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風の灯籠祭


 「おはようございます。シュー様」


「おはよう。ソム。。そしておやすみ……」


「シュー様!?」


 おろおろしているソムが起こしていいかと悩む時に再びうとうとと。。


「ぐふッ!!」


「もう。ぼっちゃまソムをからかうのは良くないですわ!起きなさいまし」


「…フューリ。ごめん。。どいて。。。」


 僕の上に馬乗りにして起こすフューリは流石(さすが)に分かってきているな。。。僕はソムに謝り、いそいそと準備を整える。


「あれ?今日はなんか豪華な服装じゃない?お客様でも来るのかな?」


「ぼっちゃま〜起きてます?今日は灯籠祭ですよ。ソムは着付け覚えるのよ?」


ジロ目で睨まれる。

ああそうか、確か昨日そう言っていたし。

身なりを整え食堂に向かう。



「まあ少し大きいかと思いましたが、似合いますわね」


「母上。お婆様。マシュー厶様おはようございます」


「馬子にも衣装とは。。シュー坊も最近は倒れず大きくなったね」


 この日着飾ったのは神儀式服という特別なものらしい。手を隠せるほど長い袖幅には少し戸惑たが、生地もよく思う以上に涼しい。ポイントで風を通る設計なのだろう。色は白で統一され、背中の紋章が幾重にも強調されていた。


 皆が嬉しそうに笑いかけるには、確かにこの2ヶ月倒れ事も寝込む事もない。朝は運動しているのが少しずつ体力をつけているお陰か?どんだけ貧弱だった。。。


「本日は『灯籠祭』夕方からが主流ですが、マシュー厶もいますもの。成人の儀は中央方式を見れるのかしら?」


 母上がチラッと頬に手を添えクビを傾ける。これは催促の合図だ。


「私自身としては是非ですが。町の教会側と話しています」

私の方からもお願いしますか、と話ながら朝食は終わる。



 参の刻が近づく時、庭に馬車は二台準備されており下町に行く準備がされていた。馬車は馬車であるが、想像している形と少し違う。


簡易的な車輪と屋根に三角の白い飾り。

そして業者も隠れるように深めな席。

客室は四人乗りで後ろは物が置ける二重構造だ。


 僕は母上とアレフレッド、フューリと共に乗り込む。なんとなく定位置なフューリの膝上に乗る。


「まぁ。いい席を取りましたね。ふふふ♪」


ニコリと微笑む僕と裏腹に、フューリは少し恥ずかしそうだ。顔が見えないから気にしない。


がたん。ポヨン。

がたん。ポヨン。と町に向かう。

門では祭りで人数を増やしている門番が一斉に(つまず)く。


『リュフォーリル様ご入場です!』


母上は扇で仰ぐだけでそのまま街に向かった。



 今回は教会の前に止まり二階にある専用席に通された。既に護衛騎士のランダがいた。ちなみに町は婆様と妹達はお留守番だ。灯籠祭にはこれるそうだ。マシュー厶は教会の神官と打ち合わせの話をしている。


 軽めの食事を終え、神官の挨拶を受けながら四の刻を迎える時に教会内には若者たちがぞろぞろと入ってきた。60名程度だろうか。

 教会の鐘が肆の刻を告げる。ああ。此処で鐘が鳴らされていたんだね。


「神殿長。ご入場」


教会の神父が声を張る。教会は静まる。


 マシュー厶が初めて見た白いシュールを纏い、大きな本を持ちゆっくりと祭壇に向かう。聖典だ。


「成人を迎えし若人よ。此度中央より賜われしマシュー厶・ストリープが神事を行う」


 少しザワっとしたが再び静寂が流れる。

聖典を開きマシュー厶の目が半目になり言葉を募って行く。


「気高きファンネルの化身よ。成長を司るシュプトリュームの加護に守れ給わん。初代レグナムは神の言葉を聞きこの島々に神殿を創りました。この海と雷を持つ四神ネプトゥヌスに感謝を注げ給え。では順に登録を」


 一列に並び神官が迎え登録をしていく。何やらカードを受け取っているようだ。登録書か何かかな?ザワザワと騒ぎ声が聞こえながら席に戻って行く。


「母上、あれは登録証の様なものですか?」


「そうですね。査証(カルギ)といい国境を超える際必要になります。また金銀貨幣の簡易的な保存も可能ですよ」


何それ欲しい。


「私はまだですか?」


「あらあら、もう欲しいの?15歳の誕生日を迎える事が条件ですよ。7歳になれば仔証(キルギ)が貰えますし」


 仔証(キルギ)査証(カルギ)と異なり他領地へはいけない。銀銅貨と制限もあるが、それ以上に祝福(ギフト)が贈られる。祝福(ギフト)は稀ではあるが査証(カルギ)にも贈られる場合がある。ザワザワはその驚きだろうか。


 「レグザの民よ。そなた達は神に祝福された。ゲルットヒルムの成長に感謝と。この地に生まれ誇りたる四神ネプトゥヌスに祈りを告げよ」


同時に皆が反唱して祈りを唱える。

  

   - 海に舞 生け時 去らむ事

 今この時を持ち 成人為 すべき寿を刻む -


 マシュー厶・ストリープの手が光帯びる


ふわっと光がタンポポの種の様に若人達へ降り注ぐ


なんだこれ?凄い。。夢じゃないのか……

 途端に皆が歓喜しだした。


「中央の神官様凄い!祝福がこんなに」

「いい成人式できました」

「ありがとうございます!」


 歓喜の声を聞きながらマシュー厶・ストリープは聖典を閉じゆっくりと祭壇から離れて行った。


「流石最年少の神巫女マシュー厶ね。恐れ行ったわ」

「はい!凄いです!マシュー厶様!」


母上とフューリが興奮している。


「あれ、今ぱーっと光ったのは魔法ですか!?母上?」


「魔法とは少し違うけど、魔力を使う意味では同じですね。マシュー厶に詳しく聞いてみたら?」


 ともかく僕は興奮したままその光景を目に焼き付け後にした。



 街に出たら灯籠祭はまだ準備真っ最中だ。

事前に準備していない人様に露店でも灯籠を販売している。想像していたものより大きくサイズは80cmから1m50㎝くらいの四角い竹ひごの様なもので立体的に組み合わせている。


「灯籠は海に流すのではないのですか?フューリ」

「え、ぼっちゃま。灯籠は天の国に贈るものですよ?」

思ったものと違う。。あれ?

「えと、文字を書いているようですが。絵も?」

「代々紋章と贈る方か、神の眷属の名ですよ?はぁ。あれ初めてでしたっけ?確か去年も来たような…?」


う、そういえば記憶にうっすら。。暑くて倒れた記憶が。

「あはは。。去年は暑さで寝込んだので。。」


「そういえば。。。では買って参ります!アレフレッド様、護衛宜しくお願いします!」


気に入った露店を見つけたのかフューリはすぐに向かい。僕たちは馬車で待機をする。とマシュー厶様が戸を覗き込む。


如何(いかが)でしたか?成人式は無事終了してホッとします。ふふふ灯籠祭の時は皆さんと行動しますね?」


「とても幻想的でした。また色々お伺いたく思います」


 フューリは灯籠を二つと薄い紋章の入った青色紙を馬車に載せ、馬車に潜りこんできた。灯籠祭の場所は神殿で行うらしい。一足先に目的地へと向かう。



 少し山道を上がりゆっくりと馬車が掛けて行く。

通りには皆家族だろうか、街の人も歩いて上がる。

魔獣はいないが、たまに猪など出るので所々農具を持った大人のおじさんが立っていた。


「灯籠祭もキレイですわよ?シュー」


「母上そうなのですね?お爺様に贈る感じでしょうか?」


「はい。先代フルダーク・モスフィタス様、ネプトゥヌス神に贈る儀式です」


 故人を大事にする文化は強い。

貴族は特に魔力の継承は先代、その前の歴史から受け継がれる。

レグナム神国はそうした神事を行う領主から生まれた国なので、その影響力が尚更強いのかもしれない。


「ぼっちゃま。ボリネスク様もクリル様リリル様も追って来られます。元来祖先は家族で贈るものですから」


ボリネスク。。。ああお婆様か。確かに町より屋敷からの方が近そう。


「そうですか。ちびっこ達も。楽しみになってきました」


 ニコっと笑顔でフューリの膝上に座る。

ワクワクする僕の様子を見てフューリも嬉しそうだ。

馬車から見える範囲にも、多くの住民が上がって来るのが解った。

収穫も近いし、違う所に働きに出ている者も集まるそうだ。

田舎の成人式もお盆だったし。

そういうものなのかな?


 神殿はいくつもの大きな柱が建っており、神像が数体、中はガランとした印象が強い。確かに儀式用の準備と中央には赤い絨毯が敷いてあるが、それ以外は色もなく、ただただ漠然と石畳が合った。


入口の大階段の前にすでにお婆様と小さい妹達が来ていた。気がつくと母上に飛びつく妹達はかわいい。


「クリル、リリル良く頑張りましたね。良い子です」

「ままーにぃにぃー」「りりるいいこしてるー」

「ソムもエリアも妹達をありがとう。さあ中に行こうか」


 神殿の内部に入れる人は少ない。領主一族と側使え、そして神官関係者だけだ。護衛騎士も入れず外の大階段で待機をしている。日が傾きに連れ次々と民衆は集まり、神殿の前の広場は噴水を除き多くの人で溢れかえっていた。


 マシュー厶は僕らと同じく神儀の近くへ座る。

母上が民衆に見える位置に建つ。



◇◇◇


「それでは。静粛に」


アレフレッドの声が透き通った。


―だんだんと静寂が

マシュー厶が聖典を持ち母上に預け

ゆっくりと 祭壇で 

リュフォーリルが口を開く―


「レグザの民よ。このネプトゥヌス神殿で祈れる事を誇りに思う。命の神ゲルットヒルムにより生まれ育ち最高神アテネの名に示し天に帰える。人は永遠には生きれない。が、受け継ぐものの心の中には永遠にある事を知る。悲しむ事は無い。哀れる事は無い。人は死して尚絆ぐ心がある」


一斉に民衆は下を向く。


(かがり)の火を誘う」


左右から護衛騎士が篝火より松明へ、火をわける。


ゆっくりと周り火をつけて回る。

暗かった階段下から少しずつ灯籠に火が灯される。

僕たちも母上の前で小さめの灯籠を3人で持つ。

お婆様は側使えと共にもう一つの灯籠を持つ。



「影りの中、イスダーク神に祝福を。我がリュフォーリルより風の神アネモイヘの祝福よ。天にある祖先へと導きたまん!」



     下から一気に風圧が上がる


   離そうとするでもなく灯籠が舞い上がり


 オレンジ色の灯籠は その様々な神の色紙に反射し


   夜空の星に向かいそれぞれ吸い込まれていく



 クリルとリリルと同じ様に僕は。

ずーっと上を見上げ 灯籠が見えなくなるまで 動けなかった。


その光景は幻想的で。美しい。



初の祝福でした。


しばらく毎日投稿していく予定です。

本日も週末で2部予定です。


是非ブックマークいただけると嬉しいです。

またコメントもよろしくお願いします!

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