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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
捌 ―帝国血に染まる―
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聖女は無知に戦慄する

【ベルセイン帝国 城塞都市ジェスト】

スタンピードから逃れたエミリアは翌日昼までぐっすり寝てしまった。

その間回復したレイラが半泣きになったりクリスティアナが責任を感じたり色々あったことをエミリアは知らない。


ただ、誰かがずっと側にいたことだけは微かに感じ取れた。






目を覚ましたエミリアの目に入ってきたのは泣き腫らしたレイラの寝顔だった。


「レイラ………?」


エミリアのお腹を枕にすやすやと熟睡していた。

部屋は小ぢんまりとしたものでベッド以外には小さな机と本棚があるだけだ。

身体を起こしてレイラの髪を優しく撫でる。

彼女から感じる人肌以上の体温はどこか落ち着ける。


扉が開くとナタリー、クリスティアナ、ハンナが入ってきた。


「お姉様!!」


先に入ってきたナタリーが気づき、二人が雪崩れ込んできた。


「あぁ、良かった……」

「起きたんだね!!」


「みんな、おはよ」

「お姉ちゃん!!」

「ぅがぐ!?」


レイラが勢いよく起き上がり、頭がエミリアの顎に直撃してしまう。

普段出さないような声が少女の口から出た。


「ごっ、ごめんね!?」

「あーぉーう………ぁぅ…。」


『大丈夫』と言いたいらしいが思ったよりダメージが大きいようだ。舌は噛んでいない。







10分程でエミリアは復活した。その間レイラは泣きながら謝り続けたので今は抱き締めてあげている。


「体はどうです?その……私のせいで大怪我を負ったとか。」

「ん…………あー、必死だったから。」


クリスティアナはエミリアがエビルベアに背中を裂かれたと聞いてずっと悔やんでいた。

あの障壁は破られると術者に気絶する程の衝撃を与える代物。まさかあれほど呆気なく割られるとは思わなかったのだ。


「背中を見せてください。今更ですが………」

「ん。」


言われるがまま振り向いて服を捲った。

ナタリーが巻いたであろう包帯がドス黒く染まっており四人は顔をしかめた。


「酷い………」


あまりにも痛々しい光景にレイラは顔をそむけてしまった。


「傷痕を塞ぎます。少し我慢してください。」


クリスティアナが何かを呟くとエミリアの体が光り始める。

以前に使った回復魔法と同じものだがクリスティアナがより強く願ったため起きた現象だ。


光はやがてエミリアを中心に収束していった。


「クリスありがと。ちょっと楽になったかも。」


お礼と言わんばかりに頭を撫ではじめた。


「その………元は私の責任ですし………。」


皆の前で撫でられるとは思ってなかったクリスティアナの顔が真っ赤に染まった。

他の三人が羨ましそうに見ていて恥ずかしさが増す。





その時扉がノックされた。


「失礼します。」

「はっ、エミリア!」


クリスティアナが正気に戻りなでなでから逃れた。

直後に兵士が一人入ってきた。


「エミリア・ルーベンス様、お目覚めになられましたか。」

「んー……うん。」

「城塞都市防衛司令のヴィクター将軍がお話があるそうです。今、お時間はありますか?」

「大丈夫。あ、ナタリーも一緒でいい?」

「構いませんが。」


「難しい話はわかんないから、その時はナタリーお願いできる?」

「お任せくださいまし。」

「じゃあ、行ってくる。」


エミリアとナタリーは兵士に着いて部屋から出ていった。





「レイラ、町に出ませんか?あの馬鹿のせいで服がボロボロになってしまいましたし。」

「聖女さまと?行く!」


ナタリーの隕石落としに巻き込まれた五人の服はボロボロになっていた。

各々はクリスティアナが収納魔法で取り出した服に着替えたが、レイラだけ一回りサイズが小さいため新たに用意する必用があったのだ。


「私は留守番してるよ。ちょっとこの子を弄ってるから。」


ハンナは愛用のクロスボウと借りたであろう工具箱を持っていた。

ハンターである彼女は魔物とより戦いやすくするために、装備に独創的な改造を施す。他のハンターも自身の狩りのスタイルに合わせ武器を調整することがある。彼女は以前使っていた腕に取り付けていたボウガンの性能を実現しようとしているのだ。





警備の兵士に外出する事を伝えた。


「おきをつけて。」



外に出るとたくさんの人が行き交っていた。

ここは城塞都市ジェストの居住区の中心。エミリア達は『帝国軍城塞都市防衛指令部』と呼ばれる場所にいた。


政治と軍事の中枢でヴィクターは軍事を担当、治安維持や外敵から町の防衛を担っていた。




服屋と思われる建物に入ると早速店員の女性が近寄ってきた。


「いらっしゃませ!(新規顧客!)」


店員の煩悩のような声が聞こえた気がしたが無視。


「この子に合う服が欲しいので、試着部屋をお借りしたいのですが。」

「勿論いいですよ。」


店の奥に個室タイプの試着部屋が並んでいた。

案内されている間に目についた服を二着ほど手に取る。


「何かありましたらお呼びくださいね。」

「わかりました。」


試着室に二人が入ると店員は仕事に戻った。


「取り敢えず持ってきてみましたがきっと似合うと思います。」

「可愛い……。」


レイラは早速着替えようと服を脱ぎ始める。


「あら、意外と気がはや………いや待って待って!?」


慌ててレイラの手を止めた。

クリスティアナの顔が妙に赤く、顔を両手で覆っていた。


「聖女さま?」


レイラが心配そうに覗き込むが当のクリスティアナはそれどころではなかった。


レイラがワンピースを捲りあげ始めた時、目を疑った。




「レイラ、下着はどうしたのです?」

「下着ってなーに?」



クリスティアナは頭を抱えた。









試着室から飛び出したクリスティアナは驚く店員の目も気にせず下着類を手に取り、一度そこで会計を終えた。

そしてダッシュでレイラの元へ戻りたった今買った下着を半ば強引に身に付けさせる。


相手が竜とは言え、女の子が下着無しで出歩くなどクリスティアナは許せなかった。


「なんだか変な感じ。」


スカートをぱたぱたさせ、クリスティアナからはしたないから止めなさいと言われる。


魔物のレイラが人型に姿を変えられるようになった経緯をクリスティアナは知らない。

だが彼女はなんとなく女神様が絡んでいそうだと感じていた。


彼女は女神様と会話ができた。

そして今度あったら文句を言ってやる。

下着くらい用意してあげなさい、と。





店から出て新品の薄いピンクのワンピースを身に纏った赤き竜は嬉しそうにはしゃいでいた。


微笑ましいと同時に憂鬱にもなる。


これからエミリアと一緒に過ごすであろう彼女の為に色々教育をする必用があるのは間違いなかった。

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