死神少女は陸の孤島に閉じ込められる
誤字報告、感謝してます。
【聖都ラ・ブランダス】
「んぅ~………」
エミリアの寝起きは非常に悪い。完全に覚醒するまで二時間かかることもある。
今日も誰よりも遅く起き上がった。しかし意識がはっきりしないのかそのまま動きを止めた。目は虚ろになっている。
「お姉ちゃん、おはようだよー?」
「おはようございます、お姉様。」
「みゅ………?」
おおよそ人間には通じなさそうな返事がきた。
レイラとナタリーはとっくに起きていて、エミリアの寝顔を一時間ほど堪能していた。ハンナの姿はない。彼女は起床後、日課の一時間ランニングをしていた。狩人らしく体力作りのためだとか。
「朝だよー。」
レイラがエミリアのほっぺたを摘まんでみると、レイラに負けないくらい伸びた。面白がったレイラはぐいぐいとほっぺたを弄くり始める。
「むぃ~……。」
「えへっ、お姉ちゃんのほっぺ柔らかいね。」
「私はお姉様の髪をといてさしあげましょう。」
ナタリーはエミリアの後ろに座ると何処から出したのか櫛を取り出す。そしてエミリアの青い髪をときはじめた。
「お姉様の髪とてもさらさら、羨ましいですわ。」
「むにむに~。」
エミリアは完全に起きるまで好き放題された。
エミリアのエンジンがようやくかかった頃、彼女らはラーグネスに執務室へ呼び出された。ハンナはもう戻ってきている。
「今朝がた、聖都の門番が何者かに殺害されました。」
「まぁそれは………」
「あー人が集まってたのはそういうことだったんだ。」
ハンナはランニング中に聖騎士が集まっているのを目撃していた。朝の集会か何かだと勘違いしていたらしい。
「その為聖都は厳戒体制となります。申し訳ありませんが下手人が見つかるまでは聖都の出入りが制限されることになります。」
「クリスティアナ様を狙ったものでしょうか?」
「まだ何とも言えませんね。それに亡くなった彼らは仮にも聖騎士、正面から一突きで倒されるような者ではありませんでした。」
「ふむ、アサシンを雇った可能性も考えられますわね。」
「聖女様の警護は増やさなければなりません。時季が時期ですから。」
「…………。」
ナタリーとラーグネスが話す中、エミリアはずっと黙っていた。
聖都の裏路地にフード付きのローブを纏った男はいた。うまいこと一夜を過ごしたらしい。
近くには例の黒い靄が漂っていた。
「おい、このあとはどうすればいい?」
「大聖堂へ侵入してもらうよ。警備は厳重だろうけど問題はない、ルートはその都度伝えさせてもらうよ。」
「要するにさっさと行けということか。まぁいい、従おう。」
男は靄を伴って大通りに出た。町には既に人が外出を始めている、ローブを纏った人間は以外とたくさんいるため彼が怪しまれることはなかった。ただ昨晩の件で聖騎士が巡回をしている。変に逃げるような動作さえしなければ聖騎士をやりすごすことも可能だろう。
「ん……………あいつはっ!」
男が何かを見つけたらしく、物陰へ隠れる。
「ほぉ、聖都にいたんだねぇ。まぁ今は相手する場面じゃないからそれでいいけどね。」
「あいつは化け物だ。だが所詮は人間、今度こそ俺が勝つ。」
フードから僅かに見えた男の顔はひどく焼け爛れていた。その黒い目は憎悪に満ちていた。
「行くぞ、あんなのに構ってられない。」
エミリアは一人で武器を買いに来ていた。いつまでも丸腰なのは落ち着かないらしく、部屋ではずっとエアナイフ回しをしていた。ナタリーら三人は大聖堂に置いてきた。現状、一番安全なのは大聖堂だ。多くの聖騎士がおり正体不明の殺人犯もなんとかしてくれるだろう。
聖都の武器屋は悪くない品揃えだが、今まで使っていたプレートナイフほどの頑丈な物はさすがになかった。だが無いよりはマシだと普通の鉄製の剣を使うことにした。
逆手に持ってみるが明らかに細い。別に粗悪品ではなく、むしろ剣としては高品質な代物なのだがエミリアの戦い方だとすぐ折れそうだ。不満だが我慢するしかない。
ふと、視線を感じたエミリアはその場所に目をやる。しかしすでに気配は消えていた。
もやもやしながらもナイフを回しながら大聖堂へ戻ることにする。
「そうだ、皆にパンでも買って帰ろうか。」




