かの者
【聖都ラ・ブランダス】
「このルートには警備が配置されていないのか。」
顔に火傷を負ったローブの男…………クラークは黒い靄に導かれていた。
ここは地下道。生活排水などが流れ、当然衛生的に悪く第二王子がいるべき場所ではない。
「ここは聖都に非常事態が起きたとき、大神官や聖女が逃げるときに使うルートの一つなんだ。出入口は大神官かお付きの人しか知らない。」
「お前が連れていこうとしている場所にも繋がっているのだな?」
「正規でないルートはここしかないからね。」
まるで何度か通ったことがあるかのように靄は語る。
「曲がり角は注意だ。稀にパープルスライムが潜んでいるんだ。」
「聖都に魔物だと?」
「元々ここは魔物が蔓延っていた場所でね。聖女の結界で誰も地上に出られないんだ。」
実際道中でクラークを小型の魔物が襲ってきたが彼の敵ではなかった。
スライムは来なかったが物理の効きにくい相手は面倒だ。
道を進んでいくと何やら瓦礫のような物で塞がれ先へ進めなくなっていた。
「これは見かけ倒しだ。君の得意のやつで燃えるよ。」
クラークは頷くと剣に炎を宿す。そのまま瓦礫を切りつけると、瓦礫は跡形もなく消えた。
「実態のある幻覚なんて誰も思いつかなかっただろうけど、魔法を当てると消えてしまうんだ。」
瓦礫の向こうには剣が刺さった祭壇のような物がある。左には不気味な笑顔を浮かべた石像、右には作動していない魔方陣。
「ここから先は僕は進めない。あれをどうするか…………君に任せるよ。」
黒い靄は姿を消した。
「…………ふん、何が起きるのか楽しみだ。」
祭壇の剣は怪しく輝いていた。
聖都の門には新たな門番が配置され、人数も増えていた。
人の出入りは禁止され、商人や冒険者も追い返されていた。
「申し訳ありません、現在聖都の立ち入りは…………!!」
門にやってきた人物を見て門番達は動揺した。
黒い全身鎧を着た居るはずもない人物。鎧には無数の傷があった。
「ラバダ殿…………ご無事でっ!」
「………主はここに?」
「はい!お連れの方もいらっしゃいますが…………」
「いつもの奴はどうした?」
「そ………それが昨日何者かに………」
ラバダの兜の中が赤く光る。
「俺を入れろ、主達が危険だ。」
「ははっ!!」
言われている門番たちは聖都の大きな門を開けていく。ラバダはその間、門の隣に立つ石像を眺めていた。
「………。」
ラバダは大聖堂を見つめるとそのまま聖都へ入っていった。
石像の目が僅かに赤く光る。
僅かに地鳴りが聞こえた。
注意していないと聞こえないくらい小さなもねだがラバダにははっきりと聞こえた。
「おのれ小僧………やりおったか!」
エミリアの瞳から光が消えていた。薄々気づいてはいたが、今こうして現実を突きつけられるとやるせない。
目の前でクリスティアナがナタリーによって着せ替え人形にされている。レイラは相手が聖女ということで恐る恐る、ハンナは物怖じせず手伝っていた。
問題はクリスティアナが脱がされ下着姿になった時…………ハンナもなかなかあったが親友もなかなかのものを持っていた。そして時々張り合うようにナタリーが自身に着せ替え魔法を使い一瞬下着姿になった時にもこれまたなかなかのものが見えてしまった。
「もげてしまえばいいのに。」
「お姉様?」
エミリアがどうでもいいことで嫉妬していることにまだ誰も気づいていない。
楽しい時間は地下から鳴り響く唸り声によって中断された。




