死神少女は魔族とお話をする
【聖都跡地】
魔族の軍勢を率いて聖都に入った魔王デスロード。彼のずっと後ろには見覚えのない巨大な紫色の扉が見えた。
あそこから全員やってきたのだろうか。
エミリアは躊躇なくデスロードに近づく。
ナタリーとクリスティアナは止めようとしたが目の前の圧倒的な存在に声が出なくなっていた。
「お前、俺が怖くないのか?」
「私が怖いと思うのは仲間を失うこと。それ以外………目の前にいるあんたがどんなに強くても怖くなんかない。」
「ほぉ?言うではないか。」
「あんたが仲間を殺すのなら私は容赦はしない。」
エミリアはあろうことかグリムリーパーをデスロードに向ける。
「おっ、お姉様っ!」
ナタリーがエミリアを下げようとするが彼女の体は岩のように硬く、その場から動かせない。
魔王軍側からの殺気も高まってきている。
そんなことも構わずエミリアはまっすぐデスロードを見てグリムリーパーを向けていた。
「良い。今日は人間と殺りあう気はない。」
デスロードが右手を挙げて魔族の殺気を抑えた。
エミリアもグリムリーパーを下ろした。
「大した嬢さんだ。これだけの魔族を相手に怖じ気付かんとはな。」
「私はまぁまぁ強いし、まだ死ぬつもりないから。」
「まぁまぁか………」
デスロードは周りを見渡して笑みを浮かべた。
目の前の少女が邪神を倒したのか?
だとしたら実に興味深い。
それにこの少女が持っている剣…………聖剣に似ているが。
「で、あんた何しに来たの?」
エミリアの遠慮無しな物言いにこの場が再び緊張が走るがデスロードは全く気にしない。
「邪神に対抗できるのは俺しかいないと思ってな。だがお前がその剣を使えるのなら出番はなかったか。」
エミリアが背中に背負っている元聖剣のグリムリーパー。鞘の様なものがないから紐か何かで背中に括ろうとしたら張り付くようにぴったりくっついたのだ。
「わぁ~すごいなぁ。一度私に狩らせてくれない?」
ハンナが四天王に絡み始めたようだ。
特にブラックドラゴンであるフォートに興味を示した彼女は、羽や鱗を遠慮無くべたべた触りまくりフォートは困っていた。
そこに水のベールに覆われた女性が近づく。
「始めましてねお嬢さん。私は魔王四天王のニーニャよ。そいつはフォート。無口だけど立派なドラゴンよ。」
「私はハンナ。ハンターやってるの。」
「あらハンターなのね。でもこの子は狩らないであげて?魔王軍に必要な子なの。」
「はーい。」
ハンナは大人しく下がった。だがそのキラキラした瞳からしていずれ狩る気でいるようだ。
「無駄足にはなったが、面白いものを見ることができた。お前達、引き上げるぞ。」
デスロードの一声で禍々しい扉が開き、魔族と四天王が入って消えていく。
デスロードは去り際に
「小さき英雄よ、魔王デスロードはお前のことをもっと知りたい。興味あれば魔族領へ来るがいい、歓迎しよう。」
そう言い残し、扉に入っていくと同時に禍々しい扉は消滅した。
エミリアは終始首を傾げていた。
【レイヴォス寒冷地帯】
扉の転移先は銀世界だった。
あえて魔族領に繋がなかったのは魔族領へ繋がる扉と干渉してしまうからなのだとか。
「ベルモンド、貴様は気づいたか?」
「勿論です。あの青髪、そしてあの顔立ち、間違いございません。」
「あの子も同じように色んな人に愛されてるようでした。」
魔族領へ転移中、デスロードとベルモンド、ニーニャがエミリアについて話し出す。
思い起こすのはかつて共に戦った英雄の一人。
「また奴と会ったときが楽しみだ。その時は是非とも剣を交えてもらいたいものだ。」
「もぉ、魔王様ったら相変わらずですのね。」
「カカカっ。長生きはするものですなぁ、どんどん楽しみが増える。おっとわしはもう死んどるんだった。」
【聖都跡地】
生き残った聖騎士や神官、住民達はクリスティアナと別れの挨拶をしていた。
わざわざ一人ずつ話をするあたり彼女も少しばかり未練があるのだろう。
エミリア達が正門付近で待っていると、空から黒い影が降りてきた。
頭部が白骨の烏のアンデット、ファントムクロウだ。
ハンナがクロスボウで撃ち落とそうとすると「ガァァッ!!」と威嚇した。
ファントムクロウはエミリアの前に来ると、
「ちょっとエミリアちゃん?!今どこにいるのよ?!」
アンデットの魔物が人間の言葉を話し出した。
しかも聞き覚えがある声だった。
「リリリアさん?」
「覚えなさい!リリノアよ!」
どうやらこのアンデットは彼女の所有物らしい。
魔物を通して話しかけてきているようだ。
「そんなことよりもっ、一体何をやらかしたの?!」
「エミリアちゃんっ、あんた王国全土に指名手配されてるわよ!?」
リリノアの言葉に呆然とする一同。
エミリアには心当たりがあるのか動揺はしなかった。
邪神を打ち倒し、帝国へ帰ろうとした矢先に王国全土での指名手配。
果たして、死神少女は生まれ故郷へ帰ることができるのか?




