姉を探してどこまでも
【ブランウェル王国 王都ミゼリオナ】
港町でエミリアの噂を聞いたナタリーは王都の門にたどり着いた。
本来は一日で着く距離ではないのだが、風魔法で体を空気に乗せてやってきた。
これはナタリーだからこそできる芸当だが時々気分が悪くなる。
「うぇ……………。」
今回はダメだったようだ、杖を支えに何とか立っている。
老人のように杖を使いながらナタリーは門をくぐる。途中で回りの人からものすごく心配された。
「王都…………懐かしいですわね。」
ナタリーは王都に来るのは初めてではない。
学生時代に交換留学の形で一年だけ来ていた。
当時既に賢者に近いと噂されていたナタリーに多くの生徒が集まってきたのはよく覚えている。
「しかしお姉様はなぜ王国にいるのでしょう?おかげで探すのに手間がかかってしまいます。」
エミリアはただ適当に旅をしているとは流石のナタリーも気づかなかった。
「ふふん、まぁいいですわ。王国観光はいずれお姉様と改めて………」
姉の好みそうな物をナタリーは熟知していた。
例えば姉は猫や猫系の魔物を好む。野良猫相手にじゃれつく姉の姿はナタリーの心臓を貫き、数分動けなくしてしまう。
王都にはケット・シーのぬいぐるみはあったかしらと財布を確認し始める。
「おぉなんと美しい女だ!」
声がした方向を向くと三人組の男………内、一名がナタリーに近づいてきた。
「どなたかしら?」
エミリアへのプレゼントを考えていたところに水をさされ少し不機嫌になる。
「こないだの女と似ていて美しい。」
ナタリーの手に無遠慮に指を絡める冒険者風の男。
「僕はアルフレッド・ゴミスカス、通りすがりの冒険者さ。運命の出会いに感謝を。」
後ろには神官風の男と、なぜかぼろぼろの盗賊風の男がいた。
ナタリーは別にこの三人には興味がない。
邪魔をされたし凍らせても良いが、その前に。
「運命ついでにこの方をご存知?」
ナタリーはエミリアの写真を見せる。
「あ!こないだの凶暴おん」
アルフレッドの体が持ちあがる。
ナタリーが首を掴んで浮かせたのだ。
年齢の割に身長の高いナタリーはたいていの男を持ち上げることができる。
勿論素は非力なので身体強化魔法を無詠唱で使っている。
「今、なんて?」
ナタリーの大きく開かれた瞳から光が消えていた。
目の前で姉を貶されたのだ、もはや反射行動である。
とはいえ手がかりを知るのならば殺すわけにはいかない。
顔から地面に叩きつける。
「もう一度お聞きしますわ。あの写真の方をご存知?」
「し…………知ってる………ついこないだも…………同じ目にあった…………」
偶然にも姉妹揃ってアルフレッドを道に叩きつけていた。
会話が少し難しくなりそうなので神官風の男に聞いてみる。
「で、何処にいるのです?」
「わっ、わかりません!!アルフレッドがやられてからは一度も!!」
手がかりは途切れてしまった。
だが間違いなく姉に近づいていることは実感できた。
「魔力を損しましたわ。」
この場にいても仕方がないので別の場所へ向かってみる。
アルフレッドの顔を踏みつけるのを忘れずに商業地区へ向かう。
「う…………白パン…」
直後、アルフレッドの顔面に拳大の氷が直撃した。
「全く、デリカシーのない男ですわ。」
ナタリーは白いブラウスに黒のミニスカート、そして緑色のマントを付けた。
さすらいの魔法使いに見せてみた。
ひとまずお腹が空いたので、近くのパン屋に立ち寄る。
「あら、こないだの子にそっくりで綺麗ね。お姉さんかしら?」
ここに来て明らかにエミリアの目撃情報が増えていた。
ナタリーは確信した、姉は王都にいる。
しばらく王都にいればきっと見つかるはず………
ここにしばらく滞在しよう、宿を探してみようか。
クロワッサンを食べ歩きしながら宿探しを始める。
(助けてください………!!)
「クリスティアナ様?」
突然頭にクリスティアナと思われる声が響く。
空耳の線は考えなかった。ナタリーは賢者、今のが何なのかすぐにわかった。
自分に助けを求めたということは遠くはないはず。
ナタリーは走り出した。
「方角は………多分あちら。」
王都を出るまでは風魔法は使えない。
スタミナは無く、かなり遅いがナタリーは走り続けた。
姉の親友を助けるために。




