死神少女の王都観光
【ブラウェイン王国 王都ミゼリオナ】
「んぅ~………」
ハンナに揺り起こされてエミリアは起きる。
朝弱いのに加え昨晩の騒ぎで少し寝不足だ。
いつもより眠そうなエミリアを見かねてハンナがおんぶして行くことにした。
眠気の取れないエミリアを歩かせるととにかく転ぶので、完全に起きるまでは地面に立たせることはできないのだ。
レイラが少し羨ましそうに見ている。
昨日の食堂で朝食をとることにした。
エミリアの眠気はまだ取れない。
レイラとハンナが両サイドからエミリアの口に食べさせる。
もはや介護のレベルだがエミリアは一応よく噛んで食べている。目はとろんとしている。
レイラがクロワッサンをちぎってエミリアの口に運ぶ時である。
「ふぇ?」
レイラの指ごと咥えられた。
エミリアはレイラの指を何を勘違いしたのか舐め始めた。
「お、お姉ちゃんっ……」
さすがにレイラの顔も赤くなるがエミリアはお構いなしだった。
しかし抵抗は弱めだ。
「ん~………ん?」
エミリアの目が少しずつ開いていく。
そして自分が何を咥えているのかに気づく。
「おはよ~エミリア?」
「お………おはよう。お姉ちゃん?」
「ごめんなさい、ほんとごめんなさい。」
「も、もう大丈夫だからっ。」
エミリアはとにかく謝った。
床に頭をつけて誠意を見せ始める。
「私はどっちかというともっと…………ううん、なんでもないっ。」
レイラが顔を赤らめて何かを呟くがエミリアには聞こえなかった。
エミリアの早朝土下座騒動から数時間、三人は工業地区にやってきた。
王国の建築関係に携わる建築ギルドの他に冒険者向けの鍛冶屋などもある。
エミリアは投げナイフ、ハンナは矢の補充が目的だ。
はぐれないようにレイラは二人の真ん中で手を繋いでもらっている。
流石は王都だ、見ただけでナイフの質が違う。
ビギナーからベテラン向けまで幅広く揃っていた。
エミリアが求めるのは貫通力重視。ガンダル村の物は素晴らしかった。
エミリアは投げナイフ40本を買った。
これを後で外簑やスカートに仕込むのだ。
手間はかかるがこれが一番だと思っている。
ハンナはクロスボウの矢束をたんまり買い込んでいた。
薬瓶も新しくなってることから、また何かの毒でも入れる気なのだろう。
キラービーの毒液はエミリアに全部使われたが別に気にしていなかった。
無くなったらまた集めればいい。ハンナはそういう人間だ。
工業地区から出てあてもなく歩いていると兵士に止められた。
「申し訳ありません。ここから先は貴族街となり、許可のない方は立ち入りできない地域でございます。」
気づくと貴族街に入ろうとしていたらしい。
豪華そうなゲートの先には豪邸が見えた。
恐らく貴族の住居なのだろう。ドレスを着た貴婦人の姿が見える。
ゲートには他に三人番人らしき兵士がいた。
「貴族しか入れない場所?」
「正確には貴族の他に王族や許可証を持った商人、依頼を受けた冒険者が立ち入り可能です。」
「ん、わかった。」
別に入らなくても困りはしないと引き返す。
ただ場所は把握しておくべきだろう。
市民街と商業地区にも近いから誰かしら偉そうな人と会うことになるか。
市民街の広場には噴水があり、人々の憩いの場となっていた。
この場所は商業地区、工業地区、教会地区、貴族街、そして王城へアクセス可能なことから王都で最も出入りの激しい場所となっている。
また冒険者ギルド本部や騎士団詰所、治療院の他に地下闘技場と呼ばれる施設もある。
地下闘技場とは冒険者同士で戦い腕を競い会う場所だ。
噴水広場の真下に巨大な会場が設けられ、定期的に冒険者同士が戦う。
この闘技場には特殊な術式が施されており、致命傷を受けても一度までなら即座に完治する。
つまり合法的に冒険者同士で殺し合いができるとんでもない施設なのだ。
ただしこの術式の効果は一人一日一度しか適応されず、二回致命傷を受けたら本当にお陀仏となる。
なんとなく近寄ってみるとかなり人が並んでいた。
どうやら観覧席の行列らしい。
「あら、エミリアちゃんじゃない?」
聞き覚えのある声に振り向く。
「あーやっぱりエミリアちゃんだ。王都にいたのね。」
腕を組むのは幾何学模様の仮面をつけた女性。
名前は…………
「リリリさん?」
「リリノアよ。」
死霊術師のリリノアだった。
仮面は新調したのかつやつやだ。
「ねぇ………まさかこれに出るの?」
リリノアが怪訝そうな声で聞くが三人は首を振る。
「あぁ良かった……いい?こういうとこは健全な女の子が来ちゃいけない場所よ?」
リリノアは腕を腰にあてる。
表情は全くわからない。
「リリノアさんは悪い女の子?」
ハンナが聞いてみるとリリノアはため息混じりに
「馬鹿の付き添いよ………。」
指差す方向を見てみると対戦カードが貼ってあった。
『本日の注目
熱き剣闘士フレディ・スレイル
vs
赤い狂戦士セリカ・ラーシャサ』




