死神少女は帝都へ向かう
【ベルセイン帝国 城塞都市ジェスト】
エミリアは内城壁から黒の森を眺めていた。
ついこの間まで自分は故郷ですらない王国にいた。
両親を失った後、気がついたら彼女はあの森にいた。
何もかも無くなった彼女が自分の力だけで生きなければならない、この事実を理解するのに時間はかからなかった。
幸いなことに彼女には周囲の生物の居場所がわかる探知能力があり、食糧確保には困らなかった。
時には魔物に襲われたり、時には盗賊に捕まりそうになったりしたが生きるために全て殺害していった。
王国で居場所を求めさ迷う内にレイラ、ハンナと守るべき対象が増え、更にクリスティアナ、ナタリーと再会し生きる活力が増えた。
そして遂に帝国へ帰ることができた。
思えば自分は恵まれていた。
両親が居なくなってしまったのは恵まれていた自分への試練だったのかもしれない。
だからこそ四人を失うことを恐れていた。
昨日感じた殺気が他の四人へ向かう前に自分が突き止め、排除する必要があった。
あの四人だってそう簡単にはやられないくらいは強い。そこらの冒険者だって敵わないだろうが。
「お姉様、こんなところにいらしたのですか。」
振り返ればナタリーと息があがっているクリスティアナ。城壁へ登る階段はかなり長い。スタミナのない彼女にはかなり厳しいものだろう。
「あの二人は寝た?」
「お姉様を待ってましたが眠気には敵わなかったようですの。」
「もう夜も遅いですしっ………エミリアも寝ませんかっ………?」
クリスティアナが言うように一眠りして考え直すのもありかもしれない。
仮に殺気の主が近づいてきてもエミリアなら感づいてすぐ起きることができるだろう。
「ん。戻ろうか。」
結局あの殺気が何なのかわからないまま帝都への迎えが来てしまった。
馬車は随分豪華で偉い人が乗るべき物なのがよくわかる。
これにエミリア達は乗るのだ。
「おぉ……すっごく豪華。」
内装も拘っていた。
座席はふかふかで長期の馬車旅でも疲れにくそうだ。
レイラとハンナはふかふかチェアに早速夢中になっていた。
ナタリーによるとこれは皇族が持つ馬車の一種で主に帝都へ向かう客人の送迎に使われる物らしい。
こうして五人は城塞都市を後にした。
一緒に来た従者さんによると一度別の地で一日休んでから帝都へ向かう予定らしい。
ハンナではないがこうも休んでばかりだと体が鈍ってしまうかもしれない。
馬車の外を眺めるとなんとなく覚えのある光景が流れていく。
幼い頃、父の遠出についていくと色々な町に連れていってくれた。それをナタリーやクリスティアナに土産話するのが楽しみだった。
城塞都市から帝都へ向かい、途中で立ち寄る地域も朧気ながら覚えていた。
初めての馬車旅にはしゃいでいたレイラとハンナは疲れたのかエミリアの膝枕で仲良く眠り始めた。
「あぁ、この辺りは懐かしいです。」
「クリスは来たことあるの?」
「一度だけナタリーと、ですね。気晴らしが目的だったので特別印象に残るものはありませんでしたが。」
「そういえばそんなことがございました。あれでお姉様がいたら最高でしたのに。」
時期的には帝都に来て一ヶ月くらいの頃のようだ。
二人がいつでも帰って来られるように掃除を頑張っていたのはいい思い出だ。
馬車が向かう先には巨大な湖がある町『レキノ』。
湖の畔に建つ城が目的地だ。




