表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神少女はどこへ行く  作者: ハスク
肆―ひび割れの魂―
30/174

死神少女と豚の国

【ブラウェイン王国 シルフの森】

「きゃっ!!」


オークに連れてこられたのはとある集落の藁作り家だ。

鉄格子の中に乱暴に投げ入れられたレイラは転がった。

ハンナは気絶しており受け身すら取れず投げ捨てられた。


檻の中にはレイラ達以外にも何人も女性が座り込み、白い光が漂っていた。


鉄格子を揺らすがびくともしない。

更に厄介なことにこの檻には魔法封じの術式が組み込まれていた。


この檻の中ではレイラは見た目相応の女の子でしかなくなる。





エミリアはきっと助けにくるだろう。

確証はないがレイラは短い付き合いで彼女がそういう人間だとわかっていた。

しかしここはオークの本拠地、エミリアは殺されてしまう。

いや、殺されるより酷いことをされるだろう。



大好きな人にそんな目にあってほしくない。


レイラはただエミリアの無事を祈ることしかできなかった。













「キングサマ、コウゲキジュンビトトノイマシタ!」

「ブヒヒ、エルフノ里モコレマデヨ。デハ進軍セヨ!ココカラ我ラオークノ伝説ガ始マルノダ!!」


オークの軍勢がエルフの里へと侵攻し始めた。

オークキングは家に戻り新たな獲物を品定めする。


「ブヒヒヒ、今夜ガ楽シミダ。」

「ひっ…………!」

「小サスギル気モスルガ安心スルガイイ、天国行キハ保証シテヤロウ。」

「うぅ……お姉ちゃん………。」












エミリアは負傷したオークに集落への道案内をさせていた。

人間を襲う亜人を脅す少女…………凄い構図である。


時々魔物が襲ってくるがオークは使い物にならないので全てエミリアが処理した。

オークは負傷していながら魔物を倒す少女に改めて戦慄していた。


「………っ。」


ただの痩せ我慢だった。

このオークに恐怖を与えるためにはそれくらいはする。

レイラとハンナの為なら背中の痛みはどうということはなかった。


フヨフヨ……


エミリアの頭上で白い光が何やら集まっていた。










やがて藁作りの家が建ち並ぶ場所にやってきた。

エミリア達がいた場所からあまり離れていなかった。


「………意外と近かったんだ。」


プレートナイフを抜く。


「タスケテクレェ!!バケモノガイルゥ!!」


連れてきたオークは大声をあげて逃げ出した。

即座に投げナイフが後頭部に当たり動かなくなった。


「…………面倒くさい。」


今の騒ぎで家から次々に武装したオークが出てきた。

エミリアは適当なオークにナイフを投げると同時に突っ込んでいった。





エミリアの頭上で白い光が回りだした。


身体が軽く感じたエミリアは少し微笑んだ。












「ナンノ騒ギダ?」


牢屋越しにレイラを品定めしていたオークキングは外の異変に気づく。


「シンニュウシャデス!!トンデモナクツヨクテミンナヤラレテマス!!」

「何ィ!?エェイ役立タズドモガ!!」


オークキングは露骨に不機嫌そうな顔をした。


「エルフ攻撃部隊ヲ呼ビ戻セ!!マダ間ニ合ウ!!」


イライラしながらオークキングは外に出る。













「何ダコレハ……!?」


地獄だった。


あちこちに散乱するオークの体の一部。

外にいるほぼ全てのオークが恐ろしい顔で絶命していた。

家屋の所々に誰のものかわからない血が付着しており、それが異常事態が起きていることを物語っていた。


集落中央の台にそれはいた。






倒れこんだオークに馬乗りになり、執拗に顔をナイフで刺していた。


どう見ても人間の子供だった。

たった一人の人間、しかも少女が集落のオークを虐殺していた。




オークキングは人間を格下に思っていた。

邪神に仕え、倒されてからもそれは変わらない。


その格下の少女に勇敢なるオークを沢山殺されていることに憤った。



そして見覚えのある青い髪…………




ふと、少女がこちらをゆっくり向いた。


目を見開いたその顔は親の仇を見つけたようだ。

元は白かったブラウスは自分のものかオークのものかわからない血で赤く染まっていた。


「…………。」


エミリアは無言で立ち上がると予備動作もなくナイフを投げた。


オークキングの腹に刺さった。

が、それだけだった。


エミリアは顔をしかめる。

今の一投で投げナイフでは小さすぎてオークキングを倒せそうにないことがわかった。

周りに散らばる棍棒は論外、攻め手が一つ消えたエミリアはプレートナイフを取り出す。


オークキングはエミリア程もある大きな棍棒を持っていた。


「人間風情ガ調子ニ乗リオッテ!!生マレテキタコトヲ後悔サセテヤル!!」


オークキングはエミリアに向かい走り出した。

地響き立てて迫ってくる巨体をエミリアはただじっと見ていた。


オークキングはエミリアに棍棒を振り下ろす。

寸前で避けたエミリアはプレートナイフを胸に突き刺した。





手応えはあった。

だがオークキングは怯んだ様子もない。

気づいたエミリアは慌ててプレートナイフを抜く。


オークキングは大きく、エミリアの身長では喉元に刺せない。

だから心臓部分を狙ったのだ。

だが脂肪が厚すぎて届かなかった。


「………あっ?!」


エミリアの顔が掴まれる。


「馬鹿メガ!ソンナモノデコノ勇敢ナルオークノ王ヲ倒セルト思ッタノカ!!」


オークキングはそのまま藁作りの家に投げ飛ばした。














「ひゃあああ!!!」


轟音と共に何かがぶつかり檻が激しく揺れる。

ぶつかってきたものを見て更に驚く。






やっぱりここに来た。

助けに来てくれた、でも傷だらけで息も絶え絶え…………


「お姉ちゃん……」


声に反応してエミリアがゆっくり顔をあげた。

今ので頭から血が流れ始めていた。


「お姉ちゃん……まだ間に合うよ……逃げて。」


レイラはもう自分よりもエミリアが生きて逃げることを望んでいた。

エミリアは首を振る。


「私はもういいから…………お姉ちゃんが死んじゃうよ………」


急所に刺せないいじょうエミリアは勝ち目がなかった。

それでもエミリアは止めるつもりはなかった。









もう誰も失いたくない







それが彼女を動かしていた。

自分勝手でも構わない、もうあんな思いはしたくなかった。


こちらに近づく地響きを感じながらもレイラをなだめようとする。


と、エミリアは倒れてるハンナの方を見た。









「レイラ…………あれ取って。」













オークキングが入ってきた。


「ブヒヒヒ、オ前ハコレマデダ。ソシテ勇敢ナルオークノ母体トナルノダ。」


その言葉にエミリアは露骨に嫌な顔をした。

直後、手に持っていた空き瓶を投げつけた。


オークキングが弾いてる間に再びエミリアは懐に入りプレートナイフを刺した。



「同ジ手ハ効カン!!」


再びエミリアを掴む。

オークキングは宙吊りになったエミリアの衣服に手をかけた。


「ヌッ………!?」


突然オークキングが苦しみだした。


「貴様…………ナニヲシタ!?」


落とされたエミリアは血塗れの衣服を整えていた。


「げほっ………すぐ解毒しないとだめなやつ。」


血を吐きながら答えた。


エミリアはプレートナイフに即効性が高いことで知られるキラービーの毒液をかけていたのだ。

斬って駄目なら中からやればいい。



ハンナが薬瓶に集めていたもの……それを全部。

何匹分もの毒をオークキングは受けてしまった。


オークキングは倒れこんだ。


「馬鹿ナ…………オークノ王ガコンナコトデ…………!!」


倒れこんだオークキングにエミリアは近づく。




「…………さようなら、二度と現れるな。」
















「エミリア!」


振り向くとハンナがいた。

目覚めた彼女は錆び付いた鉄格子部分をこじ開けて脱出したらしい。

後ろにはレイラや捕まっていた人たちがいた。


たくさんの人から感謝の言葉がでてきた。


レイラとハンナ以外のことは考えてなかったが、まぁ別にいいか。

それに、なんだか心地が良い。



「アァ!!キングサマガ!!」


エミリアの前にはたくさんのオーク。

エルフ攻撃の軍団が戻ってきたのだ。


「オノレ!!コウナッタラカタキウチダ!!」


オークの軍団が押し寄せてきた。

エミリアは迎え撃とうとする。


と、数人の女性が前に出た。


「小さき勇者様。貴女のために力になります。魔法が使えるようになった今、オークは私たちが相手します。」

「その身体でこれ以上の戦いはいけません。ここはお任せくださいまし。」


女性のほとんどが魔法使いのようだった。


「お二人は勇者様のお連れですね?どうかお逃げを。」

「勇者様、微力ながら傷を癒しましょう。」


僧侶らしき女性が回復魔法でエミリアの傷を治した。

完全ではないが出血は止まった。




「…………ありがと、わっ!?」



エミリアはハンナにお姫様だっこされた。


「全く、無茶しすぎだよ。気絶した私が言うのもなんだけど。」

「…………。」












エミリア達がオークの集落から去った後、捕まっていた女性達の奮戦でオークは殲滅した。




途中で飛来してきたドラゴンの乱入で集落は文字通り焼け野原にされ、地図から姿を消した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ