死神少女の抱擁力
【ブランウェル王国 マルティアナ平原】
「ん………うぅっ………。」
エミリアがうっすらと目を開けると先程いた丸太小屋の一部屋に寝かされていた。
エミリアが最後に覚えているのはレイラとハンナ、そしてずっと探していた妹のナタリー。直後にお腹に強い衝撃を受けて…………
「全く、私が居たから良かったものを!」
「はい、ごめんなさい………。」
(クリスが説教をしている?一度始まるとかなり長くなるから私は苦手。)
「だいたい貴女は………」
誰を説教しているかはわからないがクリスを止めるためエミリアは起き上がった。
「あ、お姉ちゃん!!」
側にいたレイラが抱きついてきた。先程まで竜化していたからかほんのり暖かい。
さっき頑張ったようだしご褒美代わりに頭を撫でると嬉しそうにすりつけてきた。もはやドラゴンではなく猫である。
「あぁ良かったです、貴女が起きなければ一人地獄に落とすつもりでした。」
とても聖女とは思えない発言がでた。
そして正座をしているナタリー……クリスティアナが説教していた相手がわかった。あの時のお腹の衝撃はナタリーが突撃してきたものだろう。
ナタリーは申し訳なさそうに顔をあげた。
「お姉様……その………」
「ナタリー。」
遮るようにエミリアが話しかける。
「気持ちはわかるよ。私がナタリーでもやってた、ずっと会えなかったからね。だから……」
エミリアは立ち上がると手を広げた。
「おいでナタリー、今度はゆっくりね。」
ナタリーはゆっくりと一歩一歩エミリアに近づく。クリスティアナとレイラはそれを見守る。
「お姉様………」
本当にゆっくりと近づいている。
うっかり感情が爆発してまたエミリアに突撃しないように我慢しているのか。
やがて二人は抱き合った。身長差があるためナタリーは少し屈んでいる。
「お姉様…………ずっとお会いしたかった………あぁ幻じゃない………。」
「ん………私はここにいるよ。」
「うぅ………ぐすっ。」
ナタリーが泣きべそをかいている。
「ナタリー、泣いていいよ。ずっと我慢していたんでしょ?」
「うっ………くぅっ……………うわぁぁぁぁんお姉様ぁぁ!!」
エミリアの言葉がナタリーの溜めていたものを崩壊させた。
ナタリーが最後に泣いたのは魔法学園入学一週間くらいで孤独に耐えられなくなった時だった。味方がいなかった当時は我慢の連続、周囲の生徒を見返すためにひたすら勉強と修行漬けの毎日だった。姉への想いだけが彼女の原動力となっていた。
もう我慢しなくていい。それがナタリーを救いだした。
賢者と呼ばれた少女は小さな姉の胸の中で子供のように泣きじゃくった。
ようやくナタリーは泣き止んだ。
顔が赤くなってるのを見られたくないのかまだエミリアの胸に顔を埋めていた。
「ナタリー、そろそろ離れる?」
ナタリーは反応しない。
「ナタリー?」
「あぁ、久しぶりのお姉様の香り………」
ぶち壊しだった。
ナタリーはさっきまでの態度が嘘のように抱きついたまま息を大きく吸った。
二人からは見えないがクリスティアナはまるでゴミを見るような嫌そうな顔をしている。
エミリアはまだ抱き足りないのかなと全く疑わず抱き続けていた。
エミリア分を堪能したナタリーはようやく離れる。
直後に背中をクリスティアナにつねられた、かなり強く。
「いだだだだだだ?!」
「小さい子がいるのです、もう少し自重しなさい。」
そして小声で「私だってやりたいのに」と呟くが誰も聞き取れていない。
「おほんっ。お姉様、ようやく再会できて早速なのですが帝国へ帰りましょう?」
「ん?」
「そもそもお姉様が王国にいるのは色々とまずいのですわ。一応帝国民ですし、帝国嫌いの貴族に見つかったらもう大変なのですから。」
かつてブランウェル王国とベルセイン帝国は戦になりかけたことがあった。邪神騒動が起きたため開戦はしなかったが、未だに両者の関係は悪化したままだら、
というのも王国の王族貴族は選民意識が高く、昔から帝国を下に見てきた。帝国は所謂実力重視で能力ある者ならばどこまでも出世していける。少し前から帝国の重臣の7割は平民出身、それが面白くなかった王族貴族は外交の度に冷たくあしらった。今の国王、そして王太子は関係改善のため尽力しているが一度根付いたものは簡単にはなくならない。
一部の貴族は領内に帝国民を入れない徹底ぶりである。
「帝国に帰るのは賛成。でも………」
エミリアはクリスティアナの手をとる。
「クリスを聖都に連れていく。お仕事が途中だから。」
「そういえばなぜクリスティアナ様はこんなところに………」
「まぁ色々ありまして………」
クラークのことはあえて伝えない。エミリア狂いのナタリーに話したらきっと一人で姉を傷つけた
報いを受けさせるだろう。
丸太小屋から出るとハンナがいた。
「お?起きたんだ。」
髪に葉っぱがついてることから森に入っていたようだ。
「せっかく森があるんだし、ついでに集めてきちゃった。あるのと無いのとじゃ結構違うからねー。」
腰の二本の空き瓶が禍々しい液体で満たされている。紫の液体の瓶にはドクロマーク、黄色い液体の瓶には雷のマークが雑に描かれていた。
「また使いたいときは使っていいからねー。」
裏の無い笑顔で毒を薦めてくる。オークキングの時のようにエミリアの助けになるならばと好意で言っているのだろう。
「クリスを聖都に連れてくよ。その後一緒に帝国へ行こ?」
「いいよー、エミリアと一緒ならどこにでもついてくからっ!」
「んぅっ!」
そう言うとハンナがエミリアに抱きつき、胸に顔を埋めてくる。久しぶりで油断していたエミリアは声をあげてしまった。
「えへへ、やっぱりこれやめられないなー。」
遂に離れ離れになっていた妹ナタリーと親友クリスティアナと再会したエミリア。
聖女の務めを果たすため一旦はクリスティアナを聖都へ送り届けることに。
そして王国第二王子クラークを焼いたエミリアは彼にマークされただろう。果たして無事帝国へ帰郷できるのか、それは女神ですらわからない。
政治的な表現は苦手なためかなりあっさりした解説になってます。




