まで5分程度って言っていたからな。
家を知られてくないかもしれないし、家人に俺のことを知られたくないかもしれないし。
「・・・切渓くん、ありがとう」
「あのな、山田」
「は、はい」
「こういう肝試しは、あまり参加するのは良くない。変なものに憑かれるかもしれないからな」
「・・・・・うん」
「じゃあ、おやすみ」
「・・えっと、切渓くん」
「?」
「あのメモ、その・・切渓くんの事を書くつもりだったの!」
「は?」
「駅舎行きを、ちさと(チッチ)と理央が誘ってくれて、でも切渓くんもいると思わなくて」
ほう。おバカなくせに、あいつら・・・仕組んだわけか。
でも俺、正直好きでもないし・・・というか、そういうの今はいいんだよね。
「まあ、友達から、だな。これからもよろしく」
「は、はい!よろしく!」
・・・高二の夏の夜中の事だった。
その後・・・
俺と山田は大学も一緒、就職先も一緒と続くのだ。
何でも近所のお姉さんが、強く強調したのだそうだ。
好きなら何としてでも一緒にいろ、と。遠距離だと良くないと。そして他の男に気を許すなと。
お姉さんの二の轍を踏まず、そして俺の幼馴染を味方につけ、俺を囲い込もうとしている。
なので、他の女と付き合う事も出来ない。
最近あの廃墟の駅舎が取り壊されて、宅地になったそうだ。
でも俺はあそこには住まないぞ。
俺はというと、相変わらず霊感が冴え渡り、時々お祓いのバイトもしている。
こっちの方が儲かるが、もういい。俺は平凡に生きたい。
あ、そうそう。
いきなりだが、注意をしておこうと思う。
遊びで厄介な所には行くな。
特に吊り橋効果を狙って、女と二人きりで行くのはやめた方がいい。
ぎゃーーって男の方が悲鳴を上げて、女を置いて逃げた、なんて事になったらどうするんだ?
大丈夫!そう言う奴が一番ヘマするんだぞ。な?
まあ、そういうこった。
こう言う話をしているとき、背後には気を付けろよ。
あいつら寄ってくるからな。肩が重くなったら、要注意という事で。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。