死神少女は居場所を求める
視界に広がるのは炎に包まれる家。
逃げ出せたのは少女だけ。
父も、母も、燃えていく。
私に残されたものは…………
「……今更こんな夢を見るなんて。」
目覚めは最悪だった。
忘れようとしていた過去はやはり簡単には忘れられそうにはなかった。
エミリアが盗賊の仲間になって二週間が経った。
盗賊団は多くの商人を襲撃し、悪名は高くなる一方であった。
時々冒険者がアジトへ侵入してきたが、全員エミリアによって処理されていた。
水でも飲ませてもらおうかと部屋から出ようとした時、下っ端と思われる男の話し声がかすかに聴こえた。
「だからか、最近物が少ないと思ったんだ。」
「ギルドもそろそろ本格的に人を送り込んでくるだろうからな、仕方ないさ。」
エミリアは食事やお仕事以外は基本的に部屋から出ないためアジトがどうなっているかは知らない。
どうやらアジトを引き払うつもりのようだ。
「しかしお嬢が引き受けてくれるかねぇ?」
「あぁ。いくら単純っつっても半ば俺たちの為に死ねって言ってるようなもんだしなぁ。」
なぜ自分が出てくるのかわからなかった。
勿論頼まれたお仕事は完璧にこなすつもりだ、この先も。
「なぁ、お嬢はまだ使える。今からでもお頭を」
「やめとけ、もう決まったことだ。これからも盗賊やるには必要な犠牲なのさ。」
エミリアはため息をつくと部屋を出た。
「なんだよこりゃ………」
盗賊討伐に来たバッツら三人パーティーはその凄惨な光景に目を疑った。
盗賊アジトの入り口に死体の山ができていた。何人いるのかはわからないが、恐らく盗賊全員分の死体なのだろう。
死体の山頂上にはバンダナを巻いた男が横たわっているが、特に喉を何度も突かれていた。
「………あの子の死体がない、こいつらを一人でやったってこと?」
「有り得ねぇ…………がもう信じるしかねぇな。どうやら俺たちはとんでもない化け物を相手しようとしていたらしい。」
「しかし分かりません、なぜ彼女は盗賊を裏切ったのでしょうか?」
「利害関係が一致しなくなったとかか?悪いが俺は考えるのは苦手だ。」
ルーシーはリーダー格と思われる死体に近づく。
「見て。他のは喉の一突きで仕留めてるのに、こいつだけやけに傷が多いわ。」
「リーダー……ですかね?」
「相当な恨みがないとこんなことしないわ。」
三人はギルドに戻り引き返すことにした。
「あいつらの仇を取れないのは悔しいが、多分関わらない方がいいのかもしれねぇ。」
「それがいいかも。」
「……。」
リオは何か言いたそうな顔をしたが、置いていかれる前に二人の元へ向かった。
少女は不機嫌だった。
最初はお頭だけをやって逃げるつもりでいたが、逃げ道を一つしか知らなかったため結局全員を相手することになった。
普段なら後ろから喉を一撃なので返り血は浴びなかったが、今回は大勢を相手したためそんな事を考える余裕もなかった。
裏切りは許されざる行為、死をもって償う他無し。
父から教わったことだ。
おかげで青い髪と外簑が血に染まってしまっていた。人間の血は魔物を呼び寄せる。エミリアには返り討ちにする自信はあるが、用もないのに魔物を相手する気はない。
ただし自分に危害を加えるなら話は別だが。
やがて森の湖に辿り着いた。
ようやく血を洗い流せる。振り向き様に噛みつこうとしていたウルフを振り向き様に切りつけ、蹴り飛ばす。
髪と外簑を入念に洗うと外簑を広げ
「『ウォームウィンド』。」
温風を起こす魔法を唱えた。
洗濯物や濡れた身体を乾かすのに使われる生活魔法の一種である。
習得には苦労したが使い勝手はいい。
満足したエミリアはその場を離れた。
もうすぐ森を抜ける。
ただただ、自分の居場所を求め、彷徨う。
これは自称まぁまぁ強い少女が紡ぐ物語。
彼女は何処へ向かい、誰のために死を振り撒くのか。