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死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
壱 ―姿無き英雄―
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死神少女は村を回る

【ブランウェル王国 ガンダル村】

朝を迎えたエミリアは虚ろな目をしていた。

朝に弱く、エンジンがかかるのに一時間はかかる。

先日までは危険と隣り合わせだったため、半ば強制的に起きざるを得なかっただけで本来のエミリアは寝坊助なのだ。


再びエミリアが動き出すのに二時間かかった。



今日は村の鍛冶屋に向かった。

盗賊処刑の際にナイフの刃こぼれに気づいたからだ。

路銀は盗賊から奪ったものがまだ残っている。

この村の宿代だけで1ヶ月は過ごせるくらいだ。







この村の鍛冶屋は王国でも随一の大きさを誇る。

よくわからない機械が鉄屑を運び、炉に入れている。そして出てきた赤い物が運ばれ職人たちが打ち込む。

エミリアは見たことのない光景に見とれていた。


取り敢えず近くで寛いでいた髭もじゃに話しかける。


「おじさん。」

「おぉん?なんだ随分小さいな。」


そういう髭もじゃもエミリアより少し大きいくらいで成人男性よりは低い。


「これ、刃こぼれしちゃったから打ち直して。」

「どれ…………なんだこりゃ、刀身どころか全体的に削れてるじゃねぇか。どんな使い方したんだ?」

「剣とか矢とかを弾いてた。」

「なに?弾いただって?」

「こうやって斬りかかったやつを受け止めて、もう片方でやるの。」


エミリアは普段やってる戦い方を説明した。


「『オーランド剣術』か。今時そんな戦い方をしてる奴がいるなんてな。」

「そんな感じの名前だった気がする。」

「なら普通のナイフじゃ力不足だな。大剣みてぇにある程度の強度が必要になる。なら新しく作った方が安上がりだし早いぞ。」

「じゃあそうする。」


即決だった。

髭もじゃは何かをメモし始めた。


「攻撃を受け止める剣『プレートナイフ』がいいだろう。あのナイフより少し大きくなるが防御の役目は十分果たせるはずだ。素材は…………問題ないな。おっと金はあるのか?値引きは受け付けてないぜ?」

「ん。」


袋からいくらか金貨を出す。


「良いだろう、取引成立だ。出来上がりは三日後だな、その時にまた来てくれ。」


髭もじゃは立ち上がると周りの職人たちに声をかけ始める。

どうやら親方的存在だったようだ。

ぺこりと礼をすると鍛冶屋を後にする。






広場のベンチで寛いでいると


「まぁ、レウス様がいらっしゃるのね?」

「きっとドラゴン退治に来たんだろうな。」

「これで村にも平穏が訪れるぜ。」


どうやら有名人が来るらしい。

名前から察するに男だろうか、ドラゴン退治となると大層なムキムキなのだろうと勝手な想像をしてみた。


気がつくと昨日の赤髪少女が側に来ていた。

どうやらエミリアに懐いてしまったらしい。


「お母さんは?」


赤髪少女は山の方に見える家を指差す。

小ぢんまりした家だ。


「お母さんとお父さんはお仕事?」


赤髪少女は首を傾げる。

エミリア自身人の事を言えないがあまり喋らない子だなと思った。

生憎今はパンが無いので頭を撫でて誤魔化した。

赤髪少女は満更でもなさそうだ。






「……私と一緒にいるよりお友達といた方が良いと思うけど。」


言いつつロールパンを買い与える。

赤髪少女は満面の笑みを浮かべかぶり付く。

犬耳や尻尾が生えてたら様になっていたかもしれない。


「山のフレイムドラゴン、奴の無敵伝説もこれまでよ。」

「ドラゴンキラーレウス様ならば炎竜どころか古の邪竜すら討伐してくれるかもな。」


ここでもレウスとやらの話がされていた。

少し興味が出てきた。

今のエミリアは根なし草、仲間に加えてもらえるとありがたい。

手土産は何がいいのか、盗賊でも皆殺しにすれば喜んでくれるか。

何かの魔物を討伐するのも悪くないかも?

赤髪少女を撫でつつ物騒な事を考える。


赤髪少女は微かに震えていることには気づかなかった。












夕暮れ時、そろそろ宿にでも戻ろうかと思った時である。

村に備えてあった鐘が鳴り響く。


「ハーピィの群れが来たぞー!!」


【レイド山】の麓はハーピィの狩場となっている。

この【ガンダル村】も時折狩場としてハーピィが襲撃に来ることがあるのだ。

村にいた多くの冒険者が迎撃に向かう。

この村には警備隊が存在せず、代わりに魔物の襲撃には駐留している冒険者が迎え撃つことになっていた。


「……危ないから早くおかえり。」


エミリアは赤髪少女を帰らせ、自分は宿に籠ることにした。

なんてことはない、面倒なのだ。


宿のおばさんが心配そうにエミリアを迎えてくれた。





自分の部屋に戻り、窓から様子を見る。

冒険者達が矢を放ち、魔法で落とし、ハーピィを少しずつ減らしていた。

あの様子だと一時間もしない内に終わりそうだ。

さて自分は早いが寝てしまおうかと窓から離れようとした。



が、エミリアは突然窓を開けて飛び出しおもむろにナイフを突き立てる。


「ギュアアア?!!」


エミリアがナイフを突き立てていたのは黒いハーピィ。宿上空から誰かを襲うつもりだったらしい。

突然の痛撃にハーピィは飛行を維持できずに墜落。

その隙にエミリアは喉をかっ捌きハーピィを絶命させた。

放っておけば誰かが回収するだろうとエミリアは何事も無かったかのように窓から部屋に戻った。














「お姉ちゃん………すっごく強い。」


物陰に小さな目撃者が居たことを知らずに。

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