死神少女の元に集う者
【ブランウェル王国 王都ミゼリオナ】
時は遡る。
エミリアが宿を抜け出して何処かへ行ったことを知ったレイラとハンナは王都を走り回った。
「お姉ちゃんどこいったの………?」
「風邪ひいてるから遠くまでは行けないと思うけど……。」
かれこれ二時間は探していた。
もしかしたら王都にはいないのかもしれない。森ならともかく、王都は色々な人が行き交っているため追跡が難しい。
ふと、レイラが何かを見つけたのか立ち止まった。
「……お姉ちゃん?」
ハンナはレイラが指差す方向を見るとエミリアと同じ格好の青い髪の少女がかなり遅いが走っていた。だが彼女より髪がずっと長く、背も高かった。
「ごめんなさい、違ったみたい。」
「あー………うん。すごい似てるねあの人。」
その少女は顔立ちもどこかエミリアに似ていた。
「案外エミリアの知り合いだったりして?」
「お姉様をご存知なのですか!?」
「うわぁ!?」
かなり離れた位置にいたはずの少女………ナタリーはいつの間にかハンナに接近していた。どうやら「エミリア」というワードに反応したらしい。
「あらごめんなさい、驚かせてしまいましたわね。まさかお姉様の名前を聞くと思わなくって。」
「けっこう離れてたのに………」
「愛ゆえに、ですわ!」
レイラは少し後ずさった。
「エミリアは………お姉さんなの?」
「えぇ、わたくしの自慢のお姉様ですわ。長らく離れ離れになっていましたがもうすぐ会える…………そんな気がするのです。ここに来てからお姉様の目撃情報が増えてますし。」
「まぁさっきまで一緒にいたんだけど急にいなくなっちゃって。」
「そ………そうなのですか……」
ナタリーはわかりやすく落ち込む。
「風邪引いてるのに抜け出すくらいだから大事な用でもあるのかなーって考えていたんだけど………」
「…………まさか。」
ナタリーにはクリスティアナの助けを求める声が何処かから聞こえた。あれが聖女の力だとしたらエミリアも聞いている可能性がある。
彼女の性格を考えると絶対に向かっている。
「行きましょう、心当たりがございます。」
ナタリーは二人を連れて王都の外れへ向かった。
【ブランウェル王国 マルティアナ平原】
城門をくぐってしばらくしてナタリーが切り出した。
「レイラちゃん……でしたっけ?貴方、人間ではないですわね?」
「え………なんで………?」
「生き物には特有の魔力の流れがございますの。まぁこれを感じ取れるのはハイエルフか魔力の高い人間くらいかしら?」
レイラは初対面のナタリーに正体がバレたことに戦慄した。ハンナがレイラを庇うように前に出てきた。
「あぁ誤解しないでくださいまし。貴女をどうこうする気はございませんわ。ただお姉様と一緒にいた貴女達を知りたかっただけですの。」
「…………。」
「まぁ初対面の人間が見破ってしまったらそうなりますわよね。ではこうしましょう、これから私たちはお姉様のところへ向かいます。怪しいと思ったらそれで私を撃つのです。」
「え?!それはちょっと………」
「ふふふ、私にも意地というものがございます。」
初対面のナタリーは色々と信じられないことが多い。エミリアのことを知っているようだから本当は信用したいところではある。
しばらくすると丸太小屋のようなものが見えてきた。そして今から襲撃でもするかのように騎士団が囲んでいた。鎧は着ておらず騎士服だった。
遠巻きに三人は様子を伺う。
「きっとあの中にお姉様がいますわ。」
「すごい数………」
「こないだ戦ったサハギンよりは少ないけど、あれはちょっときついかも?」
ナタリーはそっとレイラに呟く。
「私が助けます、貴方の力を見せてください。」
「えっ?!でもっ………」
「要するにあのお姉様を狙っているゴミ共を全滅させれば貴女の正体を知る者はいなくなるのです。ハンナさんも力を貸してくださいますね?」
「レイラを守るため全員始末、やってみるよ。」
ハンナが言うのならばとレイラは覚悟を決めた。
レイラの身体が輝きだし…………
赤いフレイムドラゴンが姿を現した。
「グォアアァァァァァ!!」
雄叫びをあげると全ての騎士がドラゴンに気づく。
ドラゴンが火球を吐く。着弾地点に小規模の爆発が起きて数人の騎士が吹き飛んだ。
「はい私から逃げられないよ!」
ドラゴンの死角に入った騎士をハンナが射撃し始末する。兜を被っていないのが仇となり頭を一発で倒されていく。
「風よ、その身を刃とし切り刻め。『エアカッター』!」
ナタリーが詠唱すると緑色の風の刃が騎士に襲いかかり手足、首を切断していく。
騎士たちは確実に数を減らしていく。数人が逃走をはかるもナタリーとハンナが仕留め、逃げない者はフレイムドラゴンによって消し炭にされた。
騎士が全滅した時、丸太小屋からエミリアとクリスティアナが出てきた。
「グルルルル………」
「あ!エミリア見つけたー!」
久しぶりに見つけた最愛の姉は遥かに小さかった。それでも姉であることに変わりはない。
「お姉様………」
ナタリーの中で色々な感情が溢れてくる。
一方のエミリアも信じられないというような顔をしていた。
「ナタぐぅぇ………」
「お姉様ぁぁぁーーーーー!!!」
思わず風魔法で突進しエミリアに抱きつく。だが勢い余って柔らかいお腹に直撃し、激戦直後で疲れ果てていたエミリアは意識を失った。




