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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
捌 ―帝国血に染まる―
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死神少女は城塞都市を見て回る

【ベルセイン帝国 城塞都市ジェスト】

部屋に戻ったエミリアに抱き着いてきたレイラは薄いピンクのワンピースに着替えていた。

クリスティアナ辺りが服を買いに行ってくれていたのだろう。可愛らしさがいつもより増している。


「暇だし町を見てみない?この場所、初めてだから何があるのか知っておきたい。」

「いいですわね、皆様もどうです?」


エミリアの提案に乗らない理由はなく、五人で町を散策することにした。




二重の城壁に囲まれた町は周囲を取り囲まれても10年はもつと誰かが言っていた。

その証拠にこの町には様々な施設で充実していた。


商店や鍛冶屋、医療施設に冒険者ギルド。

更には屋内農園と呼ばれる場所もあり、この町だけで食糧の補給も可能となっていた。

屋内農園に関してはつい最近開発され、試作段階のため町の住民全員に行き渡るほどの生産力はまだないが。


「色々な場所がありますね。」

「大きさだけなら王都並と言われておりますわ。」


王都並ということは一日では回りきれなさそうだ。


「あれは?」


エミリアが指差す先には白い大きな建物があり、何人かが出入りしていた。


「病院ですわね。」

「回復魔法やポーションがあっても誰もが利用するはずです。神官でも重傷だと治しきれないですし、魔力が切れてしまえば何もできなくなります。」

「神官さんでも治せない傷とかあるの?」

「重態の方を治すのは非常に魔力を使うのです。並の神官や僧侶は二、三人が限度でしょう。」


この世界の回復魔法は消費魔力が高く、最下級の回復魔法『ヒール』でも中級魔法並の魔力を要するのだ。僧侶以外の回復魔法はどういうわけか回復力が半分程度になってしまい、魔物との戦いで負った傷を癒すのも一苦労となる。

その為魔導師は他の魔法を使った方が魔力使用の効率が良い。

それ故回復魔法の使える者の需要は高く、冒険者パーティーは彼等の募集を日常的に行っている。


回復魔法の習得には『女神の試練』と呼ばれるものを受け、乗り越える必用がある。

神官でなくとも受けられるがある程度の魔力が必用で、魔力が少ないと難易度があがるらしい。


クリスティアナもこの試練を当然受けており、結果今代聖女になったのだ。本人は嫌がっていたが。


ちなみに聖女は膨大な魔力と女神の試練の受け彼女から祝福を受けた者、その中の更に選ばれた者が先代からの教育を受けた一人のみがなれる。

幼少期、既に回復魔法が使えたクリスティアナは色々と規格外で僅か9歳で聖女となった。


「じゃあ聖女のクリスはすごいんだ。たくさんの人を治せるってこと?」

「まっ、まぁそれは可能です。一度二十人の重傷者を治したことはあります。」

「流石クリス。親友として誇りに思うよ。」

「…ありがとうございます。」


うんうんと頷き、まるで自分のことのように嬉しそうな雰囲気を出す。あまり誉められ慣れてないクリスティアナは顔が赤くなってしまった。








次に見えてきた建物には看板に大きく『冒険者ギルド ジェスト支部』と描かれてある。

入り口横には冒険者でなくても受諾可能な依頼がいくつか貼り出されていた。その代わり報酬額が二割減となってしまうが。


「この町の冒険者ギルドですわね。」


エミリアは少し顔をしかめた。

正直エミリアは冒険者に対して良い印象を持っていない。

彼女の中では金や依頼のためなら何でもやる、周りの被害を考えなさそうなイメージがある。


勿論全員ではないだろうが、現状信用できそうなのは王国で出会ったセリカとリリノアくらいだ。

今はこっちに来ているのだろうか。


「行こ。こっちはあまり好きじゃない。」

「は、はい。」


怒らせてしまったかとナタリーはちょっと悲しそうだった。





ぐぅ~、と誰かのお腹が鳴った。


「んー……そろそろお昼にする?」

「確かにいい時間ですわね。」


太陽が真上に来てお昼時を報せている。

どこかに食事できそうな場所がないか探してみる。



「ん………あれ。」


エミリアが通りかかった路地を見る。


そこには屈強な男に路地へ連れてかれそうになっている半泣きの少女。


エミリアが歩みを速めて行こうとする。


「エミリア、殺さないでください。兵士に引き渡すべきです。」

「ん、わかった。殺さない。」


本当にわかったのだろうか、エミリアはナイフを回し始めた。彼女はクリスティアナの約束は守っていたので信用するしかないが。


「ナタリー、ハンナ、手伝って。」

「ふふ、腕かなりますわ。」

「死ななきゃいいんだよね?」


ハンナは腰にぶら下げた二本の薬瓶の雷っぽい絵が描かれたラベルが貼られた瓶を開けて矢を浸した。

また何かの毒だろうか。

その間にクリスティアナはレイラを連れて兵士を呼びに行く。


男が少女を連れていく先には大きな馬車が停まっていた。


「出でよ、行く手を阻む冷たき壁よ。『ホワイトプリズン』!」


馬車の向いている方向に巨大な氷壁が現れた。

これで逃走はできなくなる。


続けてハンナがクロスボウで少女を連れ去る男を狙撃。腕に命中させたことで少女を離してしまう。

直後エミリアが回収してナタリーの方へ連れていく。


「こいつ………っ?!体がっ………動かねえっ!!」


どうやらハンナの矢には神経性の麻痺毒が浸透していたらしい。

キラービーのように極めて即効性が高い代物のようだ。


その時馬車から二人の屈強そうな男が出てきた。


エミリアに気づいた直後、二人の足にナイフが刺さりよろけてしまう。


またナイフを投げ………ずその場でしゃがんだ。

瞬間男二人に矢が刺さる。

ハンナならやるだろうと予測したのだ。ハンナがちょっとガッツポーズした。


馬車の中に気配を感じる。

その場を二人に任せてエミリアが一人乗り込んでいった。


「ハンナ様、こいつら痺れてますの?」

「ワスプの麻痺毒だよ。すぐに効いてくれる麻痺毒はワスプのが一番だからね。」


ワスプとはキラービーの亜種で白い体が特徴だ。

毒針が神経毒に変化し、獲物を瞬時に麻痺させてしまう。

群れで行動しなくなった代わりに他の魔物に付いて回り、おこぼれにあずかろうとする習性をもつ。

ハンターや冒険者にとっては厄介極まりない存在だ。


馬車の中から男の悲鳴があがった。

エミリアが何かしたのだろう。そして馬車から数人のボロ布を纏った少女が出てきた。

同時にクリスティアナが連れてきた兵士が到着した。




彼らは奴隷商だったらしく、帝国で問題視されていたようだ。

連れていかれる男の内右足から血を流している太った男が商人だろうか。あの怪我はおそらくエミリアが逃げないように馬車ごと串刺しにしたのだろう。


帝国で奴隷制度は廃止されている。

彼等の極刑は決まっていた。







牢屋に入れられた男にヴィクターが会いに来た。


「馬鹿な男だ。帝国で奴隷商は全員斬首刑だ、それをわかってこの町に来たのか?」

「仕方なかったんだ!期日になってもあいつが送り届けなかったから客から苦情が来て」

「貴様の事情は知らん。せめて王国でやっていればうまく逃げられただろうな。」


ヴィクターは男の顔を見てふと気になった。


「お前昨日はどこにいた?正直に話せば刑を変えてやるよう進言しても構わんぞ?」

「ほんとか?!」

「嘘は言わん。」

「き、昨日は確か港から帝都に向かっていたよ。この町に来る前に休憩して、それからやってきたんだ。」


「そうか、わかった。」


それだけ言うとヴィクターは去った。




「外れだな。まぁあんな小物だとは思っていない。」


「ヴィクター、悪い顔してる。」


ランドルフが指摘してくる。

無意識に悪人のような顔をしてしまうのは悪いクセだ。


「まぁな。約束通り斬首刑はなくなった。火炙り刑にしてもらう。」

「それもっと酷くなってる。」

「俺が守る町でやってくれたんだ。二度とあんな真似できないよう見せしめの意味もある。」








「あんな小さい子が賢者の姉さんねぇ。」

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