死神少女は焼肉をする
いつもより過激な表現に注意を
【ブランウェル王国 マルティアナ平原】
クリスティアナは倒れたエミリアを介抱していた。
「ばかばか………風邪ひいてるうえにそんな怪我までして来るなんて………」
「クリスを助けたかったから………」
「自分の体を大切にしてください。もう………。」
怪我をしたエミリアに躊躇なく大回復魔法を使う。
本来は王族や一部の貴族、高ランク冒険者に使うものだ。
エミリアの傷口が塞がっていく。
「ありがとうクリス。」
エミリアの表情は変わらないがクリスティアナには微笑んでいるように見えた。
「エミリア、私を連れ出してください。殿下が戻ってくる前に………」
「クリス。」
「はい?」
エミリアはクリスティアナの腫れている頬を指差す。
「それ、誰にやられたの?」
「あ………ひっ?!」
エミリアの表情は変わっていない。
だがクリスティアナにはわかる、わかってしまった。
目の前の親友から怒りのオーラが滲み出ていた。
クリスティアナが答える前にエミリアの冷たい手が腫れた頬を触る。
「痛かったよね。大丈夫、私が代わりにもっと痛いことをそいつにしてあげるから。多分死なないけど。」
「あっ、あの………」
今まで見たことのない親友の迫力にクリスティアナはうまく喋れなくなっていた。
「ん………。」
エミリアが扉の方を向く。
「そう………あいつがやったの。」
どうやらクラークが戻ってきたらしい。
エミリアが治った左手で器用にナイフを回しながら立ち上がる。
「え………エミリア。」
「ん?」
怯えながらもなんとか声をかける。
「彼は一応王族です。全部終わったら聖都へ行きましょう?あそこは王族では手出しができない場所です。」
きっとエミリアはクラークに何かしでかす。
そうしたら王国にはいられなくなるし追手も差し向けられるだろう。
聖都はどの国からの干渉も受けない、クリスティアナはエミリアを匿うつもりだ。
「ん………。」
頷くとエミリアは部屋から出ていった。
「こっ……殺してはだめですからねっ!」
階段を降りると見覚えのある男がいた。
剣を抜いていて臨戦状態に入っている。
「クリスティアナを誑かす薄汚い子供め。このクラーク・ブランウェルが成敗してやる。」
怪しく光る赤い瞳は敵意を剥き出しにしていた。
「王子かなんか知らないけど、誘拐は犯罪。しってる?」
「聖女は俺の妻にふさわしい。王家からの誘いは絶対だ。」
「好きでもないブ男に言い寄られてクリスは迷惑してる。早く消えて。」
「ふん、不敬な。その生意気な口を黙らせてやろう。」
クラークが斬りかかる。
思ったより斬撃が早かったがギリギリで避ける。
エミリアはナイフをおもむろに投げる。
当てる気はない、避け方を見るためだ。
クラークは避けずに剣で弾いた。
「…………。」
なかなか強いらしい。
再びクラークの剣を避ける。
エミリアはまたナイフを投げた。
クラークは飛んできたナイフを剣で弾く。
直後エミリアが投げた椅子が直撃した。
「ぐぉ?!貴様………!!」
ナイフを弾く時に僅かな隙を見つけたエミリアはクラークを誘導し、すぐ何かを投げられる場所にいた。
別に椅子でなくともよかったがたまたま椅子があったので投げた。
立ち上がったクラークと刃を交える。
エミリアは受けに回るがなかなか隙ができない。
王子も同様に隙のないエミリアにイライラしている。
「さっきのでお前を死罪にすることができる。許しを請うても遅いぞ!」
クラークの剣が燃え始めた。
魔力をこめて剣に属性を与える、魔法剣とよばれるものだ。
初めて見る現象にエミリアは思わず立ちすくむ。
クラークが突進して斬りかかる。
プレートナイフを抜いて防ぐ………ナイフがどんどん熱くなってくる。
「うぅっ………!!」
プレートナイフが熱され赤くなってきた。
これ以上はまずいとクラークを蹴り飛ばす。
彼女の相棒は高温で熱され、歪んでいた。
エミリアの目が大きく見開かれる。
「ははは!もう武器は使えないな?」
クラークの剣が更に燃え盛る。
「貴様を断罪してやる。」
大きく振った炎の剣から大きな火の玉が飛び出した。
火の玉はそのままエミリアに向かい飛ぶ。
少女は避ける素振りを見せない。
そしてエミリアの全身を燃やし始めた。
エミリアの手からプレートナイフが落ちる。
「ふん、弱いくせに王族に楯突くからこうなる。」
クラークは立ったまま燃えるエミリアを気にすることなくクリスティアナがいる二階へ向かう。
突然クラークの腕が引っ張られ倒される。
なんだと振り替えるとそこには燃え盛る少女。
戦慄した。
クラークは自分の魔法剣がかなりの高温だということをしっている。
一度盗賊相手に使った時は数秒で黒焦げになり灰となった。
だが目の前の少女………化け物は熱さをものともせずに動いていた。
エミリアは恐怖するクラークの顔を殴る。
追い討ちに更に殴り、頭突きした。
クラークは再び魔法剣でエミリアを斬りつける。
確かに手応えはあった。しかしエミリアは動きを止めない。
クラークの顔が掴まれ、床に何度も叩きつけられる。
木の床がどんどん赤く染まっていく。
クラークの動きが鈍くなると、エミリアはどこかに引っ張っていった。
向かう先にあるのは……………火のついた暖炉。
エミリアが何をしようとするのかわかったクラークは暴れ始める。
後頭部を頭突きされ動きが止まった。
ここでエミリアを包んでいた炎が消えた。
意外にも火傷のような痕はなく、少し赤くなった程度だった。
が、衣服は無事では済まなかったらしい。
白かったブラウスは所々が黒く焦げ、小さな穴が開いてしまっていた。
先程斬られたのは右腕で深い切り傷ができていた。右袖はその時完全に焼失したらしい。
スカートは長さが半分になり太腿の大部分が露になっていた。
そしてエミリアは目を限界まで開き、笑みを浮かべていた。
「クリスに痛いことした報い、受けて。」
エミリアがクラークを暖炉に突き飛ばす。
「ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
クラークの顔が暖炉に突っ込んだ。
離れようとするがエミリアが足で押さえつける。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!熱いぃぃぃぃ!!!」
クラークの暴れる力が強くなり、エミリアは全体重をかける。
悲鳴なんか聞こえない、燃料は叫ばない。
ひとしきり顔を焼かれたクラークはエミリアの拘束がすこし弱まった途端に丸太小屋から逃げ出した。
静かになったことで様子を見にきたクリスティアナは親友の姿を見て絶句した。
クラークが魔法剣を使ったのは予想できた。
服が焦げてボロボロになっているということは直撃を受けたのだろう。
右腕に深い切り傷までできていた。
すこしずれていたらエミリアの右腕は失くなっていただろう。
「本当にエミリアは………」
泣きじゃくりながらエミリアを回復させた。
「クリスは泣き虫。」
「誰のせいですかっ!」
「変わらない、クリスは変わらないね。」
「エミリアが変わりすぎなのですっ。」
クリスティアナより小さな身体は以前よりも頼もしく見えた。
ふと、エミリアが玄関の方を向く。
「あー………クリス、囲まれてる。」
丸太小屋の周囲に何かの気配を感じるらしい。
クラークが呼んだものだろうか?
「どうしましょう……?」
外簑を燃やされ投げナイフが失くなり、プレートナイフも刀身が曲がり使い物にならない。
手元にあるのはさっき拾った斧一本。
最悪自分が捕まればクリスティアナは逃げられるだろうが、絶対に彼女は反対する。
「グォアアァァァァァ!!」
聞き覚えのある雄叫びが聞こえた。
そして続く爆発音、地響き。
更に強い風が吹く音。
悲鳴とともに気配がどんどん消えていく。
扉の外の気配が三つになった。
1人くらいなら斧で相手できる、エミリアは外に出た。
「グルルルル………」
「あ!エミリア見つけたー!」
そこにいたのは巨大な赤い竜と狩人のハンナ。
「お姉様………」
そして血の繋がった最愛の妹。
「ナタぐぅぇ………」
「お姉様ぁぁぁーーーーー!!!」
風魔法で突進して抱きついてきたナタリーの頭がエミリアの腹に直撃。
女の子らしからぬ呻き声をあげてエミリアは気絶した。




