死神少女は大聖堂で休めない
【聖都ラ・ブランダス 大聖堂】
大聖堂にやってきたエミリア達をクリスティアナが出迎えた。周囲が何やらざわざわしているのは彼女が誰かを出迎えることが初めてのことだかららしい。隣には大きな被り物をした神官の男性がいる。
「聖女クリスティアナより話は伺っています。聖都へようこそ、エミリア殿御一行。」
「ん……どうも?」
慣れない挨拶に戸惑うが取り敢えず返しておく。貴族的な挨拶はよくわからないエミリアだが特に気にしていないようだ。
「私は大神官を勤めさせていただいてます、ラーグネス・サイフォスと申します。立ち話も何ですし大聖堂へお入りください、案内しましょう。」
ラーグネスの後にクリスティアナ、その後ろにエミリアらがついていく形で大聖堂を移動している。途中で内部の説明などもされる。許可が無ければ立ち入り禁止の場所、時間で入場不可となる場所など。
説明される間にもエミリア達は好奇な眼差しに晒される。何しろ自室に籠りがちの聖女が連れてきた客だ、興味が出ないわけがない。エミリアは反射的にレイラを見えないようにしていた。
「今晩はこちらでお泊まりください。上等とは言えないかもしれませんが。」
案内されたのは冒険者グループ用に用意される寝室。四つのなかなか良さそうなベッドがある。
「食事は済まされたと聞きましたが。」
「ん、ついさっき色々と。」
大聖堂へ来る前にこの四人はパンを買い食いをしていた。その姿はこれから中心部へ行こうとするようにはとても見えない、ただの観光客だ。
ラーグネスが去った後、クリスティアナが残ったのでこれからの事を話した。
「帝国へ向かうのなら早い方がよろしいでしょう。殿下が何か手を打ってくるかもしれません。早朝に馬車を手配しておきます。」
「ご心配無く、お姉様に刃向かう輩は全て氷漬けですわ。」
「そういうのではなく、穏便に事を済ませて欲しいのですが。」
姉のことになるとどこまでも血の気が多くなる賢者だ。それだとレイラとハンナも似たような考えを持つだろうが……。
「ん………皆の気持ちはわかる。でもそれで皆が痛い思いをするのは嫌、クリスの言うようにあれが何かしてくる前に帝国へむかおう?」
「お姉様がそういうのでしたら……」
「…………。」
クリスティアナが大聖堂にいる間は向こうからは手出しはできないだろうという考えだ。王族は手出しが出来ない場所………そんな都合の良い場所があるものなのか。
「なっ………?!そんな羨ましいことを?!見てみたい………。」
ナタリーがゴスロリエミリアについて話したらしい。
夜、エミリアは少し困っていた。
部屋にはベッドが四つあり皆が寝られるようになっている。だがベッドは三つ空いている。
「なんで皆こっちに来てるの………」
エミリアの右腕にレイラ、左腕にナタリーがしがみつき、お腹をハンナが枕のようにしていた。寝る直前までは確かにそれぞれのベッドにいたはずだが………。ハンナが頭を動かす度になんとも言えない感触が襲ってくる。胸に顔を埋められるよりはマシではあるが。
「お姉ちゃん………」
「お姉さまぁ…………」
「エミリアぁ…………」
ほぼ同じタイミングで似たような寝言を三人が呟く。三人が幸せそうなら少しは我慢しようかなと、エミリアは考えることをやめた。
クリスティアナの寝室に大神官のラーグネスが訪れていた。端にクリスティアナの世話役の修道女が待機している。
「そんなバカな。ラバダの正体を知るのはここにいる三人しか…………」
「しかし殿下はあのポーションを持っていました。ラバダが無力化されて拐われたところにエミリアが来てくれたのです。」
ラバダはクリスティアナが作り出したゴーレム。ラーグネスと世話役しかこの事実を伝えていない。
「殿下はどうやって正体を………」
「大神官様………私は今、ものすごく嫌な予想をしているのです。」
「…………聞かせてほしい。」
「………邪神ズウェンは時を渡る力を持ってます。」
「……………まさか。」
「邪神ともなればラバダの正体を看破することはできるはず。近い将来、邪神が復活するとしたらまず私を狙うでしょう。未来を変えるには過去を弄る必要がありますから。」
「だから君の護衛であるラバダを排除したのか。」
「ラバダは恐らくまだ動いてます。しかし戦力としてはもう…………」
クリスティアナが法衣を握りしめる。作った存在とはいえ長年連れていた仲間を失うのは耐え難いものだった。
「邪神はこの時代の邪神を復活させるための秘策を持っていると思います。ラバダには最後の命令を遠隔で伝えました。ただ、聖都が少し壊れるかもしれませんが。」
「クリスティアナ、君は一体何をしようと?」
「聖都の伝説の再現です。この手段が無駄になればいいのですが…………」
聖都の門で一人の男が止められていた。
「この時間に聖都へ入ることはできません。」
「お引き取りを。」
男はフード付きのローブを纏っていた。顔はよく見えない。
「何とか入れないのか。」
「決まりですので。」
しかし門番は規則に従い入れようとしない。
男の肩から黒い靄が出てきた。男は靄にむかい何かを呟いた。
「ん………?そうか、わかった。」
「ご理解いただけたのならっ?!」
門番の一人の背中から剣が生えた。剣が抜かれると門番がそのまま倒れる。
「なにをすぐあぁっ!!」
もう一人の門番も続けて命を落とした。男はそのまま聖都へ入った。
「いいねぇ、まだ衰えてないのは流石だよ。」
「俺があんな奴等に遅れを取るものか。」
俺と黒い靄が会話をし始めた。どうやら靄の話し声は男にしか聞こえないようだ。
「だがさすがに今日の実行は無理だな。どこかで休むぞ。」
「くくっ、構わないよそのくらいは。猶予は今のでできたからねたぇ。」
門番殺害により、聖都は非常事態体制となり全ての門は閉ざされた。




