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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
漆 ―王国脱出―
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死神少女が早起きする刻

【ブランウェル王国 シルフの森】

日がまだ昇っていない暗闇の森、テントで寝ていたエミリアは突然目をぱっちり開けた。

早起きどころか寝坊助の彼女が誰よりも早く起きたのは以前孤独なサバイバルを過ごして以来だ。


「…………30。」


忌々しそうに顔をしかめる。寝る前には感じなかった気配がこちらに近づいている。

テントの中には気持ち良さそうな寝息が聞こえる。起こすのは気が引ける、一人で片付けるか。


と、起き上がろうとしたら身体が動かない。左右からナタリーとレイラがくっついていたのだ。

二人の温もりがちょっと名残惜しいがゆっくり引き剥がす。

…………ナタリーは足まで絡ませていたので時間がかかった。

ここでちょっと悪戯心が湧いてきた。ナタリーをクリスティアナに抱きつかせた。心なしかクリスティアナは嫌そうな顔をしている。


「ん………お姉ちゃん……。」


レイラの寝言だ。

ごめんね、すぐ戻るから待っててと心の中で謝っておく。


「グリムリーパー。」


相棒が見当たらないので呼び掛けると、何処からともなく剣が赤く光りながら浮遊してきた。

今更エミリアは驚かない。せいぜい光るだけだと思っていたが。


グリムリーパーを手にとってテントから出る。

月の光が森を照らす。エミリアは先程から感じる気配に向かって森へ消えていく。


「1分で3人………10分で戻る。」














第三騎士団は暗い森で小休止していた。

聖都跡地で生き残りから得た情報によりナタリー達の正体を突き止めた。

騎士団長であるグレックは部下たちに「見つけ次第好きにしてよし」と命令していた。

騎士たちはナタリーらの身体を目当てに森をさ迷い続けた。

そして現在、グレックは騎士の半分を交代で仮眠をとらせていた。1日でシルフの森を抜けられるとは思えない。朝になったら改めて捜索を再開することにしたのだ。

焚き火を中心に寝袋で仮眠をとる


「ん、交代にはまだ早いぞ?」

「小便だ。」

「…………さっさと済ませてこい。」


騎士の一人は見張り役に伝えると近くの木陰で用を足し始めた。

シルフの森はレイヴォス寒冷地帯に隣接しているだけあり全体的に気温が低い。トイレが近くなるのも頷ける。




ぱきりと枝が折れるような音が聞こえた。見張りが歩いた音なのだろうと騎士は気にしなかった。

だが次に聞こえた音はばきっ、と明らかに枝を踏んだとは思えない音が至近で聞こえた。


次の瞬間、騎士は無理やり振り返らされ喉に何かを刺された。

目の前には大きく開かれた青い瞳。それは喉に突き刺していた枝を引っこ抜くと今度は頭めがけて突き刺した。





多くの場合エミリアはまず喉を狙う。フルフェイスの兜を被っていない限り最も手数が少なく敵を仕留められるからだ。そして彼女は奇襲であれば必ず命中させる自信もある。

今までも強敵を除けばそれで仕留めることができた。

だが今回は腐っても騎士、鍛えているだけあり喉の一突きでは仕留めきれなかった。

先程も一撃でやられなかった騎士の頭に大きめの枝を縫い付けた彼女は大きく予定を変えることとなった。


「むぅ………。」


さっさと終わらせなければ………。







騎士団の仮眠所には見張りが四方に二名ずつ。いずれも昨日会った美少女について盛り上がっていた。

先程小便男が出てきた場所にも二名いた。


「お前はどっちが良いよ?」

「あの金髪っ子だな。気の弱そうなところを無理矢理やるのが最高だ。」

「俺は青髪の子だなぁ。余裕そうな顔を崩してみたいぜ。」


二人の美少女談義はこのあと下方面で盛り上がった。内容については割愛。


「俺もちょっと用を足してくる。」

「わかった。」









「ぐっ………がぁっ………。」


先程の会話を聴いていたらしく、騎士の顔はぐちゃぐちゃにされていた。


「クリスを気持ち悪い目で見るな。」


エミリアは最後に顔をグリムリーパーで突き刺す。

ドレスを汚すわけにはいかないので踏み潰しはしない。








騎士を処刑したエミリアはすぐ残った見張りの一人を狙う。

物陰から様子を見る。



見張りが欠伸をした瞬間、見張りの口内にナイフが刺さった。

叫ぶ間もなくエミリアがナイフを更に押し込む。

口からブレスの如く血が吹き出た。

ナイフを引き抜き騎士を蹴り飛ばす。


「………ばっちぃ。」


唾液と血液が混じったナイフを投げ捨てた。

唾液は彼女的にはアウトらしい。



さて、見張りはあと6人………ナイフはもう無いけど今日は調子がいい。

エミリアは敵地に入っていった。













グレックは状況が理解できなかった。

彼の第三騎士団は粗暴な者が多く、魔法も使えないが精鋭の中の精鋭が揃う第一騎士団に並ぶ実力者揃いだった。

そこらの魔物や盗賊なんて目じゃない。


そんな強者揃いの第三騎士団がたった一人の少女によって壊滅させられた事実を受け止められなかった。



不自然な肉が裂かれる音に気づいた彼が起きたときには第三騎士団の8割が殺害されていた。

見張りで立っていた者は既に息絶え、周囲に転がる寝袋には黒い染みが付着していた。



グレックに気づいたエミリアは寝袋からグリムリーパーを引き抜くと逆手に持ち替える。


「てめぇが………手配の奴か!」


グレックが剣を抜くのも気にせずエミリアはゆらゆら揺れながら近づいてくる。


「お前が罪を重ねれば王国は追っ手を増やしていくだけだ。」

「………そんなの知らない。全部殺せばいい。」


平然と殺害予告を宣言するエミリアに流石のグレックも戦慄する。


「王国全軍に勝てると思ってるのか?」

「さぁ?でも私はまだ死ぬつもりないし。」

「そうか……なら。」


グレックは剣を構えた。


「ここがお前の死に場所だぁ!!」


グレックは目の前の部下の仇に剣を振る。



エミリアはグリムリーパーを振りかぶり…………投げつけた。




先に倒れたのはグレック。

至近距離から投げてくるとは思わず直撃を受けた。

エミリアがグリムリーパーを引っこ抜くとグレックは苦悶の表情を浮かべる。


「てめぇは………人間じゃねぇ…………死神だ!こんなに仲間を殺しやが」

「うるさい。」


エミリアは躊躇なく首をはねた。
















「死神…………悪くないかも?」

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