死神少女の覚醒?
【ベルセイン帝国 城塞都市ジェスト】
黒の森と門の正面に十数名の重装備の兵士が整列していた。二体の黒い人型……魔導人形と呼ばれる兵器は兵士達の前で頭を垂れしゃがんでいる。人間よりも一回りほど大きい。
皇帝ハワードからスタンピードの予告がされてから毎日この状態が続いていた。
魔物が森から都市へ辿り着く想定ルートは二つ。
一つは正面、森から抜けた直後にある平地を突破し、跳ね橋を渡るルート。
ここでは重装備の兵士と二体の魔導人形が迎撃、更に城壁から弩砲や大砲の援護がある。
二つ目のルートは空から城壁を飛び越えるルート。
城塞都市の周囲は深い堀によって門以外からの侵入が困難である。だがハーピィ等の飛行能力を有した魔物には関係ない。
これを見越して城壁の上には弓装備の兵士や魔導師が待機している。また空いている冒険者も戦闘街で準備を整えていた。
正午を迎えた頃、黒の森から多くの魔物の咆哮が聞こえ始めた。
兵士と冒険者達に緊張が走る。
「戦闘体制!!魔物共を町に入れるな!!」
黒の森からファングの群れが向かってくる。
比較的弱い魔物だが数が集まると驚異と化す存在だ。
「魔導人形起動!戦闘を開始せよ!」
黒い人型は立ち上がり、命令を遂行し始めた。
魔導人形は腕からファイアボールを放ちファングの群れを掃討していく。
彼らは腕から炎、氷、雷属性の魔弾を放つことができる。たいていの魔物に対抗でき連射も可能だ。射程が短く、長射程の攻撃や飛行能力をもつ相手に弱い。
魔導人形が仕留め損ねた魔物を兵士が倒していく。
やがてファングの群れの第二波が押し寄せてきた。
「撃ち方はじめ!!」
号令と共に弩砲が発射された。
大型の矢はファング程度であれば簡単に貫いてしまう。
弩砲の射撃と魔導人形により第二波も壊滅した。
【黒の森】
森の出口がようやく見えてきた。
ナタリーが再びスピーダーでエミリアとハンナの走行速度を上げる。
エビルベアとの戦闘で重傷を負ったエミリアはここまで沢山血を流していた。我慢しているが目眩がしてきている。
おまけにエミリアの血に釣られて多くの魔物が近づいてきていた。
「ナタリー……クリスをお願い。」
「お姉様?」
言われるがままナタリーはクリスティアナを背負った。
「先に行ってて。ちょっと数減らさないとだめかも。」
「そんなっ……お姉様を置いてなんていけませんわっ!!」
「すぐに追い付く。」
「…………でもっ。」
「ナタリーさっきので魔力たくさん使ったでしょ?」
「うっ…………。」
実際ナタリーは隕石を落として魔力が半分消費されていた。
「大丈夫、私はまぁまぁ強いから。」
昔からエミリアは自信家で、それに見合う実力も持っていた。それと同時に無理な仕事は絶対にやりたがらない。
「…………約束してくださいまし。生きて帰って、一緒にパンを召し上がりましょう?」
「ん、約束ね。」
そう言うとエミリアはグリムリーパーを取り出した。
ナタリー達は名残惜しそうに走り去った。
エミリアは数えきれない量の魔物を感知していた。そしてそれらは全部エミリアに向けて殺意を持っていた。
自分が残れば四人は助かるのではないか。
クリスティアナが気絶してなかったら自分も残ると言っていただろう。だがこれ以上彼女に無理はさせたくなかった。
多種多様な魔物がエミリアを取り囲んだ。
絶体絶命な状況にも関わらずエミリアはどこか余裕そうだ。
今以上に危険な状況には何度も遭ってきた。今回もなんとかなるだろう。そんな根拠のない自信が恐怖を無くしていた。
グリムリーパーが赤く光りだす。
「ん。じゃあ皆殺して帰ろっか。」
魔物の数体が四方向から飛びかかってきた。
その場が一際赤くなる。
血が流れたとかではない、光だ。
魔物が飛びかかった直後、エミリアは光に包まれたのだ。
光が治まると魔物の中心にそれはいた。
黒を基調にしたボロボロのローブを身に纏った少女。
ローブの中は血染めの白いブラウスと黒いスカート。見た目はエミリアだが瞳は赤く、背丈に見合わない巨大な鎌を担いでいた。鎌の刃部分から血が垂れている。飛びかかった魔物の血だ。
「………主、無茶しすぎ。思わず出てきちゃった。」
眠そうに瞼を擦ると同時に大鎌が振るわれ、魔物が凪ぎ払われる。
「力はまだ戻ってないか……でもこいつらならなんとかなる。主はまだ死んじゃやだ。」
少女は宙に浮くと鎌を投げ飛ばした。鎌は木々を斬り倒しながら魔物を巻き込み、次々と命を刈り取っていく。
鎌は戻ってきて少女はキャッチ。直後後ろから数体の猿のような魔物に殴られる。
「………これ借り物なんだから傷つけないで。」
少女は痛がる素振りを見せず魔物の首を掴み、投げると鎌で真っ二つにした。
引き剥がすときに髪が引き抜かれたのには気づいていない。
少女は周囲の魔物を一通り倒した。
ブラウスが派手に破かれてお腹が見えてしまっているが仕方ない。
慣れない身体でよく動けたものだ。
「主、もっともっと殺して力をちょうだい。ルールーは待ってる。」
少女が呟くとその場が再び赤くなり…………
「ん…………あれ?」
エミリアが起き上がると大量の魔物の殺害現場があった。
とうとう無意識に殺しができるようになったのだろうか。
妙に涼しいと思ったらブラウスが破かれていた。
自分らしくない失態だが仕方ない、お腹くらい人目に晒されるのは我慢しよう。
それよりもナタリー達を追いかけないと。
この時エミリアは流石に気づかなかった。
普段なら使っている投げナイフが一本も消費されてないこと、そしてグリムリーパーが全く血に染まっていないことに。




