死神少女は恐れる
【ブランウェル王国 シルフの森】
シルフの森は広い。
今夜もまたエミリア達は森で過ごすことになった。
「みんな大丈夫?ずっと野宿だけど。」
就寝直前、ふと逃亡生活で野宿が続いていることをエミリアは気にし始めた。
自分はともかく、ナタリーとクリスティアナもテント暮らしは慣れてないはず。
「これくらいへっちゃらですわ。」
「問題ありません。」
「お姉ちゃんと一緒ならへーき。」
「ZZZ」
既に爆睡している者がいた。早寝早起きがハンナの信条のようだ。
「そっか………じゃあ明日に備えて休もっか。」
「はーい。」
今日はクリスティアナとハンナがエミリアの両隣に陣取っていた。
狭いテントの中でうまいこと配置に成功した。
テントの中で寝息が聞こえ始めた。
周囲に他に気配は感じない。
エミリアは安心して眠り始めた。
「…………なさい。起きなさい。」
例のごとくエミリアは最後に起きた。
「早く起きなさい。ただでさえのろまなんですから待たせないでください。」
「んぇ?」
聞き捨てならない言葉が聞こえ、思わずエミリアは声の主を見上げる。
クリスティアナ。
だが昨日と様子が違う、その顔はどこか嫌悪感を表していた。
「………クリス?」
「やめなさい。貴女にその名で呼ばれるのは非常に不快です。」
「え………?」
一体どうしたのだろうか。
さすがに寝坊が過ぎたのか?
「ほらさっさと起きなさい。貴女が最後です。」
テントから出ると腕組みしたナタリーが仁王立ちしていた。
「おはようございますわ、グズでのろまなお姉様。」
「ナタ………リー?」
エミリアは寒気を感じた。
ナタリーが今までエミリアを罵倒したことなど一度もないからだ。
「ねぇお姉様。貴女が愚かにも第二王子を傷つけたせいで私たちはこんな苦労をしているのですよ、おわかりです?」
「う…………でもクリスが助けてって。」
「空耳ではないですか?そもそもエミリアに助けを乞うなどと。」
「うぅ…………。」
「あぁ情けないお姉様。こんなのが私の姉だなんて人生の汚点ですわ。」
エミリアは座り込んでしまった。
幼くして一人立ちせざるを得なかった少女の唯一の支えだった二人に拒絶されてしまったのだ。
「でも貴女がそんなだからただひとつ助かったことが一つ。」
ナタリーが指をならすと武装した冒険者と思われる十数人が現れた。
エミリアの感知能力外からいきなり現れたため彼女は驚いてしまう。恐らく転移魔法を使ったのだろう。
「こうして貴方を引き渡すことで私たちは帝国へ無事に帰還することができるのです。」
「悪く思わないでください。私も無一文では生活できないので。」
エミリアは信じられないというような顔をした。
自分は売られたのだ、裏切られたのだ。
「ナタリー………クリス…………。」
「さようなら、二度と会うことはないでしょう。」
二人は背を向けて遠ざかっていく。
冒険者たちは縄を片手にエミリアに近寄る。
エミリアは身体を奮わせながらグリムリーパーを持つと二人に向かって…………
「お姉様!!お姉様!!」
「はっ?!」
目の前には必死な顔をしたナタリーと心配そうな顔をするクリスティアナとハンナ、泣きそうなレイラがいた。
「………。」
きょろきょろと周りを見るとテントの中。
気配は他に感じない。
「悪い夢でも見ましたか?魘されてましたよ?」
クリスティアナが優しく手を添えてくれる。
いつものクリスティアナだ。
「お姉ちゃん死んじゃうのかとおもったよぉ………ぐすっ。」
「疲れてたんだよねきっと。今日は戦闘は私たちにまかせてよ。」
「お姉様、私たちがいますわ。ハンナ様の言う通り疲れてらっしゃるのです。もう少しお休みなさいます?」
「やだ………。」
「お姉様………?」
エミリアは突然ナタリーに抱きつく。
「やだやだやだっ、皆と離れたくない。私頑張るから、嫌いにならないでっ………!」
四人は顔を見合わせる。
数分泣きじゃくったエミリアはそのまま再び眠りについてしまった。
四人はテントを片付けて再び港へ向かい始めた。
眠っているエミリアを交代で横抱きにしながら。
「ふふふ…………お姉様に悪夢を見せたのはどこの誰です?私が氷像に変えて差し上げますわ。」
「レイラが怯えてます、やめなさい。」




