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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
玖 ―私の居場所―
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死神少女は皇帝に会う

【ベルセイン帝国 ハーベリア城】

帝国最大の都市である帝都ハーベリオスの中心に聳え立つ巨城、ハーベリア城。


皇族の住まう軍事大国の本拠地は所々に弩砲が設置され見るものを圧倒させる。

帝都の中心にあるため大砲は無いがその分を騎士団や魔導人形で補っている。とはいえ歴史上帝都が危機に陥るようなことは無かった。

更に上空にはペガサスやグリフォンに騎乗した飛行騎士が巡回している。

気づかれずに近づくことは困難である。




そんな要塞に少女達はいた。







日の出と共に城へ戻ったブリュンヒルデはお付きの侍女に小言を言われながら連れていかれた。

その時にエミリア達の部屋を用意させるのも忘れない。

女性騎士や侍女が起こさないように五人を馬車から降ろして城へ連れていく。



早朝の帝城は騒ぎになっていた。











エミリアの眠る部屋の前には二人の騎士が立っていた。

重要人物とだけ知らされている彼等はまさかエミリアがエリオットの娘で邪神を倒した英雄だとは思っていない。

彼等からしたらただの少女に過ぎないのだが命令とあらば仕方がない。





太陽が登り帝都が賑わってきた頃、人影が見え二人の騎士は身構えた。


が、その人影がクリスティアナだとわかり警戒を解いた。

彼女の後ろには女性騎士が控えている。


「おはようございます………といってもそろそろお昼ですが。」

「おはようございます聖女様、いかがなされましたか?」

「そろそろエミリアを起こそうかと。自力で起き上がるのが難しいのです。」


二人の騎士は顔を見合わせた。


「それが先程、賢者様も訪れまして………」

「ナタリーが?」


クリスティアナは軽くため息をはいた。

何となく中の様子がわかったのだろう。


「私も入ります。」

「わかりました。」


騎士の一人が扉を開けた。

が、すぐクリスティアナが扉を閉める。



「…………聖女様?」

「すみません、私一人で入ります。大丈夫ですからお二人はここで待っていてください。」

「承知しました。」


ついてきてくれた女性騎士を部屋に入らせず一人でエミリアが眠む部屋に入る。


騎士達を部屋に入らせるわけにはいかなかった。


エミリアがいるはずのベッドには不自然に膨らんだ布団。

時折もぞもぞ動いている。





「あぁ~お姉様の匂いですわぁ~。」


そんな声がして布団をひっぺがすと寝苦しそうなエミリアの胸元に顔を密着させて深呼吸する賢者がいた。






鈍い音が部屋に響いた。







「子供が産めなくなったらどうしてくれますの?!」

「産むつもりだったのですか?」


腹を押さえて正座するナタリーが抗議の声をあげた。

聖女パンチの音に反応し部屋に入ってこようとした騎士には大丈夫だと改めて言い聞かせておいた。

身内の、しかも賢者のこんな醜態を晒すわけにはいかない。


「勿論お姉様との子供ですわ!お姉様に相応しい男などこの世に存在しませんし、ならばわたくしがちょっと頑張れば何とかなるでしょう。」


エミリアのことになると暴走するナタリーだが仮にも賢者である。

その頑張りでいいところまで行けそうな気がするから困る。


「しかしまだ時間がありますわね………私、今後のために帝城を見て回ってきますわね!」


そう言うと部屋から飛び出していった。

きっと扉の側にいた騎士達は呆気に取られていることだろう。


「いつまでも治りませんねあの子は…………。」

「…………クリス。」


今の騒ぎで起きてしまったのかエミリアが目を擦りながら、そして何やら深刻そうなトーンで話しかけてくる。


「…………私ってそんなに臭うのかな?」

「あれの鼻がおかしいだけですよ。臭わないので気にしない方がいいです。」

「むぅ………。」








数分後、従者と思われる人が迎えに来た。

皇帝の待つ謁見の間へと連れていってくれるらしい。



エミリアはやたらとそわそわしていた。

何かを探しているように通りすぎる部屋の向こうを見ていたりしている。


「お姉様、あの二人は皇妃殿下とお話をしていますわ。」


いつの間にか合流していたナタリーの言葉がようやくエミリアを静かにさせた。


「エミリア、あの方なら大丈夫ですよ。」


エミリアは帝国皇妃がブリュンヒルデだということを知らない。記憶の中に微かに残るブリュンヒルデも皇妃だと名乗っていなかった。

よく知らない相手だがこの二人が言うのなら大丈夫だろうと信用することにした。




「こちらで皇帝陛下が、お待ちしております。」


一際豪華な扉の前で皇帝付きの従者が立ち止まった。

扉の左右には番人なのか鎧の騎士が立っていた。

ふと、思い出したかのようにナタリーは


「お姉様、これから皇帝陛下とお会いになりますが名前を呼ばれるまでは私かクリスティアナ様の真似をしてくださいまし。」

「?」


いつになくナタリーが真剣な顔をしていた。

彼女はエミリアが今まで階級の高い人物と話したことがないと今になって気づいた。

皇帝ハワードをナタリーは『よほど不敬なことをしなければ問題ない人物』と評している。


「エミリア。帝国が実力主義へ傾倒しているとはいえ格式高い方との挨拶には礼儀というものがあるのです。」

「大丈夫、とにかくお姉様は私達の真似をしていれば間違いないですわ。」


最低限のことを気を付けていればいい。

二人がエミリアに念入りに吹き込んだことを確認した皇帝付き従者が騎士に扉を開けさせた。








番人の騎士により扉が開け放たれる。




「よくぞ帰還した賢者ナタリー、聖女クリスティアナ。そして稀代の英雄エミリアよ。」



威厳ある声で三人を迎えたのは上座で待っていた帝国皇帝ハワード・ベルセインであった。

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