死神少女は懐かれる
【ナーガ海 貨物船】
雨が降り、波が荒れ視界は最悪な船上でハンナは僅かな光を見つけた。
あれが何の光なのかはわからないが、このまま当てもなく海をさ迷うよりはいいと光に向けて船の向きを変える。
一方エミリアは隅でレイラに介抱されていた。どうやら酔ったらしく顔色が悪い。
光はどんどん大きくなっていく。
やがてそれは灯台の物だと分かった。
そして岩場のような場所へ目に見えるくらいが所まで接近した。
「ねぇこれどうやって停めるの?!」
彼女らが乗る貨物船は帆船、この中で船のことを知る者はいない。
ナタリーが咄嗟に防御魔法を、クリスティアナが障壁魔法を使った。
二人の意図を察知したハンナは舵を握りしめる。
「みんな捕まって!!」
次の瞬間衝撃が襲った。
【ブラウェイン王国 キューズル街道】
静かな街道に船が乗り上げた。
衝撃は凄まじく船は辛うじて形を保っていた。
「くっ…………このっ!」
エミリアは崩れた船内にいた。
倒れた板をどかして周りを見ると人影はない、気配はすぐ側にいるレイラだけ。
他の皆は船外にでたようだ。
「行こ、みんな外にいる。」
「うん。」
ぎゅっと手を繋いで外へ向かう。
船は傾いているらしく結構歩きづらい。
夜の雨というのは案外冷たく、手から伝わるレイラの体温がいつもよりも温かく感じた。
傾いた船首に着くと下には脱出した8人がいた。
何を言っているのかは分からないがハンナが大きく両手を広げているのが見える。
「先に行ってて。すぐに行く。」
「う、うん。」
レイラはハンナに向かって飛び降り、うまくキャッチされた。
次はエミリアの番、一呼吸置いてから飛び降りた。
「よっとぉ!!」
ハンナがうまくキャッチした。
灯台の光がうまいこと照らされ地面と激突せずに済んだらしい。
エミリアが右手をあげると、船に置いてきたグリムリーパーが彼女の元に飛んできた。
「今更ですがどういう原理なのでしょうね?」
「私にもわかんない。」
夜中にさ迷うのは危険だと判断し一行はその場で野宿することとなった。
しかしエミリアの持つテントは五人入って既に窮屈だった。
「あぁ、大丈夫です。」
クリスティアナはエミリアと同タイプのテントを出してきた。
収納魔法でしまってあったのだろう。
テントは二つ、この場にいるのは10人。
さまざまな議論と嫉妬と物理的な協議の結果エミリアとレイラとハンナ+見知らぬ少女二人が一緒のテントになった。
ナタリーを抑えられるのがこの場にはクリスティアナしか居なかったというのが一番だ。
「暑い………。」
困ったことになっていた。
レイラとハンナはともかく助けた少女二人までもエミリアにくっついてきたのだ。どうやら懐かれてしまったらしい。
四人は既に寝ている、エミリアの両手足に抱き着きながら。
海辺ということもあって肌寒いのはわかる。しかし小さな身体に四人分の体温が集まると暖かいを通り越して暑くもなる。
テント内には四人分の寝息がたつ。
今夜は寝られるか心配だ。
翌朝エミリアが起きて目にしたものは両方のほっぺたを引っ張られ涙目になったレイラだった。
「おえぇひゃ~ん…………」
「すっごい伸びる!」
「もちもちー!」
………取り敢えずレイラを助けてからこれからのことを考えよう。




